東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
「なるほどね……貴方がそんな姿になっている理由がわかったわ」
八雲邸。その中の居間で。
私はちゃぶ台を囲んで紫と談話していた。
「まあ、可愛らしい楼夢もかなり良いんだけど」
「わたしゃ困るよ。しばらくは猫被って過ごすことになりそう」
「まあ、天下の産霊桃神美がこんな姿じゃね……」
そう言って紫は私をジロジロと見回す。なんかこうジロジロ見られるとちょっと緊張するな……。
「そういえば幻想郷はもう見て回ったかしら? よかったら私がついていくけど」
「まだ人里しか行けてないよ。それにしてもすごい規模だったよ。昔あった平城京を思い出したね」
まさに例えるならその通りだろう。
中の家々は碁盤の目状に区切られており、規模もかなり大きい。正直言って里というより都って言った方が近いと思う。まあ、豪邸らしきものは数個ぐらいしかなく、都というには華がある建物が少ないんだけど。
「まあ、千年くらい経てば自動的に大きくなるわよ。それに間引きもするからこれ以上は大きくなりえないわ」
おお、サラッと恐ろしいことを言うね君は。
まあ私も紫の立場だったら同じことをしてただろうけど。
「間引き? 人里内は妖怪が暴れるのは禁止じゃなかったっけ」
「外に出た人間を計画的に襲えばいいだけよ。幸いここには人間を食べたい妖怪が山ほどいるんだから」
「人間ってそんな美味いの? 団子とかの方が私は好きなんだけど」
何よりも食い飽きた、とはさすがに言えなかった。まあ言っても問題ないだろうけどさ。
昔、私は
しかし、正気に戻った後、なぜだか人間の肉に魅力を感じなくなったのだ。あれだ。私にとって人間とは昔好きだった食べ物に過ぎないということだ。
例外は色々いるけど。
そうやって適当なことを話していると、外から何かが急接近してくる気配があった。
私はそれの正体にすぐさま気づく。
ああ、九尾の子か。すっかり忘れてたわ。
彼女は居間からでも聞こえるほどの勢いで戸を開けると、ここまで急いで駆け込んで来て、
「紫様、ご無事ですか!?」
「……何よ、藍。もうちょっと静かに入ってこれないのかしら? 今大事な話の途中なのだけれど」
「も、申し訳ございませんっ! ……って、貴様は!」
居間へと飛び込んできた藍と呼ばれた九尾の子を、紫がドスを効かせた声で無理やり落ち着かせる。
わーお、ゆかりん激おこですわ。そんなに私との話を楽しんでたの?
そんな感じで私が関わるとめんどくさくなりそうなので我関せずの表情をしていたら、なんと向こうから突っかかってきた。
お前空気読めよ!
「なぜ貴様がここに……!」
「ああ、ちょうど良かったわ。藍、私と楼夢のためにお茶を入れてくれないかしら?」
「……かしこまりました」
藍は頭を深く下げると、居間から退室していく。しかし紫の命令でお茶入れに行ったけど、内心は穏やかじゃなさそうだ。
それは退室間際に藍が顔を歪めたことからわかった。どうやら私は後輩によっぽど嫌われたらしい。
そしてその反応を楽しんでるロクでなしが一人。
「あらあら、藍ったらムキになっちゃって。可愛いんだから」
「お茶入れに行かせたのはわざとか。やけに私と紫の名を強調してたし」
それはつまり、私は紫と同等と言っているようなものだ。敬愛する主人と雑魚中級妖怪が並べられるなど、彼女にとって屈辱なのだろう。
……いや、私彼女より強いけどさ。
まああれは相性の問題だった。相手の手札がわかるトランプほど勝ちやすい勝負はない。
「それにしても、よくあれほどの妖怪を式にできたね。忠誠心もしっかりあるし」
「ちょっと炎魔に殺されかけてたところを間一髪で私が助けただけよ。下手したら私も死んでたし大変だったわ」
「火神……まさか私に負けたことの腹いせに狐殺しまくったりしていないかな?」
あの野郎ならありえる。利益がないからやらないと思うけど。
ちなみに炎魔ってのは火神の西洋の呼び名だね。最近は外の世界で自重して銃を使ってるらしいからその名も廃れたけど、もはやあの世界で火神に勝てる存在は万が一にもいないだろうよ。
というかあいつはいつまでルーミアほっとくんだ? 詳しくは知らないけど、彼女もこの幻想郷のどこかにいるらしい。
あれは爆発すると別の意味でやばいから早くなんとかして欲しいんだけど。
そんなことを考えていると、藍がお盆にお茶を二つ乗せて運んできた。匂いや色合いからして緑茶だろう。
ズズッと良い音を立ててそれを飲む。
うぬ、美味だ……。
ちょうど団子も人里で買ってきたのでここで食べようか。
私は巫女袖から保存された団子の包みを取り出すと、それをちゃぶ台で広げた。
「紫も食べる? 人里で買ってきたんだよ。ついでに藍もどうぞ」
「じゃあありがたくいただくわ」
「私は遠慮しておく」
うむむ、中々強敵だなぁ……。
せっかく藍との仲を深めるために取り出したのに、それを根元からぶった切るとは。
お主、やりよるな!
まあ、当人は親の仇のような目で私を睨んでるんだけど。
忠誠心高いなー。
おそらく従者である自分よりも主人と親しげな妖怪がいて、あまつさえそれが自分より格下の妖狐ということに藍は納得できていないのだろう。妖狐はまあまあプライドが高いからね。
「そういえば楼夢ってここに来る前藍と戦ったのよね? ここに来て数日でスペルカードルールを覚えるなんて、さすがね」
「ふぇっ? なにそれ? 私普通に九尾っ子倒したけど」
そんな私の一言で、ピシッと空間が凍りついた。
紫も藍も表情を変えないまま固まっている。
えっ、なんか地雷踏んだ?
「らーん? どういうことかしらー? 私の従者がスペカを使わずに戦ったとでも言うの?」
「それは、その……そこの中級妖怪がスペカを持たずに侵入してきたので、殺した方が楽だと思いまして……」
「はぁ……もういいわ。楼夢、貴方の尻尾を藍に見せてあげてくれるかしら? このままだとこの子、貴方をずっと下に見てそうだから」
「わかったよ。そこまで隠してないし、別にいっか」
藍が訝しげな目を向ける中、ボフンという音とともに煙が出てくる。それが晴れたあと、出てきたのは二メートルほどの尻尾を十一本持った私の姿だった。
……やっぱりこれサイズおかしいわ。だって今の身長だと体全体を包み込んで毛玉みたいになることもできるんだよ? 冬に重宝しそうだけどさ。
さて、そんな私を見た藍の反応。
なんか驚愕の表情を固めながらブルブル揺れている。
いや、私もその顔芸にびっくりだわ。
「十一本の黄金の巨大な尻尾……まさかっ」
「そういえば自己紹介がまだだったね。私は白咲楼夢、神名は産霊桃神美だよ」
「ほら、全妖狐が憧れる神様との対面よ? 貴方はどうするべきなのかしら?」
「もっ、申し訳ございませんでしたっ! 今までの御無礼をお許しください!!」
藍のその後の動きは速かった。
ドンっと勢いよく正座し、床に頭をこすりつける。
……わーお、なんてダイナミックな土下座だ。じゃなくて!
「これでわかったでしょ? 私が楼夢と一緒にいる理由」
「はい……。ですが一つお聞きしていいですか? 疑っているわけではないのですが、楼夢様からはその……かの炎魔のような圧倒的な妖力を感じられないというか……」
「そりゃ、私が弱体化してるからだよ。今はだいたい100分の1程度かな……」
「ひゃっ、100分の1……っ!?」
藍がその数値を聞いて驚愕の声をあげる。まあそりゃ自分を倒した相手がまさか1%の力しか使ってないと知ればショックを受けるだろう。
私の知ったことではないけど。
「まあ今の私は中級妖怪程度しか力がないのは事実だからね。許すよ」
「ありがとうございます……っ」
藍はどうやら本気で殺されると思ったらしく、私の言葉を聞いたあとヘニョリと床に座り込んだ。
失礼な。いったい私がなにしたっていうのか。
あ、各地で人間やら妖怪やら神やら殺しまくってたね、はい。
まあ、許してちょ。
さてさて話は切り替えて、スペルカードルールのことである。
正直、そんなものが幻想郷にあるなんて私は知らなかった。
おのれ美夜め、私に伝えるの忘れてたな!?
そんな諸悪の元凶をちょっと恨みながら、紫にスペルカードルールについて問う。
「スペルカードルールって?」
「正式な名前は命名決闘法案ね。長いからみんな弾幕ごっこって呼んでるけど。まあ簡単に言えば人外と妖怪が対等に渡り合えるように決められた決闘法方よ」
「それは面白そうだね。私にも教えてよ」
「もちろんよ。それじゃあ表へ出ましょうか」
紫が指を鳴らすと同時に、私は急な浮遊感に包まれた。
下を見ればスキマが開いていた。
……ああ、このパターンですか。
「毎回言うけど人を勝手に落とすのやめろぉぉぉぉぉぉ!!」
そんな虚しい叫びとともに、私は黒い空間へ吸い込まれていった。
あんにゃろ……弾幕ごっこ極めたらいち早くにぶっ倒してやる。
♦︎
紫の屋敷の外。というか空中に私たちは浮いていた。
ちなみに黒翼は出していない。さすがに同じ妖狐である藍が見てる中で翼生やすのはちょっと抵抗がある。まあ、あれあると妖力でジェット噴射とかできるから便利なんだけど。
「まず、弾幕ごっこの基本的なルール説明ね」
紫はどこからともなく数枚の色鮮やかな弾幕が描かれたカードを取り出した。
「これが弾幕ごっこで必殺技を使うときに必要なもの、スペルカードよ。これを掲げて技名を相手に聞こえるように宣言してから撃たないと反則だから、不意を突いたりなんかは基本的にできないわ」
「ほへー。それじゃ試しに一回やってみてよ」
「わかったわ。ーー罔両【ストレートとカーブの夢郷】」
紫はスペカを空へと投げ捨て、宣言した。
するとカードが光の粒子となって消えたかと思うと、大量の美しい弾幕が私へ向かって放たれた。
……おい、なんか私に当たるように設定されてないか?
「今度は楼夢の番よ! 見事私のスペカをしてかわしてみなさい!」
「やっぱりですかちくしょーーーー!」
慌てて距離を取り、紫のスペカを観察する。
まず小型の弾幕が一直線に連なっており、一つの糸のようになっている。ここを突破するにはさすがに狭すぎる、か。
それらが複数、別々の角度から交差し、私の移動範囲を狭めてくる。
もちろんそれだけじゃなく、弾幕の糸に囲まれて動きをして制限された私に大量の大型弾幕がカーブしながら殺到した。
狙うならカードするときに生まれるスキマだね。
複数の大型弾幕の間を見事に通り抜ける。それが数パターン続くと、時間制限が過ぎたのは紫の弾幕は全て消え去った。
「どう? これがスペルカードよ」
「……いきなりぶっ放して謝罪なしっすか。そっすか」
「でもどんなものか分かったでしょ? 習うより慣れよって言うじゃない」
でもまあ、だいたいどんなものかわかった。
まず弾幕ごっこにおける絶対的ルールは二つある。
一つは弾幕の威力は人間が死なない程度に抑えなければいけない。
二つはどんな弾幕でも必ず避けられる抜け道、つまり穴を空けておく必要がある。
これが人間と妖怪が平等に戦える理由なのだろう。
威力が関わらないのであれば弾幕を放つことは人間でもできるし、穴を空けておけば大量の力による弾幕の壁でのゴリ押しができなくなる。
まさに革新的な決闘方法だ。
細かいルールもあるのだろうけど、今は弾幕ごっこの本髄が理解できただけで十分だ。
だが疑問もある。私は唯一わからなかった点を紫に聞いてみた。
「……カードの演出こりすぎじゃない?」
「あ、あれはあの方がかっこいいと思ったからで……っ。どうせ終了後にはちゃんと戻ってくるし、別にいいじゃない!」
……いやこりすぎでしょ。
正直あれだけの術式をあんな紙切れに収めるなんて、私だったら軽く数週間かかる自信がある。紫の場合はいったい何ヶ月かけたのか聞きたい思いもあるが、聞くとかわいそうなのでやめておこう。
さて、弾幕ごっこの本髄をその後紫に伝えてみたところ、彼女は自慢げな顔で語り出した。
「そうよ。具体的なルールだと、決闘前にスペカと残機の数を決めて、相手のスペカ全て撃破、または全ての残機を削り切ったから勝ちってことになるわ」
「要は一発も食らわずに相手の残機を削るまたスペカを突破すればいいってことだね」
「そうなんだけど、スペカには必ず名前とそれに合った意味をつけてね。例えば炎とか名前でついてるくせに氷が出てきたら意味不明でしょ? 弾幕ごっこはそうやって美しさで勝負して、相手を精神的に負かす決闘方法なのよ」
「なるほどね……。妖怪や神はたいてい精神攻撃に弱い。それを利用してのルールか……面白い。さっそく私も帰ってスペカを作るとしよ!」
炎のように揺らめく黒翼を生やし、私は飛び立とうとするが、その前に紫から引き止められた。
「待って。私が送ってあげるわ。その方が早いでしょ?」
「それもそうだね。幼児退行してしてるせいか、こういうところで頭が回らなくなっちゃうから困るよ」
「それでいいじゃない。困ったときは私が貴方を支えるわ」
「……なんか恥ずかしいけど、まあそのときは頼むよ」
聞く方も言った方も顔が赤くなってもおかしくないレベルで恥ずい言葉をかけられたけど、頼って欲しいんだったら自分のことくらい自分で整理できるぐらいにはなりやがれって話だ。あえて触れてなかったけど、部屋メッチャ散らかってたぞ?
そんなことを考えながら開かれたスキマをくぐり、私は帰宅した。
「もうすぐ卒業式! でも正直私にはなにも関係ない! 作者です」
「もうすぐ春休み! でもカラオケ誘う友達が……。狂夢だ」
「というわけで、今回はこの小説での弾幕ごっこの説明でした」
「まあ今回だけじゃ詳しくは説明できなかったから、ここで細かいルールを紹介してくぜ」
・殴る蹴るなどの一切の物理的攻撃を禁じる
・刀などの武器で相手を攻撃するのを禁じる。ただし相手を攻撃しなければ武器自体の使用は可。例外として【森羅万象斬】などの霊力などで作られた刃は弾幕の一種と認める
「思いつく限りでだいたいこれくらいか? 行き当たりばったりだからまたルールが追加されると思うが、勘弁してくれ」