東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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初弾幕ごっこの味はちょっと苦く、また甘い

  赤と青の炎がゆらりと揺れながら、生き物の大群のように博麗の巫女に襲いかかった。

  まず彼女に襲いかかったのは青白い狐火。これは赤の鬼火よりも小さい代わりに速度が高く、∞を描くように揺れて進むので避けにくい。巫女もその例に漏れず、避けにくそうにしていた。

  まあ、あくまでしていただけなんだけど。

  あのさー、さっきから言ってるけど、強すぎね?

  すっごい勢いで空中飛び回ったり、一回転したり、挙げ句の果てには∞の小さな⚪︎をくぐり抜けたりするんだぜ?

  それでも幾つかは避けきれないときもあった。しかし、そんなときは幣でぶっ叩いたり結界を張って防いだりしていた。

  なんという三重構造。鉄壁の布陣とはまさにこのことか。

 

  しかーし、まだまだ終わらん!

  狐火より遅い鬼火が、とうとう霊夢に襲いかかったのだ。

  この鬼火は小弾サイズの狐火より大きい中弾サイズになっている。だいたい人間一人分くらいのサイズだ。この弾幕は遅いし、狐火のように動き回らないけど、ある仕掛けが施されている。

 

  おっと、鬼火が巫女にかすったようだ。ただでさえ狐火で動きずらかったのに、鬼火でルートを狭まれちゃそうなるわな。でもまあ、この巫女には関係ないことだ。だって殴ればいいんだもん。

  私の予想通り、巫女は邪魔で遅い鬼火に向かって幣を振り下ろした。そしてそれが、私が仕掛けた罠だ。

 

  幣が鬼火に衝撃を与えた瞬間、それは光り輝くとともに爆発を起こした。

  それ一つだけじゃない。他の鬼火も爆風を受けて次々と爆発していった。

 

  ——初級爆発系魔法【イオ】。

  それが、私が鬼火に仕込んだ術式だった。もちろん威力は落としてあるけど、爆発は爆発。その範囲はかなり広く、人間が動いて避けられる距離じゃない。

  それは予想通りで、爆発の煙が晴れると、そこにはプスプスと黒い煙を服から出しながら立っている巫女の姿があった。

 

「ヒット。これで残機互いに残り一つだね」

「……よくもやってくれたじゃない。ぶっ飛ばすわ」

 

  やれるもんならやってみろ! 私のスペカはまだ十秒以上時間が残されてるんだ。これで決められる。

 

  ……っと、思ってた時期が私にもありました。

  巫女は霊力を練ったかと思うと、薄い透明な壁を張ったのだ。狐火はともかく、さほど動きに複雑性を持たせてなかった鬼火は次々とそれにぶち当たり、意味もなく爆発の花を咲かせていった。

  ちっ、汚い花火だ。

  狐火だけになった私のスペカなんて刀のない侍のようなもの。あっさりとそのまま避けられて、私のスペカは制限時間を迎えてしまった。

 

「……スペルブレイク。残り一枚よ」

「それはそっちも同じだよ。なら、先に当てればいいだけ!」

 

  気合を込めて、私は最後のスペカを天に掲げた。

 

「——滅符【大紅蓮飛翔衝竜撃(だいぐれんひしょうしょうりゅうげき)】!」

 

  光の粒子が空へと消える。と同時に、私の背中から私の数倍の大きさはある巨大な翼が出現した。

  その色は黒……ではなく、赤と青。片翼が燃え盛るような灼熱の炎で、もう片翼が凍てつくような絶対零度を思わせる氷で形成されていた。

 

  私はその巨大な翼を目一杯広げる。そして広げられた翼から、炎と氷の大、中、小様々なサイズの弾幕が嵐のように巫女へと吹き荒れた。

 

  だが、巫女は動じなかった。美しくも鋭い顔で嵐を睨むと、勇ましくそこへ飛び込んでいった。

 

  今度は体力温存のグレイズはしない。近づくだけで温度が急激に上下するこの弾幕嵐の中は、人間である巫女の体力をごっそりと奪っていく。そしていずれ集中力が切れれば、グレイズなんてできなくなるとわかっているからだ。

 

  その様子を見た私は、翼を羽ばたかせ、その風圧で弾幕をさらに不規則で読みづらく、そして隙間が全くないものへと変えた。

 

  対する巫女は、あらゆる手段を持って前進するのみ。

  己もお札と針の弾幕を放ち、結界で防ぎ、幣で弾幕を叩き潰す。それでも氷弾にかすって服が凍り付いて千切れ、炎弾にかすって服が黒い煙を上げて一部が焼け落ちる。

  それでも彼女が目指すのはこの嵐の中心——台風の目。彼女は私がこの翼を広げている間、私自身は移動できないことを見抜いていたのだ。

 

  なんていう、集中力っ……!

  そしてとうとう、彼女が私の弾幕を乗り越え、目の前へ姿を現した。

  これで終わり、と言わんばかりの勢いで彼女は大量の弾幕を放ってきた。このままだと確実に私に命中するだろう。

  ……そう、()()()()()()()()

 

  このスペカの制限時間は一分。そして今四十秒が過ぎた。

  なら、残りの二十秒は何があるのか? それを見抜けなかったのが、彼女の敗因だ。

 

「うらぁぁぁぁあああああああっ!!」

 

  突如、嵐を起こしていた両翼が、私の体を包み込むようにして互いにぶつかり合う。そのとき、炎と氷が衝突することで巨大な消滅エネルギーが発生した。

  私はそれを身に纏いながら、光の巨竜と化して彼女を呑み込まんとその顎を突き立て、突撃した。

 

  彼女は台風の目に近づきすぎたため、私からすれば目と鼻の先。そして超音速で迫る私を避けられるはずがない。

  最後に彼女を見てみると、スペカを一枚掲げて何か叫んでいる。だけど間に合うはずもない。

  目が開けられなくなるほどの光とともに、閃光が彼女を呑み込んでいき——

 

 

  ——彼女の体を、すり抜けた。

 

 

「……へっ?」

 

  体が、世界が、スローモーションに感じていく。音速を超えているはずなのに、体はまだ巫女を追い越したばかりだ。

  そんな世界の中、ゆっくり、ゆっくりと振り返り、驚愕した。

 

  そこにあったのは、目を閉じ半透明化した巫女の姿だった。その周りには七つの博麗家の秘宝——陰陽玉が巫女の周りを回りながら輝いていた。

 

  思い出した。彼女は確かこう言っていたんだ。

 

  ——【夢想天生】。

 

「私の勝ちよ、妖怪」

 

  ま、ずい!

  その一方的な勝者宣言とともに、七つの陰陽玉から全方位に、発狂したかのような膨大な数の弾幕がデタラメな速度と複雑な角度で解き放たれた。

 

  私はほぼ無防備になった体を必死に動かそうとするけどその努力虚しく私はその発狂弾幕の波に呑まれ、撃墜された。

 

  こうして、私の初弾幕ごっこは敗北を迎えた。

 

 

  全く……この私が敗北するとはね。

  私が落ちたときにできたクレーターの中で仰向けに倒れていると、今回の勝者である巫女が降りてきた。

 

「ふふっ……楽しかったよ、博麗の巫女。光栄に思うといい。私を倒したことがあるのは、あなたで二人目よ」

「……博麗霊夢」

「……ふぇ?」

 

  最初はぼそりとつぶやかれた言葉だったけど、二度目はちゃんと私に聞こえるように、彼女は言った。

 

「博麗霊夢よ、私の名前は。今後そう呼びなさい。あなたとはまた縁がありそうだから」

「……ふふ、左様ですか。なら私も名乗るね。私は楼夢って言うんだ。以後よろしくね?」

 

  苗字を名乗れなかったのは残念だけど、それでも彼女との戦いは楽しかった。そう、とても楽しかった。

 

  博麗霊夢。血は繋がっていないものの、私の大切な子孫の一人。彼女からは何かを感じた。私を惹きつける何かが。

 

  ふふっ、今後はもっと楽しくなりそう。

  やっぱりこの世界に来て正解だったと、私は密かに思うのだった。

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

「……帰ったか。ったく、今日はえらく疲れた日だったわ」

 

  例の妖怪、楼夢が去ったあと、霊夢は縁側に戻って日向ぼっこをしていた。こんだけ疲れたのだ。じゃなきゃやってられない。

  しかし日向ぼっこを始めて数十分後、いつものようにそいつは現れた。

 

「おーい、れーいむー! 魔理沙様がやってきたぜー!」

 

  黒と白の魔法使いのような服を着て、頭から黒のウィッチハットを被っているこの少女は霧雨魔理沙。霊夢の唯一の親友であり、自称普通の魔法使いだ。

  魔理沙が乗っているほうきから降りたあと、ズカズカと縁側まで回ってきて、霊夢のところへやってきた。

 

「……何よ魔理沙。今私は疲れたの。気が効くなら、マツタケの数十は持ってきなさいよ」

「れ、霊夢、どうしたんだぜその体は!? ボロボロじゃねえか!」

 

  そう言われて、霊夢は今一度自分の体を見つめる。

  まず、服はところどころ焼け焦げたり凍り付き破れたりしておりボロボロ。もはや修復は不可能で新品を用意しなければならないほどだった。幸い体は弾幕ごっこのルール上、そこまで傷ついてはいないが、それでも火傷や凍傷の跡が複数あった。

 

「誰にやられたんだ!」

「落ち着きなさい魔理沙。弾幕ごっこをしただけよ。ちょっと強かったけど、そのおかげで報酬はほら」

 

  霊夢の手には二十万円の束が握られていた。楼夢が気前よく霊夢にサービスと言って渡したのだ。おかげであと数ヶ月は余裕で生活できる。

  魔理沙はそんな彼女に似合わない札束を凝視したが、内心では別のことを考えていた。

 

  魔理沙が知る限り、霊夢があそこまでボロボロになったのが見たことがない。魔理沙は弾幕ごっこというルールにおいては、幻想郷で上位の実力を持っている。そんな自分でも霊夢をここまで追い詰めたことはないのだ。いったいどんな妖怪とやったと言うのか。

 

  一方、霊夢も別のことを考えていた。

  ……強かった。

  正直、油断はあったけど、それが消えたのは夢想封印が破られてからだ。それ以降は彼女は自分の実力を惜しみなく発揮していた。

  それでも、ここまで追い詰められた。切り札中の切り札である夢想天生を使ったのが良い証拠だ。というか、あのスペカ以外では確実に勝つことはなかった。

 

「……私も、少しは努力しよっかな」

「……なんか言ったか、霊夢?」

「いいえ、何にも。それとあんた、さりげなく私の二十万円盗もうとするのやめなさい。……指の骨を折るわよ?」

「マジすんませんでしたー!」

 

  大げさに叫ぶ魔理沙を無視して、お茶をすする。

  いつも通りに始まるはずの一日が、今日はちょっと違ったのを感じた。

 

 




「春休み入りましたー! これからはどんどん更新……していけたらいいなぁ。作者です」

「卒業式中寝ていてクラスメイトにメッチャ起こされたくせに、なんでそんなに元気なんだか。狂夢だ」


「というわけで、今回の弾幕ごっこはまさかの楼夢さんが敗北しました」

「珍しいよな、楼夢が負けるなんて」

「この後編では楼夢さんにはチート能力がないですからねぇ。おそらく毎回の戦いでハラハラドキドキの展開が楽しめると思います」

「お前にそれが書けるかが疑問だけどな」

「……それは言わないお約束です」

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