東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
紅霧異変の開幕、そして意外な再会
「さて、準備はできたかしら?」
ここは紅魔館。その地下の図書館で。
スカーレット・デビルの異名を持つ吸血鬼、レミリア・スカーレットはその友人へと問いかけた。
「ええ、レミィに頼まれたのはできてるわ」
本を読みながら無愛想に答えたのは紫の魔女、パチュリー・ノーレッジ。その隣では使い魔として召喚された小悪魔こと通称コアが紅茶を注いでいる。
レミリアはその返事に満足そうに頷くと、両手をパンパンと叩き、己の従者の名を呼んだ。
「咲夜、いるかしら? もうすぐ例のものを始めるから、各自戦闘準備に入るよう伝えなさい」
「はい、お嬢様」
誰もいない場所へ語りかけたのに、レミリアの言葉のあとにすぐ答えが返ってきた。その事実に今更驚くものは誰もいない。なにせこれが【時を操る程度の能力】を持つレミリアの忠実な従者こと十六夜咲夜のものであることは周知の事実だからだ。
これから始めるのは、紅魔館の名を売るための異変。そして弾幕ごっこをこの幻想郷に広げるためでもある。
後者はレミリアの望みとは関係がないのだが、それはある妖怪に頼まれたからだ。とはいえ今回は利益が一致するのでレミリアからも特に問題はない。
「さて、楽しい紅霧異変の始まりよ」
バルコニーへ出たレミリアは、視界に広がる青空を囲うように両腕を広げ、口を三日月に歪める。その鋭い犬歯が日の光に照らされ、ギラリと冷たく光るのだった。
♦︎
「……洗濯物が乾かないわね」
博麗神社、そこに住む巫女の霊夢はそう愚痴をこぼした。
今の季節は夏。暑い日差しが肌を刺す、健康な季節のはずなのだが……。
「なに呑気なこと言ってんだぜ霊夢! これは異変だ!」
大声で空を指差しながら、魔理沙は言った。その空は満面の青……ではなく赤に包まれている。
「この赤い霧が発生して、どんどん人里の連中が倒れてってるらしいぜ。お前一日経って変わんなかったら大人しく行くって言ったじゃないか」
「わーってるわよ。ったく、どこの誰だか知らないけど、私の日向ぼっこの邪魔をしてくれた罪は重いわよ」
よっこいしょと重い腰を上げて、博麗の巫女が異変解決にいよいよ立ち上がる。
装備を一式揃えると、親友の魔法使いを連れ、赤い空へと飛んでいくのであった。
♦︎
一方その頃、白咲神社では……。
「……洗濯物が乾かない」
「湿気が普段より多くなったせいで、風呂場にカビが生えてたよー」
「……倉庫化してる本殿はキノコが生えてた。しかも魔力を帯びてる」
「うわああああ! 私の団子が腐ったぁぁ!」
それぞれの悲痛なつぶやきが、屋敷内で聞こえた。一名は叫んじゃってるし。
はいそうですよ。私ですよ叫んだのは!
ちっくしょぉぉぉぉがぁぁぁあああ!私の人生の楽しみの一つを奪いやがってぇぇぇ!
「どれもこれもあの霧のせいだ! なんだってこんな酷いことするのさ!」
「人里の方も人がバッタバッタ倒れてるらしいですしね」
「そっちはどうでもいい!」
「……お父さんのその言動も結構酷いですよね」
とーもかく! 私はこの霧を起こしてる犯人を許しちゃおかん! 異変解決は霊夢の領分だけど、今回は私が先に行ってぶっ潰してやる。
「というわけで清音、舞花! この霧はどっから出ているの?」
「むー、霧に含まれてる魔力の流れからして……霧の湖の近くからかなー?」
「……霧の湖付近で赤なんて言ったら、紅魔館が一番怪しい」
「そっかー。あそこの館は赤一色だもんねー。多分原因はそこにあるはずだよー」
「わかったよ。それじゃあすぐに帰ってくるから、留守は任せたよ」
そう娘たちに言い残し、一人空へと飛び立った。
さーて、私の団子の仇、取らせてもらうよ!
♦︎
そうして飛んでいくこと数十分。
目の前に現れた障害物を取り除くため、私は弾幕を放った。スペカを使うまでもなくそれだけで目の前に群がっていた妖精たちは撃沈され、ピチューンという気持ちのいい音を残して落ちていく。
うーむ、倒すのは楽だけど面倒くさいね。どうやら環境の変化に敏感な妖精たちも、今回の霧のせいで気性が荒くなってるみたい。
まあ、所詮妖精は妖精なわけで。ステージの雑魚キャラが全員妖怪でないだけマシとするか。
そうして飛んでいくと、向こうの方で紅白の巫女服を着た人物が見えた。十中八九、霊夢だねありゃ。隣には知らない白黒の魔法使い風の子がいるけど、私よりも弱そうなのでどうでもいっか。
私は手を振りながら声を出して、霊夢に声をかけた。
「おーい霊夢ー。お久しぶりー」
「あんたは楼夢ね。なぜここにいるのかしら?」
実は、私と彼女が戦った日から一度も私たちはお互い顔を合わせたことはなかった。でもまあ数ヶ月経ってるのに、覚えていてくれたんだ。お爺ちゃん感激だよ!
そんな霊夢は警戒心たっぷりの声で幣を突き出して問いかけてきた。
こら、人にものを訪ねるときは凶器を向けちゃいけません!
「おっと、今回私はこの異変とは無関係よ。実はこの赤い霧のせいで団子が腐っちゃって、その仇打ちに来てるわけ」
「……要は異変解決に来たってことね。ならちょうどいいわ。私に手伝いなさい」
「まあいいよ。ぶっちゃけ一人じゃ暇だったし」
「おいおい、こんなガキが役に立つのか?」
私と霊夢がそう共同戦線を結んでいると、金髪の魔法使いっ子に横槍を刺された。
失礼な! 少なくともあなたよりは強いよ!
そう心の中で叫んでいると、隣にいた霊夢がフォローしてくれた。
「こいつは見た目はあれだけど、それなりに強いわ。今回の異変でも面倒な障害を全部押し付けられると思うわ」
「ちょっと待って霊夢。私は首謀者をぶん殴りたいんだけど」
「あいにくと弾幕ごっこで物理は容認されてないわ。それに、私が殺った方が早いじゃない」
バチバチと火花を飛ばしてると、魔理沙が小さく一言つぶやいたのを狐耳が拾った。幸い霊夢には聞こえてなかったようだけど。
「……けっ、気に入らないぜ」
おやまぁ、私は相当嫌われてしまったようで。まあ今さら人の顔伺うなんて私にはできないし、したくもない。よって、彼女のことは放置させていただこう。
「さて、じゃあ行くわよ」
「——って、ちょっと待つのだー!」
霊夢がそう言って進もうとすると、下から金髪の少女がものすごい剣幕で飛び上がってきた。服は所々弾幕に焼かれた跡があり、髪も少々ほつれている。
「……これなに?」
「害虫。さっき邪魔だったから叩き落としたんだけど。その直後にあんたが来たってわけ」
なるほどねぇ。この金髪ロリの子も幼げながら、中々プライドが高そうな雰囲気をしている。おそらく弾幕ごっこに負けたあと、なんにも声をかけてもらえなかったのが屈辱なんだろう。
プライドの高いものにとってそれ以上腹たつものはないしね。
それにしてもこの少女、どっかで見たことがある気が……。
「なによ妖怪。弾幕ごっこでの勝者は絶対よ。そんなことすら忘れたの?」
「覚えているけど、まだ戦ってないのが二人いるのだー。腹いせにそいつらと戦って時間稼ぎするのも悪くないのかー」
「おっ、やるのか? やるなら相手になってやるぜ?」
「言ってるのだー。私の闇の力、見せてやるー」
……闇の力? これもどっかで聞いたフレーズだ。
もうちょっと金髪ロリを観察してみる。
白黒の洋服。スカートはロング。そして能力は闇に由来する。
……まさかね。
「ねえ、私からやっていいかな? 二人は先に行ってていいよ」
「おい、私がやるつもりだって言っただろ」
「そーなのかー。なら、私の相手はお姉さんなのだー」
「……行くわよ魔理沙。ただでさえあんたは燃費悪いんだから、ここで無駄遣いしちゃこの先響くわよ」
「……ちっ、命拾いしたな……」
やっべ。あの魔理沙って子がDQNにしか見えなくなってきた。
なんなの? こんな幼気な少女二人に睨むをきかせるなんて。まあ原因はほぼおそらく確定的に私なのは明らかなんだけど。
二人が去ったのを見送ったあと、私は金髪ロリに少し真剣な顔で問いかけた。
「ねえ。私たちってどこかで会ったことある?」
「奇遇ね。私もさっきから同じことを思ってたわ」
急に、少女の雰囲気が暗く冷たいものになった。口調もさっきの馬鹿みたいなものから大人の女性のものに変わっている。
「……ねえ。一応だけど、お互い同時にその似ている人物の名前を言ってみない?」
「……ええ、そうしましょう。あくまで似ているだけなんだけど、念のため、ね……?」
「……行くよ?」
「……せーのっ——」
私たちはそれぞれ自分が思い描いている人物の名を声に出した。
「——ルーミアっ!」
「——白咲楼夢っ!」
「「……やっぱりお前かっ!?」」
目を見開いて叫ぶのと、互いの刃がぶつかりあったのは同時だった。
ルーミアの十字の片手剣と、私の神理刀が同時に振るわれ、鍔迫り合いへと持ち込まれていく。ギャリギャリと互いに押し合うと、これまたほぼ同じタイミングで後ろへ退き距離をとった。
「ここで会ったが百年目! 狂夢の目もないし、今日こそ貴方を殺す!」
「うるせえ! 毎回毎回狂夢がいねえと襲ってきやがって! 主人よりも狂犬だなクソが!」
ルーミアの十字剣——ダーウィンスレイヴから黒いオーラが迸る。てかあれ本当にダーウィンスレイヴか? 俺が知る限り、ダーウィンスレイヴは大剣のはずなんだけど!?
「あなたを殺すために作ったダーウィンスレイヴ零式の力、受けてみなさい!」
横一文字にダーウィンスレイヴが振るわれる。それを刀で受け流そうとしたけど、刃同士がぶつかり合った瞬間、闇の雷が発生して私を吹き飛ばした。
「……やってくれたなぁ……。ここからは本気でやってやるっ!」
もう一本神理刀を追加。二刀流の構えになって、回転するように連続で斬撃をしかけた。
ルーミアもかなりの時間剣を扱ってきたけど、こと剣術に関しては私の方が数段上だ。縦に構えられた剣の隙間をくぐるように斬撃を繰り出し、そのうちの幾つかがルーミアの洋服を切り裂いた。
それを見て焦ったルーミアがまた剣から雷を解き放った。だけど二度も同じ手は食らわない。
力を込め、両の刀で剣術【雷光一閃】を繰り出す。それをルーミアの雷とぶつかけて相殺させ、その反動で後ろに跳んで再び距離をとった。
「……私も弱くなったものね。最初当てた雷も、本来なら身体中を焼くことができたのに」
「それはお互い様だよ。俺だって雷くらいだったら余裕で避けれた」
虚しいものだ。こうかつての敵と戦って、かつての力が失われているのを感じるのは。
なら、この姿なりにふさわしい戦い方をすべきだな。
そう思い、俺……いや私はスペカを一枚取り出した。
「……なんのつもりかしら?」
「やめだよ。今のあなたと戦ったところで満足感も何も湧かない。お互い弱者になったのなら、弱者のためのルールで戦うべきだよ」
「……貴方は納得してるのかしら? 今の醜い姿の自分に」
「私は私だよ。たとえ姿が変わっても、私の魂はここにある」
ルーミアの言いたいこともわかる。彼女は伝説の大妖怪『火神矢陽』の相棒として、自分の強さに誇りを持っていた。
要は怖がっているんだ。衰えた自分の力を見て、火神に失望されるのを。
全く、ほんとに馬鹿な奴だよ。
「それとも? あなたは誇り高き炎魔の相棒のくせに、決められたルールすら守れないの?」
「……言ってくれるじゃない。上等よ、ぶっ潰すわ! 」
「勝負の方法は基本ルールね」
私たちはお互いにスペカを一枚取り出す。そして弾幕ごっこが始まり——
「月符【ミッドナイト——】」
「滅符【大紅蓮飛翔衝竜撃】」
「……へっ? ——って、きゃぁぁああああっ!」
——一瞬で終わった。
速攻魔法発動! 相手は死ぬ!
突如出現した炎と氷の弾幕の嵐にルーミアは吹き飛ばされ、早速残機を一つ減らした。その後台風の目に近づこうとするけど、さすがは霊夢を追い詰めた私の現時点の切り札。複雑に動く弾幕を避けきれずに二度目の被弾を受け、儚く落ちて散っていった。
「バーカ、俺がどれほどお前に苦労してたか忘れたのか? その恨みだと思いやがれ」
「お、覚えていなさいっ……!」
地面へ落ちていく途中、ルーミアが何かつぶやいていた気がするけど無視無視。虫ブンブン。
まあ、人生そう甘くないってこった。頑張りなさいや。
心の中でそう思いつつ、先へ行ってしまった霊夢を追いかけるため、私は紅魔館へと向かうのだった。
「今回からとうとう原作に入りました! やっと終わりが見えてきて安堵している作者です」
「終わりにはまだ早いぜ。どうせ原作の他にオリジナルストーリーが混ぜられるだろうし、終わるのはいつになるやら。狂夢だ」
「というわけで今回はルーミアさんと再会しましたね」
「弾幕ごっこは一瞬で終わったけどな」
「そりゃ仕方ないですよ。原作では屈指の最弱度からEXルーミアという二次創作が生まれるほどなんですから」
「ちなみに魔理沙もなんだが、この小説の幼女ルーミアの喋り方も原作とはちょっと違うよな?」
「ああ、はい。この小説で使ってるのは二次創作でもよく見られる方の喋り方ですね。個人的にこっちの方が合ってるっていうのもあるんですが、何よりEXルーミア時の喋り方と被るんですよ」
「いっそ口調変えなければいいのに」
「この小説最強のメンタルを持つ楼夢さんですら口調が変わるんですよ! 変わらなきゃおかしいでしょ!?」
「なんなんだよお前のこだわりは……」
「ロリコンのお前ならわかるでしょ!?」
「あいにくと俺の好みは千歳以内のロリなんだ。下手したら万を過ぎる闇妖怪は好みじゃない」
「じゃあ紫さんは?」
「あれは十代後半程度の美少女であってロリじゃねェだろ。というか年齢ルーミアとほぼ変わらんし」
「おそらく百年以上のズレはあると思うんですがね……」
「その程度じゃ誤差だろ」
「……ロリって難しいんですね」
「ちなみに俺の好みはさっきのと合わせて隠し条件が数十個あるから。どっかに金髪お兄ちゃん呼び系のロリいないかなぁ……」