東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
私の死の重圧が、辺りを覆い尽くす。
上位者の殺気を感じたのか、レミリアは必死に歯を食いしばって重圧に耐えようとしてるように見える。いや、汗を垂れ流して顔を歪めてることから結構必死なのだろう。
そのとき、レミリアの横からドサリというなにかが落ちた音が聞こえた。
ふと見れば、そこには片膝をついて地面に崩れている咲夜の姿が。
……あ、すまん。メイドちゃんのこと考えてなかった。
というか久しぶりの放出でやる気が出すぎたみたい。私の殺気はどうやら神社全体に広がってしまったらしく、あちこちで誰かが倒れる音が聞こえる。
こ、これは私のせいじゃないからね!? あくまで挑発したレミリアが悪いのであって……。
いや、こんなこと言ってる場合じゃないや。
急いで殺気を収める。それだけで、辺りの騒ぎはほどなくして消えていった。
さてと……。
私はレミリアに視線を戻す。
彼女の顔色は未だに悪そうだ。まあ、この殺気は彼女に向けたものだったし、彼女が一番被害を受けたはずだからね。
まあいい、そしてここからが勝負だ。
私は静寂の中、一人口を開く。
「お忘れかな? 仮にも私はフランを倒せる実力を持っているんだよ。その気になれば貴方とも戦えるってことは理解できると思うけど?」
もちろん嘘です、大嘘です。
私とレミリアがやり合ったところで、勝負は私が負けるに決まってる。
第一、あのときはルーミアが剣となってくれたから倒せたのであって、決して私一人の力で勝てたということではない。
それに、フランとレミリア。どっちが苦手と言えば、私はレミリアと答えるだろう。
さっきのレミリアの拳の威力からして、身体能力や能力はフランの方が圧倒的に強い。なんせ【ありとあらゆるものを破壊する程度の能力】という、私などのトリッキーに戦うスタイル以外じゃほぼ即死するようなチート能力を持ってるのだから。
でも、レミリアは戦闘経験がフランより多い分、技術も持ってると推測できる。
なまじ身体能力で劣る私が、さらに技術で追いつかれたとなれば、その先に待ってるのは敗北でしかない。
だからこその、ブラフ。私を大妖怪相当の実力者と誤解してくれれば相手も気楽に私に手を出せないはず。
レミリアはしばらく沈黙した後、覚悟を決めた目で口を開く。
「それでも……私は紅魔館の主として、姉として身内を傷つけられたことを許しては置けないっ」
よし、引っかかった。
どうやら私は勝負に勝ったようだ。レミリアは完全にこちらを強者として見ている。
それにしても身内、ねぇ……。
ちょこっと揺さぶりでもかけてみるかな?
「だったらさあ、なんでフランを連れてこなかったの? 貴方たち二人がかりなら、私を倒せる確率は上がるのに」
「フランの精神は歪んでいるのよ!? 連れ出せるわけないじゃない!」
フランの話をした途端、レミリアが今までこらえてきた怒りを発散するように声を荒げた。
それでも私は真実を探るため、話を続ける。
「たとえフランが外に出たいと言っても、貴方は出してあげないの?」
「あの子はもうそんなこと眼中にないわ。ただ破壊することを楽しんでるだけよ」
「……ねえ、フランっていつからああなっちゃってたの?」
「十歳くらいのころよ。そのときに能力を使って、私の両親を殺したわ。思えばあのときから、あの子は狂っていた」
「じゃあなんで治そうとしないの?」
「したわよ! フランが誰も殺せないように、誰かがフランを殺さないように安全な地下室に閉じ込めて、後はあの子が狂気を抑えてくれるのを待つだけだった。それを貴様は、台無しにしてくれたんだ!!」
怒りの絶叫が、響き渡る。
レミリアは全て話して憎しみを思い出したのか、私を再び殺さんと睨んでくる。
彼女がたった今話した内容。それを聞いて、私は思った。
——こいつ、フランのことなにも知らないじゃん。
「いくつか訂正させたいことがあるよ、レミリア・スカーレット」
「……何かしら? 誰よりもフランを知ってる私の話に、間違いがあるとでも!?」
間違いだらけだ馬鹿野郎。
それを口に出さずに、私は一つ目の訂正を話す。
「まず、貴方はフランを連れてこなかったって言ってたけど——」
私は森の木々の方を向いて、神楽の【怪奇を視覚する程度の能力】を発動。
左目から閃光が広がったかと思うと、目にしていた木の一つが煙を上げて別のものに姿を変えた。
黄金の髪を持つ吸血鬼、フランドール・スカーレットに。
「——どうやら彼女はついてきてたみたいだね」
「もー、酷いよお姉さん! せっかくこのままバレないで済みそうだったのに」
フランは頰を膨らませて、拗ねたポーズをとる。
その頭には私がプレゼントした白いナイトキャップが被られていた。
驚愕に目を見開くレミリアを無視して、私はちょっと気になったことを聞いてみた。
「ごめんごめん。それよりも、いつからそんな魔法使えるようになったの? あれからまだ数日しか経ってないのに」
「今日のためにパチュリー に教えてもらったの!」
……マジかよ。
一つの魔法を経った数日で習得したなんて、とんだ恵まれた才能があったものだ。今度私もなにか教えてみよっかな。
そう思って素直に褒めてあげると、フランは嬉しさからか私に抱きついてきた。
むむ、ロリコンの神が騒いでる気がする……! というか狂夢は黙ってろ!
私がフランとじゃれ合っていると、ようやく正気を取り戻したのか、レミリアは顔を真っ赤にして叫んだ。
「フランっ! なんでここにいるの!?」
「私も宴会行きたかったから、来ただけだよ?」
「すぐに戻りなさい! 今すぐに!」
むぅ、キンキン耳に響いて痛いなぁ。こういうときに聴覚が良いと苦労するよまったく。
さて、私はこの姉妹喧嘩、傍観させてもらおうか。これはフランの戦いだ。
レミリアは若干ヒステリック気味にフランへと叫び続ける。そのどれもが命令形。
でも、フランはそれらに動じることなく、平然と、
「嫌だよ。お姉様の命令を聞く義務が私にはないもん」
フランにとっての本心、そしてレミリアにとっての地雷の言葉を言い放った。
「いったいフランに何をしたぁぁぁぁ!?」
……ええ、そこで私に振ってくるの?
レミリアはもはや絶叫すると、私の襟首を掴んで締め上げて来た。
お、おおっ、地味に苦しいぞこれ……っ!
でもまあ残念。私、体術もあらかたマスターしてるからこういうこともできるのよ。
私は足元がおろそかになってるレミリアに足払いを繰り出す。
レミリアはこれによって倒れはしなかったものの、両足をくの字に曲げてバランスを崩した。
後は簡単。私は右腕の関節部分をレミリアの首根っこに引っ掛け、ラリアートするようにレミリアを地面に押し倒した。
足元が崩れたため踏ん張ることが出来ず、レミリアは背中から地面に叩きつけられる。その衝撃で短く空気が吐き出された。
「カハッ……!」
「お嬢様!」
結構派手に倒れたため、咲夜が大慌てでレミリアへと駆け寄る。
いや大丈夫やて。吸血鬼が私の腕力で地面に叩きつけられたぐらいで傷つくかっつーの。それで傷ついたら刀とかいらんやろ。
ああでも、背中の後思いっきり頭打ち付けてたから、脳しんとうぐらいは起きてるかもね。
とりあえず、あっちはあっちでもう少し時間がかかるだろう。
なら、今のうちにフランに声をかけておくべきかな。
「ねえフラン。貴方は宴会で誰かと話せた?」
「うーん……まだなの。今日はちょっと偵察のつもりというか……」
なるほど、明るい性格して意外と人見知りなんだね……。私のときは初対面でもあんなに激しく歓迎してくれたのに。
だがしかし、それではいかーん!
このままだと結局話しかけられない日々が続くに決まってる。
女は度胸! さあ行ってこいフラン! 男の私の言葉を信じろ!
「そういえば、あっちでチルノって言うフランくらいの背の子がいたよ? 試しに話してくれば?」
「……うん、わかった!ちょっと怖いけど、私行ってくる!」
「ふふ、頑張ってね、フラン」
同じくらいの背丈、という言葉で決心がついたのだろう。
フランは覚悟を決めた顔をすると、元気よくここから離れていった。
でも、チルノなら大丈夫だと思う。彼女は弱いけど、ガキ大将のようなカリスマを感じられた。フランのように気が弱い子は、ああいうリーダー的存在が引っ張ってくれるはずだ。
フランはフランの戦いに行った。なら、こちらもラストスパートを崩しかけようじゃないか。
そう思わないかな、レミリア?
「……重ねて言う。フランに何をした……!」
ふと後ろを振り返ると、敵意丸出しのレミリアが声をかけてきた。
咲夜のおかげか、先ほどよりも落ち着いてはいるけど、怒っているのには変わりない。
そんなレミリアを上手くなだめた咲夜は、怒ってるというよりも信じられないという気持ちが大きいようだ。
それも仕方ない。数日前までフランはレミリアに狂ってる扱いされていたのに、あんな普通の女の子のように笑ってたのが信じられないのだろう。
……そこが間違ってる。
貴方たちに、私が一日で知ったフランって子どものことを、限りなく話してやる。
「別に何もしてないよ。精神操作もしてなければ、狂気を消し去ったわけでもない」
「嘘だ! あの子が私ですら見たことない笑顔だったのに、精神を操作しても、狂気を消してすらもいないだと!?」
「あれは表のフランが出てるだけだよ。裏の方は裏の方で表のフランが笑うのを楽しんでる」
「待ちなさい。表、裏? 何よそれ……?」
「……あれ、知らなかったの? フランは
その言葉を聞いたとき、まるでレミリアの時間だけが止まったかのように、彼女の表情が凍った。
……やっぱり知らなかったか。まあ無理もないさ。なにせ
「……どういう、ことだ……」
「言った通りだよ。あの子の体には、さっきの笑顔でよく笑う『正のフラン』と、貴方が知ってる狂気で染まった『負のフラン』が存在するんだよ」
「し、知らない! 私はそんなこと知らない!」
「知ってるわけねえだろうがっ! フランと会話しようとも努力しなかったやつに!」
何を当たり前のことを。
ムカつきすぎて、思わず素の口調に戻っちゃったよ。
でも、それでいい。
お前の
「ねえレミリア、質問だよ。フランはいつから二重人格だったと思う?」
「……わからない。でも、少なくとも両親を殺す前までには、フランは狂っていた」
「大ハズレ。正解はね、
「なん、ですって……っ?」
レミリアがわけがわからないと言った顔をする。
まったく、こいつは当たり前のことすらわからんのか……。
「子どもが一人孤独に四百年以上監禁されて、狂わないわけないだろうが!」
「ち、違う! フランは決して、ずっと一人じゃなかった!」
「なら……最後にフランと話したのはいつだ?」
「……あっ……」
私はフランが寝ているとき、禁術を使って彼女の記憶を覗き見ていた。
だからこそ知っている。
レミリアが最後に地下室を訪れたのは去年の冬——数ヶ月前の話だ。
「しかも、ただ訪れただけで会話は一切しなかった。まるで動物園に飾られてる猛獣の様子を見に来て終わり。そんな姉に、誰がなつくんだよ?」
「黙れ……黙れ……っ」
「認めろよ。お前はフランという少女を見てこなかった。襲われるのが怖くて一人安全な場所に待機。それでいて自分のペットなのだし、気分が乗ったら見に来る。……お前は姉失格だ」
「黙れ黙れ黙れ黙れ、黙れェェェェェエエエエエ!!!」
レミリアは私の止めの言葉で完全に崩壊したようで、獣のように叫びながら場もわきまえず魔力を手に集中させていく。
そして、血のように赤い槍を作り出した。
「ァァァアアアアアアアアアアッ!!」
「いけません、お嬢様っ!」
もはや弾幕ごっこに収まらない威力を持つ槍を、レミリアは投擲しようと大きく腕を振りかぶる。
しかし、それが放たれるよりも先に、私の神理刀がレミリアの槍の穂先を両断した。
普通の戦闘なら、私がレミリアの槍を両断できるはずがない。
ただ、今のレミリアは冷静さを欠いており、とても魔法を発動できる精神じゃなかった。
故に作られた赤い槍も、普段より構築が甘く、そして柔らかかった。例えるなら気体を無理矢理槍の形に押しとどめた感じ。
レミリアの長所は戦闘経験や技術をそれなりに持ってること。それが失われた今、彼女はただの劣化版フランでしかない。
空中を回転しながら、槍の穂先が地面に突き刺さる。
そして流れるような動作で、私は返す刀で神理刀をレミリアの首に振るう。
それは彼女の首を切り飛ばす——寸前で止まった。
「……な、ぜだ……っ」
「その言葉は私が貴方を殺さなかったことに対して向けたもの? それとも槍を切られたことに対して? はたまた……自分の選択が全てフランにとって悪影響でしかなかったこと?」
「私はっ、私はァ……ッ!」
力なく、レミリアは地面に両膝をつく。
その手にはもはや力は込められていない。
完全に、心が折れていた。
「私は……正しい選択をしたと思っていたッ。全てはフランのため。そう思って、今日まで苦しんできたのに……!」
「所詮、よく知らない者に対してどれだけ慈愛を捧げようが、害悪になるだけってこと。貴方が犯した間違いは、フランを地下室に閉じ込めたことじゃない。ただ、
そう、フランのことをよく知っていれば、こんなことにはならなかった。
パチュリー のように引きこもり体質ならば、喜んで静かな地下室に行っただろう。だが、フランは違う。
花を、草木、空を、何よりも友を愛す、寂しがり屋な少女。
それが、フランドール・スカーレットの正体だ。
「……ええ、そうね。ぐうの音も出ないわ。もう私には、姉である資格なんて……あの子に声をかける資格なんてないのかもしれない」
「……姉でなきゃ、貴方はフランに話しかけることすらできないの?」
「……え?」
まったく、この子はまーた責任から逃げてやがる。
レミリアが漏らした疑問の声に、私は呆れてこう言った。
「確かに貴方はもうフランの姉ではいられない。フランも貴方のことを『お姉様』と呼んでいるけど、決して貴方を姉とは認めてないだろうね」
「なら、やっぱり私には……」
「真に愛する者なら! 財を、権力を、あらゆる力を尽くし、彼女を支えようとすると私は思うな」
要は、まどろっこしいんだよ。
姉じゃなくても、ただの他人でも話しかけるくらいはできるだろ。
そっからまた始めていけばいいんだよ。
なんせ、私たちは妖怪。この身に訪れる寿命なんて、先のことなんだから。
「貴方は確かに選択肢を間違え、フランを苦しめた。なら、その責任は誰が取る? ……責任からは逃げるなよ、レミリア。それを失ったら、お前は最低限の誇りすら失うぞ?」
言いたいことは言った。
後は、レミリア次第だ。
私は踵を後ろに向け、レミリアたちから離れていく。
自分の背中に強い視線が突き刺さってるのを感じたけど、あえて私は無視をする。
なぜなら、それは殺気ではなかったから。
もっと熱く、覚悟を決めたような目だったから。
私の勝手な心から始めたこの争いは、幸いにも彼女たちのためになったようだ。
そうやって
♦︎
「……今ごろあいつはあったかい食事と酒にでもありついているのかしらね」
深く、大きなため息が吐き出される。
魔法の森。その奥深く。
金色の輝きを放つ闇は、そこに存在していた。
ふとギュルル、という腹が鳴る音が聞こえた。
それは彼女——ルーミアが空腹であることを表している。
「私も行きたかったなぁ。でも、行ったら確実に殺されそうだし」
ルーミアには楼夢のように窮地を脱する策も、力もない。
今の状態では下手したら殺し合いでもあの白黒の魔法使いに負けるほど弱いのだ。
だからこそ、今幸せを味わっているであろう楼夢に対する愚痴は止まらない。一度吐き出したらキリがないように、次々と泥水のように愚痴が湧き出てくる。
「そもそも! この私がいなかったら勝てなかったくせに、勝者を気取るなっつーのよ。ああもう、お腹が空きすぎてイラつく!」
「……なら、なんか別のものを奢ってやろうか、ルーミア?」
その声は、彼女の後ろから聞こえた。
ルーミアはその声を知っている。いや、知っていて当然だった。
なぜならその声の持ち主は、
「……火神?」
「大正解。褒美にお前の求めてるものを返してやるよ」
その一言の後、突如ルーミアの体に拳が突き刺さった。そこから大量の力が注ぎ込まれていく。
しかし、痛みはなく、むしろ気持ちいいほどだ。
なぜなら、今送られてきているのはルーミア本来の力なのだから。
失った力が戻って行くのを感じる。同時に髪や身長も伸び、最終的には以前のルーミアと変わらないほどのサイズまで戻ることができた。
「ふ、ふふふ……! 戻った! 私の力がついに、ついに戻ったわっ! アハハハハハッ!!」
「とりあえずうるさいからその笑い声やめろ。こっちは夏のコミケとパチスロと映画と新作ゲーで一週間は寝てないんだからよ」
それは自業自得でしょ、と言いたくなったが、ここで下手に突っ込むとまた力を発揮没収されそうなのであえて黙っておく。
代わりに火神に一つの質問をした。
「……ねえ火神。貴方がここに来たってことは、外の世界はもう飽きたのかしら?」
「まさか。いくら時間をかけようがそれ以上に増え続ける娯楽の全てを知り尽くすことなんて、不可能に近いぜ。ただ、楼夢もここにいるらしいからな」
「あら、てっきり私のために来てくれたのだと思っちゃった」
「調子に乗るな、この大食い女」
ペチンと火神がルーミアの頭を叩いた。
いくら軽くと言っても、火神がやるととんでもない威力になる。それを痛いで済ませられるルーミアも化け物だ。
「しかしよ。せっかくここに来たんだから、幻想郷の勢力にはこの俺の存在を広めてやりてェな」
「……それならいい方法があるわよ」
ニヤリと口を歪め、ルーミアが笑う。
そしてそれこそが、次の異変の引き金となった。