東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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ハロウィンラッシュ異変編
お菓子泥棒事件


 

 

  夜。と言っても人がまだちらほら起きているころ。

  人里の中の様々な民家に、()()()()いた。

 

「……トリック……トリック……」

 

  その一つが、幽鬼のようにゆらゆらと揺れながら、動き出す。

  大きな黄色い頭には、三つの大きな穴が目と口のように彫られている。

 

「トリック、トリック……」

 

  怪しげな呪文を呟きながら、それは歩き出す。

  それに連れて紡ぐ言葉も大きくなっていき……。

 

「トリック、トリック、トリック……トッリィィィク・オア・トリィィィィトォォォ!!」

 

  ふと、二つの穴が光った途端、大音量の奇声をあげた。

 

 

 

  ♦︎

 

 

「ふみゅぅ……。夏も終わってもう秋かぁ。こんなときは昼寝に限るね」

「今さら? もう神無月も終わるころっていうのに」

 

  博麗神社の縁側。

  そこには二人の人物がいつも通りくつろいでいた。

 

  一人はもちろん私。隣にいるのは霊夢だ。

  霊夢は私の言葉に呆れてたようだけど、仕方ないじゃない。なんせ私は約六億年の時を生きるお爺ちゃん妖怪なんだから。

  漢字で表すと大したことない数字に見えるけど、数字で表すと600000000になるんだぞ? ゼロが8個って、今じゃなかなかお目にかかれないと思うな。

 

  ちなみに、霊夢が言ってた神無月とは外の世界で言う10月のこと。

  ……そういえば、最近それに関係してるような話を聞いたな。

 

「ねえ、霊夢——」

「れぇぇぇぇぇいむぅぅぅぅぅ!! お菓子よこせやぁぁ!!」

 

  私の言葉を遮って、それは空から落ちて来た。

  そう、一言で言えばカボチャである。

  三つの大きな穴をくり抜かれたカボチャを被った何かが箒に乗って、落ちて来たのだ。

 

「うるさい」

「オフゴッ!? は、腹は駄目だろ腹は……っ」

 

  ……まあ、声を聞けば誰だかわかるんだけどさ。

  声は少女のもの。カボチャ頭の下には白黒の魔法使い風の服を着ている。ここまで言えば、誰だかわかるだろう。

 

  魔理ごほんごほんカボチャ人間は、登場とともに霊夢の腹パンを食らって悶絶した。

  うわぁ、結構痛そう。というか霊夢は体術も達人の域だから物理攻撃されると半端ない。私とほぼ互角ってどれだけ才能あるんだよこの子は。

 

  そんな霊夢は面倒臭そうにカボチャ人間を一瞥すると、再び縁側に座ってお茶をすすった。

 

「……っておいっ、霊夢!? こんなに私が体張ったのにそりゃないだろ!」

「うるさいわよ魔理沙。カボチャなんて被って、とうとう気が狂ったかしら?」

「違うわい! これはだなぁ、最近流行りの……」

「そうそう霊夢。最近人里でカボチャ被った何者かがお菓子やらを強奪する異変が起こってるのは知ってる?」

 

  魔理沙がカボチャ被ってる理由を説明しようとしたけど、そうはさせんよ。

  こんな面白そうな場面なんだもん。利用しないって手はないね。

  というわけで霊夢に最近異変が起きてることを囁いてみた。

  博麗の巫女なんだから、今回の異変の詳しいことは知ってるのだろう。魔理沙の顔を一瞥すると、

 

「……あっ、犯人みっけ」

 

  そう呟き、大量のお札やらを取り出した。

 

「おいおい待て待て待て! 霊夢、私だ! 私がそんなことするわけでないだろうが!」

「黙りなさいカボチャ頭! 知り合いのふりをしたからって、この私は騙されないわよ!」

「さっき思いっきり名前呼んでたじゃないかぁぁ!!」

「……結構ノリノリだね、霊夢」

 

  すがるような目で、魔理沙は私を見つめてきた。

  それに対して私はサムズアップ。

  魔理沙よ、大志を抱け……。

 

「チックしょぉぉぉぉぉ!! 」

 

  半ばヤケになりながら、魔理沙は箒で神社の空中に浮かぶとミニ八卦炉を取り出す。

  それに呼応するように弾幕が両者から放たれ、弾幕ごっこが始まった。

 

  そして数分後……。

 

「ぐっはぁぁっ!」

 

  まあ予想通りというかいつも通りというか。

  黒焦げになったカボチャ頭とともに、魔理沙は地面に落下していく。そして頭から石畳にめり込んでしまった。

  普通なら大怪我だけど、仮にも魔理沙は魔法使い。基礎中の基礎の身体能力強化をあらかじめ自分にかけていたらしく、顔が真っ赤になってるぐらいしか損傷はなさそう。

 

「くっそぉ……冗談が通じないやつだぜ」

「ただでさえ食料は死活問題なのに、あんたに恵んでやる分なんて残ってないわよ」

 

  いや、金は夏の異変で儲かったのに、調子に乗って使いまくったのはあんたでしょうが。

 

  少し悔しそうにしながら魔理沙は笑う。

  対して巫女は呆れながら、砕けて散らばってる黒焦げカボチャの残骸を眺めた。

 

「それで? わざわざ今回の異変と関係がありそうな格好してたんだし、何か知ってるんでしょうね」

 

  おっと、そうだった。この戦いはあくまで形式上は異変解決のためのものってなってるんだった。

  そう、10月に起こるイベントと言えばあれでしょあれ。

 

「これはな、ハロウィン? とか言ってだな。夜中に他人の家に侵入して脅迫して食料を奪うことが許される日らしいぜ」

 

  いやまああながち間違っちゃいないんだけどさ……。もっとオブラートに包めや。

  魔理沙が疑問形で言ったことから分かる通り、ここ幻想郷にはハロウィンというものは存在しない。

  その理由はともかく、本来普通の手段じゃ知ることができない情報をどうやって魔理沙が得たのかが私は気になった。

  なので直接聞いてみることにする。

 

「魔理沙、よくそんなの知ってたね。外の世界でも行ってきたの?」

「いんや、前に紅魔館の図書館の本でハロウィンについて書かれた本を見つけたんだ。それで、試しにやってみたってわけ」

 

  それだったら来るとこ間違えてるでしょうが。

  紅魔館に行けば素直にハロウィンしてくれると思うのに。うちの博麗神社は相変わらずの貧乏なんだぞ。

 

  まあそんな話題は置いといて。

 

「ねえ霊夢。今回の異変、このハロウィンと関係してると私は睨んでるんだけど」

「……カボチャ頭がお菓子を強奪する。確かに、さっき魔理沙がやってたことと似てるわね」

「それに、この時期にこんな異変が起こるってのも共通性がある」

「……ん? ハロウィンってやつはやる時期が決まってるのか?」

 

  いやいや当たり前でしょうに。おっちゃん達がその場のノリで開く祭りじゃないんだから。

  とはいえ、元々このハロウィンについての情報がここでは少なさすぎる。紅魔館の図書館にあったとはいえ、あの様子じゃ魔理沙はあまり深くまで読んでなかったのだろう。

 

「魔理沙。ハロウィンは神無月の終わりの日にやるものなんだよ」

「神無月の終わり……って、今日じゃん!?」

「でもそれだとおかしいわよ。異変は数日前から起こってるもの」

 

  それはおそらく前準備かなんかなんでしょうね。

  それにこの異変、私は外の世界の住人の仕業であると睨んでいる。

  だって、この世界でハロウィンを知ってる人間なんて私か紫、または夏に幻想入りした紅魔館の連中しかいない。

  でも紫はこういうことするなら私に事前に連絡するはずだし、紅魔館は……行ってみないとわからないかな。

  とはいえ、夏に異変起こしてたんだし、この時期異変を再び起こす余裕があるのかは知らないけど。

 

  このことを二人に伝えてみると、魔理沙はいつも通りやる気に、霊夢は気だるげに立ち上がった。

 

「まったく面倒くさい……なんで私がこんなことで動かなきゃいけないのよ」

「おいおい、仮にも博麗の巫女ならしっかりしろよな。まあ、お前が出なかったら私が報酬は独り占めだけどな」

「そうなったら死活問題だね、霊夢」

「ああもうわかったわよ!」

「それでよし。それに急いだ方がいいよ。多分異変は今夜で一番激しくなるだろうし」

 

  相手が仮にもハロウィンを意識してるなら、今日で爆弾を仕掛けて来るはずだ。

  なら、それを狙ってぶっ潰す。

  ぶっちゃけ今回の異変に私が関わる道理はないのだけれど、まあ暇だしね? それに孫の活躍は近くで見てたいし。

 

「それじゃあまずは紅魔館にでも行ってみるか。元々私がハロウィン知ったのはあそこだしな」

「……そうね。私の勘はピンと来ないけど、行くだけマシになるかも」

 

  霊夢の勘が働かないってことは、紅魔館勢が犯人ではない確率がほぼ増えてきたけど、どっちみち当てがないしね。

  それに私としてはフランにも会えるし、一石二鳥だ。

 

  ふわりと体が宙に浮かぶ。

  そして先陣を切った二人の背を追って、私は秋の空を飛んでいった。

 

 

  ♦︎

 

 

  紅魔館の扉を開けると、その奥には咲夜がいかにも『スタンばっていました』と言わんばかりに立っていた。

  おそらく時止めで来たんでしょうね。

 

  軽く挨拶をすると、さっそく図書館へと案内してもらう。

  紅魔館は咲夜の能力によって空間がいじられているため、外から見るよりも圧倒的に広い。それこそ霊夢の勘か咲夜がいないと目的地にたどり着けないほどに。

 

  大きな階段を下り、図書館へと入る。

  ……うむ、相変わらず馬鹿みたいな量の本があるね。

  左右見渡しても本、本、本。上下を見渡しても本、本、本。

 

  ここの図書館の天井はかなり高い。それこそ、異変の時に魔理沙とパチュリー が弾幕ごっこできるほどに。

  それは、本来地下と地上一階を遮る天井を筒抜けにしてるからだ。その証拠に、飛ばないと届かないような高い場所には、普通の地下にはないはずの窓がいくつかついている。

  そんな2フロアぶち抜いた巨大図書館の8割以上を本で埋め尽くせるのだから、驚きを通り越して呆れてしまうよ。

 

  そして私たちの前方。本に埋もれたテーブルの前に、誰かが座っているのがわかる。

 

「あれ、パチュリーはどこだぜ?」

「あそこのテーブルよ。まったく、小悪魔は何をやってるのかしら」

 

  どうやら積み上げられた本が邪魔で魔理沙はパチュリー が見えなかったらしい。

  まあもはや本が壁と化しちゃってるからねありゃ。

  咲夜の言う通り、小悪魔は何をやってるのやら。……いや、片付けても片付けてもすぐに散らかるのか。

 

  でもまあこのままじゃ話が進まないし、パチュリーを隠している本の山に弾幕を一発。

  その衝撃だけで本の山はグラグラと揺れ……あっ、パチュリー方面に倒れていっちゃった。

 

「パチュリー様ぁぁぁぁ!?」

 

  ……おう、ミゼール……。

  崩れた山の中からむきゅむきゅ声が聞こえるけど私は知らん。

  これは事故なのだよワトソン君。私は悪くない!

 

「……あんたって結構酷いやつよね」

「あははーあは。霊夢も冗談うまいなー」

「いや、あれは私も酷いと思うぜ……」

「私も病人もどきにあれはないと思うわ」

「そんな!? 泣くよ私!」

 

  みんなからの冷たい反応に心がぁ……。

  ってか、咲夜! 貴方だって美鈴にナイフぶっ刺すじゃない!

  そう言ってみたら、あれは頑丈だから大丈夫と答えられた。

  ていうかさっきから咲夜のパチュリーの扱いが結構酷い気がする。さっき病人もどきって思いっきり言ってたし……。

 

  その後、一悶着あったものの、なんとかなだめることに成功。

  そして本が片付けられたテーブルを囲うように、私たちは出された椅子に座って話を始める。

 

  っと、その前に……。

 

「ふふーん、お姉さんお久しぶり!」

「久しぶりって……一週間ほど前に来てるはずなんだけどなぁ」

「一週間は私にとっては長いの!」

 

  私の膝の上に、可愛い金髪少女が一人。

  言わずもがな、フランである。

  そして向かいの席には嫉妬の目線を垂れ流してくるレミリアが。

  正直彼女の場合殺気よりも嫉妬の方が何故か圧力が強いから結構怖いんだけど……。これも姉のなせる技ってやつかな。

 

  あの宴会後、フランとレミリアの仲は姉妹とまではいかないものの、それなりに順調らしい。

  ただ、今じゃ私がフランの姉的存在になってるため、私が来るとレミリアをそっちのけでよく甘えてくる。

  その結果、あのようなパルパル聞こえる目線に晒されてるというわけ。

 

  紅魔館と交流を持ってから全員の性格は大体わかってきたけど、レミリアはかなりのシスコンだ。正直たまにフランからもうざがられるほどの。

  どうやら宴会時の私の言葉で積極的にフランと関わろうとした結果があれらしい。

  もはや姉としての威厳はなく、単に構って構ってと言ってるようにしか見えない。

  ああ、おいたわしや……とは、咲夜の言である。

 

  さて、このテーブルには私を含めて七人の弾幕ごっこでの猛者たちが集っている。

  ちなみに小悪魔はカウントしてない。どうやら私と魔理沙を除いた素で強い存在を前に緊張して逃げ出したようだ。

  いやまあ私の最弱スペカ一枚でピチュるような子だから仕方ないけど。

 

  テーブルに置かれたカップに咲夜が注いでくれた紅茶を飲む。

  うむ、美味い。やっぱこの子拉致して洗脳しよっかな。家事も万能だし、すごい役立つはず。

  まあ、フランが悲しむからしないけどさ。

 

  そして全員が注目する中、博麗の巫女として霊夢がまず口を開く。

 

「……レミリア、単刀直入に言うわ。今回のハロウィン異変に貴方たちは関わってるのかしら?」

「いや、私たちはまったく関わってないと断言できる。むしろ私たちは被害者よ」

「それはどういう……」

 

  魔理沙が問いかけようとしたが、それを私は手で制する。

  そしてテーブルに置かれた七つのカップを……いや正確にはその近くを眺めた。

  ……おかしい。いつもなら紅茶とともにクッキーやらが置かれてるのに、今日はそれがない。

  私たち客人の人数が多いからだと推測しても、レミリアとフランの分までないのはおかしい。あの二人は咲夜のお菓子が好物なんだから。

  ……お菓子?

 

「まさか、盗まれた……?」

「……ええ、そうよ。保存してた分まで全部消えてたわ」

 

  なんてこったい。

  咲夜ならすぐに新しいのを作れるはずなんだけど、あの様子じゃ材料切らしてるんだと思う。

  ていうか、普通の民家ならともかく、ここ紅魔館の防御網を突破したということが問題だ。

 

  美鈴に気付かれずに紅魔館に入るなんて、紫のような空間転移でも使わない限りほぼ不可能だ。

  でも、空間に作用する能力はごく稀だ。なら、普通に隠れて侵入したと考える方が適切だろう。

  でも、美鈴を隠密で突破できるレベルだとしたら……大妖怪クラスの存在かもしれない。

  なんせ美鈴の能力は【気を使う程度の能力】。少しでも気があるなら目を瞑っていてもすぐに感知できるし、門番としては破格の力を持っている。

  ……なお、そのせいで美鈴はよく居眠りすることが多い。さっきも気持ちよさそうにグースカ眠っていたしね。

 

  閑話休題。

 

「つまり、相手は美鈴を出し抜けるほどの隠密能力を持っている、または空間作用系の能力者ってこと」

「それがわかったところでどうしようもないわよ。どっちにしろ見つけることは困難になるんだし」

 

  確かに霊夢の言う通り。

  しかーし! それはあくまで見つけようとした場合だ。

 

「ふっふっふ、仕方ないなぁ」

「……何よ。なんか案があるっていうの?」

「もちろん! 名付けて——『ホウ酸団子作戦』だ」

 

  さて、ハロウィンらしくお菓子でもばら撒かせていただこう。

  ただし、巣穴ぐらいは特定させてもらうけどね?

 

 

 




「春休み明けのテストはノー勉! いつも気合いで乗り切る作者です」

「最近図書カードを手に入れた狂夢だ。まあ一瞬で使ったけどな」


「さてさて、今回は新章突入ですよ!」

「言っとくがこれは番外編じゃないぜ? 勘違いしちまうかもしれないが」

「他の作者様はよくこういったイベントがくると番外編出しますからね」

「お前もなんか書けよ」

「アイディアが思い浮かびません」

「それでいいのか三流。仮にも二次創作作家だろ」

「いいんですよこれで。むしろ四流と罵ってもらっても構いません」

「やーいやーい四流!」

「……すんません、やっぱそれ傷つきます……」

「メンタル弱っ!?」

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