東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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灼熱砂漠の空にて

 

 

「ヒャハハハハハッ!!」

 

  狂気に満ちた笑い声が、灼熱の砂漠の中に響き渡る。

 

  そして空を舞う四つの影。

  内の三つは、何かから逃げるように必死に空中を飛び回っていた。

  それもそのはず。

  なんせ、彼女らを追っているのはスコールのように降り注ぐ膨大な弾幕と、マシンガンのように連射される極太レーザーなのだから。

 

「くそっ! 通常弾幕が最高クラスのスペカ並みって、そんなのアリかよ!?」

「いかにも物理専門な顔をしてるくせに……こんなの卑怯よ!」

「ハハハッ! いくらでも罵れ! 負け犬の遠吠えほど惨めで愉快なものはねぇ!」

 

  火神は右手に持ったマグナム——【コルト・パイソン】の銃口を魔理沙へと合わせ、引き金を引いた。

  そして、【マスタースパーク】並みの大きさのレーザーが、射線上にある全てを呑み込んだ。

 

  ……しかし、その中に魔理沙は含まれていない。

 

「……ふぃー、助かったぜ霊夢」

「ったく、あんたが被弾したらこっちの残機も減るのよ? 次からは気をつけなさい」

 

  レーザーが魔理沙を襲う直前、近くにいた霊夢が魔理沙を引っ張って、間一髪でその射線から外させたのだ。

 

「とはいえ……くそっ、三対一のくせに弾幕量で負けるなんてっ」

 

  今回の変則弾幕ごっこは残機三個とスペカ五枚と、通常のものとさほど変わっていない。

  変わっているのは、霊夢たちは三つの残機とスペカを共有しなければならないということだ。

  つまりは火神VSチームということだ。

  魔理沙が被弾すれば、チーム全体での残り残機は二個になるし、スペカを使えばチームで残り使える回数は四枚となる。

 

  本来ならこれでも霊夢たちが圧倒的有利だ。

  なんせ三人同時に弾幕を放つことができるのだから。単純に相手は通常の三倍の密度の弾幕を避け続けなければならないことになる。

 

  しかし、火神は通常じゃなかった。

  彼の周りには十個もの巨大魔法陣が展開されており、その一つ一つが雨のような量の弾幕を吐き出す。

  それだけではない。少しでも動きを止めれば火神自身のレーザーの連射、そしてコルト・パイソンによる極太レーザーが襲いかかってくる。

  その難易度は、霊夢に長年の弾幕ごっこ経験から高難易度のスペカに相当するものだと思わせた。

 

「くっ、このままじゃジリ貧だぜ……。いっそマスパぶっ放した方がいいか?」

「今はやめときなさい。あの銃から放たれるレーザーで相殺されるのがオチよ」

 

  そもそも、よく雰囲気などから気づかれないのだが、火神は元々魔法使いである。こと攻撃魔法に関しては楼夢をも超えるほどの。

  そんな彼にとって遠距離戦は大好物である。

 

「……チッ、このままやってても面白くねぇな。しょうがねぇ、使ってやるよ」

 

  だが、彼は極端な飽き性だった。

  本来ならば相手がスペカを使うまで待っていれば火神の勝率は上がっていただろうに、彼は自らそれを投げ捨てた。

  そして一枚のカードを取り出し、宣言する。

 

「愉悦を追い求めてこそ意味がある。娯楽得ずして最強を語れるか!噴符——【ヴォルカニカレイン】!」

 

  火神はカードを頭上に放り投げる。

  それは空気を切り裂いて上へ進み、ある程度行ったところでその勢いが止まる。そして後は重力に任せて落下するのみ——のはずだった。

 

「……おいおい、なんだよありゃ……」

「全員来るわよ! 散開しなさい!」

 

  魔理沙が呆然として呟く。

  それもそのはず、カードから炎が吹き出たかと思うとどんどん大きくなっていき、火神の頭上には巨大な火球が出来上がった。

  その姿、まさに太陽の如し。

  だが、これで終わりではない。

  ピシピシッ、というヒビが入る音が火球から聞こえる。

  そして火球が突如大爆発を起こして砕け散り、その欠片が無数に霊夢たちの元へ降り注いだ。

 

  しかし、それだけでは霊夢たちは動じない。

  むしろただ大量に降り注ぐだけの弾幕など、日常茶飯事だ。

  三人は無駄な体力を削るためグレイズを決めて、次々と避けていく。

 

  だが、これは火神が作ったスペカだ。

  霊夢が一つの炎の欠片をグレイズしたとき、ついにそれが本性を現した。

 

「……なっ、ぐぅぅぅっ!!」

 

  霊夢に掠った炎の欠片が、突如爆発を起こした。

  しかもただの爆発じゃない。

  いつのまにか小さい石のようなものが大量に炎に含まれていたらしく、それが散弾のように霊夢に襲いかかったのだ。

 

  間一髪と言うべきか。

  霊夢は持ち前の勘で結界を事前に張っておいたのだ。それが功を成し、初見じゃ避けれない攻撃をギリギリのところで防いだ。

 

「魔理沙、レミリア気をつけなさい! 今降ってるのは炎じゃなくて岩石よ!」

「補足すれば溶岩だな。ヴォルカニカ——つまり火山から吹き出た岩石を再現したスペカってわけだ」

「マジかよ……って、うわっ!?」

「でも私には太陽のような炎しか見えなかったわよ!? 岩石なんて複合させる様子どこにも……」

「お前らが太陽に呆然としてる間に、その中に魔法で仕込ませてもらったぜ」

「ご丁寧で親切な解説ありがとうっ!」

 

  霊夢たちが騒いでいる間も、熱せられた岩石は降り注ぐ。

  いや、本人は岩石と言っていたが、客観的にこれは隕石に近いと思う。

  そして空より落ちる内のいくつかがランダムで爆発を起こし、周りのものを巻き込んでいく。

 

  制限時間が後何秒あるかは知らないが、このままではいずれ当たる。

  そう判断したレミリアは、自身の切り札であるスペカを一枚切った。

 

「【紅色の幻想郷】!」

 

  そして、空を埋め尽くすほどの弾幕が生成され、溶岩の雨と衝突しながら火神へと向かっていく。

 

「どれが爆発するかなんて関係ないわ! わからないなら、全部壊してやるまでよ!」

「んな無茶苦茶な……」

「それで上手くいくんだから、脳筋って怖いわよね」

 

  霊夢がそうぽつりと呟いた通り、状況は一変して有利になった。

  レミリアの弾幕は視界に入る全ての溶岩を狙いに定めていた。

  爆発しないのならしないでそれでよし、しても巻き込まれるものはないので問題はない。

  幸い、【紅色の幻想郷】が生み出す弾幕数は膨大であった。これだけ防御のために回してなお、火神を狙えるぐらいには。

 

  そして数十秒後、突如【ヴォルカニカレイン】が消え去る。

  スペカの耐久時間が過ぎたのだ。

  その瞬間、今まで溶岩の迎撃に回っていた全ての弾幕が一転、攻撃へと変わった。

 

  紅一色の弾幕の壁が、標的を押し潰さんと迫る。

 

「ふっ、確かに避けづらい弾幕だ。だがよ、俺はいい子ちゃんぶって大人しく避けるつもりは毛頭ねえっつーの!」

 

  そして、黒光りする銃口がレミリアへと向けられる。

  そこから放たれるのは極太のレーザー。

  なんとかレミリアはとっさに体を横に捻って回避したものの、その射線上にあった大量の弾幕は全て消え去っており、壁に穴が空いた。

 

  しかしこのとき火神は、自分に迫る巨大閃光が見えておらず、一瞬反応を遅らせた。

 

「恋符【マスタースパーク】ッ!!」

 

  火神がコルト・パイソンの引き金を引いた絶妙なタイミングで、魔理沙は自分の十八番を発動した。

  それに気がついた火神は再び銃口を魔理沙に向けるが、レーザーは発射されなかった。

  当たり前だ。今火神が持っているのは連射に特化した銃じゃない。僅か数秒ほど次の攻撃が遅れるのは仕方のないことだった。

  そしてその一瞬が、レーザーの前では命取りとなる。

  火神のレーザーが放たれるより速く、彼の姿はマスタースパークの中に消えていった。

 

「へっ、やったぜ。どんなもんだ」

「……ああ、最高によかったぜ。おかげで少しは楽しめそうだ」

 

  その言葉の後、マスタースパークが中から引き裂かれ、火神が姿を現わす。

  その体には傷ついた跡がなかった。服もマスタースパークの直撃を受けていながら、焦げ一つすらない。

 

「なっ、あれを食らって無傷だなんて……!」

「……いや、一ヒットだ。弾幕ごっこで被弾として数えられるのはダメージ量じゃねぇ。どんなに威力が小さかろうが、当たったらそれで終いだ。そうだろ、博麗の巫女?」

「意外ね。さっきから魔法といい、ルールの説明なんて読まない顔してるのにね」

「むしろ全ルール把握してるやつの方が少ないだろ。鈴奈庵とか言う本屋で買ったが、細かい説明を書くと辞書ぐらい分厚くなるってどう言うことだよ」

「……阿求以外であれ買ったやつ初めて見たわ」

 

  基本的に弾幕ごっこはいくつかの大まかなルールを守っていれば大丈夫だが、その都度トラブルというのは起こりうる。

  火神が買った辞書並みの分厚さのルールブックとは、それを見越したスキマ妖怪が博麗の巫女用に細かくルールを設定し、それを書したものである。

  その全てを把握しているのはそれこそ霊夢と紫、そして人里の【一度見た物を忘れない程度の能力】を持つ稗田阿求(ひえだのあきゅう)ぐらいだろう。

 

  閑話休題。

  現在火神の残機は二、スペカは四枚。

  対して霊夢たちは残機は三、スペカは三枚だ。

 

  この時点ではどちらかが有利とは言えない。互角と言ってもいいだろう。

  それを引き剥がすため、火神は二枚目のスペカを宣言する。

 

「二枚目——炎鳥牢【火鳥籠(ヒトリカゴ)】」

 

  今度は霊夢たちを覆うように、炎が発生する。

  そして月の民をも閉じ込める炎の結界が、三人を閉じ込めた。

 

「さーて、串刺しのお時間だ。中からじゃ見えにくいだろうが、精一杯避けろよな」

「避けるってどういう……ッ!?」

 

  突如、炎の鳥籠の中を巨大な炎の槍が貫いた。

  間一髪、霊夢たちは伏せることでその一撃を躱す。

  だが安心するのがまだ早い。

  鳥籠を覆うように、空には数十もの炎で形作られた大剣が生成されていた。

 

「串刺しマジックだ! 文字通りタネも仕掛けもねえから、気をつけな」

 

  そして空に浮かぶ巨大炎剣が、一気に鳥籠に突き刺さった。

  しかし、中から誰かが被弾した気配はない。

  おそらく、偶然か何かで全員当たらなかったのだろう。そう切り替え、火神は再び炎剣を大量投影すると、先ほどのように鳥籠を串刺しにした。

  しかし今回も、誰かが被弾した様子はなかった。

 

「……ぁあ? どうなってんだ?」

 

  流石にこれを運と見る馬鹿はいない。

  とはいえ現状何もできることがないので、仕方なく炎剣の量を増やしてみる。

  そして火神の位置から中が見えるように、結界に穴を小さな穴を空け、中を観察した。

  そこで見えたのは、驚くべき光景だった。

 

  数十の炎剣が鳥籠を串刺しにしに迫る。しかもその様子は中からじゃ見ることができない。

  にも関わらず、霊夢はまるであらかじめ炎剣が突き刺さる位置を知ってるかのように、それらが当たらない位置に他二人を誘導していたのだ。

  そして全員が安全圏へ避難したところで一拍遅れて、炎剣の群れが突き刺さる。そこで制限時間が終了し、炎の鳥籠は突き刺さった剣ごと霧となって消え失せた。

 

「……どういう仕組みだありゃ? 非常に気になるな」

「知らないわよ。あえて言うなら勘よ、勘」

 

  あっけらかんと、何事もなかったかのように霊夢は先ほどのスペカを避けたときのタネを披露した。

  火神は知らなかったが、霊夢の勘は未来予測に等しい。そして先ほどのスペカは炎剣の位置がわかれば難易度はイージーと化す。

  それはそうだ。見えない場所から突如襲いかかる複数の大剣、というのが先ほどのスペカの特徴なのだから、炎剣の場所がわかればただ安全圏へと逃げ込むだけのヌルゲーだ。

 

  二枚目のスペカを使っても被弾させることができなかった。

  それは一重に霊夢が強すぎるのではなく、三人の連携が問題だろう。現に一番最初のスペカはそれのせいで破られている。

 

  なら、まずは周りから剥ぎ取っていくか。

  空を浮いて絶えず通常弾幕を繰り出してくる少女たちを観察する。

  まず霊夢。未だスペカは使ってきておらず、疲労の目は少ない。

 

  次に金髪の魔法使い。飛ぶ速度は速いが、それにも疲労の目が見え始めている。

  思うに、彼女はこの中で唯一の凡才だ。十八番のスペカを使ったことでの疲れもあるようだし、狙うとしたら彼女だろう。

 

  最後に吸血鬼。こっちもスペカを一枚使ってはいるが、そこは人外。

  まだまだ元気だと言うように、空をその翼で飛び回っている。

  彼女には日光への完全耐性を一定時間付与するポーションを飲ませてあるので、夜と同じパフォーマンスで動けるはず。

  まああのまま砂の上で転がり続けられるのも面倒だったから、ちょうどいいか。

 

  とにかく、狙いは決まった。

  天へとスペカを投げ捨て、三枚目の名を叫ぶ。

 

「焦符【ラテッドブリューレ】!」

 

  火神の周りに、今度は魔法陣なしで無数の炎の球体が出現する。

  球体はその温度から赤を超えて全て白い。

  どちらにせよ、触れたらただで済まないのは確実だろう。

  それらが一斉に、彼女らに向かって放たれた。

 

  霊夢たちは数千を超えるであろう球体を避けるために飛び回る。

  だが、球体は驚くことに霊夢が右に曲がれば右に、左に曲がれば左にと、完全に追尾してくる。

 

「ああもう、焦れったいわね! これでもくらいなさい!」

 

  霊夢はそう叫んでお札と弾幕を迎撃のためにばらまく。

  しかしそれらは球体に触れると、ジュッという音とともに例外なく消滅させられた。

 

「こんなの当たったらただじゃ済まないわよ! 反則よ反則!」

「死ななきゃいいんだろ? テメェがこれぐらいで死ぬわけねぇだろうが」

「くそっ、終わったら絶対シメる!」

「俺を反則負けにしたかったら一回死んでみることだなぁ! それとも……あそこの魔法使いでも代わりにするかぁ?」

「あんた……まさかっ!?」

 

  火神につられて霊夢は魔理沙を見る。

  霊夢やレミリアと違って、魔理沙はこれらのスペカを順調にクリアしていた。

  その理由は弾幕の密度。

  魔理沙が得意としている高密度高火力の弾幕は、数が少ない代わりに白い球体を迎撃することに成功していた。

 

  それを見て火神は口を歪め、霊夢とレミリアに回していた白球の半分を魔理沙に追加した。

  その数は先ほどの二倍。

  いくら迎撃しようとキリがなくなり、魔理沙は次第に逃亡を始める。

 

「なんでこっちばっかに向かってくるんだ……ッ!?」

「魔理沙っ!」

「オラァッ、もっと追加だ! 仲良く受け取れッ!」

 

  先ほどの【火鳥籠】の時に放たれた炎剣が、魔理沙の進路を塞ぐように飛んでいく。

  そして全速力で飛ぶ魔理沙の目の前で炎剣が彼女をかすめたとき、思わず彼女は動きを止めてしまった。

  しまった。と心の中で叫ぶ。

  自分を包囲するかのように、四方八方から白球と炎剣の雨が降り注ぐ。

  もはや通常の速度じゃ回避は不可能。ならば……。

 

  魔理沙はミニ八卦炉を箒の後ろ部分につけると、魔力を集中させる。

  それはかつて、パチュリーを破った彗星の一撃。

 

「【ブレイジング——ッ!?」

「——遅ぇ」

 

  しかし、それすらも予測していたかのように、魔理沙めがけて銃口が火を噴いた。

  放たれる極太の閃光。

  スペルカードを発動させる間も無く、魔理沙はそれに呑み込まれ、黒い煙を上げながら砂漠の海へと落ちていった。

 

 

 


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