東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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過激で危険な弾幕ごっこ

 

 

「魔理沙ぁぁぁぁぁっ!!」

 

  落ちていく親友を目にして、霊夢は絶叫すると、すぐに彼女を助けに行こうとする。

  しかしその時、霊夢の目に白球のほとんどを魔理沙に回したため、防御が手薄になった火神の姿が映った。

  迷いは一瞬。

  唇を噛み締めると、己の心を込めて誤魔化すかのようにスペル名を叫ぶ。

 

「こんの……ッ! 霊符【夢想封印】ッ!!」

 

  博麗に伝わる秘術。

  七つの巨大なカラフルな弾幕が、追尾しながら火神へと向かう。

  しかし彼は、迎撃するどころかマグナムを消し去り両手を広げた。

  まるで彼女の攻撃を受け入れるかのように。

  そして、無抵抗のまま七色の弾幕は火神へと直撃し、空中で大爆発を起こした。

 

  なぜ火神が抵抗しなかったのか、霊夢にはわからない。

  だが、ハッと魔理沙が危険だということを思い出すと、急いで真下の砂漠に向かおうとする。

  その時、いつのまにか下にいたレミリアの声が聞こえてきた。

 

「霊夢、大丈夫よ! 脈はあるわ!」

「……なら安心ね」

「普通この高さなら魔理沙じゃ死んでるんだけど、砂漠に落ちたってことが幸いしたわね。砂がクッションになって、重傷はなさそうよ」

「……そう。なら、やることは一つね」

 

  霊夢は意識から魔理沙のことを追い出すと、目の前の化け物に集中する。

  そして大爆発によって巻き上がった煙を引き裂いて、やはり奴は現れた。

 

「さーて、まずは一人脱落か。まあ上出来ってとこだな」

「そのかわり、あんたは次に当たったら敗北だけどね」

「それは友を捨てて職務を選んだお前への報酬だ。わざわざ打ちやすいように道を空けていた甲斐があったな」

「この……っ、下種がッ!」

 

  下種で結構、と火神は笑う。

  状況は決して火神有利とは言えない。

  残機一、スペカ二。対して霊夢たちは残機スペカ二枚ずつ持っている。

  それでも火神は笑う。

  なぜなら、彼にとってこの勝負は余興でしかないから。

  彼は四名目のカードを掲げ、宣言する。

 

「群符【ヘルスタンピード】」

「来るわよ霊夢!」

「わかってるわよ!」

 

  魔理沙がいなくなった分、二人にかかる負担は大きくなるだろう。

  それがわかっているからこそ、二人はわざわざ声に出して己を奮い立たせる。

 

  空には、この戦い最高の数の魔法陣が展開されていた。

  それらの大きさはバラバラ。

  そしてそこから溢れ出るように召喚される、炎で形作られた悪魔たち。

  彼らは様々な動物の姿に、その炎の体を似せていた。

  狼、鷲、蛇、熊などなど……。

  それらはどんどん増えていき、霊夢たちが悪魔と戦闘を始めるころには三桁に到達しようとしていた。

 

「……ああもう、なんで弾幕ごっこで妖怪退治しなきゃなんないのよ!」

「悪魔の王たる私に逆らうか! 愚行を知りなさい!」

 

  四方八方から襲いかかって来る炎の動物たち。

  しかし相手が悪すぎた。

  霊夢のお札がばら撒かれる。

  それらの名はホーミングアミュレット。文字通り自動追尾するお札だ。

  それらが弾幕ごっこの威力ではない力で放たれ、周りの炎の動物たちを一瞬で消し去った。

 

  対するレミリアは妖力を乗せた咆哮をあげる。

  悪魔の王という名は伊達ではなく、それだけで襲いかかる悪魔は全て消し飛んだ。

 

  しかし、数が多すぎる。

  炎の動物たちが霊夢たちの攻撃を受けている間に、他の動物たちが霊夢たちに手が届くところまで接近した。

  普通ここまで近づかれたら物理攻撃をした方が速いのだが、それはできない。

  なぜなら弾幕ごっこのルール上、生身で()()に触れれば残機が減るからだ。

  霊夢は持っていたお祓い棒を振るうことでなんとかしているが、レミリアは完全の無手である。

  さらには接近戦で一度も攻撃を受けてはいけないという条件が、二人を縛っていた。

 

「くっ、まさか弾幕ごっこのルールを利用されるなんてね……! 顔のくせして、けっこう賢いじゃないっ!」

「ああもう、顔のくせしてせこいわよ! そんな野蛮そうな顔してるんだったらもっと派手なもの用意しなさいよ!」

「聞こえてんぞお前らァ! 上等じゃねぇか! そこまで言うならビッグなもん出してやんよ!」

 

  青筋を浮かべながら、火神は魔法陣を弄る。

  すると出現していた魔法陣の六つほどが消滅し、代わりに今までとは比べ物にならない大きさのものが三つ出現した。

 

「俺は六つの魔法陣を生贄に特殊召喚! 顕現せよ、漆黒眼の紅龍(ブラックアイズ・レッドドラゴン)!!」

 

  そして魔法陣から現れたのは、巨大なドラゴンだった。

  名前の通り目は黒く、体は燃えるように赤い。

  体は東洋の蛇のような竜ではなく、西洋のゴジラに翼を足したような姿だ。

  それが三体同時に召喚される。

 

「……えー、それはダメでしょ……」

「ほら、あんたが望んだものよ。なんとかしなさい!」

「無茶言わないでよ! 死ぬわあんなもの!」

 

  『あんなもの』呼ばわりされたことに腹を立てたのか、三体の紅龍は耳をつんざくような咆哮をあげる。

  そしてそれぞれの口に、膨大な魔力が集中していくのがわかった。

 

「くらえ! 焼却の灼熱暴風弾(ブラステッドストリーム)!!」

 

  そして、全てを焼き尽くす灼熱の暴風が三つ同時に、解き放たれた。

  叫びながら、霊夢たちは目の前の敵を無視してでも全力で回避に専念する。そしてそれは正解だった。

 

「ハッハッハッ! 強靭! 無敵! 最強!」

 

  灼熱の暴風はすでに召喚されていた炎の悪魔たちを消滅させると、砂漠の遥か彼方の地点に着弾し、ここからでも見えるほどのドーム状の大爆発を起こした。

 

「……あれ、受けたら死ぬわよね?」

「間違いなく、私もあんたも消し飛ぶわ」

「反則じゃないの!」

「それで止まってくれたら苦労はしないわ」

 

  それに……、と霊夢は付け足す。

 

「あれに反則負けなんて説得が通用すると思う?」

「……しないわね」

「今さら降参なんて言ったらそれこそ殺されて終わりよ。ここはなんとか生き延びるしかないわ」

 

  間違ってもあの三体のドラゴンを倒そうだなんて思ってはいけない。

  普段ならレミリアと共闘すればギリギリでできなくもなさそうなのだが、あいにくと今は弾幕ごっこの最中。

  十八番の夢想封印も、武器以外のあらゆる打撃技も制限される。

  なら、スペカの制限時間終了を狙うしかない。

 

  三体の龍のうち、一体が霊夢にその三つの鉤爪を振り下ろす。

  それらにお祓い棒を打ち付け、隙間をこじ開ける。そしてその間を通り抜けることで回避に成功した。

 

  同時期、レミリアは二体のドラゴンのブレスに追われていた。

  流石に焼却のなんちゃらかんちゃらほどの密度はないが、代わりに範囲はある。

  それにレーザーを撃つことで穴を空け、そこを通り抜ける。

 

  二人は反撃と言うように、それぞれの弾幕を龍に叩き込む。

  しかしただの弾幕ではお話にならない。全て硬い鱗に弾かれてしまった。

 

  そこで霊夢は、あることに気づく。

 

「おかしいわね。あれも炎でできた体じゃないのかしら?」

「言われてみれば……確かに悪魔の気配がしないわ」

「教えてやろうか? そいつは俺が百年程度かけて完成させたキメラだ。いやー、苦労したぜ? なんてったって、今の時代ドラゴンが少ないから、化石から発掘することになるとはな」

 

  なんて罰当たりな、と信仰心の欠片もない霊夢でさえそう思ってしまった。

  なんせこの幻想郷では最高神として君臨しているのが龍神なのだ。

  こんなことが知られればタダでは済まない、と思ったのだが、目の前のそれは神さえも軽く凌駕する者であるのを忘れていた。

 

「……参考までに聞くけど、貴方たちってどれくらい強いのよ」

「この世界でいう龍神とやらなら二分で屠れるぜ? だいたい得意不得意が分かれてるが、そんぐらいのことは全員できる」

「……そりゃベストな返答、ありがとうございました」

 

  驚くを超えて呆れるとはこのことだろうか。

  霊夢は幻想郷にスペルカードルールを作った昔の自分を心底褒めちぎっていた。

 

  そうして数十秒ほど、必死に攻撃を避け続けた。

  止まれば死ぬ。当たれば死ぬ。

  その思い一心で、空を飛び回り続ける。

  しかし、そろそろで一分経つはずだ。

  だいたいのスペカはそれで終わる。そして予想通り、目の前の紅龍たちはラストと言った風に、静止して力を溜め始めた。

 

(ここを凌ぎきれば……っ!)

 

  霊夢に一筋の希望が見出される。

  しかし、それはすぐに絶望で塗りつぶされることになるだろう。

  霊夢たちは忘れていた。伝説の大妖怪は最後まで甘くないということに。

 

「俺は融合を発動! 三体の漆黒眼の紅龍(ブラックアイズ・レッドドラゴン)を生贄に、魔法陣より特殊召喚!」

「……なっ!?」

 

  火神が突如、芝居がかった口調で紅龍の破壊を宣言する。

  すると三体の紅龍は巨大な赤い光と化し、火神の後ろに現れた見たこともないほど巨大な魔法陣に吸い込まれていく。

  そして滅びを伝える龍が、この世に姿を現わす。

 

「灼熱地獄より出でよ! 漆黒眼の究極竜(ブラックアイズ・アルティメットドラゴン)ッ!!」

 

  灼熱の炎が渦巻く魔法陣の中から、()()は出てきた。

  体の形は先ほどのドラゴンと同じ。いや、一回りほど大きくなっている。

  そして何よりも圧倒的な存在感を放つのは、体より生える三又の龍頭だった。

 

「……なによ、あれ……?」

 

  問いかけるレミリアの声が震える。

  単純に首が三つになったわけじゃない。

  あの巨大龍からは先ほどの龍三つ分、またはそれ以上の力が感じられるのだ。

  その力は、まさに大妖怪最上位の域に到達している。

 

究極灼熱暴風弾(アルティメットストリーム)ッ!!」

 

  三又の竜のそれぞれの口から、先ほどの焼却の灼熱暴風弾(ブラステッドストリーム)が放たれる。

  それらは融合して、一つの超巨大な暴風として、霊夢たちを呑み込まんと迫る。

 

「マズっ……!」

 

  言葉を言い切る時間さえない。

  三つのエネルギーが合わさった暴風は、霊夢たちが想像していたよりも大きく、いくら注意していても回避など不可能な攻撃範囲だった。

  必死に考えを巡らせても、何も出てこない。

  当たれば即死は確実。そう思わせる暴風が、霊夢たちを呑み込もうとしたその時、

 

「ハァァァアッ!! 【桜花八重結界】ッ!!」

 

  どこからともなく、桃色の一筋の光が目に映った。

  それは霊夢たちの前に立ちはだかると、包み込むように巨大な八重の花弁の結界を出現させた。

 

「楼夢!? どうしてここに?」

「話は、後で……っ今は、逃げろ……っ!」

 

  ——【桜花八重結界】

  それは、楼夢が扱う中で最高クラスの結界。

  本気を出せば剛の【雷神拳】を防ぐことも可能だろう。

  しかし、それは以前の力があってこそだ。

  今の体では基本スペックが落ちており、結界自体の出力も弱まっている。たかが使い魔のブレスすら弾けないほどに。

 

  徐々に、八重の花弁にヒビが入り始めた。

  おそらく、そう長くは持たないだろう。数にして約十秒ってとこだ。

  そして霊夢たちが無事にブレスの射程圏内から脱出した——と同時に、結界が砕け散り閃光が楼夢を覆い尽くした。

 

  灼熱の暴風。

  それが通り過ぎた跡は酷いものだった。

  遥か彼方の地面には大きなクレーターができている。

  着弾地点にあった砂が触れた途端に蒸発して消えたことで、あそこには深さ数十メートルほどの穴が空いているのだ。

 

  その暴風を食らっても、楼夢は立っていた。

  彼女の服はボロボロに焼き焦げ、ところどころの部分が露出してしまっている。

  肌も同じ。雪のように真っ白かった肌には、酷い火傷の跡が深く刻まれていた。

 

  側から見ればボロ雑巾。

  しかし、その目だけは輝きを失ってはいない。

  ラピスラズリのように光る瞳は、爛々と輝いて火神を睨みつけていた。

 

「……【天地——」

「ッ!? しまっ……!」

 

  雷が、神理刀に宿る。

  それと同時に刃が青白い光に包まれ巨大化し、雷の大剣が誕生した。

  それを上段に構えながら、全力で疾走し火神との距離を詰める。

  その速度は驚異のマッハ3にまで及んだ。

  弱体化していた楼夢を侮っていた火神は反応が一瞬遅れ、気がつけば視界からやや上にに楼夢の姿があった。

 

「——雷鳴斬】……ッ!!」

 

  青の稲妻が天より落ちる。

  それより適した表現はないだろう。

 

  上段から真っ直ぐに振り下ろされた青き雷剣は、火神の左腕に落とされた。

  ギャリッという金属音が一瞬鳴ったが、関係ない。障害などなかったかのように、刃は火神の左腕を両断し、その勢いのまま砂漠の大地を地平線の彼方まで真っ二つに切り裂いた。

 

「ぐっ……ッ! 俺の魔法防壁が紙同然とか、相変わらず化け物じゃねぇか……ッ!」

「……っ」

 

  火神の言葉に返事はなかった。

  まるで全てを出し尽くしたかのように、突如楼夢は脱力し、砂漠の海へと落ちていく。

  元々ルーミアとの弾幕ごっこでボロボロだったのだ。体中は穴を空けられ、凄まじい痛みが襲っているはずなのにも関わらず今度はもっと危険な戦場に飛び込んでいる。

  それは楼夢の本能による行動だろう。

  彼女、いや彼は大切なもの、気に入ったものを決して手放さない。

 

  一方、暴風を無事抜けることができた霊夢は、墜落していくその小さな体を一瞥すると、火神へ視線を向ける。

  決して冷静なわけじゃない。

  手のひらから血が滲むほど強くお祓い棒を握りしめていることから、霊夢の感情が表されていた。

 

「……今までのは反則スレスレと判断していたけど、今のはどうやっても誤魔化せないわ。それについてはどうするのかしら?」

「……へっ、冷静だなぁ博麗の巫女。そして言い訳させてもらえるとしたら、楼夢の飛び入りの加入、あれは立派な反則行為だよなぁ?」

 

  火神は両断された左腕の肩を片方の手で押さえている。顔から流れる汗から、決して痛みがないわけではないのは明白だが、それを表に出さないのはさすがとしか言いようがない。

 

  そして火神が言ったことは的を得ていた。

  多対一の変則弾幕ごっこにおいて、途中から部外者が参加するのは両者の納得が必要だ。

  そして先ほどの楼夢は火神と言葉を交わすことなく彼の左腕を両断してしまっている。

  おまけに、両断した攻撃はルーミアの時とは違って完全な刀による物理攻撃だ。

  これらのことから、霊夢たちは二つの反則を同時に被ってしまったことになる。

 

  もちろん、楼夢が助けていなかったら霊夢たちは今はいないだろう。そこは二人とも感謝をしている。

  だが、博麗の巫女が反則を行ってしまったということには変わりない。

 

「はぁ……」

 

  深いため息をついてしまう。

  本当に、今回の異変は面倒くさい。

  頼りになる親友は脱落してしまい、よりによって残っているのは前回敵として戦った吸血鬼だ。

  しかし、あれだけの実力差を見せつけられてもなお、レミリアの戦意は失われてはいない。

  ならば、まだ勝機はあるはずだ。幸い相手は残機スペカともに一つ、何かが一回当たれば勝てるのだから。

  だから、まずはこの反則のペナルティをどうにかしなければ。

 

「……わかったわよ。私たちの反則を帳消しにする代わりに、そちらの反則も見逃してあげる。反則なんてなかった。いいわね?」

「さすがだ博麗の巫女。俺が要求したことをストライクに当ててきやがった」

 

  「これでまだ戦える」という声を漏らしながら、火神は後ろに大きく下がって距離を作る。

  そして左肩を抑えていた右手を前に突き出す。

 

「さーて、フィナーレだ! ここまで楽しませてくれた礼に、本気でやらせてもらうぜ! ……来やがれ、ルーミア!」

 

  黒い魔法陣が、突き出した右手の先を中心に描かれる。

  そこから黒い粘液状の闇が流れ出し、その中から黄金の髪が姿を現わす。

 

「……ふふっ、ようやく出番かしら?」

 

  常闇の女王、ルーミアは不敵な笑みを浮かべて、霊夢たちを笑うのであった。

 

 

 






「最近更新速度が若干遅い気が……。現実でゲロ吐いて疲れている今日この頃、作者です」

「もうすぐで今期アニメが終わっちまうなぁ。夏のアニメにも大期待、狂夢だ」


「さてさて、今回は結構危ないことが起きてましたね」

「その被害者に楼夢がいる件について。というか耐久G、対神秘力Dの楼夢(弱体化)がよくあんなブレスに耐えれたな」

「そこはまあ楼夢さんの保有スキル『くじけぬ心』のおかげですね。なんとこれ、四肢がグチャグチャになろうが戦闘続行にさせる効果があるんですよね。本来耐久が紙装甲の楼夢さんがよく攻撃くらっても戦闘続行できる理由はこれです」

「これでこの小説最大級の謎が解けたな」

「というわけで、以前紹介したステータスをいつか纏めようと思うので、ご期待ください。それではお気に入り登録&高評価お願いしまーす!」

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