東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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ハロウィンラッシュ異変後の宴会

 

 

「……んっ、ぐ……」

 

  まどろみの中、意識が取り戻されていく。

  まるで暗い世界から光の世界に一気に引っ張られたような。

  先ほどまで闇に落ちていた自分には眩しすぎる光が、霊夢の目蓋の隙間から飛び込んできた。

 

「……ここは……?」

 

  未だはっきりとしない意識のまま起き上がり、周りを見渡す。

  ……見覚えのある空間だ。いや、当たり前か。なにせ自分の部屋なのだから。

  ふと視線を下に向ければ、そこには敷かれた布団が。

  どうやら自分は、あの戦いで意識を失った後、誰かにここまで送ってもらったらしい。

 

  温もりがまだ残る布団から抜け出し、体の様子を確かめる。

  服はいつもの紅白の巫女服ではなく、白い寝巻きを着ている。勝手に服を脱がされていたことに少し羞恥を覚えるが、まあいいだろうと表情には出さずに落ち着いた。

  霊力は全快とは言えないものの、八割ほど回復している。

  このことから、自分は一日以上寝込んでいたのだということ察した。

 

「……とりあえず、出るか」

 

  光が漏れる障子に手をかけ、横へと移動させる。

  途端に部屋へと流れ込む日の光。

  目を半目にしながら縁側を歩いていくと、桃色の髪を持った美しい少女が座って茶を飲んでいるのが見えた。

  体中火傷だらけだったはずなのに傷はもうなく、雪のように白い肌が衣服の間などから見える。

 

「……あんた、何人んちの茶を勝手に使ってるのよ」

「あっ、霊夢起きたんだ。ちょうどいいや、作ったばっかだから貴方も飲む?」

 

  まるで自分の家のように馴染んでいる楼夢に呆れた声で話しかけても、彼女はマイペースに笑顔のままだった。

 

「……茶碗がないわよ?」

「問題ナッシング! 私のを使えばいいよ」

 

  そう言って楼夢は博麗のにも似た、黒い巫女服の袖に手を突っ込んで高級そうな茶碗を取り出す。

  ……あの袖は本当にどうなってるのやら。亜空間につながっているのは確かだが、そんな超高等技術を目の前の中級妖怪が持っているとはとても……。

 

  その時、霊夢は思い出す。

  火神との弾幕ごっこの時、自分の身を犠牲にして霊夢を守ってくれたのが彼女だということに。

  そればかりか、最後のスペカで闇を晴らした月も、楼夢が作ったものだという。

 

「……助けられてばっかね、私」

 

  不意に、自然と口からそんな言葉が漏れた。

  それを聞いてか聞かなかったか、楼夢は茶碗にお茶を注ぐと、縁側に座り込んだ霊夢にそれを差し出した。

 

  何も言わずに受け取り、それを口に運ぶ。

  ……美味い。まるで体の芯からジーンと暖まってくるようだ。

  心なしか霊夢の表情が緩んだのを見て、楼夢は語り出す。

 

「……いいんだよ、そんなことは。霊夢が死んだらここ数百年分の娯楽を一気に失いそうだったからね。故に私が霊夢を守るのは当然のことだよ」

「妖怪に助けられるのがそもそもの間違いなのだけれどね」

「でも嫌いじゃないでしょ? 役割とか以前に、霊夢は妖怪を面倒くさいと思ってても憎いと思ったことはないはずだよ」

「……なぜそうだと言えるのかしら?」

「誰だってわかるよ。じゃなきゃスペルカードルールなんてもの作らないもん」

「……」

 

  黙り込んだ霊夢を見て、図星だね、と楼夢は微笑む。

  その妙に悟り切った表情を見て、霊夢は複雑な感情を抱いた。

 

「……体は子供のくせに、妙に精神が成熟してるせいでちょっと不気味に感じるわ」

「それが妖怪ってやつだよ。現に私は霊夢よりずーーっと年上だしね」

「それじゃ何歳なのよ?」

「それは秘密」

 

  口に人差し指を当てて楼夢はそう答えた。

  ——うわぁ、面倒くさい。だから妖怪は嫌いなのよ。

  思わずその済まし切った顔にお祓い棒を叩き込んでやりたくなったが、我慢我慢。そんなことをすれば、さらに彼女の思うがままだ。

 

「……まあ何歳でもいいわ。とりあえず、今回の異変を手助けしてくれたことには感謝するわ」

「そりゃ良かった。……ああそうそう、霊夢に伝えることがあったんだった」

「……何よ?」

 

  楼夢が綺麗な笑みを浮かべる。

  だが、この妖怪が大抵こうやって意味もなく微笑んだ時はロクなことが起こらない。

  そしてそれは見事に的中した。

 

「——今日の夜、宴会開くから準備よろしくね?」

 

 

  ♦︎

 

 

  夜。宴会の始まり。

  今回の宴会は、霊夢が起きた日に行ったことから、以前の紅霧異変よりかは小規模なものになっていた。

  もちろん、私も困った孫を手助けしてたのだけれど、やっぱ一日じゃあまり大きなものにできなかったらしい。

  こりゃ間に合わんと思って、ダメ元でレミリアのとこに交渉に行ってみたら意外と協力的だったのが救いかな。

  なんと、酒以外の全ての料理を担当してくれるとか。

  さっすが紅魔館。金に困った時の紅魔館だね! ……私が金に困ることなんてないと思うけど。

 

  そして、宴会が始まる。

  今回の参加者は紅魔館勢全員と、妖精が数人、それと私と魔理沙、霊夢。そして火神とルーミアだ。

  それにしても、美鈴とパチュリーが来るのは意外だったな。美鈴は門番の仕事があるはずだし、パチュリーは通常外に出たがらない。

  果たしてどんな意図があってここに来たのやら。

 

  ……まあいっか。

  【奈落落とし】を【鬼神瓢】に入れて酒のレベルを上げたものを、グイッと口に入れる。

  今日は宴だ。他人を勘ぐるような無粋な真似は良くない。

  とりあえずは旧知の友に会いに行ってくるか。

 

  彼らはすぐに見つかった。

  まあ、神社の縁側に二人ポツンと座ってたら目立つなわそりゃ。

  二人とも異変時の怪我はもう治っており、火神に至っては新しい左腕が生えてたりする。

  ……うむ、妖怪ってすごいな。

 

「ちゃーす火神とルーミア。宴会は楽しんでる?」

「楽しむも何も、ただ酒を飲むだけじゃねぇか」

「あれだけ派手に動いたからかしらね。今のところ、誰も私たちに接触しようとは思ってないみたいよ?」

「しょうがないねぇ。ここは親友が話し相手になってやろう」

「誰が親友だ誰が」

 

  そう言いつつもルーミアの闇の中から盃を取り出す火神とルーミア。

  微笑みながら、私は瓢箪内の酒を火神の盃だけに注いだ。

 

「……おいピンクアホ毛頭」

「どうしたの変態犬?」

「なぜ私の盃には酒を入れないのかしら?」

「あらやだ、仮にも最強と謳われた伝説の大妖怪でもある私が目下の奴隷如きに注ぐわけないじゃないですかぁ?」

「……ぶっ殺す」

「その時は娘たちを動かすから大丈夫」

 

  さすがのルーミアも娘たち三人が相手じゃ分が悪い。

  そのことを知ってるからか、ルーミアは「ちっ」と吐き捨てると自前の酒を盃に注いだ。

 

「それにしても、まさか火神が負けるとはねぇ……」

「テメェも負けただろうが。……でもまあ一対一だったら勝てただとか、そういった文句は言わねえよ。あいつらが強かった、ただそれだけだ」

「ふふっ、もしここで言い訳でもしたら思わず首を切っちゃうところだったよ。よかったよかった」

「その時はその時だ。逆にぶっ殺してやるよ。……それで、いつまでコソコソと覗きをしてるつもりだ?」

 

  私と火神、そしてルーミアはある一点を睨みつける。

  するとそこから空間が割れ、金髪の髪を揺らしながら紫が出てきた。

  彼女は立派な淑女のような笑みを浮かべると、

 

「……あらあら、バレてましたか。相変わらず恐ろしいことで」

「紫、そんな猫被らなくていいよ? 私たちは全員、貴方の性格は知ってるから」

「ちょ、ちょっと! 猫被ってるとか言わないでよ楼夢! 恥ずかしいじゃない!」

 

  はい、カリスマブレイク入りましたー。

  いくら妖怪の賢者らしく振る舞おうとしても、所詮は身長165に届かない少女。体の幼さに引っ張られるように、精神年齢はそこまで高くはないのだ。

 

「あら、覗き見なんてやぁねぇ。これだからオバサンは」

「あらあらそちらこそ、目上の人物に対して無礼なことをするなんて、恥さらしなオバサンねぇ」

「……やるのかしら?」

「……ええ、受けて立つわ」

「二人とも落ち着きなさいっての」

 

  もはや頭に血が上ってしまっている二人をそれぞれ袖から取り出したハリセンで引っ叩く。

  とまあこのように、紫とあまり大差ない身長、大差ない年齢のルーミアは自然と精神年齢が同程度らしく、出会うたびにこうやってメンチを切り合っている。

 

  というかお前らがオバサンだったら私たちはどうなるんだってばよ。

  確かに、彼女たちは数千年は生きているだろう。しかし私たちにとっては『たかが数千年』だ。

  こちとら六億越えのおじさんだぜ? 桁が五個ほど違うっつーの。

 

「相変わらず苦労してそうだねぇ」

「……ええ、全くです」

 

  紫に続いてスキマから出てきた藍に労いの言葉をかける。

  とはいえ、藍は藍で、隠そうとしているのかは知らないけど、チラチラと火神を凝視していた。

  もちろんそんな視線に気づかないはずもなく、気だるそうな顔で顎を上に上げながら火神は藍に声をかけた。

 

「……何の用だ? めんどくせぇから単刀直入で言え」

「……私のことを覚えていないのだな」

「あ? 覚えてないも何も、初対面じゃねぇか。たとえお前が俺を知っていようが、俺が覚えてなければそれは初対面だ。わかったか?」

「……っ」

 

  むちゃくちゃ理論だね。

  というか顔見知りだったんだ二人って。……いや、今さっき否定されたばっかか。

  とはいえ、それで通せるのが私たちだ。厳しいけど、この場合火神の頭に残るほどの印象を与えれなかった藍が悪い。

  もちろんそんな理論本人が納得できるはずもなく、無言ではいるものの、徐々にその怒りのボルテージは上がっていってるように感じられる。

  それに気づいたのであろう紫が、横から補足するような形で言葉を挟んだ。

 

「ほら、安倍晴明って覚えているかしら? 確か天皇の依頼で彼と共闘した時に会ってるはずよ」

「ああ、晴明か。あいつは中々面白いやつだったな。人間にしとくのが惜しかったぐらいだ」

 

  いやちげえよ。

  何藍じゃなくて安倍晴明のこと思い出してるんだよ。

  ……まあこれの性格上、本当に藍のことを忘れてる可能性の方が高い。

  まあ安倍晴明のことを覚えている理由は、多分実力じゃなくてその人間性が面白かっただけだろうから無理はないのか。

 

「ちなみに安倍晴明なら、その後初代白咲の巫女と結婚して生涯を終えたよ。墓ならあるけど、お参りに行ってくる?」

「別に……いや、やっぱ行っておこう。あいつには都に来たばっかのころ世話になったからな。せめてもの礼だ」

 

  ふむ……なんだか湿っぽくなっちゃったな。

  まあでも全員が沈黙してるからちょうどいいか。

  私は話を切り替えるように、紫の方に顔を向け、口を開いた。

 

「それで紫。わざわざ認識阻害の結界を張ってまでここに来て、何の用かな?」

「今回の異変で問題になってることについて、ちょっと話しておこうかと思って」

 

  異変か……正直ルーミア、火神とのボスラッシュの印象が強いんだけど、一応はお菓子が盗まれる異変だったんだよね?

  それに、私は白咲神社と紅魔館にルーミアの眷属が押し寄せて来たぐらいしか知らない。

  えっ、神社は無事だったかって? いやいや、大妖怪最上位が三人もいるんだよ? たとえ千が万に変わったところで殲滅してただろうね。

 

「今回眷属が送られた場所は紅魔館、白咲神社、妖怪の山、人里、魔法の森、そしてどうやって位置を特定したかは知らないけど私の屋敷にも来たわ」

「ん? じゃあ紫も何か盗られたの?」

「まさか。屋敷全体を結界で覆って、内側から一方的に攻撃して殲滅したわよ。むしろあれだけの戦力がいながら侵入を許した紅魔館がおかしいわよ」

「いやいや、紅魔館全体を結界で覆うなんて彼女らじゃ無理でしょ。あの時でそれができそうなのは霊夢だけだったし、彼女が主犯叩く前に疲労してちゃ問題だったからね」

 

  実際あの判断は正しかったと思われる。

  ちなみに紅魔館の防衛戦に参加したらお菓子をたらふく食べさせてくれるという約束だったけど、霊夢は気絶してたため残念ながら不参加となっていた。

  でもでも、それを見越して私がいくつか霊夢用にもらってたのを届けたら両腕がブンブン振り回されるほど感謝された。

  ふふ、これで孫からの好感度アップだね! 計画通りに。

 

「それで、一番被害が出たのはどこなんだぁ?」

「妖怪の山よ。それにしても、五万越えの眷属送るなんてやりすぎじゃないかしら? 場合によっては宣戦布告と間違われても仕方ないわよ?」

「妖怪の山の天狗は数が多いからな。それを考えた上でのあの数だったんだが、天狗も随分と弱体化したもんだ」

「火神が直接作った眷属は私のより若干強化されてるし、それが原因だと思うわよ?」

「……」

 

  すっかり忘れてたという顔をする火神。

  その後誤差だ誤差と言って開き直ってしまうのが恐ろしい。まあ、そんぐらいメンタル強くなきゃ伝説の大妖怪なんてやってられないか。

  さらに詳しく事情を聞いてみたところ、妖怪の山はコテンパンにやられたようだ。

  幸い死者は奇跡的に二桁に届かない程度しか出てないらしいけど、建物なんかは結構壊されたみたいだ。

  心の中で今ごろ仕事に追われまくってる天魔を思い浮かべると、静かに彼女に向かって合掌する。

 

「それで、話はそれで終わり?」

「いいえ、最後に今後の行動方針を聞きたいのだけれど」

「あ? んなもんねぇよ。好きな時に遊んで好きな時に寝る。それだけだ」

「うわぁ、ニートぽい」

「ガチの職なしで養われてるお前に言われたかねぇよ!」

 

  むっ、失礼な……。

  私だってゲームして漫画読んで甘いもの食べて……あれ? 本当に私ってニート?

  い、いやいや。仮にもほら私縁結びの神ですし。ちゃんと働いていますし。

  でもあれって参拝客が山の麓の拝殿にある賽銭箱に賽銭を入れると、それがトリガーとなって恋愛運を一割程度押し上げる術式が発動する仕組みになってるんだよね。

  もちろん神力がなければ発動しないんだけど、そんなもん定期的に拝殿に充電するような感じで溜めとけばいいしね。

  ほら、よく考えたら私ってニートじゃない。

  たとえ一ヶ月に十分程度しか動かなくても、一応働いてはいるんだ!

 

「——というわけで、私はニートじゃない!」

「あー、はいはい。つーかあのスキマ妖怪帰っちまったぞ?」

「長過ぎて退屈なのよ。暇すぎてあくびが出ちゃうわ」

「酷いよみんな!」

 

  紫が帰ってったから認識阻害の結界も消えているというのに、酒が入っているせいか大声で騒いでしまった。

  当然少女の大声が聞こえればそれは気になるわけで、周りは一瞬私たちに目を向ける。が、状況がある程度わかったのかすぐさま外した。

 

  そんな中、私たちの方に向かって歩いてくる足音が三つあった。

  ふむ……気配からしてこれは彼女らのだね。

  私は刺激を与えないため、笑顔で彼女らを迎え入れる。

 

「ふふ、よく来たねフラン。それにお久しぶり、チルノと大ちゃんも」

 






「今回は恒例の宴会編ですね。最近宴会編のサブタイトルに困ってる作者です」

「イナズマイレブンの新アニメにどっぷりハマってる狂夢だ」


「いやー、火神さん主催の異変も無事終わりましたね」

「というわけで今回の異変、火神たちの敗因を探っていこうぜ!」

「いやいや、敗因って……あんなのほぼ運で負けたようなものだし、決定的なものは……あっ」

「ん、なんか見つかったか?」

「いえその……以前書いた二人のステータス表の保有スキルに【強者の余裕:G】ってのがあったのを思い出しまして……」

「……名前の響きからなんか察せたわ」

「これ、実は相手が自分より劣る時、無意識に油断しやすくなるというものでして……」

「そこを突かれたからあいつらは負けたってことか。……ブフッ、ここまで情けない理由だったとはな!」

「……あの、一応言いにくいことなんですが……」

「あ? なんだ?」

「狂夢さんも【強者の余裕:G】持ってますよ?」

「……」

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