東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:アンニュイな千鳥足
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訪れぬ春

 

 

  突然だが、みんなは春と聞いたら何を思い浮かべるだろうか?

  暖かい風、満開の桜、団子や宴会。

  大体の人はこれらを思う浮かべることだろう。実際彼女も毎年博麗神社で行われる花見を楽しみにしてたし、そのためにも冬の間から霊夢といっしょに酒を飲むための計画を立てたりもしていた。

 

  ——が、しかし。そんな計画はもはやなんの役にも立たなくなった。

 

 

  ♦︎

 

 

「……くしゅんっ!」

 

  寒さに当てられ、ベランダでティータイムを楽しんでいた紅魔館当主——レミリア・スカーレットは、幼い容姿に似合った可愛らしいくしゃみをする。

  それを見てレミリアの隣に立っている従者の咲夜が微笑んでいるのを感じ、彼女は恥ずかしさのため、顔を赤くしながらソッポを向く。そしてそれを誤魔化すため、咲夜に紅茶のおかわりを要求した。

 

「……咲夜、紅茶を」

「しかし、カップ内にはまだ入っているようですが……」

「……う、うるさいわね! おかわりと言ったらおかわりよ! いい!?」

「かしこまりました、お嬢様」

 

  そんな子供らしい理由で騒ぐからいつまで経っても子供扱いされるのに、と内心思いながら咲夜はテーブルに置かれたカップに紅茶を注ぐ。元々半分程度は残っていたため、カップ内はすぐに満タンになった。

 

  息を二、三度吹きかけて紅茶を冷ましてから、レミリアはそれを飲んだ。相変わらずの味に満足しながら、ふと庭を見渡した。

  そこには笑い合いながら雪玉を投げつけ合う子供たちの姿が五つ。その中に最愛の妹が混ざっているのを見ると、嬉しさ半面、フランが離れていって寂しいような気持ちになる。

  思い出すのは、子供たちの群れに混じって遊んでいる桃髪の少女の言葉。

 

『知ってるわけねえだろうがっ! フランとまともに会話しようともしなかったやつに!』

 

  (……ああ、その通りだ。私はフランを何も知らなかった)

 

  あいつに言われて、フランと真正面から接してから、初めて知ることが山ほどあった。フランの好物、趣味、嫌いなもの……例を挙げればそれこそ無限に出てきてしまう。

  愚かな姉だ。武士の情けで今でもフランはレミリアを『お姉様』と呼んでいるが、本当に彼女が慕っているのは楼夢だということは明白だ。

  あれだけのことをしたのに、未だに楼夢に強い嫉妬を覚えるなんて、どれだけ情けないことか。

 

  だが、おそらくこれでいいのだろう。

  フランの笑顔が見れれば、それでいい。

  そう思うと、燃え上がった楼夢への嫉妬心が一時的に和らいだ気がした。

 

「お嬢様は雪合戦に加わったりはしないのですか?」

「あのね咲夜……背丈がいっしょだからって、私からしたらあの子らはまだまだ年下よ。年長者の出る幕ではないわ。それに……」

「それに?」

「……あいつがいるしね。言っちゃ悪いけどあれだけには私は友好的に接せる自信がないわ」

 

  レミリアが向けた視線の先には、白黒の洋服を着た金髪の少女——ルーミアの姿があった。

  もちろん正体がバレないように体は小さくなっているし、喋り方も子供っぽい。しかし本来の姿をその目で見ているレミリアにとって彼女はあまり関わりたくない部類の知り合いであった。

 

  ちなみに紅魔館でルーミアの正体について知っているのはレミリア自身を除いて咲夜と美鈴だけだ。咲夜にはフランに何かあったらの対策で話しておいたのだが、美鈴の方は過去に一度だけ本来のルーミアを見たことがあるらしいので、名前を聞いた瞬間パッと思い浮かんだらしい。

 

「あれ、でも確かチルノも大妖精も千年は生きてるって聞いたような……」

「……もしかして私ってあの中じゃ二番目に年下なの?」

 

  レミリアは500歳、フランは495歳。

  しかしチルノも大妖精が千歳以上だとしたら……。

  楼夢は言動や実力からして明らかにレミリアより年上だし、ルーミアの場合は言わずもがなだ。

  気づきたくなかった真実を知ってしまった。

 

  なんとなく気まずくなってしまったので話題を転換しようとしたその時、寒い風がレミリアを凍てつかせるように吹いてきた。

 

「……っ、寒い……! なんで春なのに桜の一つも咲いていないのよ!?」

「確かにこれはおかしいですね。……もしかして、異変だったりするのでしょうか」

「それだ!」

「……へっ?」

 

  独り言のつもりで呟いた言葉を聞いて、レミリアがビシッと人差し指を咲夜に向ける。突然のことで普段は冷静な彼女も間抜けな声を出してしまった。

 

  咲夜が固まっている間に、レミリアは話を続ける。

 

「だ、か、ら! 今この冬が長引いてるのはどこかの誰かの仕業に違いないってことよ!」

「はぁ……」

「そろそろ紅魔館の燃料も切れそうだしちょうどいいわ。咲夜、命令よ。今回の異変を見事解決してきなさい」

 

  無茶苦茶な要求だ。

  そもそも手がかりなんて何一つありもしない。博麗の巫女が動いていないことから、もしかしたらこれは異変じゃないのかもしれないと思う。

  しかし、主人の命は絶対だ。

  咲夜は家臣の礼を取ると、

 

「かしこまりました、お嬢様」

 

  と、いつも通りに承諾した。

  よくよく考えてみたら、レミリアの言うことも一理ある。燃料が切れたら寒さをしのぐことも難しくなるし、これが異変だった場合、もし解決すれば紅魔館の名も上がるのではないか?

  そう考えた咲夜は戦闘に備えるため、ベランダを後にしようとする。しかしその前に、レミリアの言葉が咲夜を呼び止めた。

 

「あ、そうそう。ついでにパチェが新しいマジックアイテムを作ったらしいわよ。後で図書館に取りに行くといいわ」

「新しいマジックアイテム……ですか?」

「ええ。弾幕ごっこできっとあなたの役に立ってくれるわよ」

 

  どうやらレミリアはそのマジックアイテムがどのようなものか知っているらしいが、咲夜にそれを教えることはなかった。その方が面白いと判断したのか、はたまた気まぐれか……。

 

  そして咲夜は地下にたどり着き、図書館の扉を開く。

  薄暗くてカビ臭い中に若干顔をしかめながらも、奥の椅子で本を読む少女の姿を見つけ、すぐさま声をかけた。

 

「すいませんパチュリー様。お嬢様がおっしゃっていたマジックアイテムを受け取りに来たのですが……」

「……ああ、あれね。待ってて、すぐに小悪魔に取りに行かせるわ」

 

  パチュリーは使い魔である小悪魔通称コアに命令すると、数分後に彼女は二つの球体を抱えてこちらに戻ってきた。

 

「これが……マジックアイテム?」

「ええそうです。これぞパチュリー様の最新作『マジカル☆さくやちゃんスター』です!」

「……ごめんなさい、今なんて?」

「これが『マジカル☆さくやちゃんスター』です!」

「……わかったわ。よっぽど私のナイフを味わいたいようね」

「まま、待ってください! 冗談じゃなくて本当にお嬢様がこう名付けたんですって!」

 

  お嬢様が名付けた、という言葉に咲夜は若干怯む。

  ……確かに、お嬢様ならこんな名前つけそうだ、と不覚にも思ってしまった。念のためパチュリーをチラ見したが、彼女は咲夜の視線に気づくとため息を一つ。これだけで、本当なのだとわかってしまった。

 

  それにしても……。

  咲夜は小悪魔から受け取った『マジカル☆さくやちゃんスター』——言いにくいので以後ボールと通称する——をまじまじと見つめる。

  だいたい人の胴体ほどはある大きさの青いボールが二つ。中心には名前が示す通り星が描かれており、テレビなどでよく見る魔法少女が持ってそうだなと思った。

  一応性能はすごいらしく、ここから自動的にナイフ型弾幕を連射できると説明された。

  しかし、流石にこの名前はないだろう……。魔理沙や天狗のブン屋なんかに知られたら恥ずかしさで首を絞めそうな自信がある。

 

  しかし、いつまでもここで名前について抗議している暇はない。そもそも知られなければいい問題の話だ。

  そう無理やり意識を切り替えると、咲夜は図書館を出て異変解決に向かうのであった。

 

 

  ♦︎

 

 

  春なのに未だ白銀の世界が私の視界に映る中、いくつもの雪玉が辺りに飛び交う。

 

「あはは! チルノったら雪が当たって顔が真っ赤だよ!」

「むむむ、フランめもう許さないからな! これでもくらえ!」

 

  ただ今私、絶賛雪合戦中です。

  メンバーは私にフランにチルノ、大ちゃん、そしてルーミアだ。

  ルールは弾幕ごっこのを応用して残機三つまでと決めていたんだけど、今残っているのはフランとチルノだけだ。他は全部当てられてしまった。

  え、なにしれっと負けてるんだって? いやだってルーミアとのガチ戦をしてたら横から例の二人に不意を突かれて当てられちゃったんだもん。

 

  あ、言ってるそばからチルノが能力使って雪玉を増産しまくってる。あれ軽く三十個はあるんじゃないか?

  当然そんだけの雪玉が雨あられのごとく振り注げば、フランに逃れる術はない。

  吸血鬼の身体能力で途中までは避けてたんだけど、最終的に積もってる雪に足を滑らせたところを集中砲火されて終わった。

 

「あたいったら最強ね!」

 

  チルノが胸を張って少女らしい可愛いドヤ顔で決めセリフを言った。

  はぁ〜、やっぱ冬は可愛いものを見てこそ、心が温まるもんだよ。

 

  その後しばらくはまた雪合戦をして遊んでたのだが、フランや大ちゃんが寒そうにしてきたという理由で今日は解散、ということになった。

  バイバーイとチルノが手を振りながら紅魔館の壁を飛んで超えて行く。一つ遅れて大ちゃんは可愛らしくお辞儀をすると、急いでチルノの方へ飛んで行った。

  ルーミアは……いつのまにか消えちゃってるし。まあいいか。

 

「さて、それじゃあ私もそろそろ行くね」

「うん。お姉さんもまた今度遊びに来てね!」

「わかったよ。じゃあまた今度……おやっ?」

 

  フランの頭を撫でながら別れの挨拶を言おうとしたその時、屋敷の正面扉が開いて咲夜が歩いてくるのが見えた。

  首には暖かそうなマフラーをしており、防寒対策がきっちりとされている。ただ、メイド服はミニスカなので下だけ妙に寒そうだね。

  ただ、その周りには見たこともない球状の何かが二つ、ふわふわと浮いているのが気になった。

 

「ヤッホー咲夜、今からお出かけ?」

「違うわよ。ちょっとここのところ続く冬の原因を突き止めに行くためよ」

「……ふーん、それなら空から落ちてくる花弁を追いかけて見るといいかもね」

「……どういうことかしら?」

 

  私は巫女袖に手を突っ込んで、中からいくつかの桜の花弁を取り出した。

  実はこれ、紅魔館に行く途中に拾ったものなのだ。

  しかもこれ、ただの花弁ではない。

 

「これは春度と言ってね、まあ春を物体化したようなものだね。普段はこんなもの目に見えるようにしなくても春は来るのに、それをしているということは……」

「……誰かが春を物体化させて、それを奪っているっていうこと?」

「正解! さっすが咲夜だね」

 

  パチパチと手を叩き咲夜を賞賛する。同時に聞いてたフランは頭にクエスチョンマークを浮かべて小首を傾げていた。うん、可愛い。

 

「……なるほどね。情報提供、感謝するわ」

「いいよいいよ。その代わり、咲夜の周りを浮いてるボールについて知りたいな」

 

  正直あのボールはクーデレな咲夜とはギャップがあると思う。でも、そこがいい!

  咲夜は若干嫌そうな顔をなぜかしてたけど、さすがに一方的に情報をもらっておいて無下にはできないと判断したのか、懇切丁寧とはいかないまでも、大雑把に説明してくれた。

 

「これはパチュリー様が作ったマジックアイテムよ。ナイフ型の弾幕を自動で飛ばせるらしいわ」

「それにしても随分と可愛いデザインだね」

「……放っておいてちょうだい」

「レミリアだったら『マジカル☆さくやちゃんスター』とか名付けてそうだね」

「……」

 

  ふざけて適当な名前を言ってみたのだが、咲夜は硬直したままなんのリアクションもしなかった。

  ……へ? これってマジなの?

 

「もしかして図星だった」

「……お願いだから、誰にも言わないでちょうだい……。私のできる限りのことは何でもするから」

 

  え、今何でもって言ったよね? じゃあ早速お兄さんの性欲処理を……って、よく考えたら私、悲しいほど性欲ない体質だった。

  それにしても、普段クールな子が恥ずかしがりながら若干涙目になるのって可愛いねぇ。ぜひそのまま写真に収めちゃいたい。……いや、写真はこっそり狂夢に撮らせたけど。

 

  っと、あれこれ私が妄想に陥っていると、咲夜は逃げるようにどこかへ行ってしまった。

  仕方ないね。私も今日のところは帰ろうかな。

  それに、新しい暇つぶしも見つけたことだしね。

 

  フランに別れを告げて、私は紅魔館を出て白咲神社まで飛行して向かった。

  そういえば最近、うちの屋敷に迷惑なご近所さんができた。……言わずもがな、火神とルーミアである。

  まったく、森の奥に作ってあったから文句は言わないけど、山の所有者である私に一言通してほしいものだよ。

  まあそんなわけで、家が近くなったこともあり、火神とルーミアはよくうちに遊びにくる。多分今も私の屋敷でくつろいでいるだろう。

 

  とまあ近所話はこれまでにして。

  私は巫女袖から愛用の幻想郷内でも使えるように改造されたスマホを取り出す。そしてそれを操って目的の人物に電話をかけると、スマホを耳に当てた。

  飛行中なので若干聞こえにくくなる中、スマホから彼女の声が聞こえた。

 

『……お父さん、何か用ですか?』

「ヤッホー美夜。いや用ってほどじゃないんだけどね……」

 

  繋げたのが最愛の娘の一人、美夜だ。

  屋敷の中で火神たちが問題を起こしたのだろうか、その声は少し疲れているようにも感じられる。

  そしてそんな美夜に、私は爆弾を投擲した。

 

 

「ねえ、ちょっと異変解決に行ってくれない?」

 

 






「というわけで次回から美夜が仮想空間でイキリ始める美夜アートオンラインが始まります! お楽しみに……とくだらないジョークを話す作者です」

「全国のSAOファンに喧嘩売ってんじゃねぇよ! あとでなんか言われないか心配な狂夢だ」


「さてさて、とうとう妖々夢に入りましたねぇ」

「『マジカル☆さくやちゃんスター』って結局なんなんだろうな……。一応ストーリーとしては次の萃夢想じゃもうなくなってるし」

「まあ確かに気になりますね。上海アリス様にでも聞いてきますか?」

「いや結構だから! 下手したらこの小説消し飛ぶぞ!?」

「まあ冗談として……最近悩みができたんですよね」

「ん、なんだ?」

「作者はだいたいラノベ産のアニメを見るとき、一、二話を見て面白いと思ったら原作を買うわけですよ」

「まあ、原作読んでからアニメ見るってタイプだな。よくあるやつだ」

「実はそれのせいで金が底を尽きそうなんですよね……」

「バイトしろ! 必死に金稼げやこのポンコツ!」

「世の中は冷たいなぁ……」







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