東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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斬撃舞踏会

 

 

 

 

  先手必勝、と言わんばかりに咲夜は慣れた手つきでナイフを美夜に向けてばらまく。

 

  スペルカード三、残機二で始まった弾幕ごっこ。しかし実を言うと、美夜はあまり弾幕ごっこが得意ではなかった。

 

  向かってくるナイフ群を一太刀で全て切り裂き、お返しとばかりに左手を振るうと、唯一得意な雷を複数放った。

  驚異的な速さで迫るそれらに咲夜は一瞬目を見開く。しかしすぐに冷静になると、躱せないと判断して能力を使用した。

 

  美夜の目にはまるで咲夜が瞬間移動したかのように見えただろう。

  【時を操る程度の能力】。間違いなく弾幕ごっこにおいて最強の能力の一つであるそれは、霊夢の【空を飛ぶ程度の能力】ほどではないが中々彼女にとって相性が悪かった。

 

  ご存知の通り、美夜はあまり術式は得意ではない。通常弾幕の精度もそこまでだし、唯一得意な雷系のものは速いが数十も同時に放つことができないという弱点があった。

 

  普段の戦闘が究極の一撃を狙う点と点の戦いならば、弾幕ごっこは威力ではなく範囲を重視した面と面での戦いだ。そして刀一本しか持ち得ない美夜の攻撃の面は小さい。

  だが、そんな弱点を美夜がいつまでも放置しておくわけがない。

  そして彼女はこの時のために用意しておいた()()()()を咲夜へ思いっきり投げつけた。

 

  咲夜はそれを見たことがあった。いや、ここにいる全員が知っているだろう。

 

「お札……ですって……!?」

 

  とっさに体を横に捻って躱すも、それらはまるで意識を持ってるかのように軌道を変え彼女を追尾する。

  そして——爆風が巻き起こった。

 

「……っ!」

「……やれやれ、本当に厄介ですねその能力」

 

  しかし、その中に咲夜はいない。反射的に能力を使用し、爆風が当たる前に安全地帯まで移動したのだ。

  二度目ということもあり、美夜はさほど驚かなかった。そればかりかカードを一枚取り出すと、一秒のクールタイムで能力が使えない咲夜の隙を突いてそれを発動する。

 

「楼華閃六十【風乱(かざみだれ)】!」

 

  突如現れた突風の刃が、咲夜を包み込んだ。

  視界全てを覆い尽くす風で出来た壁に、咲夜はまるで台風の目の中にいるような錯覚を覚える。

  それと同時に、自分の能力の弱点がバレていることに顔を歪ませた。

 

  時を止める能力にも欠点はある。まず一つ、時止め中は自分が持っている物以外に干渉することができなかったり、発動後一秒のクールタイムを待たなければ使えないなど、上げればまだまだ出てくるだろう。

  狂夢の能力なら話も違うのだが、それは今は関係ないだろう。

  問題は、美夜が咲夜の能力の攻略法に気づいたからだ。

 

  自身を覆う風の壁。

  咲夜は時を止めることはできても、相手の攻撃を避ける場合は自分の体を通すスペースがなければ躱すことはできない。

  そして目の前の壁にはそれが見えない。つまり突風からの脱出は不可能ということ。

 

  しかし、これでは相手も攻撃できないのでは……?

  その予想は、得体の知れない気配を感じた咲夜が急に体を横捻りさせたことで裏切られることとなる。

 

「……くっ!」

 

  咲夜のメイド服を、突如鋭利な何かがかする(グレイズ)した。

  慌てて時を止めて状況を確認して—–驚きを浮かべる。

 

  咲夜の周りにはなんと、数十ほどの風の刃が包囲していたのだ。

  もしこのまま能力を発動させずにいたら、間違いなく被弾してただろう。この時ばかりは咲夜は自身の選択と神に感謝していた。

 

  だが、わかったところでどうなるかと聞かれれば、難しいものだ。

  やがて時を止められる時間のリミットが来たようで、咲夜の意思に反して色が抜かれた世界は崩れ去っていく。そして現実に戻るとともに、複数の風の刃が殺到した。

 

  この狭い空間内でこれらを全て避け切れるのは無理があるだろう。迎撃するにも、全方位から刃が迫っているので、必ずどこかで当たることとなる。

  通常なら明らかな詰みの状態。しかしそれを打ち砕く方法が一つだけある。

  咲夜はスペカを放り投げると、宣言。

 

「幻符【インディスクリミネイト】」

 

  咲夜の周りを浮いていた奇妙なボール—–マジカル☆さくやちゃんスターが光り輝く。そして次には、迫る風の刃の何倍もの数のナイフが咲夜を中心に無差別に放たれ、この竜巻空間ごと中にあるもの全てを切り裂いた。

 

  そして自分に向かってくる余った分のナイフを刀で弾きながら、美夜は驚愕する。

  これが、彼女の力か……。

  少々人間だからと、甘く見積もっていたかもしれない。

  ここからは手加減なしだ。膨大な妖力を妖刀に注ぎ込みながら、彼女はそう決心する。

 

  一方咲夜は自分を覆い隠していた突風から脱出するとともに不意を突くため、次なるスペカを宣言する。

 

「メイド秘技【殺人ドール】!」

 

  投擲されたナイフが美夜を襲う。そこまではこれまでと同じだ。

  奇妙な点は、ナイフの数が先ほどのスペカと比べて少ないということ。

  しかしそれは美夜の近くにまで到達した途端、マジックのように新たなナイフが現れ、急激に数を増やした。

 

「っ、やっぱり面倒な能力です、ねっ!」

「お褒めに預かり光栄。そういうことなら、最後の最後までお楽しみくださいな」

 

  美夜が迫り来るナイフを全て弾いたころには、咲夜はもう次のナイフ群を投擲していた。

  先ほどよりも初期の数が多い。本気でここで残機を一つ削る気なのだろう。

 

  しかし、美夜に焦りはなかった。

  深く白い息を吐き出した後、中段の構えから八相の構えへと移り変わると、小さく呟く。

 

  —–楼華閃八十四【鏡返し】。

 

  そして美夜は目にも留まらぬ連撃で迫り来る数十数百のナイフを弾く。そればかりではなく、全てを寸分違わず咲夜の元へ打ち返したのだ。

 

「……なっ!?」

 

  流石の咲夜もこれには驚愕した。

  もはや神業としか言いようがない曲芸。そんなものを見せつけられて、彼女の体は一瞬動きを止めてしまう。

  そこに打ち返されたナイフ群が殺到。それに気づいた咲夜は急いで時を止め、早々にそこから離脱した。

  だが時を動かした途端、不意に辺りが暗くなり、咲夜は上を見上げたた。そして驚愕することとなる。

 

「楼華閃七十二【雷炎刃】!」

 

  頭上にいたのは、炎と雷を纏った刃をまっすぐ振り下ろす美夜の姿だった。

  一瞬のことなので、能力はまだ使えない。咲夜はナイフを片手に持って、それを受け止めようとする。

 

  しかし、その強烈な一撃はナイフを一刀両断し—–—–爆発を巻き起こした。

 

「ごっ……かはっ!」

 

  それに直撃した咲夜は体を大きく吹き飛ばされる。しかしメイド服は所々が焼け焦げているが、切り傷はなかった。

  当たり前だろう。弾幕ごっこでは本来直接的な近接攻撃は禁止されている。美夜はそれを考慮した上で、切ったものを爆発させる【雷炎刃】を選んだのだから。

  いわば、咲夜の傷はナイフが近距離で爆発したことによる火傷ということになる。重傷ではないが、被弾は被弾ということで残機は一つ失われた。

 

  これで咲夜は残機スペカ両方残るは一となる。

  これを勝機と見て、美夜はスペカを投げると、それを大きく切り捨てた。

 

「楼華閃九十六【桃姫の桜吹雪】ッ!」

 

  スペカが両断されると、なんとそこを中心に無数の斬撃が桜吹雪のように咲夜へと殺到した。

  その範囲は【風乱】を余裕で超えている。九十番台の技にふさわしいものだった。

 

  咲夜は時を止めると、二枚のスペカを取り出す。

  一つは【夜霧の幻影殺人鬼】。投擲したナイフ群がレーザーと化して、敵に殺到する彼女が持つ中でも非常に強力なスペル。

  そしてもう一枚は遊び半分で作ったカードだ。通常ならほとんど役に立たないだろうし、作っておきながら使う機会はないだろうと確信していたもの。

  だが、今の状況なら……。

  咲夜は時が動き出す前に決断すると、それをしまい、残る一枚に全てを賭けた。

 

「速符【ルミネスリコシェ】!」

 

  霊力を込めたナイフを一つ、全力で投擲する。

  しかし、それだけだ。ただ凄まじく速いだけで、後に続くナイフ群すらない。

  だが、その認識はナイフが一枚の花弁—–斬撃と衝突した時に一変する。

 

  キイィン、という甲高い音が一つ響いた。

  そして花弁に当たったナイフは、なんと跳ね返ると同時にさらに加速したのだ。

 

  これには美夜も驚いた。

  そしてナイフは次々と花弁にぶつかっていき、そのたびに加速しながら軌道を変えて徐々に美夜に迫ってくる。

 

「マズイ……このままじゃ目に追えなくなる」

 

  美夜が放った桜吹雪の数は千にも及ぶ。しかし今だけはそれが仇となっていた。

  すでにナイフは数十回もの加速を果たしている。その速度はマッハ2。ブン屋の射命丸文の全速力をも超えたそれを目で追うのは、美夜でも中々難しかった。

 

  だったら、当たる前に潰す。

  【桃姫の桜吹雪】では一撃の威力が足りなくてナイフを止めることができない。ならば、その前に咲夜本人を倒そうと、美夜は桜吹雪を遠隔操作して槍のように伸ばした。

 

  だが、すっかり失念していたことがある。

  軽い音が、咲夜の指から鳴った。同時に世界は色を失う。

 

  動きが止まった桜吹雪をスラリとすり抜け、制限時間が来る前に出来るだけ前へ、前へ—–—–。

 

  そうして世界が色を取り戻した時、美夜は自分に二つの危機が迫っていることを察知した。

  一つは凄まじい速度で迫る一つのナイフ。その時の速さはマッハ5に達しており、幼体化した楼夢の全速力を超えていた。

  そしてもう一つは—–—–全体重を前にして飛び込み、ナイフを振りかぶる咲夜の姿があった。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁああッ!!!」

「くっ、うぉぉぉぉぉおおおッ!!」

 

  —–—–鮮血が飛び交った。

 

  それは咲夜の顔へとかかり、彼女の美しい顔へとかかる。

  そして咲夜は満足気に小さく笑うと—–—–惜しかった、と呟いた。

 

  そしてナイフを振りかぶったその腕は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……冷や冷やしましたよ。もし弾幕ごっこに近接攻撃がありで、あれを投擲しようと振りかぶるのではなく突き出していたら、私は負けていました」

「それは残念ね。でもプレゼントは一つだけ届いたようだからよかったわ」

 

  美夜は自然と、自分の腹部の中心を見下ろす。

  そこには【ルミネスリコシェ】のナイフが根元まで深く、突き刺さっていた。

 

「……さあ、早くしなさい。あいにくとこれから忙しいのよ」

「ええ、でもいい経験をさせてもらいました。—–—–それでは」

 

  咲夜の腕を拘束していた片方の手を外して、真上に突き上げる。そしてポタポタと血が滴るそれを、まっすぐ振り下ろす。

 

  そして咲夜の後ろから迫ってきた桜吹雪が—–—–彼女の体全てを呑み込んだ。

 

 

 






「はいはいどーも! サッカーワールドカップで日本がセルビアに同点になった直後に投稿しております作者です」

「結構いい試合だったな。みんなも暇があったら是非見てみよう! 狂夢だ」


「さてさて、今回は美夜と咲夜の弾幕ごっこでしたね。弾幕ごっこの描写書くの数週間ぶりなんでちょっと拙くなってしまいましたが」

「それにしてもよ、美夜術式使えない割に弾幕ごっこ強くないか? 咲夜だって紅魔郷の五面ボスなのにそれに勝つなんて偶然じゃ説明できない気がするんだが……」

「ああそれは美夜のスペカがほぼ全て初見殺しであるのが理由ですよ。【風乱】は分かっていたら準備できるし、【雷炎刃】に至っては弾幕ごっこじゃほぼ使えない技その一に確実に入りますからね」

「まあ一理あるが……それと咲夜の【ルミネスリコシェ】がなんでほとんど役に立たない技なんだ? ゲームだと結構役立ってるはずだろ?」

「そこはゲームとの差ですかね。もちろんこの世界に画面枠なんてものはありませんから、美夜の桜吹雪のように跳ね返るものがないと全く使えないですよ」

「……なんかスペカって一々そういうの考えるの大変なんだな」

「まあ様々な技を封印して毎回同じ技しか使わせないんだったらずっと楽なんですがね……それだと今度はバリエーションが減りますし」

「いかに弾幕ごっこの描写が面倒かわかる愚痴だな」

「普通の戦闘の方が結局は自由に書ける分楽なんですよ」

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