東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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黄泉の国へ侵入

 

 

  三対一で始まった弾幕ごっこ。

  結果はーー霊夢の圧勝だった。

 

「なんで、なんで当たらないのっ!?」

「これで終わりよ」

 

  残り一人となって白い服の少女ーーメルランは泣き喚きながら弾幕を乱射する。だがそれが霊夢に触れることはなかった。

  前進しながら、最低限の動きで弾幕を避け続ける。そして顔面にまで近づいたところでお札をメルランに押し当て、ゼロ距離で小規模の爆発を起こした。

 

 黒焦げになりながら落ちていくメルラン。他の姉妹たちはすでに地上まで墜落しているはずなので、敵はもういない。

  これで霊夢の勝利が決まった。

 

「ふん……肩慣らしにもならなかったわ」

 

  パンパンと服を叩き、汚れを落としながら彼女は言った。もっとも、弾幕にカスりすらしていないので汚れなど一つもないのだが。

 

  その圧倒的実力を見て、美夜は流石だと賞賛する。

  先ほど魔理沙の弾幕ごっこを見て非常に手慣れていると彼女は思ったが、霊夢の場合は慣れているという次元ではない。明らかに弾幕ごっこがなんたるかを極めているように感じた。

  なるほど、あれなら自分の父である楼夢が負けたのも頷ける。むしろ弾幕ごっこ素人があれほどの達人に善戦できたことを褒めるべきだ。

 

  ふと横を向けば咲夜も美夜と同じような顔をしていた。

  そういえば彼女は主人であるレミリア・スカーレットもろとも霊夢に負けていたはずだ。あの戦いぶりを見て、何か同じように感じるものがあったのだろう。

 

「ほら、そこの二人。ボサッとしてないで行くわよ」

 

  そう急かす声は頭上から聞こえた。どうやら相当深い思考に陥っていたらしい。

  すぐさま追いつき、美夜たちは結界が張られた門の上にある巨大な穴の前に立った。

 

「……改めて見てみると、奥が見えないぜ……」

「あら魔理沙、もしかしてビビってるの?」

「へっ、んなわけあるか。これは武者震いだぜ」

 

  そんな軽口を言い合う二人。

  自然と彼女らは笑みを浮かべていた。それがこの先に待つ強敵を楽しみにしているという意味なのかはわからない。

 

「さあ、乗り込むわよ!」

 

  霊夢の合図とともに、全員は暗い穴の中へと飛び込む。

  そして、冥界への侵入が始まった。

 

 

  ♦︎

 

 

「幽々子様、侵入者が現れたようです」

「……そう。じゃあせっかくで悪いけど、ここは黄泉の国。生者の人たちにはご退場してもらおうかしら」

「承知しました幽々子様。あとで切り捨てに行って参ります」

「……私は暗に追い返して、って言ったのだけれどね……」

 

  なぜこうも自分の従者は物事を極端に捉えてしまうのか、と少女ーー西行寺幽々子は思う。

  思えば前庭師の妖忌もそうだった。あれも真っ直ぐで融通の効かない性格だったが、まさか孫まで似なくてもいいのに。……いや、もしかしたら妖忌がいなくなった後の自分の教育のせいなのかもしれない。いやそもそも何も言わずに突然失踪した妖忌にも責任はあるのでは。

  そんな風にある意味どうでもいいことを目の前の従者ーー魂魄妖夢の報告を聞きながらも、考える。

  だが、ふと邪な妖力が高まるのを感じて、幽々子は視線を横へと向ける。

 

  そこには見上げるほどに巨大な一本の桜の大木があった。しかもただの大木ではない。

  それには、五つの炎の大剣と三つの氷の槍がそれぞれ突き刺さっていた。まるで木を縛り付けるかのように。

  そして幹の中心部分。そこには、見たこともないほどの美しい白と黒の双刀が深く突き刺さっていた。一度妖夢と協力して引き抜こうとしたが、それでもビクともしないほどに。

 

  いったい誰がここまで厳重な封印を施したのかはわからない。だが、それは幽々子には関係のないことだった。

 

「ふふ、楽しみだわぁ。あの桜の木の下に何が眠っているのか」

 

  幽々子の目的。それはこの大木ーー西行妖の下に眠っているであろう()()の封印を解くためだ。

  数ヶ月前、幽々子は暇つぶしに書架を漁っていたら、とある古い記憶を見つけた。そしてそこで彼女は西行妖には誰かが封印されていることを知る。

 

  このことが気になって、幽々子は紫に問いかけたこともある。しかしその時だけ決まって彼女は一瞬悲しげな表情をすると、笑って誤魔化してくるのだ。

  紫が西行妖の下に誰が眠っているのか知っているのは確定した。しかしあの様子だと話してくれそうもないし、封印を解こうと相談したら確実に邪魔されるだろう。

  なら、紫に内緒でやればいい。

  解き方はわからないが、ヒントはあった。西行妖が毎年の春になっても花をつけないと言うことだ。

  なら、もしそれが満開になったらどうなるのか? その答えを推測するのに時間はいらなかった。

  ちょうど紫は冬眠の季節だったし、後は秘密裏に集めた春度を西行妖に注いでいけば、それはいつしか満開となり、封印が解かれるだろう。

 

「ふふ、もしそこに眠っていたのが面白い人だったらお友達になるのもいいかも。そしたら……」

 

  もしの未来を想像し、無邪気に笑う幽々子。

  しかし彼女は知らない。桜の下にあるものが、己が一番見てはいけないものだということを。

 

 

  ♦︎

 

 

「……ここが冥界? なんか薄暗い場所だな」

「死者の国なんてそんなもんでしょ」

「それもそうか」

 

  ふわりと地面に着地する。そして美夜は空を見上げた。

  魔理沙の言う通り、確かに暗い。しかしそれはここが冥界だからと言う理由ではなく、単に今が夜だからであろう。

  ふと奥の方に気になるものを見つけた。

  階段だ。それも文字通り天にまで届きそうなほど長い。その両端には大量の桜の並木が道を作るかのように生えている。

 

  「……なるほど、確かにここは冥界ですね」

 

  昔、父に聞いたことがある。なぜ桜はあんなに美しいピンク色をしているのかと。

  父は、それは桜の木の下には屍が埋まっていて、その血を吸って色をつけているからだ、と答えた。

  もちろんそれが冗談だと言うのはわかっている。だが不気味なほど大量にある桜とその周りを浮遊する幽霊たちを見て、美夜はあの話が実は本当なのではないかと一瞬でも思ってしまった。

 

「……ん、どうしたんだ美夜。なんか顔色悪いぜ?」

「……いえ、なんでもありません」

 

  そう言うと、涼しい顔で抜刀し、近くにいた幽霊を八つ当たり気味に両断する。そして精神を安定させた。

  ……よし、切れる。これなら大丈夫だ。

  普通、幽霊はただの武器じゃ触れることすらできない。しかし美夜の【黒咲】には聖なる力が宿っているので、こうして消滅させることができる。

 

「さあ、先を急ぎましょう。なにやら悪寒がするので」

 

  その言葉に従い、彼女たちは階段をグングンと上がっていく。

  と言っても、足をつけて登っているわけではない。そんなことをしても時間と体力の無駄なので、もちろん飛んで上がっていた。

  それでも先がまだまだ見えない。

 

「……この階段、こんなに長くする意味があるのかしら」

「それはほらあれだぜ、ロマンってやつじゃないか? これ作ったやつの」

「だとしたらこれを作ったやつもまともに上がったやつも両方バカね」

 

  約一名走ってこの階段を踏破した妖怪がいるのだが、この時の霊夢たちは知る由もなかった。

  もっとも、唯一知っていた美夜はその言葉を聞いて微妙な表情をせざるを得なかったが。

 

 

  そうして愚痴を言い続けながら階段を上っていくと、頂上というわけではないようだが広い空間に出た。

  そう、それこそ長物を振り回しても影響がなさそうな……。

 

  そしてそんな広場に立っている人物が一人。

  可愛らしい少女だった。身長は霊夢らよりも一回り小さいくらいか。白い髪に緑色のベストを着ていて、腰には長さが違う二振りの日本刀が納められている。そして何よりも目が行くのは彼女のとなりにフワフワと浮いている綿あめのような幽霊だ。付き従うかのように動く姿はまるで少女と幽霊が一体化しているかのようだった。

 

  しかし妙だ、と美夜は感じた。

  あの少女からは妖力とともに霊力が感じられるのだ。その割合は半々。まるで半人半妖のようだった。

 

「……今すぐここから立ち去りなさい、侵入者よ。ここは冥界、生者が来る場所ではないわ」

 

  思考にはまっていると、ふと少女がそう警告してきた。

  だが帰れと言われて従うほど、ここにいる面子は大人しくない。案の定その言葉に霊夢はバット……ではなくお祓い棒を、魔理沙はミニ八卦炉を、咲夜はナイフをそれぞれ抜き出した。

 

「ガキの使いじゃねえんだ! 帰れと言われて帰れるか!」

「そう……ならせめてあなた達のなけなしの春を奪ってから、追い返してあげるわ」

「けっ、死人に口なしって言葉を知らないのか?」

「私は半分生きている!」

 

  いや、突っ込むところそこ……?

  しかしその言葉で彼女が何者なのかわかった。

  彼女は半人半妖ならぬ半人半霊なのだ。非常に珍しい種族なのだが、なるほど。それなら人間の証である霊力と妖怪の証である妖力の両方を持っていてもおかしくない。

 

  少女は二つの鞘に納まっているうち一本の長刀を抜刀し、それを正面に構える。

  それはとても綺麗で隙がないように見えるが……威圧のようなものが足りない、と美夜は感じてしまった。

 

  そして彼女に触発されたのか、気がつけば美夜も黒刀を抜刀して構えていた。

  自然と漏れ出る殺気に、霊夢たちですら思わず数歩下がってしまう。あの状態の美夜は危険だと、本能が訴えているのだ。

 

「……霊夢さん。ここは私に任せて先に行ってくれませんか?」

「……それが妥当そうね。それじゃあ、負けるんじゃないわよ」

 

  それだけ言うと、霊夢は助走をつけて一気に跳躍し、少女ごと広間を飛び越えた。そしてその奥にある階段をグングンと上がっていく。

 

「ま、待ちなさい!」

「おっと、あなたの相手は私ですよ?」

「……ッ!?」

 

  飛翔する霊夢の後ろ姿に弾幕を放とうとした少女を、いきなり切りつけることによって邪魔する。

  もちろん牽制目的なので防がれてしまったが、それでも魔理沙たちが向こうに着くまでの十分な時間は稼げた。

 

  もう豆粒ほどにしか彼女たちの後ろ姿は見えなくなっていた。それを見送った後、美夜はゆっくりと少女の方向へ振り返った。

 

「くっ、上には幽々子様が……! 早く倒して追いかけないと……!」

「……さっきから気になっていたのですが、どうして春を奪っているのですか? ここにある桜を咲かせると言う目的なら、もう十分に達成しているはずでは?」

「いいえ、足りないわ。少なくとも西行妖にとってはね」

「……今、西行妖と言いましたか……?」

 

  美夜はその名前に聞き覚えがあった。いや、覚えていて当たり前だ。

  なにせそれが、父を奪った化け物の名前なのだから。

  それを復活させる。

  美夜から本気の殺気が漏れ出るのに、それ以上を聞く必要はなかった。

 

「……気が変わりました。あなたも弾幕ごっこじゃ不満でしょうし、ここは一つ己の剣だけで決めてみませんか?」

「いいですよ。私としてもその方が助かります」

 

  両者ともにまっすぐ対峙し、正眼に構える。

  それだけでピリピリと冷たい殺気がぶつかり合い、辺りの温度が下がっていく。周りを漂う幽霊たちもその雰囲気を察したようで、蜘蛛の子を散らすようにバラバラにそれぞれ離れていった。

  そして二人しかいなくなった空間。その沈黙を、二つの声が破った。

 

「白咲三姉妹長女、白咲美夜。……悪いですが、道は割らせてもらいます」

「白玉楼庭師兼剣術指南役、魂魄妖夢。いざ参ります!」

 

  両者の刀がぶつかり合い、激しい鍔迫り合いが繰り広げられる。

 

  かつて二人の大剣豪の弟子同士の戦いが、時を超えて始まった。

 

 

  ♦︎

 

 

「……手間かけさせてくれたじゃない。あんたがこの異変の元凶ね?」

「……あら、見つかっちゃった?妖夢が下にいたはずなのだけれど、どうしたのかしら」

「白髪のやつだったらただ今同行者が足止め中よ。もっとも、すぐにここに追いつくだろうけど」

「あら、それは物騒ね……」

 

  階段の頂上の奥に建っている屋敷。そこに入って春度の波を追ってみたらところ、外れの方に見たこともないほど巨大な桜の木が立っていた。

  ただ、周りはこんなにピンクで満ちているのに、あれだけが葉一つ生えてすらいない枯れ木なのである。

  そこの前にフワフワと浮かぶ少女に、霊夢はそう問いかけた。

 

  全体的にフリル付きの青い服と帽子を被っている。その帽子の下から覗くことができる桃色の髪は、どこかの狐妖怪を連想させた。

  だが彼女が無邪気な明るさを出しているのに対して、この少女から感じられるのは儚い明るさだ。まるで蝶のように美しく、そして触れれば壊れてしまうような脆さをどことなく醸し出していた。

  種族は亡霊と見て間違いないだろう。先ほどの中途半端と違って、彼女からは邪悪な妖力しか感じられない。

 

  まあどっちにしろ、ここまでやらかしてくれたのだ。たとえ犯人が人間だろうと妖怪だろうと、半殺しにボコるのは霊夢の中で確定していた。

 

「そういえば自己紹介がまだだったわねぇ。私は西行寺幽々子、ここ冥界の管理人をやってるの」

「あっそう。どうせ今から死ぬやつの名前なんて興味ないわ」

「ふふ、おかしなことを言うのね。私はもう亡霊ですわよ?」

「よかったわね。二度目の死を体験できる人間なんてそうそういないわよ」

 

  笑顔で話す彼女に、霊夢も出来る限りの笑顔で答える。

  笑顔の応酬。しかしそれは決して楽しい雰囲気のものではなく、むしろ薄暗く、ピリピリとした殺気を両方とも笑顔に乗せていた。

 

  しばらく笑い……いや睨み合っているだけで沈黙が続く。

  しかし急に幽々子は目を細めると、真面目な表情でそれを破った。

 

「……あと少しなのよ。あと少しで西行妖が満開になる。それの邪魔はさせないわ」

「……あなた、本気? もし西行妖とやらが後ろの枯れ木のことなら、私は全力であなたを潰すわよ」

 

  そう話す霊夢の表情も真剣そのものだった。

  なぜなら、幽々子の後ろに佇む大木が明らかに異常なものだったからだ。

 

  三つの炎の剣と五つの氷の槍で拘束されたうえで、霊夢ですら発動できないような見たこともない封印が何重にもかけられている。

  ここまでの術式を作った人物がいたのにも驚きだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が問題なのだ。

 

  それに、後ろの枯れ木を見ていると霊夢の勘が叫び続けるのだ。

  あれは危険だ、逃げろと。

  しかしそうするわけにはいかない。なぜなら彼女は博麗の巫女、幻想郷に仇なす存在は排除するのが役目だから。

 

「二人とも下がってなさい。ここは私がやるわ」

 

  もはや語ることは何もない。

  両者はスペルカードを五つ取り出すと、同時に宣言する。

 

「花の下還るがいいわ、春の亡霊! ーー境界【二重弾幕結界】!」

「花の下で眠るがいいわ、紅白の蝶! ーー亡郷【亡我郷】!」

 

  互いのスペルカードが飛び交う。

  幻想郷最高クラスの二人の弾幕ごっこが今始まった。

 

  だが、彼女らは気づいていなかった。

  幽々子の後ろに不気味に佇む西行妖。その枝に複数の蕾が生えていることに……。

 






「どーもどーも、最近蒸し暑くてエアコンがなければ生きていけない作者です」

「部屋中にエアコンガーガーつけてゴロゴロするのが最近の日課になってきた狂夢だ」


「プリズムリバー三姉妹の戦闘描写、完璧にカットしたな……」

「だってどうやっても盛り上がらないんですもん! 霊夢さんが負ける要素どう見てもゼロじゃないですか!?」

「まあそれもそうだが……今後の幽々子戦もカットするつもりなのか?」

「まあ多分紅魔郷編のレミリアみたいに途中から始めると思いますよ。それよりも作者としては久しぶりの弾幕ごっこじゃない戦闘描写を書かなくてはいけない妖夢戦が心配です」

「まあ、フラン戦以来全て弾幕ごっこだったからな。腕が落ちてなきゃいいんだけどよ」

「しょぼくならないように出来る限り頑張ります……」

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