東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

193 / 292
冥界のブレイドダンス

  ドクン、ドクンと。

  血流が激しく流れ、体の奥底から力が湧き出るような感覚を私は感じる。

 

「お、お父さん……?」

 

  リビングで一緒にいた清音が戸惑うような声を出す。

  いや、戸惑っているのは彼女だけではない。一緒にマリカーしていた火神もルーミアも、私の体の変化に気づき、もしもの時のための臨戦態勢をとる。

 

  まあ、()()()()()()()()鹿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

  気体のような妖力の波が、私に収束していく。まだまだ波は収まっていないけど、それでも現在の私の妖力量は大妖怪最上位と同等程度まで上がっている。要するに普段の数十倍だ。

 

  体が熱い。

  急に妖力が戻ってきた反動で熱された鉄板に押し付けられたような痛みが私を襲う。

  あまりの熱に、体から流れた汗が沸騰しているかのような錯覚を覚える。いやよくよく見れば本当に沸騰して煙が吹き出してきたので、今の私の体温は百度を超えているということだ。

 

  このままじゃマズイ。ひとまず外に出て被害を食い止めなければ。

  窓を開け、そこへ飛び込む。二階だったのですぐさま落下して体が地面に叩きつけられたが、この熱さに比べれば微々たる痛さだ。

  そうやって仰向けに倒れていると、ふと上から清音が召喚したであろう大量の水が降ってきた。

 

  もが、もがががっ!?

  ちょっこれマジやばい! 死んじゃう! 息できなくて死んじゃう!

  私が苦しくなってきたのを見てか、ようやく水が止まった。

  ……清音、あとでお仕置きだよ。

 

  しかし彼女のおかげで、私に溜まった熱が多少和らいだ気がした。息も落ち着いてきたし、今なら制御できるはず。

  目を閉じて、精神統一する。

  何もない空間の中で妖力の暴風が渦巻いているイメージ。それを徐々に、徐々に小さくしていき、やがて竜巻は私のイメージ内では消え去った。

 

  ゆっくり目を開ける。

  そこには変わらないはずの私の屋敷が。……ちょっと小さくなったような気がするが。

  いや、屋敷だけではない。草も木も、目に映る全てが小さくなったように感じられる。

 

  屋敷のドアが開き、中から火神が出てくる。

  だが奴は私の姿を見ると口笛を一瞬鳴らして、嬉しそうに舌舐めづりをした。

 

「よぉ……戻ったみてぇだな。かつての自分に」

「……やっぱり、お前の目から見てもそう思うか」

 

  さっきまで確信が持てないからわざと気づいていないフリをしたのだけれど、もうそれもやめにしよう。

  巫女袖から全身が覗けるほど大きな鏡を取り出し、それで自分の体を確認する。

  ほっそりとした雪のように白い肌。これは以前と変わらない。しかし鏡の前に映っていたのは身長140cmの少女ではなく、火神よりも少し低いくらいの身長をした絶世の美女だった。……もちろん私、いや俺である。

  声の高さも若干低くなり、その分威圧感というか、張りが出ている。

 

  俺の妖力が突然戻ってきた理由。そんなものは一つしかない。

  西行妖……いや、早奈の封印が解けたのだ。おそらく今回の異変の目的は春を西行妖に渡して力を増幅させ、無理やり封印を解かせることだったのだろう。

  まあなんにせよ好都合だ。

 

  ちょうど屋敷から出て姿を現した清音に俺は巫女袖から取り出した一枚のメモ書きを手渡した。

  そこには誰かの電話番号のような数字の文字列が書かれている。

 

「清音、これを紫に届けてくれ。あいつならそれでわかるはずだ」

「う、うん、わかったよ……」

「そんじゃまぁ……俺も一仕事してこよっかな」

 

  軽いストレッチで体を伸ばすと、俺は右足で地面を思いっきり蹴飛ばす。瞬間、まるでテレポートしたかのように周りの景色は屋敷から空のものへと変わっていた。

 

  音速の百倍、つまりはマッハ100。おそらくはそれくらいの速度で飛んでいるだろう。

  久しぶりの高速飛行にまだ体が慣れていないのか、若干風が痛く感じる。おまけに冬の夜なのもプラスして肌寒い。

 

  こうやって移動している間にも、どんどん力が流れ込んでくるのを感じられる。今ではほとんど全盛期分の力は取り戻しただろう。あとは西行妖に突き刺さってるであろう相棒を回収するだけだ。

 

  早奈、今度こそお前を救ってみせる……!

  風の音にかき消されて聞こえなかったが、たしかに俺はそう誓った。

 

 

  ♦︎

 

 

  一方、時は遡って冥界の階段広場。

  そこでは無数の金属音が絶えず発せられ続けていた。

 

「ハアッ!」

「シッ!」

 

 

  互いの刀同士が無数にぶつかり合う。

  白い髪の少女ーー妖夢はすでに二振りの長さがそれぞれ違う日本刀ーー楼観剣と白楼剣を抜いていた。彼女としては一本だけで十分だと思っていたのだが、そんな余裕は勝負が始まった途端すぐに消え去った。

 

  美夜の長刀が空を切る。当たってないはずなのに、切り裂かれた空気はその場で鎌鼬(かまいたち)と化して妖夢の肌にごく小さな切り傷を作る。

  しかし空振ったのは事実だ。その隙を狙って妖夢は二刀流の利点を生かし、素早い連続攻撃を繰り出した。

  しかしそこはさすがと言うべきか。すぐさま体を引き起こして一撃目を避け、その後すぐさま体勢を整えて二撃目以降の全ての斬撃を完全にガードした。

 

  だが一方の美夜も、そこまで余裕があるわけではない。

  この刃筋正しく、正確で鋭い斬撃。明らかに達人の域だ。

  おまけに右手に長刀、左手に短刀という珍しいスタイルのため、手数が多くて距離が掴みにくく、容易に反撃に転じれない。

 

  しかしと、美夜は思う。

  妖夢の剣術には何かが足りない。戦う前から感じていたことだが、剣を握っても震え上がるような威圧が感じられないのだ。

  そしてその理由も、剣を交えることでなんとなくだがわかってきた。

 

(試してみるか……)

 

  妖夢の長刀が振り下ろされる。それを受け止めると、二人は力比べとなり鍔迫り合いの状態へと場面は移り変わった。

  互いに一歩も引かず状況は均衡している。しかしそれは美夜が蹴りを繰り出した瞬間、脆く崩れ去った。

 

「ごっ……!?」

 

  美夜の蹴りが妖夢の腹へと突き刺さる。そしてその一撃に耐えかねたのか、よろよろと彼女は数歩後退した。しかし妖夢は痛みで退くことに必死で全くの無防備を晒してしまった。

 

  両腕は腹部より上に上がっておらず、完璧なノーガード。

  そこに美夜渾身の振り下ろしが繰り出された。

  妖夢は本能が危険を察知し後ろに飛び退いてみると、彼女スレスレに刃が通過した。()()()()()()()()()()()()()()

  後ろに後退した妖夢を追うように、振り下ろされた刃が素早く軌道を変え、切り上げへと変化した。

 

  飛び退いているため、空中に浮いている以上動くことはできない。

  そして舞い散る血飛沫。

  美夜の黒刀が妖夢の体を下から縦一文字に切り裂いた。

 

「か、あぁ……ぁ……ッ」

 

  ーー楼華閃二十七【燕返し】。

  振り下ろした剣を逆方向に(ひるがえ)して相手を二度切り裂く、言ってしまえばそれだけの技だ。

  しかし頭がパニックになっていた妖夢には効果絶大だっただろう。

 

  血の海に膝をつく妖夢。一撃をくらった程度で大げさだと思うが、それもとある理由をつければ納得する。

  そんな妖夢を見下ろしながら、美夜は彼女の違和感をはっきりと指摘する。

 

「妖夢さん。あなたもしかして実践経験が少ないのでは?」

「……ッ!?」

 

  見破られたことによる驚きと悔しさで妖夢の顔が歪む。その反応で美夜の推理が当たっているであろうことがわかった。

 

  おかしいとは思っていたのだ。

  妖夢の剣技は恐ろしく冴えているものの、それには気後れするような圧がなかった。だからどれだけ速くても冷静に対処できた。

  おそらく、彼女は素振りだけしか毎日しておらず、剣を交える相手が少なかったのであろう。こんな冥界にいるならなおさらだ。

  だからこそ、剣と体術を合わせた変則攻撃にはめっぽう弱かったし、切られたこともないので攻撃をくらうとすぐに頭の中がパニックになってしまう。

 

「今のあなたじゃ私には勝てません。これは断言できることです。それでも追いたければご自由に」

 

  そう言い美夜は納刀すると妖夢に背を向け、奥の階段に向かって歩き出す。

 

 

  こんな、こんなに自分は弱かったのか?

  遠ざかる後ろ姿を見て、妖夢は思う。

  彼女の言う通りだ。自分は決して実践経験が多いわけではない。むしろ少ないだろう。

  なんせ実際に剣を交えたことがあるのは幼いころに師父、ただ一人だけなのだから。

 

  師父の剣術は美しく、そして強かった。自分とは比べ物にならないほどに。

  しかし師父は自分の剣術を自画自賛したことはなかった。そんなところも含めて、妖夢は尊敬していたのだろう。

 

  しかし、そんな師父は突如姿を消して、妖夢は幽々子の護衛という任を引き継ぐこととなった。

  それがどうだろうか。賊の一人すら捕まえることができず、こうして地面に無様に膝をついている。

 

  ふと浮かぶのは幽々子の顔だ。

  妖夢が持つ感情は師父が尊敬なら、幽々子は崇拝だ。

  師父が消えて寂しかった時、ずっと自分に寄り添ってくれた。その時に浮かべていた笑顔を見て、自分はこう思ったのだ。

  『必ず、この方をお守りする』と……。

 

  あれは戯言だったのか、魂魄妖夢?

  あの時から今に至るまで受けた恩を返す場所は、ここではないのか?

  否、自分は嘘つきや恩知らずなどでは断じてない。

  だからこそ……あの時の誓いだけは、絶対に守る!

 

 

  踏みつけられた水たまりが、辺りに飛び散ったような音が後ろから響いてきた。

 

「……なるほど、見事な剣士のプライドです。いや、あなたの場合は忠誠心とでも言った方がいいですかね」

「こ、こは……っ、通さない……ッ!」

 

  後ろを振り返った美夜が見たものは、自らの血の海を踏みしめて立ち上がる一人の剣士の姿だった。

  その目はどこか血走っており、先ほどまでとは比べ物にならない圧ーー殺気が、身体中からほとばしっている。

 

  正に、鬼神が如く。

  一時的に限界を超えた妖夢からはオーラのようなものさえ見えてくる。

  これだ。これこそ自分が望んでいたもの。

  相手にとって不足なし。

  美夜は嬉々として勢いよく愛刀を抜刀すると、それを納めていた鞘を興奮のあまりか邪魔だと言わんばかりに投げ捨てた。

 

「いきますよーー【堕天】」

「【現世斬】!」

 

  妖夢は目にも止まらぬ速さで突進切りを繰り出す。それを先読みしていた美夜の振り下ろしが妖夢の刀と激突し、凄まじい衝撃波を辺りに撒き散らす。

  一瞬の硬直。しかしそれは本当に一瞬だけで、技が終わったころには二人は別の技へと移り変わっていた。

 

「【未来永劫斬】ッ!」

「【氷結乱舞】!」

 

  妖夢の両刀から、美夜の長刀からそれぞれ繰り出された青色の光と氷が交差する。いくつかの斬撃はぶつかり合い無力化されたが、防がれなかった分の斬撃が互いの体を切り裂き合った。

  先ほどまでの妖夢だったらこの痛みに耐えきれなかっただろうが、相手を倒すことのみに集中している彼女にそれを感じる暇はなかった。なんとか踏ん張って体を立て直し、あまり使いたくなかった奥の手を披露する。

 

「……なっ!?」

 

  目の前で起こった光景に、思わず美夜の口からそんな声が漏れた。

  妖夢は自らの半霊を呼び寄せると、なんとそれが第二の妖夢として形を変えたのだ。

  本物の方の妖夢は持っていた白楼剣を分身に手渡す。そして二人は息ぴったりにそれぞれの刀を構えた。

 

「卑怯なんて言うつもりはないですけど……これは中々厄介ですね」

「はぁぁぁっ!!」

「せいやぁっ!!」

 

  二人の妖夢は美夜を前後で囲うと、同時に斬りかかってきた。

  前方の方の妖夢の攻撃を受け止める。同時に反撃に転じようと刀を握る手首を捻る。

  しかし絶妙なタイミングでもう一人の妖夢が刀を突き出してきた。

  とっさに攻撃を中断し、後ろに飛び退く。しかし完全には避けれず、刃は美夜の腕を浅くだが切り裂いた。

 

  状況はこちらが不利だ。

  当たり前だろう。妖夢は実践経験が少ないというだけであって剣の腕なら間違いなく達人レベルだ。それを二人同時に相手しなければならないのだ。

 

  ……やむを得ない。本当はこの先の西行妖のためにも全力は温存しておきたかったが、そうも言ってられなくなった。

 

「……【サンダーフォース】」

 

  唯一己が使える強化系魔法を唱える。

  言霊のあと、美夜の体からは荒れ狂う雷が噴き出してきた。

  それを制御し、己の体へと纏わせる。それによって体に普段より強い電流が流れ、身体能力が大幅に強化された。

  前後から妖夢たちが迫ってきたが、今の彼女には遅いとすら感じてしまう。

 

「【現世斬】!」

「【冥想斬】!」

 

  前方から高速の突進切り。しかしそれを瞬時に見切り、下から上への切り上げが妖夢の胸に紅い花を咲かせた。

  しかしこれで終わりではない。

  すぐさま刃を翻し、後方を振り向くと同時に刀を振り下ろす。

  その先には、緑色の光によって巨大化した刃を同じく振り下ろす妖夢の姿があった。

  二つの刃が交差する。

  そして紅花を散らして崩れ落ちたのはーー妖夢だった。

 

「楼華閃二十六【蜻蛉(とんぼ)返り】」

 

  美夜はそう呟き、刀を鞘に納める。と同時にカランカラン、と剣が地面に転がる音が聞こえた。

  見れば白楼剣が地面に落ちている。そしてそれを持っていた分身の姿が消えていた。

  側から見れば圧倒的敗北。しかし意識が続く限り、今の妖夢は負けを認めないだろう。

  震える手を白楼剣に伸ばす。

  そして楼観剣を杖にしてゆっくり立ち上がると、虚ろな瞳で美夜を見据えながら、体を前傾にして突進切りの構えを取った。

 

  その虚ろげな構えを見て、美夜は悟る。

  彼女は次の一瞬に全てを込めるつもりなのだろう。

  ならばその覚悟に敬意を持って、全力で答えさせてもらおう。

 

  両者の妖力が高まっていく。

  妖夢はそれを己の両刀に持ちうる限りの全てを注ぐ。そして今まで見たこともないほどの光量の桜色の光が、刃に集っていく。

  対する美夜も、納刀中の愛刀に妖力を込める。それによって生み出された荒れ狂う雷が鞘の外へと噴き出し、辺りを明るく照らした。

 

  一瞬の静寂。

  極限に研ぎ澄まされた集中力は世界の色を削ぎ落とし、目の前の敵だけを映し出させる。

  色を無くした世界でゆっくりと、美夜の刀が鞘から離れる。

  瞬間ーー両者の刀が爆発したかのように輝いた。

 

「【桜花閃光】ッ!!」

 

  ジェット噴射のように光を噴き出しながら、桜色の斬撃が繰り出された。

  それは彼女が今まで繰り出した技の中で間違いなく最高のものだっただろう。

  二つの刀身は音速を超えて突き進み、その刃を美夜へと突き立てるーーことはなかった。

 

「【疾風迅雷】」

 

  閃光が、解き放たれた。

  妖夢が音速だというのなら、美夜の斬撃はまさしく光。それほどの速さの居合切りが妖夢の斬撃をすり抜け、彼女の腹部を一文字に切り裂いた。

 

  飛び散った血飛沫が地面にぶつかり、彼岸花を咲かせる。

  そして自身の刀にも咲いたそれをきっちり落としたあと、納刀する。

 

「……大したものです。まさか立ったまま気絶しているとは」

 

  妖夢は文字通り、彫刻と化していた。

  瞳に宿っていた光は消え失せ、体はピクリとも動かない。

  しかし立っている。ここを通すわけにはいかんと、今なお立っているのだ。

 

  その姿を背後に、美夜は階段を突き進んでいく。

  妖夢が倒れた音を聞いたのは、それから間もないことだった。

 

 

 





「フランス代表、ロシアワールドカップ優勝おめでとー! リアルタイムで見ていて興奮した作者です」

「そういえば決勝戦の日、フランスは七月十四日のパリ祭、つまりはフランス共和国成立を祝う日だったはずだぜ。そんな日に優勝だなんて縁起がいいな、と思った狂夢だ」


「さてさて久しぶりの戦闘描写での妖夢戦。美夜さんが大活躍してましたね」

「ただお前久々のガチな戦闘描写で投稿遅れてるじゃねぇか。どうせ気をつけても直らないんだし、せめてちゃちゃっと書き終えろよ」

「酷くないですか!?」

「むしろマゾなお前にはご褒美なお言葉だろう?」

「それで喜ぶのは変態だけですよ……」

「リアルで二次元専門ロリコンなお前も同じようなもんだからな」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。