東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:日差丸
美夜が妖夢を倒したころ、白玉楼では……。
「……っ! 中々やるじゃない……」
「あらあら、お褒めに預かり光栄よ〜」
スペルブレイク。
霊夢は幽々子の弾幕に被弾して吹き飛び、二枚目のスペルカード【封魔針】が破られた。
同時に幽々子の二枚目のスペルカード【生者必滅の理】も制限時間が訪れて終了する。
魔理沙と咲夜は、目の前で起きている光景に目を疑った。
今ので戦況は霊夢が残りスペカ三、残機二。そして幽々子は両方とも三となった。
初手から不利なんて状況はいつ以来だろうか。
魔理沙たちはさも霊夢が負けたことがないように言っているが、実は一度だけ彼女は敗北したことがある。
対してあちらはさも当然のように『大人の余裕ですわ』と豊富な胸を張って自慢していたのを覚えている。被弾した時は見た目相応にあたふたしていたというのに。
あの完全に自分が負けていた状況では、どうやって彼女に一発くらわせてやったんだったか。
たしか……。
「華霊【バタフライリリュージョン】」
幽々子を中心に大量の弾幕が規則正しいリズムで蜘蛛の巣のようにばら撒かれる。と同時に細長い幽霊のようなものが複数、霊夢を追尾してきた。
それは霊夢に近づくと全てが同じタイミングで衝突し、巨大な弾幕の花を咲かせる。そしてそれが再び幽霊へと戻り、霊夢を追尾してまた弾幕の花を咲かせる。
スペル終了まで追ってくる高性能な追尾型弾幕。それを展開された弾幕蜘蛛の巣を掻い潜りながらひたすら逃げる。おそらくそれがこのスペカの正当な攻略法だろう。
しかし、これと似たような弾幕を霊夢は見たことがあった。
それを攻略した時の戦法を、霊夢は再現してみせる。
「……結界【拡散結界】」
幽々子の蜘蛛の巣の間をさらにすり抜けて、レーザー状の蜘蛛の巣が彼女の周りに張り巡らされた。
自分のと合わさって二重になったそれは、幽々子の視界の大半を埋め尽くし、敵の姿を隠すカモフラージュと化す。
「……あら、どこに行ったのかしら?」
「ここよ」
「……へっ?」
背後から声がかかるとともに、肩に誰かの手が置かれる。
そろりと振り返ってみると、そこには満面の笑みを浮かべた霊夢とーーそれを追う追尾型弾幕が見えた。
直前で彼女は上へと跳躍し、その場を脱出。そして取り残された幽々子の至近距離で、弾幕の花が咲いた。
「きゃあっ!?」
避ける間も無く幽々子はそれに直撃し、大きく吹き飛んだ。あまりのことで思わず普段では決して聞けないような素っ頓狂な声が出てしまう。
これで、残機スペカは両方同じ。ようやく状況は対等へと戻った。
通常弾幕で牽制しながら、次のスペカを選び、戦術を立てようとする。幽々子も同じ考えなのか、彼女も続けてスペカを使っては来ず、同じように通常弾幕で霊夢に応戦する。
しかし油断はできない。その通常弾幕でさえ、下手な相手のスペカ以上に複雑なのだ。
それを掻い潜るように避けながら霊夢はどんどん接近していく。どうしても邪魔なものはお札で相殺し、次々と幽々子の弾幕を打ち消して接近するルートを作り出していく。
しかし二度も接近を許すほど幽々子もバカではない。霊夢を限界まで引きつけたところで、カウンターにスペカを一枚掲げた。
「幽局【リポジトリ・オブ・ヒロカワ】」
幽々子の周囲から見たこともない形をした弾幕が大量に出現する。
丸い弾幕に羽が生えており、それはまるで蝶のようだった。それが優雅に辺り一帯のフィールドを自由自在に飛び回る。
蝶の群れの中。そこに飛び込もうとしてーー言いようのない悪寒が走った。
慌てて方向修正し、大げさなくらいに飛び退く。そして蝶に触れないように気をつけながら、霊夢は先ほどの自分の勘について考える。
霊夢の勘は絶対だ。ならあそこで勘が反応したのも、何か意味のあることのはず。
そう思い、改めて蝶の弾幕をよく観察してみる。すると弾幕自体が発する光とは別に、薄い妖しい色の光が弾幕を覆っているのに気がついた。
あの気配、妖力が固められただけのものじゃない。通常の弾幕に別の力が加わっているような……。
「まさか……あれって能力!?」
「あら、バレちゃった?」
テヘッ、と舌を可愛らしく出す幽々子。
【主に死を操る程度の能力】。それが亡霊となった幽々子が獲得した能力だ。
弾幕ごっこ自体に能力を使用してはいけないというルールはない。実際咲夜なんかもよく時止めを使うし、それを言うなら霊夢の【夢想天生】だって能力なしでは成立することはない。
「弾幕ごっこのルールに『相手が気絶したら、その時点で残機が残っていても負け』というものがあるわ。実際は威力が制限されてるし、そんなことは滅多に起こらないんだけど」
事実だ。ルール作成者の霊夢もこの現象が起こる可能性が少ないのをわかっていて、このルールを取り入れた。
しかしルールとは曖昧なものである。特に規則なんかに縛られる者の方が少ない幻想郷では。そしてそんな奴らの中には、幽々子のようにルールの裏を利用する連中もいる。
「私の能力を応用すれば、一時的に相手を仮死状態。つまり眠りに誘うこともできるわ。さて、これがどういう意味かわかるかしら?」
「……つまり、ここから先はかすることも許さないってこと?」
「正解。それじゃあ引き続き弾幕の海を楽しんでね。グッドラ〜ク」
迫り来る弾幕をいつもより大きく避ける。いくら霊夢の直感が優れているとはいえ、幽々子クラスの弾幕の海の中を
しかし、こうやって一々遠回りをしていたのでは距離感が合わず、結局やりにくくなってしまう。
……なら、避けなければいい。
「宝具【陰陽鬼神玉】!」
霊夢の目の前に、自身の数倍は大きな陰陽玉が霊力によって形作られる。そして彼女はなんとそれに体を押し付けると、そのまま加速して幽々子へと突っ込んだ。
次々と襲いかかる弾幕の蝶。しかし霊夢の前に存在する陰陽玉が盾となり、蝶の群れを一気に突き破った。
突進してくる陰陽玉。しかし霊夢は前の視界が覆われているため、直線にしか動くことができない。
幽々子は口元に笑みを浮かべると、ひらりと蝶のように陰陽玉を避ける。そして無防備になった霊夢の背中に扇を突きつけ、そこに妖力を込めた。
「ふふ、これで終わりよ。あなたとの弾幕ごっこも中々楽しかったわ」
「ーー勝手に自己完結しないでくれるかしら」
扇から飛びだった無数の蝶の群れ。しかしそれらは生まれて間も無く、その美しい羽を散らすことになった。ーー迫り来る巨大な陰陽玉によって。
「な、なんで……っ!?」
陰陽玉は方向転換できないのではなかったのか。自身の推測が見事に外れたことに動揺を隠せなかった。
今は回避することが優先なのに、自然と霊夢の方に視線が行ってしまう。そしてその瞳に映ったいくつかの事実によって導き出された答えに目を見開いた。
まず、霊夢は先ほどのように陰陽玉の真後ろにいなかった。それどころか彼女と玉にはある程度の距離ができている。
そして何よりも気になったのが彼女の体勢だ。右足は不自然なほどピンと伸びており、振り切られている。
突如起動が変わった陰陽玉。霊夢と陰陽玉の不自然な距離。そして振り切られた右足。
紫ほどではないとはいえ、頭の回転が速い幽々子はそれらのワードだけで彼女が何をしたのかがわかった。
「まさか、陰陽玉を蹴ったっていうの……くッ!?」
気がつけば、陰陽玉が目の前まで迫っていた。幽々子の身体能力ではそこから脱出するすべはなく、次の瞬間には鈍い音とともに爆発が巻き起こる。
ーー宝具【陰陽飛鳥井】。
名付けるとするならばそうしよう。まさかまだアイデアしか出ていなかった未完成技がこんなところで役に立つとは。
爆発の煙が晴れ、中から幽々子が出てくる。しかし美しかった衣服は所々が黒く焦げており、彼女自身の髪も寝癖ができたかのようにボサボサになっている。
「いい格好じゃない。下手に着飾るより似合ってるわよ」
その姿を見て嘲り笑う霊夢。
しかしそういう彼女自身にも余裕があるわけではない。表向きには一度しか被弾していないため怪我は少ないと思われるが、実際はグレイズした回数が半端ではないため、身体中のいたるところに無数のかすり傷ができている。それが積み重なって大きな痛みと変わり、先ほど大げさなほど大きく弾幕を避けていた分と合わさって霊夢の体力を奪っていた。
そんな状況なのにあのような挑発をするのは、単に自分を奮い立たせるため。いわば意地であった。
一方の幽々子も、その顔にはいつものような余裕が表れていなかった。代わりに浮かんできたのは余裕とは別の、好戦的な笑み。
幽々子をここまで追い詰めたのは紫以来だ。ほとんど暇つぶしと興味で起こした異変だが、今となってはもはやそんなものは成功しようがしまいがどうでもよかった。
今はただ、目の前の敵に集中するのみ。勝つか負けるかはその後のおまけだ。
果たして彼女は自分の最強のスペカを攻略できるのか。はたまた攻略できずに弾幕の波に飲み込まれてしまうのか。
結果がどうなるのかはわからない。しかしそれがゲームというものであって、だからこそ面白いのだ。
最後のスペカ。それを幽々子は天に掲げ、その名を告げる。
「桜符【完全なる墨汁の桜】」
幽々子の扇を巨大化したようなものが、彼女の背後に出現する。そして中型の弾幕が幽々子を中心に、蝶の弾幕が彼女の扇から、そして雨のように小さくて細かい弾幕の粒が後ろの巨大扇からそれぞれ大量に放たれた。
それはまさしく、幽々子の切り札としてふさわしいものだったといえよう。
雨のような米弾は固まりとならずにバラバラに広がることで、霊夢の移動を制限する。そしてその隙間を埋めるように中弾がさらに飛行エリアを削っていく。
そして、大本命の蝶型弾幕。ただでさえ移動に制限がかけられているのに、自由自在に前から横から後ろから来られたらほとんどの強者は沈んでいくだろう。
しかしここにいるのはただの強者ではない。幻想郷最強の巫女、博麗霊夢だ。
一度ミスしたら終わりな状況で、ただでさえ鋭い直感がさらに研ぎ澄まされていくような感覚を覚える。
後ろから迫ってきた蝶型弾幕を、振り返りもせずに空中でとんぼ返りすることによって避ける。
普通の弾幕は多少グレイズしても無視し、迷わず突っ込んでいく。そして蝶型弾幕は大げさなくらいに大きく避ける。
弾幕の海をかき分けて進んでいく。奥へ、奥へ。
そしてそこを突破した先にはーー何もなかった。
「っ、どこに……!?」
弾幕の発生源にいたはずの幽々子を探すため、辺りを見渡す。そして気づいた。
周囲には無数とも言えるほどの蝶が、霊夢を完全に包囲していた。
この時彼女は悟る。自分は幽々子の策にまんまと引っかかってしまったということに。
幽々子は霊夢が接近してくるのを事前に予測していた。というか二回もやられれば簡単に予想がつく。
そこで奥が見えない程度には濃い弾幕の海を放った後、すぐにその場を離れたのだ。そして霊夢が悪戦苦闘しているうちにひたすら能力で蝶型弾幕を増やし続け、先ほど幽々子がいた場所を囲うようにそれらを設置していった。
かくして、その作戦は上手くいった。
今の霊夢は袋のネズミ。いくら弾幕ごっこのルールによって蝶たちの間に隙間ができるとしても、この包囲網を一度もカスリもせずに突破するのはほとんど不可能だ。
しかしそれは、通常の手段を使った場合、に限定されるが。
「……【夢想天生】」
弾幕の蝶は霊夢の体に触れられず、ただそこを通り抜けていく。
【空を飛ぶ程度の能力】の真髄を理解し、極限まで使いこなすことで発動できる霊夢だけの最終奥義。それが夢想天生。
目を閉じて体が半透明になっているこの状態中、霊夢はありとあらゆる事象から
事象から浮くということは、この世界の影響を受けないということ。弾幕も能力も、何もかもがすり抜けていく。つまりは無敵だ。
目を閉じているため前が見えないはずなのに、ゆっくり、ゆっくりと霊夢は幽々子へと足を進ませる。足場などないはずなのに、さながら透明な道が空中に作られているかのようだった。
その神秘的な姿を見て幽々子が感じたのはーー恐怖。
「っ、蝶よ!」
宙を舞っていた無数の蝶たちが霊夢の体を塗り潰すかのように覆っていく。
しかし、無意味だ。そんなことは幽々子にだってわかっている。わかってはいるが、体から這い上がる恐怖がそれを認めてくれないのだ。
「……ふふ、ちょっとそれはズルなんじゃないかしら……?」
「……」
返事はない。その顔は無表情。見つめても何も感じられなかった。
乾いた笑みを幽々子は浮かべる。しかし表情は誤魔化せても、ほおをつたる汗だけは隠しようもない。
亡霊というもののは神聖なものを恐れる。しかしそれを抜きにしても、幽々子には霊夢が神秘的な雰囲気を纏った死神のように見えて仕方がなかった。すでに死んでいるにもかかわらず。
霊夢の足は、幽々子の顔がはっきりとわかるくらいの距離で停止した。
そして彼女の周りに浮かび上がる複数の陰陽玉。
それらが光り輝いたと思ったら、発狂したかのような速度で大量の弾幕が全方位にばら撒かれる。
それらは周りのもの全てを打ち消していく。弾幕の蝶の群れも、幽々子自身も。
「……あーあ、しくじっちゃった……」
さわやかな笑みを浮かべて、一人呟く。
無数の弾幕をその身に浴びて、幽々子は爆発とともに地上に墜落した。
残機二対零。こうして幻想郷最高クラスのハイレベルな弾幕ごっこは博麗の巫女の勝利で幕を閉じた。
♦︎
「……っ、さすがにあれだけ撃たれたらちょっと体に響くわねぇ……」
ほぼ全ての枝に蕾を生やすほどまでに成長した大樹ーー西行妖の幹に背を寄りかからせながら、幽々子はそう言って服の汚れを叩いて落とす。
そしてその頭上には、お祓い棒が突きつけられていた。
「……えーと、弾幕ごっこには敗者=死なんてルールがあったかしら?」
「亡霊が何言ってるのよ。そうじゃなくてあれよあれ、春をさっさと返しなさい」
「ぶーぶー、せっかちになってるとシワが増えるわよ?」
「少なくともあなたよりかは少ないから安心しなさい」
「……泣くわよ? ゆゆちゃん泣くわよ?」
「自分にちゃん付けすんな気持ち悪い」
よよ、という感じでシクシクと嘘泣きをし始める幽々子。
どうやらこの亡霊は下にいた白髪と違って随分と面倒くさい性格をしているらしい。露骨に話をすらされるのでこちらはイライラする一方だ。そんなところがスキマ妖怪と似ているのも霊夢のストレスを加速させていく。
明らかにこちらの不機嫌さを見て楽しんでいる。
しかしそれで満足したのか、表情をのほほんとしたものから一変真面目なものに変えさせた。
「……さて、あなたたちの願いは春を返すことだったわよね? それだったら今返してあげるわ」
幽々子としては、もう異変なんて満足したのでどうでもよかったので、あっさりと霊夢たちの願いを承諾した。
そして扇を西行妖に向け、春を操作しようとする。
しかしいくら幽々子が妖力を込めても、西行妖は反応を示さなかった。
「……あら? おかしいわね。確かこうすればよかったはず……ッ、キャァァッ!?」
木に触れてさらに直接弄ろうとした幽々子の体に、触手のようなものが巻きつき、がんじがらめに縛り上げた。
その正体は、西行妖の枝。今まで予兆さえ見せなかったのにひとりでに動き出したそれを見て、幽々子を含めて全員が目を見開いた。
『……時は来ました』
「な、なんのこと……ぁ、がァァかぁアアアアアアアアアアッ!!」
冥界全土に響き渡るように、聞きなれない、しかし引き寄せられてしまいそうなほど妖しい声が発せられた。
呆然とする一同。
しかし、突如幽々子の苦しそうな叫び声を聞いて、彼女らは我に帰った。
「な、なんなんだぜありゃ……?」
震える声で、魔理沙が呟く。
幽々子は触手のような枝によって空高くまで絡め取られてしまった。その体には霧のような、ヘドロのような黒い何かがまとわりついており、幽々子を苦しめていく。
しかし、魔理沙が言ったのはそのことじゃない。
無数の枝に生えている蕾。それが見たこともないペースでドンドン開花していく。
そしてそのたびに増していく、死の重圧。
美しい、としか言いようがなかった。不用意に前に出れば死んでしまうのに、それでも構わないと思ってしまうほどには。
そして全ての花が八分咲になったところで、再びあの声が頭に響き渡る。
『【反魂蝶】』
その瞬間、全員の視界を紫色の蝶が埋め尽くした。
「夏休み入ったぁぁぁ! 今日からゴロゴロするぜェェェェ! 作者です」
「相変わらず文字数が安定しないことに不安を覚える狂夢だ」
「さて、上で叫んだ通り、とうとう夏休みがやってきました」
「成績オール3に等しいお前は勉強してろ」
「なんでや!? せっかくの夏休みなんですよ!」
「と言ってもよぉ、この暑さの中外出る気か?」
「……家で大人しくしておきます」