東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
意識を手放した霊夢をそっと抱きかかえ、ゆっくりと地面に寝かせる。
彼女が気絶したのは幸いだった。いくら緊急事態といえども、俺としては自分の正体はあまり彼女らにバレたくなかったからだ。
自慢のスピードで瞬間移動したかのように倒れている美夜のもとに向かう。
彼女も酷い傷だ。身体中に弾幕や槍のような突起物で抉られたような跡がある。
すぐさま治療系の術式を彼女にかける。元々意識はあったのか、傷が楽になると美夜はその瞼を開き、俺を凝視した。
「……っ、お父さん……」
「喋るな。ゆっくり休んでろ。そしてよくここまで頑張ったな」
「でも私、あれに時間稼ぎしかできませんでした……っ」
「後悔と反省は後だ。それよりもーー来るぞ」
『お久しぶりです楼夢さん。会いたかったですよぉ!』
その場に似合わない明るい声がスピーカーのように辺りに響く。
それと同時に枝の槍が数百、下手をすれば千にも及びそうな数作られる。
妙だな……。あれだけの力があったならいつでも霊夢たちを殺せたのではないか?
そう思っていると、西行妖の花が満開になっていることに気がついた。
なるほど、封印か。あの様子からして完璧に力を取り戻したのは今さっきの出来事なのであろう。
そんなことを呑気に考えている間に、西行妖の枝は空を覆い尽くすように広く展開されていく。
そして前方から枝が一斉掃射されーー瞬きの間に散りと化した。
『……はっ?』
「ったく、挨拶と同時に攻撃してくるんじゃねえよ。神奈子からはそんなことも習ってなかったのか?」
『……っ! あの人たちの名前を出さないでください! 目障りなんですよぉ!』
「……あっそう。それはどうでもいいとして、さっきの攻撃の間に瀕死になってる奴らは全員回収しておいたけど文句あるか?」
『いつの間に……』
早奈の戸惑う声が聞こえる。
まあ辺りに転がっていたはずの人間たちがいつの間にか消えていたらそりゃ誰だってそうなる。
この場にいては邪魔になると判断して霊夢、魔理沙、咲夜、美夜……とおそらく妖忌の孫さんは全員博麗神社に転送しておいた。
俺の速度は通常時でも目に映らないくらいは速い。この程度のことなら朝飯前だ。
『……ふざけないでくださいよ……っ』
「ふざけてねえって。ほれ、攻撃したけりゃ攻撃すればいいじゃねえか」
『だったらお望み通りここら一帯を消し炭にしてやりますよ!』
西行妖に膨大な妖力が集中していく。それによって大気が、地面がグラグラと揺れていた。
しかしそんな中でも俺は何もせず、両手を下げてただ西行妖をジッと見つめるのみ。
そして巨大な光とともに早奈の渾身の呪いが込められた黒い極太レーザーが放たれる。
『【
「……撃ち落とせ、『
一言そう呟く。
それだけで西行妖に突き刺さっていた白黒の双刀がひとりでに木から抜かれ、空中を飛びながら黒い閃光を切り裂いた。
『くっ……ならこれでどうですか!?』
西行妖から弾幕や死蝶、レーザーや枝の槍などありとあらゆる攻撃が大量に俺に集中して放たれる。しかし無駄なことだ。
イメージするならばソードピットだろうか。意思があるかのように縦横無尽に空を駆け巡り、俺に当たるであろう全ての攻撃を次々と切り裂いていく。
もちろん天鈿女神に自動操縦機能が追加されたわけではない。ただ俺が念力まがいのことで刀を動かしているだけだ。
しかしそれだけで西行妖の全ての攻撃が防がれていく。どちらの方が上なのかは、これではっきりとわかった。
「さて、まずは俺の友人を返してもらおうじゃねえかっ!」
未だ黒い霧に取り憑かれて苦しんでいる幽々子。それを縛り上げている枝に向かって黒刀を突撃させた。
爽快な音とともに枝が抵抗なく両断される。そして自由になった幽々子をお姫様抱っこで抱きかかえ、後方に移動した。
しかし幽々子はそれでも目を覚まそうとしない。額に手を当てて状態を検査してみると、西行妖に燃料タンクとして使われていたせいで深刻な妖力枯渇に陥っていることがわかった。
なので妖力をいくつか分け与えた後にスキマを開いてまた博麗神社へと送っておく。
「さて、西行妖の燃料が抜き取られちまったぞ。さっさと降伏してくれた方が俺的には楽なんだが」
『……そうですね。もう
早奈が冷たくそう告げると、突如西行妖が暴走し出した。
『アギャァァァァァァアアアア!!!』
獣のような咆哮を上げながら、狙いもつけずむちゃくちゃに弾幕をばらまいていく。
いや、違う。あれは苦しんでいるのだ。その証拠に目に見えるほどに西行妖に変化が訪れてきた。
天を覆い尽くすような無数の枝。それらはみるみる痩せ細くなっていくと、音を立てながら次々と折れ、地面に落ちて砕けていく。
いや、枝だけではない。全体的に水分が抜かれたかのように痩せ細くなっていき、あれだけ妖しく咲いていた満開の桜たちは色を落として次々と灰となって消えていった。
その原因は幹の中央にある。どうやら西行妖はそこに強制的に妖力を吸われているらしく、今でももがき苦しんで断末魔をあげている。
そして西行妖がとうとう動かなくなった。その途端、幹がパッカリと二つに分かれ、中から見たことのあるシルエットが出てきた。
「んー! 久しぶりの外の空気は美味しいですねぇ。いえ、美味しいのは楼夢さんが近くにいるからかなぁ? キャハッ」
西行妖の花そっくりの鮮やかな紫色の髪。そして優美さを感じさせる黒の和風ドレス。頰は赤く火照っており、それがどことなく妖艶な魅力を醸し出させていた。
かつての光景が蘇る。諏訪神社で一緒に暮らしていた平和なころの思い出。
今となってはただ虚しいだけの記憶。しかし、目の前にはその記憶の中の姿を取り戻した早奈が妖しげに微笑んでいた。
「……へぇ。こいつは驚いたぜ。まさか四人目の伝説の大妖怪が出現するとはな……」
ビリビリと大気が震えているのを嫌でも感じる。これほどの圧は火神や剛と戦った時しか味わったことがなかった。
間違いなく、今の彼女は伝説の大妖怪の領域に達していた。
ただ魂を吸っただけではこうはならない。おそらく、昔刺し違えて心臓を貫かれた時に吸収された力を千年の間に食らっていたのであろう。
「ふふ、楼夢さん。この刀を覚えていますか?」
「……ああ、覚えてる。なんせ俺がお前のためを思って作ったんだからな」
早奈が手を振りかざすと、そこに妖力が集中していき、やがて一つの日本刀になった。
刃に金属はほとんど使われていない。耐久性に優れ、力が通りやすい水晶を厳選されたものが材料に使われているからだ。
そのせいで、刃の部分は透明で奥が透き通って見える。まるで芸術品のような美しい刀だった。
「よかった。私だけじゃなくて、この子も喜んでいますよ。ねぇ、【
「……っ、それはまさか……!」
早奈が聞き覚えのない名前を呼んだ。すると空のように透き通っていたはずの刀の刃が突如紫を帯びた邪悪な闇に染まった。
俺はあれの正体にいち早く気づいた。
当たり前だ。自分の相棒と同じ武器なのだから。
愛おしそうに刃を撫でる早奈に向かって叫ぶ。
「お前、まさか西行妖の魂を触媒に妖魔刀を作ったのかっ!!」
「ふふ、ご名答。……ほら妖桜、愛しのパパですよぉ? ちゃんと挨拶しましょう、ねっ!」
「っ! 響け【舞姫】!」
俺の周りをさまよっていた双刀はそれぞれ白と黒の光に変わると、合体し一つの光の球体へと変わった。
それに手を突っ込み、中にある柄を握る。そしてそれを引き抜いた。
現れたのは、これまた美しい日本刀だった。
淡い桃色の長い刀身。その峰の部分には七つの小さな穴が空いており、そこを通して魔除けの鈴が七つつけられている。
久しぶりに握った相棒の感触を味わう間も無く、それを振るう。そして早奈の妖桜と激突し、激しい衝撃波が周りに発生した。
そのまま二人はその場に静止し、力と力の鍔迫り合いが始まる。
「……ぐっ、さすが楼夢さんっ。この子の一撃を耐えるなんて……!」
「はっ、お前こそよく腕が千切れなかったな……っ! 衝撃波だけで腕が飛ぶやつが多いのによ……!」
「ふふ、あいにくとそこまでヤワじゃありませんの、で……!」
「そうかい。なら遠慮なく切らせてもらうぜ!」
持ち前のテクニックで上手く早奈の重心をズラし、彼女の刀を横に弾く。そしてガラ空きになった体へその刃を振るった。
しかし早奈は刀が弾かれた勢いを利用して回転すると、俺の斬撃をスレスレで回避する。そしてカウンターに回転斬りを繰り出した。
こちらもそれに反応して彼女の斬撃を受け流し、お返しに回転斬りを繰り出す。
この間約一秒未満。
両者踊るかのように斬撃を繰り出す。回って、回りながら攻防を続け、時たまにパターンを変化させながら互いに変幻自在に攻撃していく。
しかし、俺には次彼女が何を繰り出すのかがはっきりとわかっていた。おそらく彼女も同じだろう。だから数十数百も刀を合わせても傷一つ負わない。
そう、
「ちっ、一番弟子の美夜よりも強いってどういうことだよ!?」
「吸収したのは力だけじゃないんですよ! 楼夢さんに宿るその記憶も全て見させてもらいました!」
よく見れば刀の大きさも、長刀なのに片手持ちということも、全てが俺に似ていた。
なら剣術で追い詰めるのは無理なようだ。記憶を見ただけでは楼華閃をここまでマスターすることはできない。おそらくこの千年間の間ずっと俺のを見てはイメトレでもしてたのだろう。俺のことに関しては変態的な早奈なら十分にありえる。
ならば……。
俺は空いている手のひらを彼女に向ける。そしてまたもや同じタイミングで、早奈は左手を俺に向けてきた。
「「【メドローア】!」」
二つの消滅の閃光。それが互いに衝突し、辺り一帯を一瞬だけ光で包み込む。
俺の顔が驚愕に染まる。その一瞬を突いて早奈の蹴りが俺の腹部を捉えた。
それを自ら後ろに飛ぶことで威力を半減させ受け流す。しかし半減とはいえ当たったのは事実だ。この六億年経っても打たれ弱い体にはちょっとばかしキツイ。
それよりもだ。
先ほど早奈が放った閃光。あれは紛れもなく俺が愛用するメドローアだった。それにたった今受けたばかりの蹴りも俺のとよく似ている。
……おいおいマジかよ。剣術だけじゃなくて術式、果てには体術までコピーしてんのかよ。シャレにならんぞそれは。
「……ちっ。また俺の技かよ。この千年間俺の記憶を覗く以外になんかやることなかったのかよ」
「私にとっては何よりも有意義な時間でした。ただ、楼夢さんの記憶では女性が多く出てきたのでちょっと妬いちゃいましたけど」
「……お前のはちょっとじゃねえだろ」
「でも女性にだらしないのはどうかと思いますがねぇ。そんなお父さんの姿を見てお子さんたちは何を思ったのでしょうか?」
「うっ……!」
畜生! まさか剛の次に頭がおかしいと思ってた早奈に言い負かされる日が来るなんて! 正論すぎて何も言い返せない!
「だから……今後は私だけを愛してください。私だけを求め、私だけが世界になってください。私と……結婚してください」
その言葉を言った時の早奈の目は真剣そのものだった。
こいつの言葉は全て本心なのだろう。今の告白も、俺のことが好きだということも。
『楼夢さん。私は……私は……あなたのことがーーーー』
『……その言葉だけは言っちゃ駄目だ……』
あの雪降る別れの日。おそらく本来はあの時聞かされたはずの言葉。……そしてそれを遮ったのは誰でもない俺自身だ。
怖かったんだ。当時の俺は早奈を愛しているとは言えないが好ましく思っていた。あの枝のように脆く、呪いに苦しむ彼女を支えたいと。
もしあいつの言葉を当時の日に聞いていたら、果たして俺は断れたのだろうか。
しかし俺は妖怪、早奈は人間だった。
この六億年間で何人もの人間と出会った。共に笑い、共に泣き、そして俺を置いて全員死んでいった。
早奈もいずれは俺を置いて死んでいくのだろう。それが堪らなく恐ろしかった。
「……あの時に今の言葉を聞いたら、俺はおそらく断れなかっただろうな。でもな……俺が好きだったのは人間の早奈であってお前じゃない」
「楼夢さん……」
早奈の妖桜を握る手が強まるのが見えた。そして俺も血が滲むほど舞姫の柄を強く握りしめる。
そしてそれの切っ先を早奈に突きつけた。
「こいつは俺の責任だ。俺が逃げたから人間の早奈が死んで……お前という妖怪が生まれてしまった。だからこそ、俺は早奈のためにお前を斬る」
「……ふふ、だから私はあなたのことを愛したんですね。……それじゃあ私も悪役らしく、楼夢さんの体を奪ってあなたを愛し殺します。そうすれば私たちは一生一人で二人になれる。私と楼夢さん以外、この世には何もいらない」
「……斬るにふさわしい相手の言葉が聞けてよかったぜ。そんじゃ最後に、俺の世界にお前を案内してやるよ!」
刀を逆手に持ち替え、思いっきり地面に突き刺す。
そして俺と早奈を中心に浮かび上がった巨大魔法陣が光り輝き始めた。
「【思想結界】」
そう呟くと、辺りが目も開けられないほど強い光で満ちる。
そして気がついた時には、世界が変わっていた。
目に映るのはボロボロに崩れかけているビルの摩天楼。それが上下左右バラバラでひたすら空を漂っている。
そしてその一つに、俺たちは立っていた。
「……これは?」
「【思想結界】。俺の精神世界に相手を招待する術式だ。この千年間で成長したのはお前だけだと思うな」
「随分寂れた世界ですね……。この世界からは哀しいという思いが伝わってきます」
哀しい、か……。それは多分俺のじゃなくて、俺の元になった白咲神楽のものだろう。
まったく迷惑なもんだ。ここなら剛戦で使った【反転結界】と違って暴れても壊れる心配はないとはいえ、殺風景すぎて虚しくなる。
だけどまあ……今はこのくらい静かな方がいいのかもしれない。
「いくぜ早奈……お前の全てを叩き斬って、お前を救う」
「それなら私は楼夢さんの全てを奪って、あなたを一生愛します」
それぞれの妖魔刀ーー舞姫と妖桜に膨大な妖力が集中していく。
そして同時に、俺たちは封印解放の名を詠った。
「鳴り響け……【天鈿女神】ッ!」
「咲き狂え……【
「台風が来てもドラクエ5やってました。カジノはコンプ、仲間も最強クラスのが複数、そして主人公のレベルが81と、全クリ前なのにもはやミルドラースどころかエスタークすら楽勝で勝てる状況になっていて正直上げすぎたと反省している作者です」
「エスタークですらプロじゃなくてもレベル50相応の実力があればなんとかいけるんだぞ?(体験談) もはやそれヌルゲーだろ、と狂夢だ」
「さて、今回は早奈戦でしたね」
「幼体化時とのギャップのせいで違和感を感じたが、そういや楼夢ってこういうやつだったな」
「喋り方などに関しては久しぶりすぎて結構疲れました……」
「おい、仮にもこの小説の主人公は男だということを忘れんなよ」
「もういっそ本当に性転換させよっかなぁ……」
「……それはガチであいつが泣くからやめてやれ」