東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:日差丸

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霧が操る不思議な宴会

 

 

「お父さん……宴会って、こんな頻繁に開かれるものなんですか?」

「いや、今回のはさすがに異常だよ。いくらなんでもやりすぎてる」

「そ、そうですよね……んぐっ!? 安心したら胃から逆流して……!」

 

  顔を青ざめて、ダッシュでトイレへと向かっていく美夜。

  そこに凛々しいいつもの姿はなく、家族でもなければとても見せられないような表情をしていた。

  奥の方から聞こえてくるうめき声で、必死に酸っぱいものを吐き出していることがわかる。他二人の姉妹なんて姉の豹変っぷりに顔を青ざめ、あちらで起こっていることを想像しないように耳を塞いでいる。

 

  やがて数分後、ふらふらとした足取りで彼女は居間に帰ってきた。

  体力を使い果たして床に倒れこむ姿は、ゾンビを連想させてくれる。それほどまでに、美夜の体調は悪かった。

 

「美夜姉さんが飲みすぎるなんて珍しいねー」

「いえ、違いますよ清音……これは宴会が悪いんです……」

「宴会に罪はないよー?」

「だからって、もう四回目ですよ四回目!? 三日置きに一回は宴会、そんなペースで飲んでたら気持ち悪くなるに決まってるじゃないですか……」

 

  そう、美夜が不調な原因。それは宴会にあった。

  事の始まりは春雪異変解決祝いの宴会のことだ。魔理沙が幹事を務め、多くの妖怪を集めた宴会は成功だったと言えよう。

  しかし、そこからが問題だった。魔理沙はそれから三日置きに再び幹事として宴会参加者を集めては、花見の季節はとっくに終わったっていうのにこうして意味もなく宴会を開いていたのだ。

  しかも断ろうと思っても、なぜか魔理沙の話に乗せられて参加する気になっちゃう。そして宴会が開かれれば当然酒を飲むわけで、あまりアルコールに強くない美夜は四回目の後からずっとこの調子だ。

 

  正直、これに関しては本当に異常だと思う。というよりこれはもはや異変の域に入っている。

  実際、私もこの異変にはいくつか困っていることがある。一つは今さっき見たように、美夜の体調が宴会のせいでよくないこと。二つ目は宴会場にいつも博麗神社が選ばれるため、あれだけ私が貯めておいた食料が底を尽き掛けていること。

 

  まあ、犯人の目星はついてるからいいけどさ。

  ちょうど今日は前回の宴会日から三日後だ。この機会に色々あいつに言ってやらねば。

  幽々子や紫が前に言っていた『気になること』ってのは多分この異変のことなんだろうね。最初の宴会の時点で違和感に気づくなんてさすがは大妖怪最上位ということではあるか。

  え、私? ……どーせ私はクソザコな中級妖怪ですよぉ……。紫やフランのことに夢中でそんなものぜんっぜん感じませんでしたー。

 

「とりあえず、美夜は今日行くのやめときな。このままじゃさらに悪化させるだけだよ」

「いえ……私が行かないと、妖夢が寂しい思いをしそうなので……」

 

  まったく、あなたって子は……。

  これは早急に異変を解決する必要がありそうだね。

  妖怪が起こした異変は人間が解決するのが幻想郷のルールだけど、今回ばかりは仕方ない。可能なら今夜で終わらせてみせる。

 

  窓の外を覗くと、夕日が沈んで行くのが見えた。

  あと数時間で宴会が始まる。

  私は自室に戻り、戦闘の準備を整えて、その時が来るのを待った。

 

 

  ♦︎

 

 

  月がすっかり上り、星々が輝くころに私は博麗神社の鳥居をくぐる。

  その後ろに美夜の姿はない。今の私はただの『楼夢』として活動しているため、彼女が私と一緒にいると都合が悪いのだ。

 

  まだまだ始まったばかりなので人数は少ないが、それでも境内は賑わっていた。

  まっすぐ進むと、お賽銭箱がポツリと置かれた本殿が見えてくる。私はその横に座っている人物に声をかける。

 

「やあ霊夢。宴会は楽しんでる?」

「……ねえ楼夢、一つ聞きたいんだけど。あんた何か面倒なことを起こしてない? 例えば……異変とか」

 

  おいおい、出会っていきなりの言葉がそれですか……。

  どうやら私は幻想郷でロックオンされたら一番面倒くさい人一位に目をつけられてしまったようだ。

  まあ、考えてみたら幽々子や紫が気づいてる時点でこの子が異変のことを察してないわけないよね。さすがは霊夢、自慢の勘で犯人に心当たりのある私を引き当てたってことか。

  しかし……困ったね。

  彼女は異変解決の時に、見境なく妖怪をブチのめすことで有名だ。ここはなんとか誤魔化さないと、犯人を倒す前に私が倒されちゃう。

 

「異変? なんのこと? 変わったことと言えば最近宴会が頻繁に行われていることぐらいだけど……幻想郷だし、そういうこともあるんじゃないの?」

「……そうね。よく考えたらあんたがこの境内の中の全員に術式をかけることなんて不可能だったわね。忘れてちょうだい」

 

  ……なんとか切り抜けられたのかな?

  霊夢はまだ私を少しだけ疑っていたようだけど、常識的に考えて有り得ないと判断したのか、その後どこかへ歩いて行ってしまった。

  そこに霊夢が私のことをある程度信じていることを知り、ちょっぴり胸が痛くなる。今回の異変はたしかに私がやってるわけじゃないけど、本当の姿に戻れば同じようなことができるのは確かなのだ。

  私が他人のことで悩むなんて、本当に私は霊夢を気に入ってるんだなぁ。この痛みもその代償だと思えば、安いと思える。

 

  それにしても……探してるものが見つからないな。ここにいればいつかは見つかるんだろうけど、待つのは面倒だ。

  しょうがない……。

  私は左側にぶら下げている二本の刀のうち、片方の柄頭を軽く叩く。すると私の脳内に直接女性の声が聞こえて来た。

 

『はーい、呼ばれて飛び出てないけどじゃじゃじゃじゃーん! あなたの下僕の早奈さんですよー?』

『ねえ早奈。今妖力を含んだ霧を探してるんだけど見当たらなくてさ。手伝ってくれない』

『お任せあれですよ楼夢さん! 代わりに何かご褒美くださいね?』

  『……あー、はいはい。あとで考えとくね』

 

  まあ適当に頭でも撫でてあげるか。どうやら早奈はそれだけでも満足するようだしね。まさにチョロインである。

  早奈は黒い魂魄となって刀から抜け出すと、上空にふわふわと飛んで行く。そしてしばらくして、彼女の声が再び脳内に響いてくる。

 

『ありましたよー! 本殿の屋根の上です!』

「……ナイスだよ早奈。それじゃあ、始めるとするか」

 

  私は術式によって人目を消すと、地面を蹴って大ジャンプ。一気に瓦張りの屋根の上に着地する。そして辺りを見渡すと、そこには幽霊状態の早奈と—–—–妖力を含んだ、不思議な霧が見えた。

  あった……。この妖力、どうやら私の予感は当たっていたようだ。

  右手を霧に向けて突き出し、能力を発動。封印が解かれたことにより、私の能力は【形を歪める程度の能力】ではなく、元の【形を操る程度の能力】に戻っていた。

  それを使用して、目の前の霧を出来るだけ圧縮させていく。霧はどんどん規模が小さくなっていく代わりに濃さを増していった。

  そして—–—–。

 

「もー、誰だい!? 私の楽しみの邪魔をするやつは!?」

 

  幼い子供特有の、高い少女の声がどこからか聞こえてきた。

  声の主はそう怒鳴り散らかすと、霧がどんどん収縮していき—–—–最終的に、フランとそう変わりないほどの身長の少女へと変わる。

 

  薄い茶色髪に、側頭部から生えている長くねじれていて、特徴的な二つの角。その容姿に私は見覚えがあった。

 

「……やあ。久しぶりだね、萃香」

「んー? ……ああ! お前誰かと思ったら楼夢じゃん! お久しぶりー!」

 

  お、幽々子に続いて一発で私のことを見抜いたやつは二人目だね。どうせ鬼のことだし、なんとなくで当ててそうだけど。

 

  伊吹萃香。鬼の四天王の一人。彼女は【密と疎を操る程度の能力】を持っており、今回の異変はこの能力によるものだと推理することができる。

  原理は割とメチャクチャで私も完璧には理解してないのだけど、彼女の能力はどうやら物体だけでなく意識といった形のないものにも作用するらしい。それで幻想郷中の住人の意識を集め、宴会を開かせたといったところか。

 

  萃香は私を認識すると、こちらに歩み寄ってくる。しかしその足取りはおぼついておらず、右へ左へふらふらと千鳥足のようになっていた。

  まったく、相変わらずの酒好きだね。もう酔っ払ってるのか……。

  そんな私の呆れた目線に気づかず、萃香は鎖で繋いである瓢箪の蓋を開けると、顔を限界まで上に向けてそれを口に含み、中に入っている酒をガブ飲みし始めた。

  うーむ、顔を真っ赤にしながら浴びるように酒を飲む少女……確実に外の世界だったらアウトだね!

  その十数秒後に彼女は満足したのか、ようやく口から瓢箪を離し、もたれかかるように私の肩に手を回してくる。

 

「おー、ちっちゃくなってるから肩を組むことができるね。勇儀や母様がやってるのを見て、一回でもいいからしたかったんだよなぁ〜」

「ちょっ、萃香、酒臭いよ……!」

「なにぃ〜? 酒が臭いってぇ? それだったら飲んで確かめてみろや!」

「そんなことは誰も……モガッ、ガガガガッ!?」

 

  この酔っ払いが!

  抵抗虚しく、鬼の腕力によって私は強制的に口を開かされる。

  そしてそこに萃香の瓢箪がシュート!

  ひんやりした酒が喉に押し込まれるたびに、反比例して私の内側から熱が生み出される。しかしそんなことを感じる間も無く私の体が呼吸ができなくなったことで酸欠に陥り、視界が真っ白に包まれていく。

 

「んー? おーい楼夢ー? 大丈夫かー? ……大丈夫じゃなさそうだね」

 

  さすがに無反応になってきた私に危機感を覚えたのか、萃香は私の口から瓢箪を抜く。そしてようやく解放された私は、意識を失いかけたことで地面に倒れ伏し、地上に打ち上げられた魚のようにしばらくの間痙攣していた。

 

  お……のれぇ……! 私には異変解決というっ、使命がぁ……!

  ここでくたばるわけには……いかないっ!

  力が入らず、震える手で舞姫の柄を掴み、抜刀する。そして屋根を這いずりながらも、その刃を萃香へと向けた。

 

「萃香……っ。今すぐ能力を解除して……! じゃないと私が、あなたを倒す……!」

「……えーと、そんな弱った様子で言われてもこっちも困るというか……」

 

「そこまでよ、二人とも」

 

  突如、私でも萃香でもない声が私たちの会話を断ち切った。

  そして何もない空間が突如切り裂かれ、出来上がったスキマから紫がいつものように登場する。

 

「げっ、紫……」

 

  萃香は紫を見て、明らかに苦い表情をした。

  別段仲が悪いわけではない。しかし今起こしている異変のことを考えると、紫が来てしまったのは彼女にとって最悪だった。

  なぜなら、紫は萃香がこの世で荒事で勝てないと認める存在の一人だからだ。萃香の【密と疎を操る程度の能力】と彼女の【境界を操る程度の能力】は相性が最悪だ。どんなに萃香が物の密度を操ろうと、紫は一つの行動だけでその全てを打ち消すことができる。彼女の前では分身も霧化も巨大化も、全てが無駄になってしまう。

  故に、萃香は紫に勝つことができない。

 

「……そんなに心配しなくても、今日はあなたには何もしないわよ。今用があるのはあなたよりも……こっちよ」

 

  しかし紫は萃香ではなく、私の元に歩み寄る。そして腕を振るうと、四つのスキマが私の周りに展開され、そこから飛び出た鎖が私を拘束した。

 

  へっ?

  え、ちょ、紫さん?

  戸惑う私。そんな私に罪悪感を覚えているのか、紫は申し訳なさそうな顔をしてるけど、それだったらこれを外してほしいなぁ!

  一応もがいてみたけど、ビクともしない。

  クソ、こんなところでも筋力ステータスの被害が……。

 

「ごめんなさいね楼夢……だけど異変解決は人間がするもの。今終わらせるわけにはいかないわ」

「ぐっ……でもこのままじゃ神社の食料が……!」

「どうせ次の宴会で終わるわよ。霊夢も勘づいてきているみたいだし、そろそろ動き出すと思うわ」

 

  だから、それまでの辛抱、と紫は付け足す。

  はぁ……。まあ、しょうがないか。幻想郷の秩序を私のわがままで壊すわけにもいかないしね。

 

「えー、ここまで来てそりゃないでしょ? さあ、ドンパチやろうぜ!」

「だからやらないって言ってるでしょうが。だいたい、楼夢は異変のたびになぜか死にかけるほどの悪運を持ってるのよ? 今ここで戦わせたら、偶然急所に拳が当たってまた寝室送りになるかもしれないじゃない」

 

  おい紫、そりゃあんまりだよ……。

  だいたい、私だって毎回死にかけてるわけないじゃないか。

  紅霧異変の時は……フランにやられたね。

  じゃあハロウィンラッシュ異変は……ルーミアにやられたね。

  じゃ、じゃあ春雪異変は……早奈にやられましたね。

  ちくしょう、私本当に毎回死にかけてるじゃないか!? いくらなんでも貧乏くじ引きすぎでしょうが!

 

「だいたい、死なせないための弾幕ごっこなのになんでそうなるのよ。そもそもは楼夢が—–—–」

「……あ、はい、すんません……」

「そう思うのなら二人とも今すぐ正座しなさい! そして私の話をよく聞くこと!」

「……え、なんで私まで?」

 

  ブツブツと紫の説教は続く。

  初めは幻想郷のルールが何のためにあるのかから始まってたけど、途中から話が脱線して私への愚痴になってしまっている。

  隣にはなぜかとばっちりで正座している萃香がいる。どうやらジッとして退屈な話を聞き続けるのに我慢できないらしく、何度も霧になって逃げ出そうとしてるみたいだけど、その度に紫が睨んでくるので全て失敗に終わっているようだ。

  ぷぷ、ザマァみなさい。今回の異変を起こした罰だと思いやがれ!

 

「そこ、集中して聞きなさい!」

「もぎゅらん! ……たわらを落とすのはやりすぎじゃないかな……」

 

  結局、紫のありがたいお説教は三十分近くまで続いた。

  そのころになると下で宴会を行なっている連中も盛り上がってくるのだけれど、私たちは逆にヘトヘトだ。

  隣にいた萃香は、話が終わった途端に逃げ出してしまったので、今はいない。代わりにいるのが普段言えない愚痴を全て吐き出せたことで満足そうな顔をしている紫。

  とりあえず、今日わかったこと。

  ゆかりんを本気で怒らせてはいけない。オーケー?

 






「ちょっと感覚が空いちゃった気がします。最近文字数が多くなることが多くて、今回の話も本当は一つだったものを半分にして投稿しています。なので次回はそれなりに早く投稿できると思うのでお楽しみください。作者です」

「最近PS4が欲しすぎて駄々をこねている作者を見守る狂夢だ」


「いやー、それにしてもPS4欲しいなぁ」

「テメェは勉強してろ受験生。というか、もし買ったとしても遊びたいソフトはあるのか?」

「そりゃありますよ! ドラクエ10と11は確定でやりたいし、イナイレも発売したら欲しいですね! あと最近話題になってるJUDGE EYES とか」

「ああ、キムタクが如くか……。あれはたしかに面白そうだな」

「でしょでしょ!?」

「でもよ、もしPS4を買ったとして、それをどこに置くんだ? シャイボーイの代表格とも言われたお前じゃリビングはハードル高すぎるし……」

「……えーと、テレビ購入も含めて何万円になるんだろうなぁ……」

「こいつ、部屋から出たくないあまりにテレビごと買うつもりだ!?」

「というわけで今日から貯金生活が始まります。もしよかったら、恵まれない作者に募金を……」

「誰がやるかってんだ!」
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