東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
結局、私がほとんど参加することなく宴会は終了した。
美夜はまだ友人たちと話していたいそうなのでここにはいない。
まったく、いつのまに話し相手をあんなに増やしたのやら。昔から山奥の神社に全員ずっと暮らしていたせいでわからなかったのだけど、どうやら彼女には人を惹きつける魅力があるらしい。本人の丁寧な言葉遣いや性格が、他人を気にかけることのできない者の多い幻想郷では珍しいらしく、たちまち人気者になっていた。
他の二人も外に出せばああなるのかなぁ……。いや、無理だね。だって美夜が例外というだけで、あの二人は私と同じ自己中の塊だもん。
可愛い娘の成長を嬉しく思っていると、ふと隣から息切れをする声が聞こえてきた。
はぁ……いくらなんでも体力なさすぎでしょ。
そんな思いが顔に出ていたらしく、息切れの主である紫が睨んできたけど、正直言って迫力が足りない。
「というか、わざわざ送ってくれなくても良かったのに。どうせ私の速度じゃすぐに着くんだから」
「今日は私の愚痴に付き合わせちゃって、ほとんど飲めてないでしょ? それのせめてものお詫びよ」
紫は宴会の時の自分を思い出し、若干顔を赤くしながら私にそう謝る。
ああ、一応罪悪感はあったんだね。
思い返してみれば、最近の紫は何か忙しそうだったような気がする。
彼女はこう見えても幻想郷の管理人だ。さっきの私みたいにルールを破る者を取り締まったり、天界や冥界、地獄などの別世界と結ばれた条約関係のことで話し合ったりなど、その仕事はかなり多忙だ。
まあ、ほとんどは式神である藍に押し付けているらしいけど。ほぼ毎日私の屋敷に通うことができるのはそれが理由。
そういえば、別世界との条約で思い出したけど、萃香ってもしかしなくてもそれを破っているよね?
地獄のスリム化によって切り離された地下世界『旧地獄』。またの名を地底。
そこには鬼を含め、様々な忌み嫌われた妖怪たちが集まっており、暮らしているのだという。
昔地獄にいた時に知ったんだけど、四季ちゃんの話では昔その地底と地上の妖怪の間にある条約が結ばれたらしい。
たしか……地底の妖怪がそこにいる怨霊を封じる代わりに、地上の妖怪が地底世界へ侵入することを禁じたんだっけ。
まあ細かいことは色々あるらしいけど、とりあえず地上と地底は互いに無干渉を約束したそうだ。
でも、萃香はそれを思いっきり破ってる。
しかも彼女は鬼の四天王だ。地底でも発言力は強いだろう。
そんな彼女が条約違反したのだ。そりゃ紫も忙しくなるか。
「紫、今日はうちに泊まっていきな」
「……へっ? え、えええっ!?」
紫をリラックスさせてやろうとして言った言葉なのだけど、それを聞いた瞬間、彼女はしばらく呆けたあと、沸騰したかのような勢いで顔を真っ赤に染めた。
「随分疲れてるようだし、たまには労ってやらないとね?」
「そ、それは嬉しいけど……その……準備が整ってないというか……」
「ん? 服とかだったらスキマで持ってくればいいじゃん」
「そういう意味じゃないわよ!」
ふむ……では何の準備だというのか。
これだから乙女心とやらよくわからない。
そうやって会話をしながら境内へと続く長い階段を上っていくと、博麗神社のとは比べ物にならないほど立派な鳥居が見えてきた。
しかし、妖獣として優れた視力を持つ私には別のものも見えていた。
そう、
「……ん、誰だあいつ?」
「どうしたの楼夢?」
「いや、鳥居の上に誰かいるんだよ。もうちょっと近づけば……」
流石に夜ということもあり、ここからじゃ人影だけしか見ることができない。なので階段を上るついでにずっと上を見上げ続けていくと、やがてその全貌が月明かりに照らされて見えてくる。
紅色の美しく、長い髪に赤い着物を着た女性。両手には鎖などが巻きつけられ、アクセサリーとなっている。
……まさか、まさか……!
嫌な予感がしてくる。本能が今すぐ引き返せと警告を続ける。しかしそれとは別で、女性から放たれている威圧感が、そんな私の行動を制限する。
結局、私は威圧に負けて一歩一歩と足を進めた。そして女性の額から二本の角が見えた時、こう確信した。
—–—–ああ、おワタ、と……。
「……久しぶりじゃな、楼夢」
この声。この威圧感。
人違いであって欲しかったけど、残念ながら本物のようだ。
鬼城剛。伝説の大妖怪の一人であり、ここ幻想郷にもっとも来てはいけない人物ナンバーワンが、なぜか私の神社にいた。
「……あは、あはは……なんでここにいるのかなぁ?」
「ろ、楼夢、大丈夫……って、ああ! ショックのあまり気絶した!?」
「なんじゃ? 夜だとはいえ、寝るにはまだ早いぞ? この良妻たる儂が優しく起こしてやろう」
……ああ、目の前が真っ白に……。
何故だか力が入らなくなり、私の体が後ろ側に大きく揺れる。でも地面に倒れる前に紫が支えてくれたおかげで、背中に衝撃は来なかった。
ぼやけた視界に二人の姿が映る。
あたふたと動揺する紫。
そして鳥居を蹴って加速し、私の元にダイブしてくる剛。……って、ダイブ!?
そこから先の行動は、ほとんど本能によるものだった。
まず幼体化解除。そう意識した途端に体が光に包まれ、視線が高くなっていく。
そして私……ではなく俺が元の姿に戻ると同時に結界発動!
くらえ、博麗印の『二重結界』を!
正方形を二つ重ねたような形の結界。そこにとてつもない衝撃が襲いかかった。
風圧だけで周りの木々がなぎ倒され、整備された階段がいくつか吹き飛ぶ。
そんな容易く人一人を屠ることができるその一撃を、二重結界は見事受け止めてみせた。
結界に突き刺さっていたのは剛の頭。より正確に言うなら額から生えた二つの巨大な角。
……おい剛さんや。そんな凶器を付けたまま頭から抱きつこうとしないでくれや。十中八九、間違いなく俺の体を突き破るからそれ。
役目を果たした二重結界は光の粒子となり、夜の空に消えていく。
そして支えるものがなくなり、剛は地面に着地すると、今度は加速しないで再び俺に抱きついてきた。
「ふっふーん! 相変わらずのいい匂いじゃのう!」
「ちょっと剛! いきなり抱きつくなんて非常識よこの淫乱女!」
「なんじゃ? 儂はただ夫とスキンシップを取っただけなのじゃが。部外者は引っ込んでおれ」
も、もうやめてくれぇ……。これ以上面倒ごとを起こさないで! 俺のライフはもうゼロよ!
紫は剛から俺を引き剥がそうと、俺の腕を引っ張り始める。……って、普通逆だろ!? なんだ剛じゃなくて俺を引っ張ってんの!?
というか痛い!
当然ながら紫の腕力では剛に敵うはずもなく、ビクともしない。しかし紫が無理矢理俺の腕を引っ張るせいで、綱引きのような状況になって、その負担が全て俺の腕にかかっているのだ。
剛も剛で取られてたまるかと、腕に力を込め始める。するとどうなるか?
「ちょっ、痛い痛い痛い!? おいお前ら、俺を殺す気かぁ!?」
「ほら楼夢もそう言ってるわよ? さっさと離したらどうなのかしらこの怪力女?」
「ほれ楼夢もそう言っておるじゃろう。さっさと離さんかこの根暗スキマ娘」
「テメェら、話を聞けェェェェ!」
俺の必死の命令も虚しく、争い続ける二人。
神様仏様イエス様師父ぅ! なんでもするから、誰か、誰か助けてくれぇ……!
『……はぁ、しょうがないですね。ハーレム野郎には天罰を、と思ってましたが、今回だけは助けてあげますよ』
っと、そんな声が脳内に聞こえてきたかと思うと、突如強い突風が俺を中心に吹き荒れた。
「っ、きゃあっ!?」
「……ぐっ、さすが楼夢じゃな。最強の鬼である儂をこうも簡単に吹き飛ばすとは」
「はぁ、はぁ……助かった……」
その強風は凄まじく、紫はおろか、伝説の大妖怪である剛まで容易く吹き飛ばされ、俺から引き剥がされた。
ありがとう早奈。今回ばかりはマジで助かった。
『いえいえ。というわけで報酬は私と結婚—–—–』
ブチん、という念話の切れる音が脳内に響く。
すまん早奈、なんでもと言ったけどそれだけは無理だわ。
とりあえず、未だに睨み合っている二人に拳骨を食らわしとく。
紫は痛そうにしてたけど、剛のやつはダメージを受けた反応すらしなかった。そんなに俺の拳は軽いですか、そうですか。
……くそったれが。
それはともかく。
話を振り出しに戻そうか。
「なあ剛。お前なんでここにいるんだ? 地上と地底の条約はどうなったよ?」
「条約……ああ、そういえばそんなのもあったのう。しかし、楼夢のこととなればそんなもの無視じゃ無視」
「鬼は嘘をつかないんじゃなかったのか?」
「楼夢よ……世の中にはな、真実よりも大切なものがいっぱいあるんじゃぞ?」
「しれっといいこと言って誤魔化そうとしてんじゃねえよ!」
やりやがったよこいつ!
鬼の頭領、つまりは地底の実質的な支配者にも関わらず条約破ったということは、萃香の比じゃならないくらいの大問題だ。
それを同じく聞いていた紫も、手を顔に当てて呆れたどころか泣き出しそうな表情をしている。
……紫、強く生きろよ。
「とりあえず、さっさとお前は地底に帰れ! 今でも十分ヤバイが、このままじゃ確実に面倒なことになる!」
「嫌じゃ嫌じゃ! そもそも儂は楼夢を地底に連れ帰るためにわざわざ地上に来たのじゃ。楼夢が一緒に来るまで、儂は絶対に帰らんぞ!」
「……はぁ、俺が行けばお前は大人しくなるのか?」
ちらりと紫の方を見る。
自分たちの頭領が掟を破ったとなれば、剛に続いて地上に上がって来る馬鹿どももいるかもしれない。
そうなれば最悪戦争だ。剛を含む鬼たちは戦場が与えられて万々歳になるのだろうが、こっちは違う。確実に紫や霊夢たちは巻き込まれてしまうだろう。
紫の負担になるわけにはいかない。
別の方法として無理矢理帰らせるというものがあるが、こちらは不可能に近い。
なぜなら彼女は伝説の大妖怪だから。万が一暴れでもしたらならば、幻想郷が滅んでしまうかもしれない。
……ここは仕方ないが行くしかないな。
「……わかった。俺が付いて行くから—–—–」
「だ、駄目よ楼夢! そんなことをしたら絶対許さないわ!」
「いや安心しろって。ちょっとしたら帰って来るから」
「駄目なものは駄目なの! わかった!?」
「あ、ああ……」
ガキかこいつは。
しかし、問題が何にも解決してないのにも関わらず、紫の今にも泣き出しそうなほど必死な顔に根負けして、思わず了承の返事をしてしまった。
これでは剛が帰ってくれないし、さてどうするか……。
俺が難しい顔で悩んでいると、紫がなにかを思いついたようだ。
いい案が浮かんだことで表情を明るくし、剛に指を突きつけてこんな提案をする。
「ねえ剛。一つ私と賭けをしないかしら?」
「賭けじゃと? 賭博は苦手なんじゃが」
賭けと聞いてギャンブルを思い浮かべたのか、剛は嫌そうな顔でそう言った。
「そう難しいものじゃないわよ。萃香が最近異変を起こしているのは知ってるわよね?」
「ああ、そういえばあやつもなにかしておったのう。地上に来てからは別行動じゃったから、すっかり忘れておったわい」
「その異変が次の宴会で無事解決したら私たちの勝ち。もし解決しなかったら、その時は楼夢を連れて行っていいわよ」
「おい紫、なにを勝手に……」
「いいじゃろう。その賭け、受けて立ってやるのじゃ」
こうして、俺の自由権は二人の手に握られることになった。
剛は獰猛、紫は不敵な笑みをそれぞれ浮かべる。それによって発生した冷たい空気と殺気が、両方の目線がバチバチとスパークしてる幻覚を俺に見せてくる。
「言っておくが、萃香は強いぞ? 地上の妖怪共がどこまで食らいついていけるかのう」
「あらあら、気が早いのね。幻想郷で争う以上、萃香にも幻想郷のルールで戦ってもらうわよ? それにこちらには博麗の巫女がいる。万が一にも負けはないわ」
「ほう……大した自身じゃな。面白い、精々その博麗の巫女とやらがどのような戦いをするのか、楽しみじゃ」
カッカッカ、と笑いながら、剛は歩いて去っていった。……
おいおい待て待て。
玄関に入りかけたところで、思わず剛の肩を掴んでしまった俺は悪くないだろう。
「どうしたのじゃ?」
不思議そうに首をかしげる剛。
「いやいやどうしたもこうしたもねえよ。何勝手に俺の家入ってるんだよ。不法侵入で訴えるぞ」
「不法も何も、ここは楼夢の家なのじゃから儂の家でもあるじゃろ? そういうわけじゃ」
「……あ、そっすか……」
この暴れまわる厄災を野放しにすることができないというのもあって、結局俺は剛の侵入を許してしまった。
ああ、さよなら俺の平穏ライフ……。
俺がそう黄昏ていると、肩に紫のであろう細い手が置かれる。振り向くと、彼女は任せておけとでも言いたそうな顔でサムズアップした。
「ふふ、安心しなさい。所詮は三日よ。確かに萃香は弾幕も器用に使いこなすけど、霊夢の天才的な技術には遠く及ばないわ。この勝負、私たちの勝ちよ」
上機嫌に鼻歌を歌いながら玄関で靴を脱ぎ始める紫。
そんな彼女に、俺は先ほどから気になっていた疑問を投げかけた。
「……なあ紫、忘れてないか? 最近
「……あっ」
靴紐を解こうと俺に背を向けてしゃがんでいた状態で、途端に彼女は硬直した。
先ほどの鼻歌も止まってしまっている。
……おいおいまさか……。
「まさか、忘れてたんじゃないだろうな?」
「……あはは、あははは! あはははは、はは……っ」
「……笑えねぇ。笑えねぇぞそりゃ……」
—–—–近接弾幕ごっこ。
妖怪の中には、弾幕を作るのが苦手という者がたまにいる。そんな妖怪たちの要望を受け、紫と霊夢によって作られたのがこのルールだ。
今の幻想郷ではこれが作られたばかりという理由で、空前絶後の近接戦ブームになっている。萃香戦の時には当然このルールで勝負が行われるだろう。
しかしそうなった場合、霊夢が萃香に勝てる確率はかなり低い。
練度が圧倒的に違うのだ。元々鬼は近接戦に特化した種族。その中でも技の四天王なんて名前がある萃香は技術面では剛に続いて強い。ぶっちゃけ体術だけなら俺より強いかもしれない。
霊夢は体術に関しても天才的だが、萃香を倒すには少し足りないだろう。彼女は元々遠距離型、弾幕を相手に叩き込むのが本来の戦い方なのだから。
「おい紫、何かいい案はないのか?」
「……」
「紫? おーい紫?」
「……あいるびーばっく」
「おいコラ待てや! 解決策思いつかなかったからって逃げんじゃねえっ!」
俺は紫を捕まえようと手を伸ばしたが、その時にはもう遅く。
紫の真下に開かれたスキマが、彼女を吸い込んでいき—–—–閉じてしまった。
境内の中に残されたのは俺一人。
夜の冷たい風が、ポツンと佇んでいる俺のほおを撫でる。
そして屋敷内から聞こえてくる剛の愉快な笑い声をBGMに。
「……ああ、終わった……」
無表情のまま、静かに地面に膝をついてうなだれるのであった。
「学校のプールがやっと終わった! 泳げない私にとっては死ぬほど嬉しい! 作者です」
「まあ、お前マジでシャレにならないぐらい泳げないからな。クラス内で二番目に遅いやつと50秒以上差のある可哀想な作者を慰めている狂夢だ」
「唐突ですが、また投稿を一週間停止しようと思うんですよ」
「またか? 最近サボりすぎじゃね?」
「いやー、リアルが忙しくなってきたと言うか……。とりあえず一週間だけですので大目に見てくださいよ」
「というわけで、次回はちょっと先になりそうだな。その間にお気に入り登録&高評価をお願いするぜ」