東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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Stage1 近接弾幕ごっこ講座

 

 

  霧の湖近くにそびえ立つ、不気味な紅一面の屋敷、紅魔館。

  その中にある図書館に、私はお邪魔していた。

  ……そんでもって、弾幕ごっこの最中でもあった。

 

「禁弾『スターボウブレイク』!」

 

  色鮮やかな弾幕群を空中を縦横無尽に飛び回ることで避ける。

  ここは地下だが、窓というものが存在する。つまりは地下と一階を隔てる天井がぶち抜かれているのだ。その広さのおかげで、私は自分のスピードを最大限に活かすことができる。

  ハデさはあるが、精度にやや欠けるフランの弾幕では私を捉え切ることは難しい。そうこうしているうちに私は一気に距離を詰め、すれ違い様に弾幕を浴びさせたところでフランの残機がなくなり、弾幕ごっこが終了した。

 

「むー! やっぱ悔しいー!」

「あはは……こう見えて私は霊夢並みに弾幕ごっこが強いと自負してるからね。そう簡単に負けることはないよ」

 

  そう私に論されるが、それでも納得がいかないらしく、フランはほおを風船のように膨らませる。

 

  私とフランがこのように弾幕ごっこで戦っていたのには理由があった。

  というのも、フランは紅霧異変前までは狂気に精神を支配されており、暴れまわっていた。その時の影響なのか、彼女は正気に戻った後でも自分の体から溢れる大妖怪最上位の妖力を制御できていなかったのだ。

  それは流石にマズイということで、提案したのがこれ。 弾幕ごっこをしながら制御を身につけるという至ってシンプルな方法。

 

  実際、これはかなり有効的なものだと思う。なんせ相手を極力殺さないようにするのが弾幕ごっこのルールだから、自然と手加減して弾幕を撃たなきゃいけなくなる。

  今でこそ文句なしだけど、最初のころは酷かった……。

  五回に一回は弾幕の制御に失敗するので、暴走した弾幕が何十個も私に襲いかかり、その度に砕かれる壁を見ては冷や汗を流したものだよ。

 

  それはともかく、これまでの私とフランの戦績は、私の全勝で終わっている。戦うたびに着実に成長しているようなのだが、フランにはその自覚がないらしい。拗ねた顔をしながら私に抱きつき、そのストレスを私の服に顔を埋めて擦り付けることで解消している。

  かわいいなぁ……。なんていつも通りのことを思っていると、フランの方から話を切り出してきた。

 

「ねえねえお姉さん。そういえば近接弾幕ごっこっていうのができたらしいけど、何か知ってる?」

「うん知ってるよ。なに、フランはそれをやってみたいの?」

「やってみたいやってみたい! 前に魔理沙とパチュリーがやってるの見たけど、とてもカッコよかったの!」

「……えっ、パチュリーって動けたの?」

 

  カッコいいパチェってなによ?

  あのパチュリーが走り回って拳を振り下ろしているイメージがどうしてもできないんだけど……。

 逆に、すぐに息切れになって、ヘロヘロになりながら拳を腕ごとグルグル振り回す姿なら想像できるけど。

 

  私がそんな失礼なことを思っていると、フランが私の袖を引っ張って急かしてきた。

  ふむ……正直言って不安はある。妖力はともかく、物理攻撃を手加減することをフランはやったことがない。

  しかしそれならなおさら、対処できる誰かが必ず一度はやっておくべきか。もしフランの初戦がチルノとかだったら大惨事だしね。

 

「よし、やってみるか。フランは近接弾幕ごっこのルールは覚えてる?」

「うん! これを使えばいいんだよね?」

 

  フランがそう言って懐から取り出したのは、スペカに似たカードだった。

  近接弾幕ごっこには、勝つための条件が二つある。

  一つは相手のスペカを全部耐えきること。これは普通のと同じで、ラストスペルが終了した時点で相手が倒れてなければ、自然に発動した方の負けとなる。

 

  そして二つ目。これがあのカードと関係する。

  あのカードには、妖力を込めると紫特製の特殊な結界が発動者に張られるようになっている。その結界を破壊することが、勝利の条件だ。

 

  口で説明するより、実際見せた方がわかりやすいか。

  私とフランはそれぞれ、持っているカードに自分の妖力を込める。するとカードが突如輝き始め、私たちの体に貼りつくように、透明な結界が展開された。

 

「へぇ……。私も初めて使ったんだけど、結界が体を覆っているようには全然思えない。動きに制限もないし、いい仕事するじゃん紫」

「でもお姉さん。これ本当に結界が張られているの? 腕を触っても全然違和感もないし、もしかして故障していたり?」

「それじゃあ試してみる?」

「うーん……痛くないのは知ってるけど、それでも攻撃されるのは怖いなぁ」

「大丈夫。たとえ私の拳が直撃しても、フランにとっては石を投げつけられた程度にしか感じないはずだから」

  「それはそれで悲しいね」

 

  うん、本当にね。本当に悲しいよ。

  というか殴るつもりは流石にないのに。こんなかわいい子を戦闘以外で殴れるほど落ちぶれちゃぁいません。だからね、怖がらないで目を開けといてほしいなぁ。罪悪感湧いちゃうから。

  人差し指を親指にかけ、弓のように引き絞る。そしてそのままそれをフランのおでこにまで持っていき、親指を離した。

  デコピンと呼ばれるそれはたしかにフランのおでこを打った。しかしそれにフランが気づいた様子もなく、ずっと目を閉じてもう終わってしまった痛みを待ち続けている。

 

「フラン、もう終わったよ。さあ、目を開けて」

「え、もう終わっちゃったの?」

「まあ結界の性能はこの通りで……弾幕ごっこ中に発動者を攻撃から守ってくれるんだ」

 

  つまり、これがある限りは近接弾幕ごっこで一番心配されていた怪我というものを最大限防ぐことができる。欠点を挙げるとすれば耐久力の低さだが、ルールによって殺し合いほどの威力の攻撃を放てないようにしてるのでそこは問題ない。

  ちなみに出していい攻一撃の撃力の基準は、一般成人男性に直撃しても即死しないほどになっているらしい。ツッコミどころ満載な基準だが、幻想郷の妖怪たちには実際それがわかりやすかったらしく、事故はほぼ起きていないらしい。

 

「それじゃあフラン。チュートリアルも終わったし、そろそろ始めようか。スペカは三枚でオーケーね?」

「うん! じゃあ早速行かせてもらう、ねっ!」

 

  こうして、私とフランの初の近接弾幕ごっこが始まった。

 

  最初にしかけてきたのはフラン。吸血鬼の身体能力を活かして地面を蹴ることで加速し、私に向かって一直線に飛び込んでくる。

  そのまま空中で拳を振りかぶるんだけど—–—–甘いよフラン。

 

  防御の構えすら取らず、体を最小限動かしただけでその拳を避ける。

  フランは突き出した右拳がターゲットから外れたため、一瞬前のめりになってしまう。

  そこを狙って水面蹴り。バランスを立て直そうと踏ん張っていた右足を刈る。するとフランは自分の加速の勢いを止めきれなくなり、呆気なく転んで自滅した。

 

「うぅ、痛ぁ〜。……って、痛みはないんだっけ」

「ほーらフラン。そんな力任せじゃ私は倒せないよー?」

「むむ……今に見ていてよね!」

 

  フランは元気よく立ち上がると、再度私に突っ込んできた。しかし流石に二度目の過ちは起こさないつもりなのか、威力よりも数というふうに、とにかくたくさんの拳を連続で振り回した。

  右—–—–避ける。左—–—–避ける。

  右—–—–避ける。左—–—–避ける。

  右—–—–避ける。左—–—–避ける。

  右—–—–避ける。左—–—–避ける。

  右—–—–避ける。そして左—–—–に合わせたクロスカウンター。フランの左腕と私の右腕が、綺麗に十字を描いて交差した。

 

  私の右拳が閃光のような速さでフランのほおに直撃する。結界に守られているおかげで痛みはないだろうけど、本能が驚き、フランはふらついて無意識のうちに二、三歩後退してしまう。

 

「うーん、数で攻めるっていう狙いはいいけど、攻撃が単調すぎるね。ずっと左右のフックもどきを打ってたら、こんな風に合わせるのも容易いし」

「だったら、これならどうかな!?」

 

  フランは懐からカードを一枚取り出すと、それを掲げる。

  そして技名を宣言した。

 

「禁弾『カタディオプトリック』!」

 

  放たれたのは無数の青い弾幕。それらが壁や床、本棚などのあらゆる障害物にぶつかり、跳ね返って来て複雑な弾幕包囲網を形成してくる。

  とりわけ、この図書館には障害物が多い。その分跳ね返ってくる回数も多くなり、弾幕はよりランダムに動き回る。

  うーむ、少々面倒だね。

  ならばこちらも派手に行かせてもらおうか。

 

  本棚の後ろなどに隠れながら、図書館中をトップスピードで走り回る。

  ぶっちゃけ刀を使っちゃえば楽だけど、それだと流石に戦力差がありすぎるからね。フランはフランで攻撃を手加減するのに必死のようだし、初戦はこのくらいの方がちょうどいい。

 

  正面から迫ってくる弾幕を、近くにあったテーブルを横に倒して盾にすることで防ぐ。そしてその後は目くらましのためにフランに向けて直接蹴り飛ばし、弾として利用した。

  しかしテーブルごときじゃ避ける必要もなかったらしく、それを彼女の拳一つで粉々に砕け散った。

  すまんパチュリー……あなたのテーブルは元に戻せそうにないわ。

 

  っと、そんなことを考えていたら弾幕に囲まれてしまったようだ。

  前方、後方、右、左。

  まさに四面楚歌。しかしこの言葉には抜け道がある。

 

「横がダメなら上に行くだけだよ!」

 

  身軽な動きで一気に天井近くまで跳び上がり、弾幕包囲網を突破する。下では弾幕同士がぶつかり合い、大爆発を起こしていた。

  もうすぐでスペカの効果時間が切れるころ。これを耐えきれば—–—–。

  そんな風に考えていた私の視界は、少女の声とともに突如薄暗くなった。

 

「あはは、大成功ー! そしてこれがさっきの……お返しだよ!」

 

  とっさに上を見上げたがもう遅い。

  見ればそこには、あらかじめ私がここに逃げてくるのを予測し、先回りしていたと思われるフランの姿が。

  そして先ほどの仕返しもこもっているであろうフランの拳が、私の顔にめり込み、体ごと地面に叩きつけられた。それだけでは止まらず、私の体はボールのように地面を二、三回バウンドする。

 

「……っ! こんだけ体を打ち付けてるのに無傷だなんて、八雲印の結界は本当に頑丈だ、なぁっ!?」

 

  とっさに体を地面に転がしてその場を離れる。そして数秒後にフランの全体重が乗せられた拳が、隕石のように私が元いた床に落下し、小規模なクレーターを作り出した。

  おわっ、あっぶない……。一応手加減されてるし、結界もあるから怪我はしないだろうけど、直撃したら結界の耐久が一気に削られるところだった。

 

  フランはだいぶ慣れて来たのか、動きにキレのようなものが出始めてきている。さっきのカタディオプトリックも、わざと上だけに空間を空けていたに違いない。

  頭も使うようになってきてるし、凄まじい成長速度だ。

 

  フランは右手に魔力を集中させる。すると徐々に光が集中していき、最終的には先端がトランプのスペードのような形をしている黒い棒に変わった。

 

「えーと、それはレーヴァテインだっけ?」

「そうだよ。でも別にスペカとして使うわけじゃないし、普通に使ってもいいよね?」

「なるほど、それはスペカじゃなくてあくまでも武器と言い張るわけね」

 

  本当に頭が切れるようで。

  近接弾幕ごっこにおいて、武器の使用に宣言はない。つまりはレーヴァテインをずっと持つことも可能ということになる。さすがに炎は封じられてるだろうけどね。

  でも……武器を持ったくらいじゃ、私には勝てないぜ。

 

  両者一斉に間合いを詰める。

  フランのレーヴァテインによるなぎ払いを掻い潜り、アッパー気味の拳を繰り出す。

  しかしそれは首をわずかに捻るだけで避けられてしまい、お返しとばかりに棒が振り下ろされた。

  私は最小限の動きだけでサイドステップ。目標を見失った棒が地面に叩きつけられ、床に突き刺さる。そしてそれを踏んづけて跳躍し、空中での回し蹴り、後ろ回し蹴りのコンボを華麗に決めた。

 

「くぅっ、やぁ!」

 

  しかしお構いなしとばかりに、攻撃をくらいながらも振るわれたレーヴァテインが私の腹を打ち付けた。

  その衝撃で体勢を崩してしまい、私の空中コンボはそこで終わってしまう。

 

「ふぅ、すっかり忘れてたよ。この結界は発動者が受ける痛みをなくす効果もあるんだっけね。どうりで私の回し蹴りが顔面に当たっても怯まないわけか」

「えへへ。さっき思いついたものだけど、案外上手くいくもんなんだね」

 

  格ゲーで言うところの、ノックバックの効かない敵。痛みがないから怯むこともなければ、動けなくなることもない。代わりに体に多少の衝撃が響くみたいだけど、吸血鬼みたいに頑丈であれば無視できるってわけか。

 

  新たに発見した新事実。

  ……これって、霊夢が萃香と対戦したとき、ますます萃香が有利になってないかな?

 

「禁忌『フォーオブアカインド』」

 

  ……あちゃー、今それが来ちゃうか。

  フランは二枚目のスペカを発動。するとフランが光に包まれ、四人に分身してしまった。

  彼女らの手にはそれぞれレーヴァテインが握られている。

  明らかにリンチする気満々ですねこりゃ。

 

「お姉さんも刀使ったら?」

「じゃないと負けちゃうよー?」

「手加減してるんだとしたら、後悔するよ?」

「お腹減ったー」

 

  それぞれのフランから刀を抜けと催促される。……いや、最後の子だけなんか違ったけど。

  たしかに、フランの実力を見誤っていた。そこは認めよう。

  だ・け・ど。

 

「ふっふっふ。フラン、良いことを教えてやろう。私は一度決めたことは絶対に破らない!」

「じゃあ無理矢理にでも抜かせてあげる!」

 

  フランたちは私を中心に前後左右に散らばり、私を囲む。そして同時に飛びかかって来た。

  さーて、大見得切ったんだから、私もやるだけやりますか!

 

  四つのレーヴァテインが同時に振り下ろされる。

  フランの分身は思考も身体能力も全て同じ。つまり四方から同時に突っ込む速度も、攻撃のタイミングも全てが一致しているということだ。

  故にカウンターのタイミングも—–—–全て同じだ。

 

「スペルカード発動! 脚技『旋回風車(せんかいかざぐるま)』!」

 

  私は両手を地面につき、逆立ちの状態にすると、開脚しながら、まるでブレイクダンスをしているかのように思いっきり体を捻った。

  すると旋風が私を中心に発生。当然近くにいた四人のフランは避ける間も無く巻き込まれ、全員がそれぞれの方向に弾き飛ばされた。

 

  しかし、まだだ。この程度では本体を倒すどころか分身は消えやしない。

  スペカを発動し終えると、床を思いっきり蹴って分身のうちの一人のフランに接近。そして流れるように拳で彼女の腹部を連打する。

  結界があるとはいえ多少なりとも衝撃は走るため、分身フランは体をくの字に曲げて顔を下げる。

  そこに宙返りの勢いを利用した私の蹴り上げがクリーンヒット。

  分身フランは体を空中に跳ね上げられながら、煙とともに消滅した。

 

「あー! 一人目がやられた!」

「敵討ちだ!」

「今度は二人……どれが本物かな? いや、結界が張られてないからどちらとも偽物か」

 

  本物のフランは随分遠くに飛ばされたらしく、ここに来るまでに時間がかかりそうだ。

  だったら好都合。先にこの二人を仕留めてやる。

 

  一人のフランがレーヴァテインを振りかぶる。しかしそれよりもワンテンポ速く、一回転してたっぷり遠心力をつけた私の回し蹴りが、フランの手首を弾いた。その衝撃で手からレーヴァテインが離れ、宙をくるくると舞う。

 

「と、りやぁっ!」

 

  それをジャンプしてキャッチしながら、落下の勢いを利用して分身フランに叩きつける。脳天に命中したけど血は流れることはなく、さっきと同じように煙になって彼女の体は消え去っていく。

 

「ふぅ……っとっ!?」

 

  っと、そこで息つく間もなく最後の分身フランのレーヴァテインをレーヴァテインで受け止めた。しかし吸血鬼の腕力には敵わず、私の体吹き飛ばされて本棚の一つにぶつかった。

 

「あはは、トドメだよ!」

「そうは簡単にはやられませんぜ! 私はぁ!」

 

  レーヴァテインを真正面に構え、追撃してくるフランを迎え撃とうとする。

  狙うは分身フランではなく、彼女が持っているレーヴァテイン。

  そしてフランの振り下ろしと私の横薙ぎが衝突して—–—–。

 

  —–—–バキッ、という音が響いた。

 

「う、そ……」

「残念ながら現実ですよっ!」

 

  砕け散る二つのレーヴァテイン。

  それに動揺して動きを止めたフランの右腕を担ぎ、全身に力を込める。

  次の瞬間—–—–。

 

「—–—–へっ? ……ガハッ!?」

 

  一本背負い。

  分身フランは背中から地面に叩きつけられた。

  そしてトドメに顔面を思いっきり踏みつけておく。

  これでようやく耐久が限界を迎えたらしく、最後の分身も他と同様に煙になって、無に帰した。

 

「……ものすごく容赦なかったね。仮に私と同じ顔なのに」

「ごめんねフラン。でも本物にはあそこまでしないから安心してね?」

 

  今さらだけど、いくら分身とはいえフランが言う通り、本当に容赦ないね私。

  一人は顎を蹴り砕いて、一人は脳天を潰して、一人は顔を踏み砕いてるし。

  実の妹ではないとはいえ、同じ姿の敵にここまでやれることを思うと、改めて私が自分勝手なサイコパスだってことを感じさせてくれる。別にそれでもいいんだけど。

 

「禁忌『レーヴァテイン』!」

 

  とうとう、フランの最後のスペルが解放された。

  宣言したのは、彼女が持っている黒い棒と同じ名前。

  すると突如、黒い棒から眩いほどの炎が溢れ出し、それを包んでいく。そしてそのまま姿を変え、黒い棒はフランの背丈をも超える炎の十字大剣に変貌した。

 

  フランの魔力制御能力は紅霧異変の時と比べて格段に向上している。大剣から感じられる魔力の精度も、炎の密度もあのころとは段違いだ。

 

  見ているだけでほおがジリジリと焼かれる錯覚に陥る。一撃でも当たれば結界の耐久が一気に削られるのは間違いないだろう。だがあれがスペルカードである限り、必ず制限時間という欠点があるはずだ。要はそれまでしのげば私の勝ちは確実ってこと。

 

  —–—–でもねぇ。趣味じゃないんだよ、そういうの。

 

「来な、フラン。全力でお相手してあげる」

「—–—–行くよ、お姉さんっ!」

 

  数メートル離れているのにも関わらず、フランは私に向かって大剣を振り下ろす。当然刃は届かないが、発生している炎が斬撃と化して地面をえぐりながら私に襲いかかる。

  横にステップして、それを避ける。そしてフランが二度目を繰り返す前に距離を詰め、拳を突き出すが—–—–。

 

「—–—–っ、熱っ!?」

 

  フランはレーヴァテインを前方に構えると、それを盾として私の攻撃を受け止めたのだ。

  超高温の物体に拳なんて打ち込めば熱いのは当たり前で、思わず手を引っ込めてしまった。

  そこでフランのなぎ払いが繰り出される。間一髪、イナバウアーのような状態に体をすることで避けることに成功する。

 

  そこからもフランの連続攻撃は続く。

  大剣の質量を生かしたなぎ払いと振り下ろししか技のバリエーションはなかったが、レーヴァテインの炎がそれをカバーしている。なんせ範囲が広いから迂闊に飛び込めないし、飛び込んだとしても生半可な武器や拳じゃ逆に怪我するだけ。

  ……刀使わないって宣言したの、やっぱ間違ってたかなぁ。

  まあいいや。策と言えるものじゃないけど、考えはまとまった。後はその時が来るまで待つだけだ。

 

「えいっ! やあっ! とりゃっ!」

 

  フランは剣術は習ってないため、その様子は長い棒を両手で振り回している感覚に近い。

  なぎ払いと振り下ろしをランダムに繰り返してはいるが、その角度は若干バラバラだ。

  私が狙っているのは、そのバラバラの中の一つ。

  右なぎ払い—–—–違う。

  左なぎ払い—–—–違う。

  振り下ろし—–—–違う。

  左なぎ払い—–—–違う。

  右なぎ払い—–—–これだ!

 

  「鬼技『雷神拳』!」

 

  高らかにスペカ宣言。

  そして雷をまとった私の拳と、フランのなぎ払いが衝突する。

  本人のとは天と地ほども差があるとはいえ、鬼の頭領の奥義。

  さらには振るわれたレーヴァテインの角度が若干上に斜めっていたのもあり、フランの大剣は大きく弾かれた。

 

  大剣の質量に振り回され、バランスを崩すフラン。

  とてもではないがガードできる状態ではない。

  そこに左拳に力を込めて、躊躇いなく三枚目のスペカを宣言する。

 

「鬼技『空拳』!」

 

  風をまとった左拳をフランの腹部に叩き込む。そのあまりの威力に彼女の体は宙を舞い、数十メートル離れた床に落下する。

  その衝撃によって耐久が限界を迎えたのか、フランが落ちると同時にガラスが割れたような派手な音と光を撒き散らしながら、彼女の結界は消滅した。

 

「うぅ……また負けたぁ……」

 

  悔しそうにしているフランの頭を撫でながら、ひっそりと大きなため息をつく。

  はぁぁ……疲れた。実を言うと私の結界の耐久もフランの炎で削られてギリギリだったし、かなり危ない勝負だった。

  何あれ。近づくだけで微量ダメージとか回復なしの格ゲーでやっちゃダメでしょそりゃ。

 

  これからは負けるかもしれないので、名誉のためにも刀を使わせてもらおう。

  とりあえずはそう誓うのであった。

 

 






「ちょっと遅れましたが、無事投稿できました。作者です」

「最近は寒くなって来やがったな。そろそろ上着が必要になるのか。狂夢だ」


「というわけで、今回は初近接弾幕ごっこの回でした!」

「珍しいな。楼夢が弾幕と刀を使わないなんて」

「一回でもいいから格闘シーンだけの回を作ってみたかったんですよ」

「要するにただの作者の趣味ってわけか」

「というわけで、今回から本格的な萃夢想が始まりました! 次回もお楽しみに!」

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