東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
「えーと、鬼、鬼っと……」
「なんの本を探してるのお姉さん?」
近接弾幕ごっこの後、無事な本棚を見ていたら、回復したフランが声をかけてきた。
「鬼っていう妖怪の本を探してるんだけど、これがなかなか見つからなくてね。フランはなにか知ってる?」
「うーん……わかんない。でもパチュリーなら本がどこにあるのか知ってると思うよ」
「やっぱりここのことは管理人に聞くのが一番か……」
しかし、図書館の中には珍しいことに話題の中心人物はいなかった。
どうやら出かけているらしい。とはいえあの紫もやしちゃんが外出してるとは思えないし、紅魔館のどこかにいるのだろう。
でも、紅魔館内は迷路のように広い。その中を探し回るのはさすがに面倒だなぁ。と思っていたら、フランが追加で情報を付け足してくれた。
「多分お姉様に誘われてお茶会をしに出かけていったから、もうすぐ帰ってくると思うよ」
フランの言葉に続くように、突如木製の大扉が開かれた。そして外から誰かが入ってくる。
紫の髪にフリルがついたパジャマのような服。間違いなく目的の人物の一人、パチュリー・ノーレッジだろう。
ちょうどよかった。
私は彼女の前へと足を進めると、探し物を見つけてくれるように頼み込む。
「ねえパチュリー。探し物があるんだけど、手伝ってくれない?」
「断るわ」
「まさかの拒否!?」
このいじわるー! ケチんぼ! ボッチ!
……なんかパチュリーの私を見る目が冷ややかになったような気がする。
「えー、ダメ? お願いだよパチュリー」
「……」
「お願いお願いお願いお願いお願い!」
「……あなたはあれを見た後、よく私に頼みごとができるわね」
「あれって? ……あっ」
パチュリーが指差した方向を見つめる。そして視界に移ってきたのは散らばった木片の欠片に、倒れまくった本棚。
あの木片、どっかで見たことがあるような……?
再び図書館を見渡す。すると、あるものが消えているのに気がついた。
「……パチュリーのテーブルの消滅。謎の木片……あっ」
頭の中で考えたところ、すぐに結論が出てきた。
あれ私がフランとの近接弾幕ごっこで壊したやつじゃん!
チラリとパチュリーの顔を伺ってみる。相変わらず無表情で無言。しかしそこには圧力のようなものが込められていた。
「え、えへへ。許してヒヤシンス!」
「……殺す」
「やだなぁ冗談じゃないかだからその魔導書をしまってぇっ!」
焦って早口で弁解してみるも、効果はなかった。
無言で栞がわりに魔導書に挟んでいた結界カードを抜き出すと、それを発動。透明な結界が彼女を包み込んだ。
「……まさか本当に私と近接弾幕ごっこをするつもり? 言っておくとあなたは妹じゃないから、私が手加減する理由はないよ」
せめてもの抵抗として脅してみるけど、効果はなし。むしろ今の言葉でさらにやる気が増してしまったような気がする。
「魔女には魔女の戦い方がある。それを証明してあげるわ」
「お姉さん頑張って!」
「そんな発情してそうな頭してるやつなんて、けちょんけちょんにしてやってくださいパチュリー様!」
フランからの黄色い声援と、誰かからのヤジが飛んでくる。
あれは確か小悪魔だったはず。やろう紅霧異変の時に私にボコボコにされたことを根に持ってやがんな? よろしい、パチュリーの次はテメェで決まりだ。
「スペカ数は3でいいよね?」
「ええ。その方が楽でいいわ」
私は結界カードを取り出し、結界を展開する。
これで準備は整った。外野の声でカウントダウンが始まり……。
3……2……1……0。
ゲームが始まった。
最初に動いたのは私。自慢のスピードを生かし、風のように突進しながら抜刀。得意の居合斬りを繰り出す。
しかしそれはパチュリーに届くことはなかった。直前で現れた幾何学模様の結界が刃の行方を阻んだからだ。
「……術式の展開が速いね。近接用に組み替えたのかな?」
「ご名答よ。普通の戦闘じゃ弱くて役にも立たないけど、このルールじゃ話は変わってくるわ」
パチュリーは片手で結界を維持しながら、もう片方の腕を振るう。それだけで小さな炎が数十個も現れ、辺り一面に小規模な爆発を起こした。
「ちっ……」
思わず舌打ちしながら飛び退く。しかし爆発のせいで結界には多少ダメージが入ってしまったようだ。
これがパチュリーの戦闘スタイルか。彼女は威力の高い術式を封印し、威力の低い術式をあえて使うことで、近接戦の高速戦闘にも対応できるようにしていたのだ。
たとえ威力が低くてもとりあえず当たれば結界には多少のダメージが入る。彼女はこのように高速で低威力、広範囲の術式を繰り出し続けることで、私の結界をジワジワと削るつもりなのだ。
休む間も無く、パチュリーが様々な属性の魔法をばらまいてくる。
自分に当たる分だけを見極め、次々とそれらを切り裂きながら出来る限り前へと前進する。
こちとらだって仮にも伝説の大妖怪だ! この程度のことなら腐るほど経験してる!
火、水、土……色とりどりの弾丸が撃ち込まれる。
しかし止まらない、止まらない。踊るように回転しながら迫り来る全ての障害物を切り裂き、突破口を切り開いた。
そして目でパチュリーの姿を捉え、一気に刀を振り下ろす。
パチュリーは根っからの魔法使いであるがゆえに、身体能力はさほど高くない。音速を超えるこの斬撃はかわせないはず。
しかしその予想は、すぐに裏切られることになった。
「……なっ!?」
パチュリーの両足の裏に炎の術式が展開される。そして小さな爆発が起こり、私の刀が届く前の彼女を真上へと打ち上げてしまった。
当然標的がいなくなった私の斬撃は空振り、勢いあまって地面へと突き刺さる。その瞬間にパチュリーが元いた場所を中心に今までよりも大きな魔法陣が展開され、再び爆発—–—–しかも小ではなく、大規模なものが起こった。
爆風をまともにくらい、床に転がる私。
くそっ、設置型の罠か!? 随分とマイナーなものをくらわせてくれたな!
しかしパチュリーの攻撃はまだ終わっていない。彼女は魔導書を開くと、そこに挟んであったスペカが宙に浮いて光り輝く。
「符の壱『セントエルモエクスプロージョン』」
パチュリーが両手を掲げる。するとそこに人間の頭数個分ほどもある大きさの炎の球体が出現した。
それを振り下ろすような仕草を取ると、触れてもいないのにそれに連動して炎球が私に向かって飛んでくる。
刀で切り裂こうとしたところでふと悪寒がして、とっさに飛び退く。そしてそれは正解だった。
炎球が床に触れた瞬間、眩い光、轟音、そして爆発が巻き起こり、そこの近くの床一面を炎上させた。
「あら、よく気づいたわね。そのまま切ってたら美味しかったのに」
「危なかった……いつも通りに切ってたら、刀が触れた瞬間に爆発して巻き込まれるところだったよ」
「その通りよ。でも一つ忘れてないかしら。私のスペルはまだまだ続いているわよ?」
再びパチュリーは両手を掲げる。そして炎球がいくつも放たれた。
一つ、二つ、三つ……。床にぶつかるたびに炎を撒き散らかして、私を追い詰めていく。
不思議なことに、この炎は床が木製でもないのに残って燃え続けるのだ。そのせいもあって、私の逃走ルートは徐々に狭まれていった。
やがて走り回るスペースすらなくなり、とっさに最終手段の本棚の後ろへと隠れる。だが……。
「無意味よ、それは」
炎球が本棚とぶつかる瞬間、パチュリーは指をクイっと動かす。すると私を隠していた本棚が消滅し、私の体は丸見えになってしまった。
「しまっ……!」
声に出すが、もう遅い。
炎の球は直撃し、私の体はたちまち炎に包まれながら爆発によって吹き飛ばされた。
同時にスペカが終了し、それまで燃えていた床の炎が一斉に消滅する。
「ここは私の図書館よ。本棚の一つや二つ動かすことくらい、造作もないわ」
なるほどね……つまりはもう本棚に頼ることはできないってことか。
それにしても随分と結界が削られちゃったな。耐久は後半分より下ってところか。一枚目でこれなんだし、ちょっとまずいかもね。
「ということでちょっとギア上げてくよ! 斬舞『マルバツ金網ゲーム』!」
私は目の前の空間を横に5回、縦に5回切り裂いた。
それらは真空波となって視覚化され、マルバツゲームのボードを作り上げる。そして合図一つでボードは放たれ、パチュリーに高速で迫った。
パチュリーが迎撃用の魔法をボードに繰り出すが、ビクともしない。むしろ線の一つ一つが斬撃波でできているため、彼女の魔法は全て細切れになって散っていった。
流石に結界では防げないと判断したのか、パチュリーは炎による推進力を得て加速し、斬撃網の圏内から脱出する。どうやら網は直進にしか進めないことを見抜かれたようだ。
だからどうした?
今のはデモンストレーション。こっからが本番だよ。
私は先ほどよりも速く斬撃を繰り出し、斬撃網を完成させる。
一つを作るのにおそらく一秒。
マシンガンのように間髪なく、斬撃網が放たれていく。
今度はパチュリーが逃げ回る番だった。
少女が足から炎を出して飛ぶ姿は中々シュールだ。せめて鉄腕の少年だったら似合っていたんだけど……。
しかしあの方法による加速には一つ欠点がある。それは小回りが利かないことだ。
それでも斬撃網に当たることはなかった。あの様子だと、相当練習したんだろう。ジェット飛行のコツをよく掴んでいる。
だ・け・ど。
まだまだ、私の攻撃を全部避けるには足りないかなぁ。
—–—–破道の四『白雷』。
私の指先から放たれた雷の閃光が、斬撃網の穴を通り抜けて、パチュリーを貫いた。……いや実際には結界のおかげで貫通してはいないけど。
しかし当たったことは事実。その衝撃で集中力が乱れたのか、足裏の炎が一瞬止まってしまった。
パチュリーは一気に減速してしまう。そしてチャンスだとばかりに、そこに斬撃網が殺到した。
斬撃群に切り刻まれ、次々とパチュリーの結界は耐久力を削られていく。しかし四つ目が当たったところで制限時間が終了し、斬撃網は全て消えてしまった。
「っ、やってくれるじゃない……。さすがは、暴走したフランを止めたことがある妖怪ね」
「お褒めに預かり光栄っと!」
—–—–破道の六十三『雷吼炮』。
スペカの終わりで油断しやすい一瞬を突こうと、今度は人一人飲み込めそうなほどの雷を放つ。
しかしそれは彼女も予想していたのか、一瞬で張られた結界によって呆気なく弾かれてしまった。
お返しとばかりに、魔導書から二枚目のスペカが飛び出してくる。
「金土符『ジンジャガスト』」
「ならばこっちも! —–—–響け『舞姫』!」
私は妖魔刀の名を叫んだ。途端に刀が光に包まれ、桃色の刀身に七つの鈴が飾り付けられる。
パチュリーから繰り出されたのは、竜巻状の砂嵐だ。それもただの砂ではない。粒の一つ一つが黄金に輝いている。つまり、砂嵐は砂金で構成されているのだ。
試しに弾幕を数個ぶつけてみたが、効果はなかった。それどころか螺旋状に高速回転する大量の砂金は弾幕を飲み込むと、あっという間に切り刻んで塵にしてしまったのだ。
ん〜? これはせっかく解放したんだけど、舞姫が活躍できそうにないね。
砂みたいに細かいものに斬撃を食らわせても無意味だしね。すぐに元どおりになっちゃう。
しかし、パチュリーは私の能力を知らなかったみたいだ。
広げた左手を突き出し、握りつぶすような仕草を取る。
細かい粒を押し固めるようなイメージを頭に浮かべる。
そして自身の能力を発動した。
「なっ、私の砂嵐が……」
「言ってなかったね。私は『形を操る程度の能力』を持ってるんだ。こういうことはお茶の子さいさいだよ」
砂嵐は私の能力によって圧縮され、黄金の球体に押し固められた。
それでも勢いは止まらず、黄金球は私に迫ってくる。
しかし形があれば切るのはたやすい。黄金球は舞姫の刃に当たると、豆腐のように抵抗なく真っ二つに両断され、地面に落ちた。
その後も次々と襲いかかる砂嵐を球体に変えては、それを切り裂いていく。そして数十秒後、制限時間が訪れ、パチュリーのスペカは私にダメージを与えることなく終了した。
「今度はこっちの番だ! 雷龍符『ドラゴニックサンダーツリー』!」
私とパチュリーの間に雷で形作られた巨大な大樹が出現する。
そこから伸びた数十の枝々が雷竜と化し、ジグザグに進みながら図書館中を駆け巡った。
「っ、火水木金土符『賢者の石』っ!」
パチュリーもこれに対抗するため、最後のスペカを発動した。
彼女を中心に、人間の胴体ほどの大きさの、それぞれ色が違う赤、青、黄、緑、紫の五つの結晶が展開される。
それらはまるで衛星のように、パチュリーの周りをグルグルと回る。
そしてそのうちの一つである赤い結晶が雷竜と衝突して砕け散った。
途端に。
「……うおっ!?」
砕け散った赤い結晶が突如巨大な炎へと変わり、私へと向かってきた。
とっさに飛び退くことで回避に成功する。後ろから聞こえてきた爆発音から、その威力が伺えた。
しかしこれで終わりではなかった。
直後、私の視界に映ったのは四色の輝かしい結晶の破片。
そして今度は水、木、金、土の属性の魔法が私に殺到した。
刀を一閃し、魔法を叩き斬ることで攻撃を防ごうとする。しかし水だけは私の斬撃を受け付けず、高圧の水弾が私に直撃した。
結界は……まずいね。ちょっと余裕がなくなってきたかな。
しかしすごいスペカだよ。自分に当たる攻撃は全て結晶で防いで、しかも砕けた結晶は高威力の魔法に変わってしまう。
さらによく見てみると、結晶は砕けても数秒で復活するようだ。
まさに攻防一体のスペル。
しかし、私ならこれの弱点を突くことができる。
私は一気に加速して、パチュリーの元に急接近。そしてその喉元—–—–ではなく結晶に向けて刃を振るった。
ガラスが割れるような音が結晶からした。
割れたのは黄色の結晶。それらは巨大な金属の塊へと変わり、私を押し潰さんと迫り来る。
しかし、まだだ!
すぐに刀身を翻して、返す刀でその金属塊を両断。それは私を避けるように真っ二つに割れ、砕け散った。
斬撃は止まらない。
音速を優に超える剣技が再度、Vを描くように二回振るわれる。
今度砕けたのは緑と紫の結晶。そして大木と土塊が出現し、先ほどと同様に一瞬で両断された。
残りは二つ!
私が考えた作戦。それは全ての結晶を壊し、再生する前にパチュリーを攻撃するという、ごり押し戦法だった。
結晶の再生時間は数秒。しかし私の剣技は音速を超える。この一見無茶振りな作戦も実行可能になってくる。
しかし、それを理解しているであろうパチュリーは余裕の態度を崩さなかった。
残った結晶の色は赤と青。つまりは炎と水だ。
これらは他の三つとは違い、形というものがない。いくら刀で切ろうが無意味になってしまう。私がこの二つの結晶を最初に狙わなかったのも、このことをわかっていたからだ。
でもパチュリー、あなたは一つ忘れてることがある。
『ドラゴニックサンダーツリー』の制限時間が訪れ、大樹は消えていく。それと交代するように私はスペカを投げ捨て、大声で宣言した。
「霊刃『森羅万象斬』っ!」
「なっ……!?」
膨大な霊力が舞姫に集中していき、青白く巨大な刃が形成される。
今度こそ、パチュリーは表情を崩した。私の刃を見て一瞬でその威力を理解し、炎を足裏から出して逃げようとするが—–—–もう遅い。
力強く刀を振るい、青白い刃を飛ばす。
パチュリーはその巨大な斬撃に結晶もろとも飲み込まれ—–—–爆発を巻き起こした。
「むきゅ〜……っ」
目を回しながらお決まりのセリフを言い、パチュリーは床に倒れた。
その体に結界は張られていなかった。おそらく爆発の時に耐久の限界を迎えて、壊れてしまったのだろう。そのせいもあってか爆発だけは完全に防ぎきることができず、服の所々が焼け焦げてしまっていた。
「パチュリー様ぁ!」
悲痛な声を上げて、小悪魔が介抱するためにパチュリーの元へ駆け寄る。そして彼女を抱えてどっかへ文字通り飛んで行ってしまった。
「ふぅ、やっと終わったよ。これで目的の本が読め……あっ」
忘れてた。本はまだ見つかってないんだっけ。
パチュリー! パチュリーはどこだぁ!?
しかし彼女の姿は図書館内にはない。あるはずがなかった。
「……おーい小悪魔! ちょっと待ってぇぇぇ!」
全力ダッシュで図書館を出て、小悪魔を追いかける。
その後なんやかんやあって治療を施し、パチュリーが起きたのは数時間後の話であった。
「いやー台風すごかったですね。窓がガタガタしまくって夜はあまり眠れなかった作者です」
「最近デルトラクエストっていう王道ファンタジー本にはまっている狂夢だ」
「それで、先ほどの話ですが、今回の台風は結構すごかったんですよね」
「作者の家が珍しく停電したんだっけか」
「停電なんて何年ぶりでしょうかね。久しぶりすぎてパニックってドアの角に足の小指をぶつけてしまいました」
「ベタだなぁ。もっと面白い話はねぇのかよ」
「その後スマホを懐中電灯みたいにできるのを忘れていて、家族に言われるまで必死に電灯探していましたね」
「バカだ。バカだこいつ」