東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
「ちょっと待ちなさいよ!」
紅魔館を出ようと大扉に手をかけた時、そんな声がエントランスに響いた。
後ろを振り返り上を見上げると、階段の上で仁王立ちしている少女の姿が。
「なにか用かな、レミリア。今日はもうヘトヘトで帰りたいんだけど」
「フラン、パチェ、魔理沙……よくぞ数々の試練を超えたわね。いいわ、この紅魔館四天王最強であるレミリア・スカーレットが、相手をしてあげる!」
「……咲夜、通訳プリーズ」
「要するにみんなだけ遊んでズルイ。私も弾幕ごっこしたい、と言っておられるみたいね」
「ちょっ、咲夜っ! せっかくそれっぽい雰囲気が出てたのに!」
咲夜の淡々とした解説に顔を赤くして叫ぶレミリア。しかし否定してないところを見ると、どうやら図星だったみたいだね。
というか紅魔館四天王って言ってたけど、明らかに一人人選おかしくないかな? いつのまに魔理沙は紅魔館側に寝返ったのやら。
「私今日はもう疲れてるんだけど。やる理由もないし」
「理由ならあるわよ! フランの敵討ち!」
「うわぁ……妹をダシにして自分のワガママ通すつもりだ……。サイテーな姉だね」
「ち、ちがっ、そんなつもりじゃ……うわぁァァァん!! 咲夜ァァァッ!!」
……め、メンタル弱すぎでしょ……。
大声で泣きながら、咲夜の貧相な胸に飛び込むレミリア。……あ、ちょっと咲夜さん? 貧相なんて思ったの謝るから、頼みますからその構えたナイフをしまってください。
「はぁ……私からも頼むわ。お嬢様のワガママを叶えてやってくれないかしら?」
仕方がないとばかりに小さくため息をついて、咲夜は私に頭を下げた。
まあ、咲夜の頼みだったら断れないな。普段お菓子とかでお世話になってるし。
それに……。
私はチラリと視線を動かす。そこには相変わらずカリスマブレイクしているレミリアの姿が映った。
こんなに泣き喚かれると、こっちの良心も痛むんだよね。なんか私が悪いことしたみたいじゃん?
「わかったよ。ただし、今度来るときには高級なお菓子とワインをちょうだいね?」
「それくらいで済むのならいいわよ。お嬢様の秘蔵のワインを持ってきてあげる」
「聞こえてるわよ咲夜?」
うわっ、立ち直り早っ!?
どうやらお嬢様はブレイクするのが早ければ、立ち直るのも早いらしい。相変わらず都合のいいやつである。
レミリアは咲夜のさっきの発言について問いただしてみたが、彼女は意味なく微笑むことで誤魔化した。
なんとなくわかってたけど、紅魔館の権力って実質咲夜>レミリアになってるんだね。レミリアはそれ以上は何も言わずに、ムッとした表情になる。しかしすぐに気持ちを切り替えて、私に話しかけてきた。
「ふっふっふ。吸血鬼は怪力とスピードを合わせ持った完璧な種族。その王である私に挑んで来たこと、後悔するがいいわ!」
「あ、じゃあ後悔したんで帰りますわ」
「わー待って今のはなし!」
「まあ冗談だけど」
「冗談なのかいっ!?」
わーお、鋭いノリツッコミ。
とボケるのはここまでにしといて。
「—–—–そろそろ始めようか。戦いってやつを」
「……ええ、その通りね」
私の体から妖力が立ち昇る。
それを見たレミリアは、私がようやくやる気になったのに気づいたらしい。先ほどまでのキャラはどこへやら、口を三日月のように歪め、ぎらりと光る犬歯を見せつけてきた。
あんなのでも、れっきとした大妖怪最上位だ。しかもフランには足りない戦闘経験というものを、この吸血鬼は持っている。
間違いなく油断はできないね。
「カードは3枚でいいよね? 正直私も早く終わらせたいし」
「5枚がよかったのだけれど……まあいいわ。紅魔の王はそんな些細なことで揉めたりしないわ」
結界カードを取り出し、それを宙に放り投げる。そしていつも通りに結界が体を包み込んだ。
レミリアも準備ができたらしい。いわゆるジョジョ立ちというポーズを取りながら、始まりの時を静かに待っている。
私たちの真ん中に咲夜が立った。手のひらには銀製のコインが置かれている。どうやら彼女がカウントダウンを務めるらしい。
「このコインが地面に落ちた時が合図よ。異論はないわね?」
双方が咲夜の言葉に頷く。それを見た咲夜はゆっくりとコインを親指で弾いた。
空中で舞うように回転しながら、落ちて来るコイン。集中力が高まったおかげか、今の私にはその動きがスローモーションに見えていた。
地面までおよそ、3……2……1……。
そして咲夜の姿がかき消えると同時に、エントランスに甲高い金属音が鳴り響いた。
「ハァァァッ!」
「ゼヤァァッ!」
動いたのは同時だった。
両刀の居合抜刀切りとレミリアの爪が衝突し、衝撃波がフロアを駆け巡る。
鍔迫り合いのような状態が続いたのは一瞬だけ。同時に弾かれるように引いて、そこから高速攻撃の応酬が始まる。
私が振るった刀をレミリアが弾き、レミリアの爪を私の刀が弾いていく。それが目に見えないほどの速さでひたすら繰り返され、防げなかった分が結界の耐久を少しずつ削っていく。
レミリアの左爪が私のほおを浅く切り裂く。しかしほぼ同時に振るわれた左の妖桜が彼女の脇腹を同じように浅く切り裂いた。
間を置かず、右爪と舞姫がぶつかり合う。
しかしレミリアは鬼並みの剛腕の持ち主。正面からぶつかれば押し負けるというのはわかっていた。なのですぐに刃を引くと同時に左足を軸にして時計回りし、前にバランスを崩した彼女の腹部に後ろ回し蹴りを繰り出した。
「ガッ……!」
それは見事に命中。壁に向かってレミリアは吹き飛んでいく。
しかし間髪入れずに私は地面を蹴り、レミリアに急接近。そのまま右の舞姫で突きを繰り出し、壁と彼女の体を串刺しにしようとする。
だが、レミリアは獰猛な笑みを浮かべると、その悪魔のような漆黒の翼を広げた。そしてそれを羽ばたかせ、体勢を立て直すとともに低く滑空。私の後ろに一瞬で回り込み、お返しとばかりに無防備な私の背中に拳を突き出した。
とっさに妖桜の刃を背中に押し当て、直撃を防ぐ。しかし拳の衝撃は凄まじく、私はそのまま勢いを止められずに壁に激突してしまった。
「……ケホッ、ケホッ……!」
襲いかかる衝撃に思わず咳き込んでしまうが、レミリアはその時間すら与えてくれないようだ。
先ほどとは真逆だ。さっきは私がレミリアを追っていたのに、今はレミリアが壁際の私を追いかけてきている。
走っているスピードを利用した拳が眼前に迫る。
それを私は首を捻ることで避ける。そして桃色の髪を切り裂いて、彼女の拳が壁に突き刺さった。
チャンスだ!
私は全体重を前に傾けながら、両刀を突き出した。超至近距離から繰り出されたそれを避けることはもちろん出来ず、それはたやすく人間の臓器のある場所に突き刺さる。
しかし、レミリアは後退するどころか、怯むことすらなかった。
私は熱くなるばかりで、この時あることを忘れていた。そう、この近接弾幕ごっこにおいて、臓器などへの急所突きは全くの無意味だということに。なぜなら結界があるせいで、どの部位を攻撃しても致命傷になることはないからだ。
ギョロリと、赤眼が私を睨みつける。
急いで刀を引き戻そうとしたが、もう遅い。
先ほど壁に突き刺さったのとは反対の、左拳が私の顔に叩きつけられた。
「アッ……ガハッ!?」
レミリアの拳の威力は凄まじく、私の体はたやすく宙を浮いた。しかし後ろは壁。吹き飛んでいくスペースなんてどこにもない。よって私は壁に叩きつけられ、一度で二重のダメージを負ってしまった。
しかもそれだけではレミリアの追撃は終わらなかった。
不意に、光り輝くカードが視界に映る。
「夜符『デーモンキングクレイドル』」
後頭部を壁に打ち、自然に床に倒れようと前傾の体勢になってしまう。しかしレミリアはそれすら許さなかった。
次の瞬間、激しい痛みが顎に響き、浮遊感を何故だか体が感じていた。
レミリアは倒れこもうとした私を飛行しながらのアッパーでかち上げたのだ。私の体はさらに壁に固定され、押し付けられながらガリガリと壁を削って上へ上昇していく。
そこへ、二つ目のカードが目に入った。
「悪魔『レミリアストレッチ』!」
今度はレミリアは上体をストレッチするかのように後ろへ引き伸ばす。そしてその反動を利用して、魔力がこもった拳を振り下ろしてくる。
でもね、やられっぱなしで終わるほど、私は弱くないよ!
「『妖桜』ッ!」
私は妖桜の刃を後ろの壁に突き刺した。すると妖桜が紫色の光を放ち始め、
—–—–『金縛り』。
突然早奈の声が聞こえたかと思うと、私の背後の壁から黒い鎖がいくつも出現した。それはレミリアに一斉に巻きつくと、大技中の彼女の動きを拘束する。
「こ、の……必殺技中に攻撃しかけてくるなんて、非常識よ!」
「知ったことか!」
怒ったレミリアは腕に力を込めて、鎖を一気に引きちぎった。
さすがは吸血鬼……そう簡単に捕まってはくれないか。
でも、時間は稼げた。鎖を引きちぎって安心したところに、私はスペカを発動する。
「楼華閃卍外—–—–『氷炎斬舞』!」
舞姫が炎を、妖桜が氷をそれぞれ纏う。それらを硬直しているレミリアへ叩きつける。
そして、斬舞が始まった。
目にも留まらぬ早業。舞うように回転を加えて、刀を振るう。そして赤と青の軌跡を描きながら、数多の斬撃が彼女の体を切り裂いていく。
全部で十四連撃。それら全てをまともに受けたレミリアは、最後の強烈な一撃に吹き飛ばされ、床に叩きつけられた。
「ハァッ……ハァッ……」
「ぐっ……う……!」
追撃したいけど、流石にこっちも攻撃を食らいすぎた。空から降りて、乱れる息を整えようと精神をひたすら落ち着かせようとする。
一方のレミリアも歯を食いしばって立ち上がると、私と同じようにしばらく静止し続けている。
「お互い、飛ばしすぎたようだね……」
「ハァッ……ハァッ……。あら、私はまだまだ、いけるわよ……?」
空元気なのは、誰が見ても明らかだった。
一見無傷だけど、結界の耐久は私もレミリアも残り半分を余裕に切っているだろう。
しかし、わかっていることが一つだけある。それは私がまだスペカを二枚使えるのに対して、レミリアは残り一枚しかないということだ。つまり今は私の方が優勢。……あくまで今の状況は、だけど。
「ふふっ、随分へばっているようじゃない。自慢のスピードも地に落ちてるわよ?」
「必殺技に自分の名前載せてるお子ちゃまには言われたくないかなぁ。一気に勝負を決めようと、二枚も使ったのは失敗だったね」
「お子ちゃまですって!? 私とそう身長変わらないくせに!」
「身長じゃなくって精神の問題なんだよスカポンタン!」
「何ですってこの発情狐!」
「ポンコツコウモリ!」
「ファンキーピンク頭!」
「500歳のお漏らし!」
「ちょっと、何でそのことを知ってるのよ!?」
くくく、レミリアよ。私にはフランという最高の味方が紅魔館にいることを忘れてはいないかな? お前の恥ずかしいことなんざほぼ把握済みだボケェ!
「そう、あれは一ヶ月前のこと。レディはお菓子も作れるだとかなんとかほざいて砂糖と塩を間違えたケーキを……」
「わーわー! 言うな、言うなァァァ!! 神槍『スピア・ザ・グングニルゥゥゥゥゥッ』!!」
顔を真っ赤にして突進してくるレミリア。その動きは先ほどのように俊敏なものではなく、どこか乱雑で、完全に我を忘れているようだ。
でも、私はこの時を待っていたよ。
「ほいっと」
「んグッ!?」
レミリアの速度に合わせて軽く水面蹴り。それだけでレミリアは足を刈られ、ビタんっ! という痛々しい音を立てながら思いっきり顔を床に打ち付けて転んでしまった。
レミリアはたしかに強い。二刀流の私と接近戦であれだけやりあえるのは数えるほどしかいないだろう。
でも、レミリアはこの通り、メンタルが弱い。ちょっと感情を揺さぶっただけで、この通り自滅してくれた。
あとは罠にかかった獲物を切り落とすだけだ。
「霊刃『森羅万象斬』」
無防備なレミリアの背中に、無慈悲に霊刃が振り下ろされる。それは直撃し、残りわずかだったレミリアの結界を消し飛ばして—–—–ない?
どうやら奇跡的に結界は持ちこたえてみせたらしい。でもそれも風前の灯火だ。新しい一撃を入れればすぐに砕け散るはず。
レミリアは動かない。いや、おそらく動けないのだろう。私に背を向けて俯けに倒れたままだ。
どうやら諦めたみたいだね。まあこの絶望的な状況だ。そうなっても仕方がない。
私はゆっくり刀を振り上げる。そして、それを振り下ろそうとする。
しかしこの時、私は気づいていなかった。
—–—–レミリアの手から、真紅の槍の姿が消えていることに。
風切り音がどこからか聞こえてくる。
思わず振り抜くと、そこには高速で飛んでくるグングニルの姿があった。
そうか! レミリアは私に足を引っかけられて倒れる時に、槍を投げていたんだ!
グングニルは必中の槍。狙った獲物を逃がすことはなく、どこまでも追ってくる。
でも、あれが来るまでにはまだ距離がある。私の速度なら余裕で—–—–。
その時、私は気づいた。足がいつのまにか泥のように重くなっていて、思うように動けないことに。
これまでのツケが来たのだ。私は今日だけで4回も強敵と戦っている。それの代償としての疲労が、私の足にまとわりつき、動きを鈍くしているのだ。
「これで終わりよ!」
そんなレミリアの高らかな勝利宣言が聞こえた。
冗談じゃない。こんなところでこの私が負けてたまるか! 必死に頭をフル回転させ、打開策を考える。
唯一迎撃できそうな森羅万象斬のカードはもう使ってしまった。なら他のは?……ダメだ、発動までに間に合わない。同じような理由で新カード作成もダメだ。
……いや、ならいっそスペカなしで考えるんだ。この体の制限があるせいで、強力な結界は張れない。刀では何割かダメージを減らせても、残りの耐久じゃ耐えきれない可能性が高い。
ああもう、なんも思いつかない!
そうこうしているうちに、赤い彗星が眼前に迫って来ている。
いや違う、あれは彗星なんかじゃない。槍だ。槍の対処法を考えるんだ。
……ん、槍? そういえば前にも、似たようなことが……。
その時、私の中にとある少女の顔が浮かび上がった。
闇を纏う黄金髪の少女。彼女が投げた漆黒の槍を、私は……。
「そうだ、槍を止めるには……こうすればいいんだっ!」
鞘とは反対の腰に手を伸ばす。そこには鎖にくくりつけられた瓢箪が。
それをとっさに真紅の槍へ投げつけた。瓢箪が分銅の役割を果たし、鞭のように槍に鎖が巻きついていく。そしてそれを全力で引っ張り、遠心力を利用してその場をグルグルと回転する。そうすることで槍は鎖に引っ張られ、ハンマー投げのように私と連動してその場を回転し出した。
「なっ、私の槍が……!?」
「お返しだ、よっ!」
私はそのまま回転しながら、遠心力をたっぷり得た槍をレミリアにぶつけようと力を込める。
まさかの出来事に動揺して動きが止まってしまっているレミリアに、それが避けられるはずもなく……。
鈍い音がエントランスに響く。
今度はレミリアが壁に吹き飛ばされ、激突した。その時点で結界は壊れてしまっており、その衝撃から守ってはくれなかったようだ。後頭部を打ち付け、目を回して気絶してしまっている。
「勝者、楼夢!」
いつのまにか現れていた咲夜が腕を私の方に向けて、そう宣言する。
しかし私は何も答えない。荒くなった呼吸を整えるのに必死だったからだ。
やがて状態が落ち着いてくると、私は咲夜に問いかけた。
「ハァッ……ハァッ……これでいいでしょ? もう帰ってもいいかな?」
「ええ、十分よ。お嬢様も疲れて眠ってくれたようだし、助かったわ」
「いやあれは眠ってるというより気絶じゃ……?」
「お嬢様は疲労で眠った。いいわね?」
「あっ、はい……」
ドスの効いたすこやかな笑みに気圧され、思わずそう返事をしてしまった。
ヤクザや、ヤクザがここにいるよぉ。もはや十六夜ヤクザさんだね。
そう思った直後に、投げられたナイフが私のほおを切り裂いた。
「今へんなこと考えなかったかしら?」
「いいえっ、滅相もありません! そして失礼致しましたぁ!」
もうダメだ。これ以上ここにいたら絶対に殺される!
脱兎の如く、私は大扉を蹴破って紅魔館を出て、夜空に飛び立っていく。
今日は酷い目にあったよ。ヤクザさんの怒りがまだ収まってるかわからないし、ここ数日は紅魔館は避けておこう。
私は疲れて重く感じる体を無理やり動かし、帰路につくのであった。