東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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ハタ迷惑な宴会の終わり

  次の日の夜。結論から言っちゃえば、異変は無事解決した。

  宴会ということで多くの人妖が集まった中、とうとう姿を現した萃香。盛大に自分が異変の首謀者だと高らかに宣言したことで幻想郷の荒くれ者どもに火がついて、次々と弾幕ごっこが行われた。

 

  結果は一人を残して全員惨敗。魔理沙や妖夢、レミリアはともかく、咲夜やアリス、パチュリーなどのあまり戦いたがらないような連中まで珍しく挑んだんだけど、驚異的な鬼の剛腕と萃香の『密と疎を操る程度の能力』に手も足も出ず、やられてしまった。

 

  しかしすでに敗戦を終えてお通夜モードに入った群衆を押し退けて、幻想郷の切り札である霊夢が萃香に挑んだ。

 

  誰もが忘れることはないだろう。

  その一戦は、これまでの見た中で史上最高のものだったと確信できる。

  花火のようにキラキラ光る弾幕を撒き散らしながら、二人の拳が幾たびも交差し合った。

  そして長い時間の末、霊夢の夢想天生が決め手となり、勝利の旗は彼女の方へと掲げられた。

 

 

  そして今はそんなはた迷惑な異変が終わったことでの宴会ということになっている。

  全員あれほど疲れ果ててたのに、霊夢が勝った途端にお祭り騒ぎでやれ酒ややれ料理だと、実に能天気なものだ。

 

  そんな光景を博麗神社の屋根の上で見下ろしながら、私は両隣に同じように座っている二人に声をかけた。

 

「それにしても二人とも、随分やられたみたいだねぇ」

「ほんとよ。あの子ったら負けた後も死体撃ちしてくるんだもん。酷くないかしら?」

「にゃははー、それは普段の行いのせいだねー! でもたしかに、これだけやられたのは久しぶりだよ」

 

  月光に照らされ、共にボロボロな紫と萃香の姿が映し出される。

  ちなみになぜ紫がこんな目にあってるのかというと、ほとんど私のせいだ。

  とは言っても大したことはしてないよ? ほら、昨日霊夢に異変解決のアドバイスをしてあげたでしょ? 気体を固体に戻せってやつ。

  霊夢は何を考えたのか、ちょうど近くにいた紫をボコり、その能力を強制的に使わせることによって萃香をあぶり出したのだ。

 

  いやね、予想の斜め上をいく回答だったよ。

  そもそも私は、霊夢が結界を使って霧になっている萃香を閉じ込めるものだと思っていたのだ。いやはや誤算も誤算、大誤算だった。わっはっは。

 

「笑い話じゃないわよ……はぁ」

「まあいいじゃんいいじゃん。おかげで私も剛との賭けに勝ったわけだし、これで地底に連れてかれることもなくなったじゃん?」

「儂にとっては残念な結果じゃがのう」

「おわっ、いつの間に!?」

 

  突然背後から聞こえてきた声に驚き、思わず飛び退いてしまう。

  赤髪に赤い着物。はい、剛ですね間違いなく。

  彼女はそんな私の反応に満足したのか、ケラケラと笑いながら私が座っていた場所にあぐらをかく。

 

「博麗の巫女の戦いは儂も見ておったぞ。なるほど、この世にまだあれほどの人間がいるとはのう……」

「か、母様っ。み、見ていたの?」

「安心せい萃香。別に負けたお主を罰するつもりは毛頭ない。あれほどの戦いにいちいちケチをつけるのヤボじゃしな」

「それよりも剛。約束通り、今回は私のことを諦めて地底に帰ってくれるんだよね?」

 

  剛は私とお揃いの瓢箪の蓋をキュポンと開け、それを口に含んで中の酒を豪快に飲む。

  そして大きく息を吐き出した後、ようやく口を開いた。

 

「もちろんじゃ。鬼は嘘をつかない。ま、どこぞの誰かのように誤魔化したりするやつはいるがの」

「さ、さぁ〜? 誰のことやら、にゃははっ」

「そういう点ではお前も変わらないんじゃないの? 地底と地上の条約を思いっきり破ってるわけだし」

「別にいいじゃろ。お主に会うことと比べたら、そんなのは些細なことじゃよ」

「……うーん、愛が重たいなぁ」

 

  それに応える気がないからこそ、ちょこっとだけ胸が痛んだ。

  しかしそれを顔に出すことはない。彼女も妖怪だ。私がそんな申し訳ない態度を取って隙を見せれば、好機と見てこれまで以上にアプローチしてくることだろう。

 

  その後は宴会が終わるまで飲み明かした。

  それが終わると、萃香と剛は紫によって速やかに地底に返されていた。

  だが、結局は二人ともここに戻ってくることになるであろう。二人のことをよく知っている私には、それがよくわかった。

  紫も同じことを思っているのだろう。しかし対策を立てる必要はあまりないと考えられる。

 

  なぜならあの二人は鬼の中でも例外だからだ。萃香は鬼であるにも関わらずまどろっこしいやり方や誤魔化しを好むし、剛に至ってはどの妖怪よりも自分のことしか見ていない。そもそも彼女は正式には鬼ではなく鬼神なのだけど。

 

  でもまあ、そのことを言うなら全員が全員自分勝手なのかもしれないね。仲間のためと言って条約を破る萃香も、目的のためなら手段を選ばない剛も、迷わせるだけ迷わせてあくまで第三者を装うとする紫も、二人の気持ちを知っていながらそれに答えを出そうとしない私も。

 

  霊夢も魔理沙もレミリアもみんなみんな、自分勝手だ。

  思えば、この幻想郷には思いやりやら気遣いなどと言った言葉は存在しないのかもしれない。全員が全員やりたいことをやって、その結果メリットがあったら協力し、デメリットがあったらぶつかり合う。そんな単純な構造だからこそ、人間関係とやらこじれることがない。

 

  外の世界に足りないのは誠実さ。

  幻想郷に足りないのは不実さ。

  しかしそれらが上手く混ざり合うことはない。なぜならそれらは資本主義と社会主義のように、現実の自分と鏡の中の自分のように相容れない溝があるからだ。

 

  要するに、この世に完全なものなんてないってことだ。

  もし、完璧な存在を例えるのだとしたら、それは……。

 

 

  ♦︎

 

 

「えー、それでは霊夢の鬼退治を祝って、乾杯!」

「「「乾杯!!!」」」

 

  時は遡って、ちょうど霊夢が萃香を倒した直後のことだ。

  魔理沙の言葉を起爆剤に、ここに集まった人妖たちが一斉に声を揃えて爆発したかのように彼女の言葉を復唱した。

 

  だがまあ、息が合ったのはこの時だけで、この後は全員バラけて各々で好き勝手にやっている。まあ、格式にこだわらないのが幻想郷の宴会の醍醐味なのだし仕方ないことではあるが。

 

「ほーれ霊夢ー。今日はお前が主役なんだ。もっと飲めよ」

「あいにく今日はあまり飲まないでおくわ。ちょっと疲れて、食欲がないの」

「おい、誰か医者呼べ医者っ! 霊夢が腹空いてないなんて病気に違いないぜ!」

「ぶっ殺すわよあんた!」

 

  まったく……。小さくため息をつくと、親友からの盃を受け取って中の酒を飲む。

  あぁ……。殴られすぎて痛む身体に、染み渡っていくようだ。

 

  今回の異変解決は、いつも以上に苦戦した。

  まず犯人の手がかりを見つけるのにも苦労した。いつもは頼りになる勘はこの時だけは発揮されなかったし—–—–あとで萃香の能力を聞いて、彼女が幻想郷中に広がっていたせいで常に萃香が近くにいることになり、そのせいで勘が外れたのだという—–—–やっとの思いで犯人を見つけても、その犯人が反則級の強さだったりだとか、散々な目にあってしまっている。

 

「それにしても、今回はよく勝てたな。正直アイツと手合わせた時、今回ばかりは無理だと若干思っちまってたんだぜ? 多分戦った他のやつらもそうなんじゃないか?」

 

  魔理沙の言うことは正しい。間違いなく昨日の夕方前までの霊夢ではあの鬼に勝つことはできなかっただろう。

  しかし、霊夢は勝つことができた。それはなぜか?

 

「……そういえば楼夢は?」

「アイツか? 全員で乾杯した時にはいたと思うんだが……そういえばアイツ、珍しく萃香との弾幕ごっこに参加しなかったな」

「……そう」

「なんだ霊夢? 何だかんだ言って楼夢がいないと寂しいのか?」

「はぁ……そういうのじゃないわよ」

 

  脳裏にあの妖怪のことがチラつく。

  今回勝てたのは間違いなく楼夢のおかげだ。昨日弾幕ごっこをしていなければ、萃香の攻撃に対応できずに今ごろやられていたことだろう。

  つまり、楼夢は異変のことも、その犯人のことも何もかも知っていたということになる。ただの中級妖怪上位がだ。

 

  気になることは他にもある。

  例えばあのいつも身につけている瓢箪。萃香のとはどうも違うらしいが、明らかに中級妖怪が持つには不釣り合いだ。それに、あの時身につけていた二つの刀。あれからもとんでもない妖力を感じた。

 

  思えば、霊夢は何一つ楼夢のことを知らなかった。

  どこに住んでいるのか。なぜ妖怪のくせに異変解決に出向くのか。なぜ自分の世話を焼いてくれるのか。

  答えは出てこない。それはひとえに、霊夢が楼夢について何も知らないから。

 

  そうやって考えれば考えるほど謎が深まり、険しい顔になっていく。

  それを見かねたのか、魔理沙は盃に酒を注ぐと、

 

「おりゃっ!」

「むグッ!?」

 

  思いっきりそれを霊夢の口の中にねじ込んだ。

  霊夢の意思とは真逆に冷たい液体が注がれていく。そして体が熱を持ったかと思うと、思考がおぼつかなくなってきた。

 

「ゲホッ、ゲホッ……魔理沙ぁ……」

「まったく……せっかくの宴会だってのに何しけた顔をしてやがるんだ。楽しむ時は楽しむ! 悩みなんざ後回しだ! 今はこれでいいだろ?」

「……そうね」

 

  納得したかのように頷く霊夢。

  と思ったら、今度は彼女が盃に酒を注いで、それを思いっきり魔理沙に投げつけた。

 

「でも、仕返しぐらいはさせてもらうわよ!」

「何をっ! って、冷たっ!? この……っ、やりやがったな霊夢!」

 

  難しく考えるのはやめだやめ。

  思考を放棄した霊夢と魔理沙から始まったこの雪合戦ならぬ酒合戦は、やがて規模を拡大していき、宴会に参加しているほとんどの人妖を巻き込むこととなる。

 

  そしてその後、全身をびしょ濡れにして寝落ちしたせいで霊夢は風邪を引き、楼夢にマル数日看護されることになるのであった。

 






「連日投稿だぜよ! おそらくこれするのはちょうど一年ぶりくらいだと思う作者です」

「その代わり文字数は前回の半分未満だけどな。狂夢だ」


「いや、前回と比べちゃいけませんって。今回約4000文字なのに対して、前回は9000文字を超えたんですよ? ちなみに普通の弾幕ごっこでは多くて6000から7000ぐらいですので、いかに前回に気合を入れたかがわかりますよね?」

「ま、それはどうでもいいんだがな。どっちにしろ、これで近接弾幕ごっこはしばらく登場しないな」

「今回改めて導入してみたんですけど、近接戦が使えるせいで描写が多くなり、どうしても文字数も多くなっちゃうんですよね。それに拳の殴り合いに集中しすぎてどうしてもスペカが出しづらいというか」

「まあどうせ最低でももう一回は近接弾幕ごっこの出番は来るだろうしな。原作の展開から考えて」

「まだ萃夢想か……エピローグまで長いなぁ」

「今年こそ終わらせるとか言っておいて、もう10月だぞ? このままじゃいつまで経っても新作が出せねぇだろうが」

「いっそのことこのまま新作書いてみよっかな? 二つ掛け持ちってことで……」

「この業界にそう言って掛け持ちしてエタったパターンが何個存在すると思ってんだ。わかったらさっさと次の投稿話でも書いとけ!」

「人使いが荒いなぁ……」

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