東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:日差丸

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永夜抄編
意外な再会


  とある竹林に、和風の屋敷があった。

  そこに人が訪れることはほとんどない。なぜならここは幻想郷の中でも厄介な地として名を馳せているのだから。

 

  『迷いの竹林』。

  常に深い霧が立ち込み、竹の成長が早いため目印となるものが残らない。さらに緩やかな傾斜が迷い込んだ者の方向感覚を惑わせ、二度と外に出てこれなくなることからこの名がついた。

  そしてまだ幻想郷の人妖たちは知らない。この竹林の奥深くで、陰謀が渦めいていたことなど。

 

「……姫様」

 

  姫と呼ばれたのは長い黒髪を持った美しい少女だった。その後ろでは銀髪の女性が膝をついて頭を下げている。

 

「……さあ、始めましょう。私たちの異変を」

 

  少女は夜空に上っている月を見上げたまま微笑む。

  その数日後。幻想郷は再び異変に訪れることとなる。

  しかしそんな未来のことは、彼女ら以外に知る者はいなかった。

 

 

  ♦︎

 

 

「……迷った」

 

  どこだここぉ!?

  買い物しに人里行って、その道草で偶然見つけた竹林に入ってみたのだけど、まさかここがあの悪名高い迷いの竹林だったとはなぁ。

  今日は筍ご飯が食べたかったんだけど、もうそんなこと考えてる余裕もないね。

  なんせここに迷い込んでもう二時間だ。一向に出口が見つからない。

  しゃーないか。本当はあまりやりたくなかったんだけど、こうなったら元の姿に戻って……。

 

  その時、とある竹の後ろに一瞬白いなにかが見えた気がした。

  妖力を感じる……まさか妖怪? だったら好都合だ。ここにいるのなら道に詳しいはず。

 

「おーいそこにいる誰かさーん! 悪いけど出口を知らっ、てうぉぉっ!?」

 

  私が声をかけようと一歩踏み出した瞬間、突如私の周りの地面に穴が空いて、私の体を虚空に吸い込んでいく。

  ちょっ、落とし穴ぁ!? 誰が!? いったい何のために!?

  って、そんなことは後だ後! 来い、私のレイブンちゃーん!

 

  私の背中に妖力で形作られた黒い翼が生える。そして底に着く前に羽ばたいて、なんとか落とし穴から脱出することに成功する。

  幸いなのかどうなのか、落とし穴の底はかなり深かった。それこそ人間が落ちれば骨折程度は確実にするくらいに。

  まあそのおかげで、飛び立つまでの時間が稼げたんだけど。

 

「とりあえず、怪しいのはさっきのやつかな。どうやらずっとこっち見てたようだし、話くらいはさせてもらおうかな」

 

  さっき見かけた辺りを見てみるんだけど、痕跡は全く見当たらない。妖力も感じられなくなってるし、こりゃ相当手慣れてるね。

  だけど、一度感じた妖力だったらいくらでも追跡することができるんだよ、私は。

 

「南の心臓、北の瞳、西の指先、東の踵、風持ちて集い、雨払いて散れ—–—–縛道の五十八『掴趾追雀(かくしついじゃく)』」

 

  土に丸い陣を描いて、そこに手を当てて妖力を込める。するとそこにあの妖怪との距離が表示された。

  ふーむ、結構な俊足だね。もう距離が開き切ってるよ。

  だけど私のは音速を超える。楽勝だね楽勝。

 

  —–—–そう思ってた時期が私にもありました。

 

「くそったれ! 全然追いつけないじゃんか!」

 

  よくよく考えりゃ当たり前だ。あっちがこの竹林に罠を頻繁に仕掛けに来れるほどここに詳しいのなら、追手から逃げる事は道も当然用意してるわけで。

  いく先々で立ち塞がる竹のせいで全速力を出すことができない。しまいにはあの野郎、ちょくちょく立ち止まっては私のことを観察してやがるみたいだ。

 

「……舐め腐りやがってぇ……! ぶっ殺す!」

 

  どうせこんな竹林に知り合いなんざいるわけないんだ! だったら全力出しても文句は言われないだろ!?

 

  体が光に包まれたかと思うと、その中から姿が大人になった俺が現れる。

 

「死ねやオラァ!」

 

  そして舞姫を抜いて、前方を真一文字に切り裂いた。

  そして数秒後。視界に入る全ての竹が半ばでズレて、凄まじい音を立てながら次々と地面に崩れ落ちていく。

  そしてその奥に、白い耳を生やしたチビ妖怪が真っ青な顔をしているのが見えた。

 

「ひっ、ひぃぃぃ!? 逃げ—–—–」

「逃げられると思ったか?」

 

  その妖怪が逃げようとしたころには、俺はもうそいつの肩を掴んでいた。

  一拍遅れて、俺が高速移動した際に発生した暴風が吹き荒れる。

  それによって宙を舞い、バラバラに砕け散っていく竹を見て、妖怪はクローゼットにいる金髪リーゼントのようにガタガタ震えだす。

 

「よう兎ぃ。俺に対して働いた無礼は全て見逃してやっから、さっさとここの出口を……」

「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」

「おい聞いてんのか、おい!」

「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」

「……駄目だこりゃ。使いもんにならねえ」

 

  改めて妖怪の容姿をマジマジと見てみる。

  黒い短髪に薄い桃色のワンピースを着ている。何より特徴的なのが頭についた白くて長い兎耳だ。まるで月の玉兎どもを連想させてくれる。

 

「ちょっ、そこの妖怪、てゐを離しなさい!」

「そうそう。玉兎ってあんな感じの……って、あ?」

 

  チビ兎の襟首を掴んでいた俺の前に現れたのは、これまた白い兎耳をつけた少女だ。

  だが、こいつは今さっき仕留めた奴とは根本的に違う。こいつは……。

 

「テメェ、なんで玉兎がここにいやがる」

「っ!? あなた、なんで私のことをっ」

 

  俺が玉兎の名を口に出すと、少女は驚き、一歩飛び退く。そして手の人差し指を拳銃のように構えて、俺に突きつけてくる。

 

  こいつの顔を見てると思い出すぜ。あの時の屈辱が。

  当時脳に深い後遺症を残していた俺は、制限時間が切れた瞬間にこいつらに撃ち抜かれ、満身創痍に。幸い狂夢が出てきてくれたからなんとかなったが、それでも俺の中では数少ない嫌な記憶となっている。

  そもそも地上を嫌うこいつらがここにいる時点でロクなことが起こる気がしない。どうせ千年前のことなんか忘れて、地上にある穢れ(生物)を全て消し去るつもりなんだろう。

  ……そうはさせるかよ。

 

「俺はなぁ、テメェら月の人間どもが大っ嫌いなんだよ。悪いが月の下っ端よぉ、幻想郷のために、ここで死ね!」

「っ、『幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)』!!」

 

  手で掴んでいたちっこい方の兎を放り投げ、刀を振るう。しかし斬撃は玉兎の体をすり抜け、代わりに発生した真空波で奥の竹群が再び両断される。

 

「……あ? どうなってやがる」

「あ、危なかった……。なんなのよあの馬鹿みたいな威力は!?」

「……そこかっ!」

 

  声がした方へ剣を振るうも、また外れる。

  これは……幻術の一種か? 格上の俺を術中にはめるなんざ、よっぽど強力なものらしい。

  なるほど、伊達に地上に遣わされてるわけじゃなさそうだ。単なる玉兎と思わない方がいいらしい。

 

「無駄よ。狂気にはまった今のあなたに、私の姿を捉えることはできない」

 

  どこからか先ほどの玉兎の声がした。かと思うと、俺を囲うように同じ姿の玉兎が、大勢で現れる。

  だいたい20くらいか。幻術だから本物は一つなわけだが、これは中々面倒くさい。

  そいつらは全員指で拳銃を作り、それを俺に突き出す。

 

「くらいなさい。そしてこの竹林に迷い込んだことを後悔しろ!」

 

  そしてそこから放たれた赤い弾丸が、四方八方から飛び交ってくる。

  観察する限り、どれが本物かは全く見分けがつかない。なら幻ごと全部切ればいい話なんだが、それだと少々面倒だ。

  ならどうするか? ……全部まとめてぶっ飛ばせばいい。

 

  舞姫を地面に突き刺す。そしてそこから放出された膨大な妖力がドームのように広がり、弾丸を含めて全ての玉兎をまとめて吹き飛ばした。

 

「ぐっ、きゃぁぁっ!?」

「……あーあ。ぶっ飛ばし過ぎたか。ゴルフボールじゃねぇんだからよ。ヤード単位でそう簡単に吹っ飛んでくれるなよな」

 

  辺りに静寂が再び訪れる。

  どうやら玉兎はチビ兎の方と一緒に飛んで行ったらしい。さっきまでチビが気絶していた場所に別の足跡があることから、どうやらあいつを連れて逃げ出すつもりだったようだな。

  だが残念だったな。掴趾追雀の効果はまだ続いている。つまりチビの居場所はバレバレだってことだ。

 

  どうやらチビ兎はどこかに移動しているらしい。もう気絶から覚めたのか? いや、さっきよりも移動速度が遅いことから、こいつ自身が走ってるわけじゃなさそうだ。おそらくあの玉兎が運んででもいるのだろう。

  そしてチビ妖怪の座標はある一定の場所で急に止まった。

  ……ここがあいつらのアジトか? だったら好都合。今ここで月のゴミクズどもを皆殺しにしてくれる。

 

「ク、ククク……! ハッハハハハッ!!」

 

  最近殺し合いをしてないからか、急に殺してもいい連中が現れたと知って自然と笑みがこぼれてくる。

  弾幕ごっこも楽しいが、妖怪の本能が好むのは恐怖だ。

 

「せいぜい楽しませてくれよなぁ……?」

 

  瑠璃色の瞳をギラギラと輝かせて、獣はなぎ倒された竹林の上を歩いていく……。

 

 

  ♦︎

 

 

  なんだあれ!? なんだあれ!?

  繰り返しそう呟きながら、玉兎—–—–鈴仙は竹林を全力で駆け抜ける。

  その片腕には兎の妖怪であり友人の因幡てゐが担がれていた。

  先ほど地面に落下した際に打撲してしまった肩にもう片方の手を当てながら、必死に状況を整理しようとする。

 

  始まりは彼女が竹林内でとてつもない轟音を聞いてからだった。

  またてゐが何かしたのかと呆れながら見にいくと、そこには気絶しながら襟首を掴まれて持ち上げられている友人と—–—–見たこともないほど美しい容姿をした妖怪が立っていた。

 

  そのあまりの美貌に、一瞬だが思考を放棄してしまった。しかしすぐにてゐのことを思い出し、その妖怪から救い出そうとしたのだが……。

 

『俺はなぁ、テメェら月の人間どもが大っ嫌いなんだよ。悪いが月の下っ端よぉ、幻想郷のために、ここで死ね!』

 

  どうやら相手は月の民を知っていて、さらにそれを嫌っているらしかったのだ。鈴仙が玉兎であることを見破った途端、とてつもない殺気を放って襲いかかってきた。

 

  幸いだったのは、彼女の能力がその妖怪にも効いたということだ。

  『狂気を操る程度の能力』。これは対象の波長を操り、狂わせることができる。それを使って幻術をかけることには成功したのだが、妖怪が突如放った妖力による衝撃波に吹き飛ばされてしまった。

  そして遠く離れたところで落ち、急いで逃亡しようとして、今に至る。

 

  しばらく走っていると、竹林の中に建てられた大きな屋敷が見えてきた。

  そこの戸を開け、転がるようにして入りこむ。そして声を荒げて叫ぶ。

 

「師匠、師匠っ! 大変です!」

「……どうしたのよウドンゲ。そんなにボロボロになって」

 

  鈴仙の声を聞いて、奥の方から女性が歩み寄ってくる。

 

  ウドンゲとは鈴仙のあだ名だ。

  鈴仙・優曇華院・イナバ。それが彼女のフルネームである。

 

「大変です師匠! ば、化け物が現れました!」

 

  この言葉はあの妖怪を表すのに的を得ていたであろう。確かにあれは化け物だ。生半可な者が立ち向かえる敵じゃない。

  師匠と呼ばれた女性も竹林から漂う恐ろしい妖力を感じ取ったのだろう。返事もせずに近くに置いてあった弓と矢をもぎ取ると、外へと駆け足で出て行く。

 

  鈴仙もてゐを置くと、続いて屋敷から出る。

  その時彼女は見た。竹林の奥で、青白く光る何かがこちらに飛んでくるのを。

 

「伏せさない!」

 

  師匠はそう叫ぶと、膨大な霊力を込めた矢を射った。それはまさしく光のビームと化して、青白い斬撃と衝突する。

  轟音、そして爆発が巻き起こった。

  辺りに煙が立ち込め、視野が悪くなる。しかしそれを突っ切って、先ほどの妖怪と思われるものが高速で迫ってきている。

  しかし師匠の方も負けてはいない。あの速度にも動じず、すぐさま次の矢を引き絞る。

 

  そして矢と斬撃が交差する—–—–ことはなかった。

 

  師匠と妖怪は互いの顔を視認すると、急に動きを止めたのだ。そのせいで師匠の首には刀の刃が、妖怪の首には矢尻が突きつけられている状態となる。

  そして……。

 

「……楼夢?」

「……まさか、永琳か?」

 

 

  ♦︎

 

 

  三つ編みにされた銀髪に赤と青で別れた奇妙な服。

  見覚えのある。いや、覚えていて当たり前だ。

  俺の目には昔世話になった友人—–—–八意永琳の姿が映っていた。

 

「……変わらないわね。あなた」

「妖怪だからな。それに変わらないのはお前もだろうが」

 

  永琳はそれを聞くと、意味深にフッと微笑む。

  彼女の姿は昔かぐや姫騒動で会った時から全く変わってはいなかった。どうやら輝夜を一人にしないために自身も蓬莱の薬を使ったらしい。つまり今の彼女は不老不死ということになる。

 

  まさか月の連中と思っていたのが永琳たちだったとはな……。

  お互いを認識したあの後、俺は永琳に招かれてこの和風の屋敷—–—–永遠亭にお邪魔していた。

 

  出されたお茶をゆっくりと口に含む。

  美味しい。美味しいんだけど……。

  私はちらりと視線を移動させる。そこには俺が飲んでいたお茶を震えながら見つめている先ほどの玉兎の姿があった。

 

「シャキッとしなさいよウドンゲ」

「で、ですが……」

 

  まあ勘違いだったとはいえ、殺されかけた相手といきなり仲良くしろってのは無理難題だよな。

  だからと言って、お茶がマズかったら殺すなんて思われてはたまらないんだが。

 

  それよりも今面白そうな名前が出てきたな。

  ウドンゲ……美味しそうな響きだ。

 

「ほれ、自己紹介よ自己紹介。それくらいできなきゃ礼儀にかけるわよ?」

「は、はぁ……。鈴仙・優曇華院・イナバです。よろしくお願いします……」

「……フルネーム長くねぇか? 好きな名前同士をまるでくっつけた結果のような……」

「あら、鋭いわね。正解よ」

 

  おい。

  どうやら鈴仙が元々の名前のようで、そこに永琳が優曇華院、輝夜がイナバを足して今のようなものになったらしい。

  うん。知ってたけど、変なところでポンコツなのはもう治らないらしい。ネーミングセンスの欠片も感じられねぇ……。

  と、名乗られたままなのは失礼だな。こっちも名乗り返さねば。

 

「白咲楼夢。白咲神社の主神だ。さっきは悪かったな、玉兎……じゃなくって鈴仙」

「楼夢は私の助手一号、つまりあなたの先輩よ。もっと敬いなさい」

「もう二度とテメェの助手なんかやりたかねえがな」

「……そういうわけにもいかないのよ」

「それはどういう……」

「—–—–楼夢っ!」

 

  永琳の発した言葉の真意を問い質そうとしたその時、部屋の襖が勢いよく開かれた。

  そして中に転がり込むように入ってきたのは、非常に美しい容姿をした少女—–—–蓬莱山輝夜だった。

  彼女は俺を見るやいなや、顔を近づけて俺をマジマジと見つめる。が、やがて本物と確信したのか、嬉しそうに抱きついてきた。

  ちょっ、俺は体は貧弱なんだよ! ……くるしぃ……!

 

「久しぶりね! 暇つぶしに部屋から出てきたのだけど、正解だったわ!」

「離せこのバカタレ! そんなに力を入れるんじゃない!」

「なによ、妖怪なんだから丈夫でしょ?」

「俺は例外で紙装甲なんだよ! ちょ、永琳、助けてくれ!」

 

  永琳はため息をつくと、手慣れた手つきで俺から輝夜を引き剥がした。

  えっ、方法? そりゃ怪しい液体が入った注射で……いえ、丁寧に優しく引き剥がしていました! 俺はなんも見てません!

 

「ふぅ……姫様もお眠りになったようだし、話の続きをしましょう」

「……なんか昔と違って随分これの扱いがぞんざいになってないか?」

「ずっと一緒に暮らしていけばそうなるものよ。第一、姫様に言うことを聞かせるにはこれが一番早いから」

「あ、そっすか……」

 

  なんかあの液体に見覚えが……。多分昔俺も打ち込まれたことがあるのだろう。なぜかアレを見てると震えが止まらなくなってくる。

  いや、俺の他にも震えているやつがいるようだ。

 

「ひぃ……!」

「あら鈴仙、何をそんなに怯えているのかしら?」

 

  鈴仙、お前もか……。

  俺のそんな思いが届いたのか、鈴仙は目線を合わせてきてコクコクと頷いてくる。

  どうやら永琳の助手の扱いも相変わらずらしい。……なんか鈴仙とは気が合いそうだな。

 

  閑話休題。

  話を戻そうか。

 

「永琳、お前さっき俺に助手をしてもらわなければ困るみたいなことを言ってたが、どういう意味だ」

「正確的には助手じゃなくて手助けよ。単刀直入に言うと、今私たちは月の民に狙われているの」

「……どういうことだ」

 

  話はこうらしい。

  まず、ことは鈴仙の話から始まる。

  彼女は元々他の玉兎のように兵士として働いていたらしい。しかし月面人妖大戦の時に俺(狂夢)が放った空をも黒く塗り潰した一撃(アルマゲドン)を見て戦意を喪失し、地上に逃げ出してしまったようだ。その後は同じく地上のどこかで逃げ隠れていた永琳たちと偶然合流し、以来ここの竹林に共同で生活しているらしい。

 

  しかし、ある時問題が発生した。

  鈴仙が持っていた通信機が月の民からの電波を受け取ったらしいのだ。曰く、「満月の夜に向かいに行く。抵抗しても無駄だ」という内容らしい。月の連中が実に言いそうな言葉だ。

 

  そして永琳は鈴仙と輝夜を守るために異変を起こすつもりらしい。俺にはその手伝いをしてほしいってことか。

 

  だが、俺はその話を聞いてこう思った。

  博麗大結界じゃダメなのか? 詳細は知らないから断言はできないが、アレだったら月の民も来れないんじゃ……。

  しかし永琳は俺が中々答えないのを、協力はできないと考えているのと勘違いしたのか、とんでもないものを取り出してきた。

 

「……もし、あなたが協力できないと言うのなら、これを幻想郷中にばらまくわ」

「うん、なんだそりゃ……? って、なぁっ!?」

 

  永琳の手の中にあるのは分厚い本のようなものだった。いや、あれはファイルか。表面とかが木製だったから一瞬わからなかった。

  そして彼女は最初のページをめくる。

  そこにあったのは—–—–乱れた服で白目を剥きながら気絶している、あられもない姿の俺の写真だった。

 

「おいおいおいおいおい!? なんだこりゃ!?」

「あなたが私の助手だったころ、薬物実験で正気を失ったあなたの写真よ。全部で百枚以上あるわ」

「消せ! 今すぐ消せ!」

「特にお気に入りなのがこのアヘ顔ダブルピースをしている……」

「それ以上は見るなぁぁぁぁ!!」

 

  考えるよりも先に羞恥心で体が動いていた。ものすごい速さで永琳に飛びつき、ファイルを奪い取ろうとする。

  しかし恥ずかしさで理性を失った俺とは反対に、永琳は冷静だった。足払いをかけ、勢いあまって前に転びそうになった俺の顔面に強烈な肘打ちを繰り出してきたのだ。

  そしてそれは見事にクリーンヒット。あまりの威力に悶絶し、畳の上をゴロゴロと転がってしまう。

 

「うぐおぉぉぉ……っ!」

「もしこれを消して欲しかったら、私たちに協力することね。拒否権はないわよ?」

「くそっ、約束通り消してくれるんだろうな!?」

「もちろんよ。私は約束は守る主義よ。それどころかもし協力したらウドンゲバージョンのもあげるわ」

「師匠ぉぉ!?」

 

  永琳の狂言に今度は鈴仙が叫び声をあげる。

  というか俺の場合はギリセーフでも、鈴仙のだったら単なるエロ画像じゃん。……いや、俺のも大差ないか。

  とにかく! こんなものを幻想郷の住人たちに見せるわけにはいかない。特に紫とか紫とか。霊夢とかの私の正体を知らない組はなんとかごまかせても、古い友人たちにはこれから一生白い目で見られることになってしまう。

 

「ぐぐ……っ! わーかったよ! やりゃいいんだろやりゃ!?」

 

  どうせ博麗大結界も通用するか確証が持てないんだ。だったら今のうちに異変を起こさせて霊夢たちに解決してもらい、一刻も早くあれをこの世から消し去った方がいい。

 

「ええそうよ。やればいいのよやれば。これからよろしくね?」

 

  永琳はドス黒い笑みを浮かべる。

  ……ああ、なんか助手時代を思い出すなぁ。この少しの慈悲すら感じさせない笑顔。実験動物に薬物投与してるときによくこれを見たものだ。

 

  かくして、俺は異変に首謀者側として参戦することとなった。

  まあこうなったらしょうがない。本気で行かないとバレそうなので、手加減は抜きだ。

  ……そうだ、この際ちょうどいい。引きこもりの娘たちもこれに参加させよう。霊夢たちと接点を持たせておけば、いずれ何かの役に立つはず。

 

 

  そうして数日後、永琳によって本物と偽物の月が入れ替えられ、それが異変の幕開けとなった。

  明けない夜と本物の月を取り戻すために、幻想郷の猛者たちが動き出す。

 






「まずは謝罪を。これからテスト期間に入るのでまたしばらく投稿はできません。作者です」

「またテストかよ。お前二週間前もあったんじゃないか? 狂夢だ」


「はぁ……今回のやつで成績決まるんでかったるいです」

「そういえば受験生だったなお前。五教科以外のやつとか大丈夫なのか?」

「いえ、音楽がほぼ終わっています」

「ああ……お前そういえばリコーダーはドレミファソラシド吹けないし、音符も読めないんだったな」

「毎回毎回テストで音符や楽譜のとこで落とすんですよねぇ。知識的なのだったら結構取れるんですが」

「音楽といえば、今は合唱祭のシーズンだな」

「まあほとんどか細い声で隅っこで歌ってる私には関係ありませんがね」

「……お前、音楽メッチャ嫌ってんじゃねぇか」

「誰が好き好んで無駄にうるさくて眠い歌を歌いたがるんですか。もう国歌とか校歌とかで合唱祭やればいいんじゃないですか。正直言って合唱祭の曲よりもソーラン節踊ってた方が百倍楽しいです」

「実際にソーラン節になっても愚痴言うやつだな、それ」
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