東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
夜の博麗神社。その境内に二つの人影があった。
「ほら、何もないじゃないの。害はないんだし、月が入れ替わったなんてあんたの勘違いなんじゃないかしら?」
「人間にはなくても、妖怪には害があるのよ。月の魔力は妖怪にとっては重要だわ。もしそれが偽物になったらどうなるか……わかるわよね?」
「でも、私には何も違いが感じられないわ」
「それはあなたが人間だからよ。とりあえず、今回の件は完全に異変だわ。そしてそれを解決するのが博麗の巫女。違わないわね?」
「はいはい、いちいち言われなくてもわかってるわよ」
月影に照らされて、二人の姿がはっきりと露わになる。
一人は博麗霊夢。いつもの巫女装束にお祓い棒を掴んでおり、これから行われるであろう弾幕ごっこに備えて完全装備をしている。
そしてもう一人は意外なことに八雲紫だ。
なぜここに彼女がいるのかというと、そもそも異変の話を霊夢に持ち込んだのが紫だからだ。
彼女曰く、本物の月と偽物の月が何者かによって入れ替えられたらしい。それを感じ取った紫が霊夢を寝床から引っ張り出して、今に至る。
「さあ出発よ。大丈夫、博麗の巫女と幻想郷の管理人がいるんだもの。よっぽどの敵が来ない限りは負けはしないわよ」
「……ねえ紫。今私の勘がフラグを感じ取ったのだけど」
「……冗談でしょ?」
一気に顔を青ざめる紫。なぜなら霊夢の勘がいかに鋭いかを知っているからだ。
しかししばらくすると落ち着いたのか、彼女たちは博麗神社を出て、夜の空へと向かっていった。
♦︎
一方その頃、幻想郷中の猛者たちも動き出していた。
魔法の森からは二人の魔女が。冥界ではそこの管理人とその従者が。
そしてここ、紅魔館でも……。
「咲夜、異変よ! 異変が起きたわ!」
「お嬢様、お気を確かに。まだ寝ぼけてらっしゃるのなら顔を洗ってきてはいかがですか?」
テラスで紅魔館の主—–—–レミリアはそう言うと、椅子から立ち上がって月を睨みつける。
同じように従者である咲夜も上を見上げた。
黒く塗りつぶされたような空に黄金の玉が浮かんでいる。しかし、ただそれだけだ。空を飛び回る妖怪の姿どころか鳥すら見当たらない。
「やっぱりどこか頭でも打ったのかしら……?」
「いえ、今回ばかりはレミィの言ってることは本当よ。そこは私が保証するわ」
「私も私も! なんか変なのをお月様から感じるよー?」
そう言ってレミリアを弁護したのは相席していたパチュリーとフランだった。
咲夜はその言葉に目を丸くし、再び月を見上げる。しかし結局彼女には何も見つけられなくて、小首を傾げてしまった。
「無理よ。月の魔力に影響されない人間にはあの満月の異常さはわからないわ」
「異常、と言いますと?」
「月の魔力を全く感じられない。つまりあの月は偽物なのよ」
その言葉だけで咲夜はレミリアが先ほどから興奮している意味がわかった。
異変というのは人為的に起こるもの。つまり、本物の月とやらが盗まれたということだ。
果たしてそんなことができるのだろうか……? と疑問に思ってしまったが、野暮な話だと瞬時に首を振った。この世界には様々な能力を持つ連中がうじゃうじゃいる。今さら月を奪うことができる能力者が現れても不思議ではない。
そこまで考えたところで、テラス内の雰囲気が再び変わった。
今度は咲夜にも何が起きたのか感じ取れたようだ。満月……ではなく黒い空を睨みつける。
「時空に誰かが干渉した……? 夜が、止まってしまいました……」
「確定ね。咲夜もこれでわかったでしょ? これは異変だって!」
自身の予想が当たっていたことにレミリアはふんすっ、と鼻息を荒げてない胸を張る。こういう子供らしいところがカリスマブレイクなんて呼ばれる原因だろうに。本人は未だ気づいてはいないようだが。
「それで、どういたしますか?」
「決まってるじゃない。月は吸血鬼の王である私にこそふさわしい。それを目の前で奪った犯人をとっちめに行くわよ!」
「私も行く行く! 異変解決してお姉さんに褒めてもらうんだから!」
レミリアの言葉にフランも便乗して立ち上がった。だが、
「ダメよフラン。私たちは遊びで行くんじゃないんだから。あなたはお留守番」
もちろんシスコンであるこの主人がそれを許すはずもない。レミリアは顔をしかめて、フランの同行を却下した。
しかし納得がいかないのはフランも同じだ。テーブルに両手を叩きつけ、レミリアを睨む。そして必至に抗議した。
「どうして? ねえどうしてダメなの!? フランだって異変解決の力になりたい!」
「戦力は私と咲夜で事足りるわ。あなたが行く必要はないのよ」
「それを言ったらお姉様だって必要ないじゃん! だって霊夢がいるんだもん!」
「ぐっ……!」
痛いところを突かれたとでも言うようにレミリアは顔を歪め、何も言い返せずに押し黙る。それを勝機と見たのか、フランが一気に正論を叩きつけてきた。
「そもそもお姉様が行く理由こそ遊びそのものじゃん! 月はみんなのものであって誰かがが独占できるものじゃないよ! それを自分のだって屁理屈つけて無理矢理理由にしてるだけ……」
「……ああもう! うるさいうるさいうるさい! とにかくダメったらダメなの! わかった!?」
「……っ、もういい! 私一人で異変を解決するんだから!」
ちゃぶ台返しをしてテーブルをレミリアの顔面に叩きつける。その衝撃と溢れた紅茶が顔にかかり、悲鳴を上げて彼女は怯んだ。その隙を突いてフランはテラスから飛び降りて、あっという間に紅魔館を出て行ってしまった。
「どこ行くのフラン!? 待ちなさい!」
そして数十秒ほど遅れて、レミリアがテラスから飛び出してフランを追っていく。
取り残されたのは咲夜とパチュリーだけだ。パチュリーはよく見るいつも通りの姉妹喧嘩にため息をつくと、テラスの惨状を機に求めずに本を読み始めた。
咲夜は今すぐにでも落ちた紅茶やカップを回収したかったが、今はそれどころではない。なんせレミリア本人が出て行ってしまったのだ。早く自分も行かなければ追いつけなくなってしまう。
「パチュリー様! 後片付けは小悪魔にでもやらせておいてください! 私はこれからお嬢様を追わなければいけないので失礼します!」
「ええ……あのじゃじゃ馬のお世話は頼んだわよ……」
ほとんど本に視線を集中させながらパチュリーはそう見送りの言葉を言った。が、それをいちいち聞いている場合ではない。彼女の言葉の途中で咲夜はテラスから空中を飛んでいき、レミリアが行ったであろう方向へ急いだ。
♦︎
「白咲清音です! よろしくお願いしまーす!」
「……白咲舞花。よろしく……」
永遠亭の戸の前で二人はそう挨拶すると、玄関前にいた永琳の案内で中へ入っていく。
あらかじめ二人が来ることは伝えられていたので、永遠亭内が騒がしくなることはなかった。永琳もウドンゲも落ち着いて私たちを居間まで案内してくれる。
……いや、落ち着きのない人物が一人だけいたようだ。
「え、えーと? この子たち今白咲って言ったわよね……?」
「あれ、永琳から聞いてないの? この子たちは私の娘だよ」
「こんの裏切り者がァァァァ!!」
「もんぶらんっ!?」
二人の紹介をした途端、なぜか輝夜が切れて幼体化している私を殴り飛ばした。奇声をあげながら吹っ飛び、畳に倒れこむ。
アタタタ……裏切り者ってどういうことだよ全く。
その心の中で言った問いに答えるように、輝夜が突然私を指差してきて口を開く。
「私とあなたは一生独身の同盟を結んだ中じゃない!? なのに、なのになんで一人だけ結婚してるのよ!」
「してないよ! というかそもそもそんな同盟結んだ覚えすらない!」
「嘘よ! じゃああなたそっくりのこの子たちはどう説明するの!?」
「ああもう面倒くさいなぁ!」
輝夜は私に子どもがいると知ると、何か不都合でもあるのか胸ぐらを強く掴んでくる。
痛い痛い! そしてそのまま頭を揺らすな!
「というかお前だったら結婚なんていくらでもできるでしょうが!」
「いや、別に結婚したいわけじゃないのよ。私には二次元の嫁たちがいるし」
「そこは婿じゃないの?」
「男は嫌いよ。ネチャネチャ詰め寄ってきてしつこいから」
あのぉ……私も一応分類上は男なのですが。
「あ、でも楼夢は別よ。顔も中身も私好みだから」
「それは男として?」
「……? 女としてに決まってるでしょ。あなたのどこに男の要素があるのよ」
お、おぐふっ……。今のは流石に傷ついたよ……。
今知った新事実だけど、どうやら私は輝夜に女友だちとして扱われていたらしい。
ふと視線を逸らすと、そこには可哀想なものを見るような目線を私に向けている娘たち二人の姿があった。やめてぇ! これ以上そんな目で私を見つめないでぇ!
「というかそれだったら私が結婚しても問題ないじゃん!」
「あるわよ。他の男に取られて楼夢が子供を産んでたなんて、ムカつくにもほどがあるわ」
「だから私は男だ!」
「そろそろ静かにしてなさい」
ぷすりと針が刺さった音が聞こえた。そして冷たい液体が注ぎ込まれたかと思うと、私は動けなくなって畳に倒れてしまう。
こんなことをする奴は一人しかいない。
「えーと……これはどういう状況?」
「ナイスよ永琳。これでしばらく楼夢を着せ替え人形にできるわ!」
「姫様も黙っててください」
「ぐえっ……!」
私に続いて輝夜も注射を打たれ、同じように倒れてしまう。しかも私と違って気絶しながらだ。さすが永琳、いったいどんな薬物を打ったのやら……。
「あなたたちのおふざけのせいで娘さんたちが置いてけぼりになってるわよ」
「んー? 面白かったから問題ないよー?」
「……いじめられるお父さんは珍しい……」
そりゃ私元この人たちの部下ですから。年も二人より下だし、なんとなくそういう役回りになるのはしゃーない。
ほれ、妖怪の世界って年取れば力も比例して強くなるから年功序列が厳しいのよ。とは言っても私より年上なやつなんてこの二人と剛ぐらいしかいないんだけど。
清音と舞花はそんな珍しい私を見れたおかげか、どことなく楽しそうだ。普段ならネタになるなんてごめんだけど、まあ二人が楽しそうならまあいいかな。
そんなことを考えてると、いつのまにか退出していた永琳が戻ってきた。輝夜の姿が消えていることから、どうやら彼女を部屋に置いていっていたみたいだね。
「さて、うるさいのもいなくなったから、早速作戦会議を始めるわよ」
「ねえお父さん。一応これってさっきの人を守るための作戦なんだよね?」
「なんだか扱いが雑……」
「いや、あれはほとんど因果応報でしょ」
「話を聞きなさい。また薬を打たれたいの?」
「現在進行系であなたが打った麻痺薬のせいで動けないのですが……」
ほんとこれどうにかしてください。さっきから頭の側頭部を畳に押し付けた状態で話してるから疲れるんだよ。
しかしそんな願いはあっさりと無視され、話は戻される。
「まず、貴方達には二人一組になって侵入者からの迎撃を頼みたいわ」
「二人一組……誰が誰と組むっていうの?」
「じゃあ私は舞花とー」
そう言って清音は舞花の元に近寄り、手を繋ぐ。
それじゃあ私は優曇華とかな……。
そう思って振り返って見ると、優曇華の側には見覚えのあるちっちゃい影が。
「てゐ、貴方は何をしでかすかわからないから私と組みなさい」
「げっ、ウドンゲかぁ……。まあそっちの化け物と組むよりかはマシかもね」
「随分嫌われちゃったようだね……。まあいいや。じゃあ永琳は私と……」
「ごめんなさい。私は私でやらなきゃいけないことがあるから、一緒には行けないわ」
ん、じゃあ私は誰とペアになるのですか?
視線でそう問いかけてみたけど、永琳はニコニコ微笑むだけで何も答えてくれなかった。
ということは、まさか……。
「ねぇ、もしかしてのもしかしてだけど、私ってペアなし?」
「あら、理解が早いのね。さすが私の元助手」
「嘘だドンドコドォォォォンッ!!」
ちっくしょう! 雰囲気からしてやっぱこうなるのかよ!
誰かに助けを求めようとしたけど、全員私と視線が合った途端に目を逸らしてきやがった。
ガッテム! どうやら私に救いはないらしい。
「まあ大丈夫でしょ。仮にも最強の妖怪なんだし」
「いやいやよくないから。私前に説明したよね? 正体がバレないように、普段はこの姿でいるって」
「そんなに一人が嫌だったら、自分でパートナーを探してきなさい」
「簡単に言うけどね、異変の首謀者側についてくれる人なんてどこにも……」
そう言いかけた時、私の感知能力がとある一つの妖力をとらえた。
場所は竹林の方からか。
あちこちに仕掛けを施していたおかげで、永琳たちもそれに気づいたらしい。会話を中断し、全員が一気に戦闘態勢に入った。
「早速侵入者が現れたようね……」
「……いや、この妖力は彼女の……。でもなんでこんなところに?」
「何、知り合いなのかしら?」
「まあちょっとね。みんな、少しだけここで待っていてくれないかな? 私が話をつけてくるから」
「え? あ、ちょっと!」
永琳の制止の声を振り切って、竹林の中へ飛び込んでいく。
竹林内での立ち回りはてゐから教えてもらった。そのおかげで私は最高速度を維持しながら進むことができるようになった。
そして走ること数分。少し開けた場所に、見覚えのある少女の姿が目に映る。
—–—–金色の髪に白いナイトキャップっぽい帽子。そして宝石が付いているような奇妙な翼。
こんな特徴的な姿をしているのは一人しかいない。
「こんなところで何をしているのフラン?」
「……お姉さん?」
フランドール・スカーレット。
月光をスポットライトのように浴びている、紅魔館の主の妹がそこにいた。
♦︎
遡ること数分前。
紅魔館から脱走し、姉の追跡を振り切ったフランは人里がある場所にいた慧音という妖怪の情報の元、ここ迷いの竹林に来ていた。
しかし彼女はここ数ヶ月前に地下監禁から解放されたばっかで、そのまま知識はまだ乏しい。当然ここがどういう場所なのかすら分かっていなかった。
「……ここ、どこなんだろ……」
闇夜に閉ざされた竹林をとぼとぼと俯きながらひたすら進んでいく。
別に暗いのが怖いわけではない。彼女は吸血鬼だ。昼間と変わらないほど夜目は効くし、暗いのも慣れっこだ。
ただ、彼女は一人でいることが何よりも怖かった。
「うぅ……お姉さん……咲夜……パチェ……美鈴……」
無意識のうちに、フランは自分が頼りにしている人たちの名前を呟いていた。……一人足りないと感じるのは気のせいだろう。
やがて彼女は疲れ果て、足を止めてしまう。もう動く気すら起きない。
「嫌だよ……一人は嫌だよ……!」
心が恐怖に押され始め、かつての地下室でのトラウマがフラッシュバックする。
誰もいない暗くて狭い部屋。そこに永遠と思えるほどの時間を過ごしていて……。
しかしそんな場所は、誰かからかけられた声によって一瞬で切り裂かれた。
「こんなところで何をしているのフラン?」
「……お姉さん?」
竹と竹の間に、声の主の姿が現れる。その正体を見て、フランは無意識に己が信頼する者の名前を、今度は大声で呼んだ。
「お姉さん!」
「うわっとっと。危ないよフラン」
我慢が効かなくなり、思わず飛びついてしまったが、楼夢はそれを優しく受け止めてくれた。彼から感じられる甘い香りを嗅いでいると心は自然と落ち着いていき、恐怖から解放された安心感からか涙が自然と溢れてくる。
「お姉さん……っ! 私、私……っ! 」
「怖かったのによく頑張ったね。ほら、私に聞かせてごらん? 何があったのかを」
「うん……」
フランは楼夢に全てを語った。
異変解決の手伝いをしようとしたこと。それをレミリアが断ったこと。そしてそれにカッとして一人で異変解決に出向いてしまったこと。
「なるほどねぇ……」
「……怒らないの?」
「別に。今回のに関してはレミリアもフランも悪いと思うし、カッとなったとはいえ紅魔館を飛び出したのはフランの自己責任だよ。まあそれが学べたんだったら、私から言うことはないさ」
そう言うと、楼夢はフランの頭を撫でた。
優しく、そして暖かい手だ。触れてるだけで心がポカポカとしてくる。しばらくはその心地よさに何も考えられなくなっていたが、
「それで、フランはこれからどうするの?」
思い出したかのように突然かけられた言葉で思考が戻ってきた。
「……分からない」
「家には帰らないの?」
「まだ帰りたくはないの。その……上手く言えないけど……」
自身の感情を思いのままに表したいが、幼いフランの言語力ではそれは不可能な話だった。伝えようと言葉にするたびに途切れ、空に消えていく。
しかし、それだけで楼夢には十分伝わっていたようだ。
彼も何か言いたいのか、顎に手を当ててしばらく考え込む。しかし最後にフランの顔を見てようやく決心したのか、こんな言葉をかけてきた。
「—–—–ねえフラン。私と一緒に異変を起こしてみない?」
「はーいお久しぶりでーす! 今回は真面目に勉強してたのでストックが書けなくなり、結果予定より三日も投稿が遅れてしまった作者です!」
「失踪はしてないから安心しろ。狂夢だ」
「いやー、二週間ぶりの執筆で疲れましたわ」
「あとは受験勉強だけだな。その前にしばらくは働いてもらうぜ?」
「分かってますよ。それでも一応は受験生なので、投稿ペースは一週間に二回ぐらいになると思いますがご了承ください」
「その詫びに、受験が終わったら一週間に三回投稿にしろよ」
「ウヘェ……まあ頑張ります。とは言ってもこの小説も永夜抄まで来てるし、終わりは近いんですがね」
「そもそもド下手クソ時代の前編で無計画に話を書いてたから、こんなに長くなったんじゃねえか」
「一話2000文字辺りの投稿だったあのころが懐かしい……」
「今じゃ大抵7000文字程度だからな。文章力が多少は上がったせいで描写を細かく書いてしまい、結果的にこんな数値になっているというオチだ」
「できれば文字数もう少し削れるようになりたいですねぇ……」