東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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ひとりぼっちの決戦

 

 

 

 

「虹弓『ラルコンシエル』」

 

  舞花がそう唱えると、『銀鐘(ぎんしょう)』が光り輝き、豪華な装飾が施された弓へと変わった。

  右手で空気を掴むような動作を取ると、金色の光がそこに集中して矢を形成する。それをつがえて、空に登る満月へ向かって矢を放った。

 

  しばらくして、墨汁で染められたかのような夜空に無数の星々が己の存在を主張するかのように輝き出す。

  しかし幽々子も妖夢も、それらが本当の星ではないことに気づいていた。悪寒を感じ、意識するよりも速く体が動いていた。とっさに二人はその場を離れる。

  直後—–—–妖夢がいた地面に、小さな流れ星が突き刺さった。

 

「ひえっ!?」

「あらら〜、一人になって楽になったと思ってたけど……まさか本人のやる気に火をつけちゃうとはね」

「呑気に言ってる場合じゃないですよ! 上、上を見てください!」

 

  幽々子が見上げた先の視線には、次々と落ちてくる流れ星が映っていた。

  もちろん、本物の隕石というわけではない。あれは一つの矢が分散して生まれた妖力の塊だ。だが天空から落ちてくる分速度が凄まじく、威力も高いため迂闊に受け止めることができない。

 

「くっ……剣技『桜花閃……ッ!」

「させない」

 

  スペカを使うために一瞬動きを止めた妖夢を狙って、舞花から直接光の矢が放たれた。

  その速度は先ほど舞花が使っていた銃弾とが比べ物にならないほど速かった。現に妖夢はそれに反応することができず、気づいた時には矢が彼女のすぐ目の前にまで迫っていた。

 

  このままでは被弾すると思われたが、その直後に大きなレーザーが複数妖夢の後ろから放たれた。

  幽々子だ。彼女のレーザーもたしかに強力だが、矢の方がどうやら貫通力は上らしい。レーザーの真ん中を貫いて、そのまま真っ直ぐに直進してくる。

  しかし時間稼ぎにはなった。レーザーと矢がぶつかったことで生まれた数秒の時間を利用して、妖夢はその場を離脱。結果、矢は標的に当たることなく、竹やぶの奥に消えていった。

 

  しかし脅威はまだ終わらない。流星群が降り注ぎ、周囲の地面に大小様々なサイズのクレーターを作り上げていく。

 

  妖夢は刀を振り上げ、それらに対抗しようとする。しかしさすがに空から落ちて来る無数の物体を相手するには荷が重かったのか、地面と衝突した時に発生する衝撃波によってたやすく彼女の体は弾かれて、吹き飛ばされてしまう。

 

  だが、彼女とは別で幽々子は全くの無傷で流星群をしのいでいた。

  天へ向かって複数のレーザーが放たれる。スペルカードではない分、レーザー一つ一つは流星群に及ばないが、何も全部を打ち消す必要はない。

  幽々子は自分に当たる星だけを冷静に見切り、それらだけに複数のレーザーを集中させることで、星を相殺していたのだ。

 

  —–—–やはり西行寺幽々子は危険だ……。

  余裕の笑みは消えているが、危なげなく流星群を防いでいる幽々子を見て舞花は思う。

  彼女を抑えなくては、この先勝利することは難しいだろう。

 

 

  そうこうしていると、スペルカードの制限時間が来てしまったらしい。舞花の手に握られていた弓が光の粒子と化して、夜空へと吸い込まれていく。

 

「間一髪だったわね〜妖夢」

「幽々子様、申し訳ございません……っ」

「その言葉は負けてから言うものよ? それにほら、次が来るわ」

 

  言われて妖夢は視線を幽々子から舞花へと移す。

  彼女の手には、最後と思われるスペルカードが握られていた。

 

「死槍『ゲイボルグ』」

 

  間髪入れずに最後の切り札を切った。人数の不利がある分、長引けばそれだけ消耗が激しくなっていく。それが分かっているからこその判断だろう。

 

  先ほどの煌びやかな色とは真逆の、漆黒を纏った長槍が舞花の手に出現する。もちろんこれもラルコンシエル同様、銀鐘を変化させたものだ。

 

  頭上で二、三回ほどクルクルと回した後、舞花は槍を真っ直ぐに構えて地面を蹴り上げ、距離を詰めようとする。目標は近接戦があまり得意そうでない幽々子だ。

 

「させません!」

 

  しかし彼女の前に妖夢が立ちはだかる。舞花によって繰り出された突きを両刀を交差させて受け止めた。

 

  しかし一撃で終わるはずもない。舞花はすぐに槍を引き戻すと、鮮やかに高速で連続突きをそのままの状態で叩き込んだ。

  それらを防ぐたびに、妖夢の防御が崩れていく。

 

  妖夢は長物を持つ相手との実戦経験が全くなかった。それに加えて舞花の思わず賞賛したくなるような槍さばき。一突き一突きが必ずどこかの急所を狙っており、それを無理に防ごうとするだけで体のバランスがどんどん崩れていってしまう。

 

  その状況にさらに追い討ちをかけるように、舞花の左手に見たことのあるL字状の武器が出現する。

  それを見た妖夢は焦燥し、とっさに刃の後ろに隠れるようにして両刀を引き戻した。

 

「……バンっ」

 

  爽快な発砲音が響き渡る。

  残念ながら弾丸は妖夢の刃に当たってどこかに跳ね返ってしまったようだ。しかし彼女はその代わりに不安定な体勢で大きな衝撃を受けたせいで、数歩下がってよろめいてしまう。

 

  そこに、漆黒の槍によるなぎ払いが繰り出された。

 

「……っ、ぎぃ……っ!?」

 

  槍と体の間に刃を滑り込ませることができたのはほぼ奇跡に等しいだろう。おかげで妖夢は直接被弾していないので、勝負はまだ続けられる。

  しかしそれとこれとは別問題だ。妖怪の剛腕で出されたなぎ払いの威力は凄まじく、妖夢はボールのように簡単に竹やぶにまで吹き飛ばされて、姿を消してしまった。

 

  これで舞花を遮る者はいなくなった。後は……。

  改めて槍を構え直し、穂先を幽々子へと突きつける。

 

「あらあら、怖い顔ね〜。そんなにお姉さんの方がやられちゃって悔しかったのかしら〜?」

「……それもあるけど、その微妙にセリフを伸ばすところが清音姉さんに似ていて、ムカつくっ!」

「そう言われまして、もっ!?」

 

  幽々子の言葉を遮って、舞花の横薙ぎが繰り出される。

  しかしそれは空を切ってしまった。飛び退いた幽々子が、ふわりと地面に着地し、舞花を嘲笑う。

 

「私だって一応は妖忌の時代から剣術をやってたのよ〜。そう簡単には捕まらないわ」

「次は、当てる!」

 

  飛び上がって落下の勢いを利用した振り下ろしを、今度も幽々子は優雅にその場を飛び退いて避けてみせた。

  しかし幽々子が先ほど舞花に言った言葉はハッタリだ。たしかに妖忌や妖夢は白玉楼の剣術指南役であるが、幽々子自身が修行をしたことがあるのは数回程度だ。実際はほとんど剣にすら触れたことがない。

  それでも舞花の槍を避けることができたのは、持ち前の才能ゆえか。しかしそれも徐々に剥がれて来つつある。

 

  「……っ!」

 

  舞花による高速の連続突きが繰り出される。それに対応し切れなくなり、徐々に幽々子にかすり始めた。

 

「ぜやぁっ!」

 

  気合いのこもった踏み込み突き。間一髪幽々子はそれを横に避けるが、それは舞花の想定内だ。すぐに手首を返して、そのままなぎ払いへと持っていく。

 

  とっさに妖力を込めた扇を盾代わりにしてそれを逸らすことに成功したが、その時の衝撃によって扇が手から弾き飛ばされてしまった。

  そして体勢を崩した幽々子に、今度は逆方向からのなぎ払いが迫る。

 

「きゃぁっ!?」

 

  結界を展開させるも、それはあっさりと壊されてしまった。その衝撃波で幽々子は小さく悲鳴をあげながら後方へ吹き飛び、倒れこむ。

  もちろんこの勝機を逃す舞花ではない。すぐに槍を突き立てようと距離を詰めようとする。

  しかしその時、幽々子の手元で何かが光り輝いた。

 

「幽曲『リポジトリ・オブ・ヒロカワ』ッ!!」

 

  倒れながらスペカが発動され、先ほどとは比べ物にならない量の蝶型弾幕が視界を覆い尽くす。

  しかし舞花はそれを見て嘲笑を浮かべると、蝶の群れに向かって、あろうことか槍を投擲した。

 

「弾けろ、ゲイボルグ」

 

  拳を突き出し、そう唱える。

  するとゲイボルグが光に包まれたかと思うと、無数の(やじり)と化して蝶の壁を突き破り、そのまま奥の幽々子へと降り注いだ。

 

  いくつもの鏃が幽々子の肌を切り裂いていく。美しかった淡い色の着物は所々が破け、その箇所が血で赤く染まっていた。

  それでも幽々子が必死に抗った結果、直撃だけは免れることができた。しかしとある一つの鏃が着物の振袖を挟んで近くの竹に突き刺さってしまい、身動きが取れなくなってしまう。

 

「くぅぅ……っ! 私の力じゃ……抜けない……!」

 

  残った片方の手で鏃を掴み、引き剥がそうとするが、それは予想以上に深く突き刺さっており、筋力のない幽々子が引き抜くことは不可能だった。

 

  そうやってもがいていると、前方から舞花がゆっくりと歩いてくる。元に戻ったゲイボルグを肩に担いでいる姿が、死神が大鎌を構えている様を彷彿とさせる。

 

「これで止め。白咲家は最強の勢力……それを敵に回したことを、後悔しろ」

「ふふ、最強ね……あなたって面白いわ〜」

 

  緊迫した雰囲気の中で、幽々子の場違いな笑い声だけが響いた。

  それを侮辱と受け取ったのか、舞花は無表情ながらも眉を潜める。

 

「……何がおかしい」

「あなた自身は最強でもなんでもないのにそれを語る。滑稽でしかないでしょ?」

「だから、私だけじゃなくて……」

「それは『彼』の後ろにいるから最強を名乗れるだけよ。本当は白咲家なんて、『彼』を除けば何も残らない。ただの極小組織にしか過ぎない」

「っ、お前ェ……!」

 

  図星だったようだ。舞花は薄々と自覚しながらも認めたくなかったところを突かれ、感情が抑えきれなくなってしまう。

  槍を振り上げ、先端に妖力を集中させる。それは弾幕ごっこで使っていい量を超えていた。

  舞花は幽々子を殺すつもりなのだ。そうすることで彼女から言われた言葉を弱者の弁として忘れようとしている。

 

「最後に、何か言い残したいことは?」

「そうね〜、あえて言うなら……()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言ったところかしら?」

 

  空気を切り裂き、何かが舞花の背後から近づいてくる。

  敏感な彼女の耳はそれを感じ取り、とっさに後ろを振り向く。

  そこには……刀を真っ直ぐに振り下ろしてくる妖夢の姿があった。

 

「ハァァァッ!!」

「っ、く……っ!?」

 

  とっさに槍を横に構えてそれを受け止める。しかしそのせいで舞花の視線は幽々子から妖夢へと移ってしまった。

  幽々子はその好機を見逃さない。すかさず竹に張り付けにされてない方の手を構えて、そこからレーザーを放った。

 

「な、めるなぁ!」

 

  残念ながら、それも当たることはなかった。舞花が体を無理やりひねり、レーザーを躱したのだ。

  だが、それすらも囮に過ぎない。本当の幽々子の狙いは舞花の体勢を崩すこと。そうすれば—–—–。

 

「人鬼『未来永劫斬』ッ!!」

 

  光を纏った両刀から、複数の斬撃が繰り出された。

  その速度は速いを通り越して目に見えないほど。舞花でさえもだ。

  構えたゲイボルグに数え切れないほどの衝撃が襲いかかり、それに耐えきれずに槍は真ん中から折れてしまう。

  そして守るものがなくなった舞花の体に、いくつもの赤い線が走った。

 

「ガッ……う、そ……っ!?」

 

  自分が負けたと言うショックと体の痛み。二つの大きな情報を流されて脳がパニックを起こし、舞花は糸が切れた人形のように地面に倒れる。

  しかしその目はまだ負けを認めてはいなかった。

  —–—–私が、白咲家が負けるはずがない……!

 

「まだ、勝負、はぁ……っ!」

 

  遠のいて行く二人の後を追うため、這いずりながら前進していると。

  ふと、妖しい光を纏った蝶が舞花の手の上に触れた。

  瞬間、舞花は意識を保つことができなくなり、顔を地面に埋めて、それっきり、動かなくなった。

 

  その一部始終を見ていた妖夢は一言。

 

「白咲家って、美夜さんみたいな人ばかりだと思っていましたけど……こういう人もいるんですね」

 

  美夜はいつも冷静で、簡単に言って仕舞えば大人の雰囲気をいつも纏っていた。

  それに比べて舞花が最後に見せたのは子供の意地のようなものに似ていた。まるであの時、妖夢が美夜に始めて負けた時のような……。

  そこまで考えて、妖夢は悟った。

 

「そうか……この人、負けたことがなかったんですね。だからあんなにも不安定だったんだ……」

「人も妖怪も、知性あるものはみんな挫折を繰り返して成長していくものよ。それが分かっただけで、あなたは一人前に一歩近づいたわ」

 

  一歩前に進んだ幽々子がそう返す。その顔にはいつもの妖しい笑みではなく、純粋に妖夢の成長を喜んでいる笑顔が浮かんでいた。

 

「さあ行くわよ妖夢。ちゃっちゃとこの異変を解決しにいきましょ?」

「……は、はい!」

 

 

  ♦︎

 

 

「……そう、二人とも負けちゃったのね。残念残念。でもまあ仕方のないことかな。—–—–そうは思わない?」

 

  自然のスポットライトを全身に浴びながら、それはこちらを振り向いてくる。

 

「……嫌な予感がしてたのよ……最悪の相手だわ」

「嘘……なんで楼夢が……?」

 

  桃色の美しい髪を持つ少女は、満面の笑みを浮かべて。

 

「さあ霊夢、紫。ゲームオーバーの準備はできた?」

 

  刀を抜き、そう問いかけてくるのであった。

 

 


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