東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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竹林での最終決戦

 

 

「ラストワード『天鈿女神(アメノウズメ)』」

 

  そう唱えた楼夢の体が(まばゆ)い光に包まれていく。

  霊夢と紫はそのあまりの光量に思わず目を瞑る。そしてようやく視界が元どおりになった時、そこに映ったものを見て目を見張った。

 

  髪は二色。旋毛部分と肩から下の色が藍色に変わっている。瞳もルビーとラピスラズリの宝石をはめ込んだようなオッドアイになっており、何より変化したのは両手に握られた刀だ。右は炎を、左は氷をそれぞれうっすらと纏っている。

 

「何よ、それ……?」

「よく覚えとくといいよ。これが妖魔刀所有者の力を数十倍に跳ね上げる『神解』。そしてこれが—–—–私の力だ」

 

  最後の言葉は霊夢たちの背後から聞こえた。そしてその直後に、二人のほおにうっすらと赤い線が引かれる。

 

「うそ……。まったく見えなかった……」

「今のはサービスだよ。次は当てる」

 

  圧倒的な戦力差を見せつけて、桃色の神は無邪気にそう笑うのだった。

 

 

  ♦︎

 

 

「こんの……っ!」

「あははは! 遅い遅い!」

 

  霊夢から数百もの追尾お札が放たれる。しかし今の私にとってはもはやスローモーションだ。

 

  『神解』した今の私の妖力量は普段の数十倍、つまり幼体化の姿ながらも大妖怪の域に達している。

  そしてなによりもこのスピード。大人状態のように光速にまでは達することはできないけど、それでもマッハ一万越えくらいはできるようになっていた。そしてそれは霊夢たちを圧倒するには十分な速度だ。

 

  あちこち飛び回るだけで衝撃波が巻き起こり、それだけで敵の弾幕が消し飛んでいく。軽く刀を振るっただけで森羅万象斬を超える威力の斬撃が、それぞれの属性を纏って放たれる。

 

「くっ、霊符『夢想封印』!」

「遅いよ」

 

  七つの色鮮やかな巨大弾幕は出現すると同時に両断され、霧散していった。

  呆然とする霊夢。そんな彼女に微笑みかけて私は炎刀を振るう。

  とたんに膨大な炎の波が霊夢をのみ込んだ。

 

「きゃあぁぁぁぁぁっ!?」

「霊夢っ!?」

 

  これでワンヒット。

  紫のスキマによって救出はされたが、霊夢の体はたった一撃でボロボロになっていた。服はあちこちが焼け落ちており、ところどころに火傷の跡が残っている。

 

「つっ……! これじゃあとてもスペカの制限時間まで生き残れないわよ!」

「落ち着きなさい霊夢。どんなに速くても相手の残機はたったの一つしかないわ。耐えて耐えて、隙ができたと思ったら二人で同時にスペカを使うのよ」

「……それしかないわね」

 

  遠くにいたからよく聞こえなかったけど、どうやら作戦の方針は決まったらしい。

 

  ここで今の状況について説明すると、私がスペカ二、残機一、相手はスペカ二に残機二だ。

  あっちの方が有利なのは確かだけど、じきにそれもひっくり返ることでしょう。今の私が倒されるビジョンが浮かばない。

 

「くっ……!」

 

  四方向からほぼ同時に斬りつける。が、霊夢はかすりはしたもののそれらをなんと全て避け切った。おそらくあの予知に近い勘が働いたのだろう。

  一瞬動きを止めた私を狙って援護の射撃が紫から飛んでくるけど、それが着弾するころにはそこに私はいない。逆に背後に回り込んで回し蹴りを繰り出してやった。正確には寸止めの衝撃波だけど。

  しかしそこは長年の付き合いというか、私の考えは読まれていたようだ。彼女の背後には結界が張られていて、それが辛うじて使用者を守った。が、その反動で紫はぶっ飛んで行く。

 

  霊夢も紫も明らかに私が見えていない。

  まあ仕方ないけど。このレベルのハイスピード戦闘は天狗相手じゃできないだろうし。でもそれで手加減するほど甘くはない。

 

「そして今日こそ、霊夢に勝つっ!」

 

  今度は左の刀を霊夢に向かって振り下ろす。猛吹雪が刀身から発生し、前方を凍てつかせるが、これも霊夢はギリギリのところで避ける。

  しかしそれは元より罠よ。吹雪の攻撃範囲から逃れるため、霊夢は必ず前後左右のどれかへと進むはず。そしてその方向に回り込んで、霊夢を切る算段だったんだけど、

 

「む……!」

 

  返り血がほおに付くが、切った感触が浅い。

  霊夢はなんとそれすらも見越して、私の斬撃を避けたのだ。

 

  おいおい、もう対応してくるのかよ……。

  でも、今ので私も完全に吹っ切れたよ。

  怒涛の斬撃の嵐を繰り出す。がしかし、赤い粒が数え切れないほど飛び散るが、どれもこれもかするばかりで直撃してはくれない。むしろ、避けるたびに芯が外されてきている気がする。

 

  見えてはいない。見えてはいないはずなのだ。

  なのにことごとく躱される。攻撃パターンも全て複雑化させた私の剣術が、たった十年代の少女に敗れていく。

 

「くそったれ!」

「ガッ……!?」

 

  巨大な氷の斬撃を飛ばすことで私の姿を霊夢の視線から遮らせる。斬撃の方は見事に避けられちゃったけど、私への意識が移った一瞬を狙って彼女の真下から両足での蹴り上げ—–—–サマーソルトキックを顎へとお見舞いした。

 

  鈍い音が鳴り響く。しかし本来なら寸止めで終わるはずなのに両足には何か硬いものが当たったかのような感触があった。

  それの正体はもう分かっている。結界だ。それも何立方センチメートルほどの大きさしかないものが、顎だけを守るように薄く五十枚ほど重ねられていたのだ。

 

  これも、か……!

  顔すら覆うことのできないような結界をピンポイントで攻撃箇所に作るのは至難の技だ。しかしそれゆえの見返りとして、霊力消費のコスパがかなり高い。彼女が数十枚も結界を重ねられたのにはそれが理由でもある。

 

  血で染まった顔。度重なる出血とサマーソルトによって脳を揺らされたことが重なって意識が朦朧としているのか、先ほどから怖いほどに静かだ。しかし髪の隙間から、二つの宝石のような瞳がギラギラと輝いているのを見て、私は一瞬気圧されてしまう。

  この感覚……伝説の大妖怪のものと同じだ。まさか、彼女はそこに至ろうとしているのか……?

 

「ふざけるなぁ! 『鎖条鎖縛』!」

 

  私がそこに至るのにどれほどの時間が必要だったと思ってるんだ! この私が—–—–

 

  蛇のようにしなる光の鎖が打ち砕かれた。

  お祓い棒による一閃。

  だけどこの程度じゃ私も怯まない。その隙を突いて、超高速の蹴りを繰り出す。

 

  竹が折れたような鈍くて嫌な音が響き渡る。

  霊夢は私の蹴りを左腕に先ほど同様に数十枚も重ねられた結界を張って防いだようだ。先ほどの音はその反動で骨が砕けたのだろう。

  なのにもかかわらず、霊夢の手は私の足を血が滲むほど強く握りしめていた。

  そして頭上にお祓い棒の影が浮かび上がる。

 

「……」

「ぐぁ……っ!?」

 

  交差した炎と氷の刀にお祓い棒が振り下ろされた。強烈な衝撃が両刀に走ったことで炎と氷が噴出され、それによって発生した蒸気が辺りを白く染める。

 

  あまりの威力に腕が痺れる。衝撃を殺すためにわざと吹き飛んだにも関わらずだ。

  距離が開いた。霊夢はまだ意識が遠のいているのか、追っては来なかった。ただ血で濡れた手でお祓い棒を握りしめて、そのギラつく瞳で私を射抜きながら、仁王立ちをしている。

 

  霊夢の才能が凄まじいのはわかっていた。だけど、あそこまでのものは予想外だ。

  意識がないはずなのによくやる。いや、意識がないからこそ、リミッターが外れたのかも。

  いずれにせよ、このままじゃ勝機は薄い。

  負けるのは嫌だ。負けるなんて考えたくもない。でもどうすればあの状態の霊夢を破れる……?

 

  その時、見知った声が聞こえてきた。

 

「霊夢、返事をしなさい! 霊夢っ!」

 

  紫だ。先ほどから接近戦ばかりを繰り広げていたものだから、彼女は迂闊に近寄れなかったのだろう。しかしそれが終わった今、彼女はスキマで霊夢の元に辿り着くと、必死に霊夢の手当てをし始める。

 

  そんな紫の姿を見て、私の脳裏に黒い考えが浮かんできた。

 

  そうだ、いるじゃないか。とっておきの獲物が。やつを仕留めれば霊夢を攻略しなくても私の勝ちに—–—–。

 

「……いや、やっぱそれは違ぇよ」

 

  ギリギリのところで踏みとどまる。すると頭に悪魔のささやきが聞こえてくる。

 

『なにが違うってんだよ。霊夢を倒すも紫を倒すも同じことだ。同じ勝利だァ!』

「たとえその手を使って勝ったとしても、あいつらの前に胸張って『勝った』って言えんのかよ? ……いいから黙ってやがれ、これは俺の戦いだ!」

『……ちっ』

 

  悪魔が消え去っていく。代わりに体中から膨大な妖力が溢れ出してきた。

 

『テメェが決めたことなんだ。協力してやらァ。……ただし、負けんじゃねェぞ?』

「ふっ、俺を誰だと思ってやがる。俺は、俺は……白咲楼夢だっ!」

 

  誰に向けてではなく、自身を鼓舞するためにそう叫ぶ。それが聞こえたのか、霊夢の体がわずかにだが震える。

  そうか、意識が戻ってきたのか。ならばこれが最後だ。

 

「いくぞ—–—–『千華繚乱』っ!!」

 

  もはや数えるのも馬鹿馬鹿しいほどの斬撃が一点に集中して繰り出される。しかしそれらが目的のものを切り裂くことはない。

 

「ラストワード—–—–『夢想天生』」

 

  霊夢の『空を飛ぶ能力』をフルに活用した最終奥義。複数の陰陽玉を浮かばせ半透明となったこの状態の霊夢はこの世のありとあらゆる事象から()()ことによって無敵の状態と化す。

 

  でも、そんなのは前から知ってたことだ。これが来る覚悟は出来ている。そしてもちろん—–—–対策もできている。

 

「甘いんだよ!」

 

  雄叫びを上げ、こっちも能力を発動。

  私の『形を操る程度の能力』は空間、つまり事象にも関与することができる。

  ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、とかね。

 

  半透明な姿が徐々に濃くなってくる。

  そしてこの時始めて、『夢想天生』は破られた。

 

  驚愕する霊夢。

  そこに斬撃、鮮血。

  呆けていたのはほんの一瞬で、後は霊夢の姿は無数の赤と青の線によってかき消された。

 

  —–—–ようやくだ。ようやく勝てた!

  全身を真っ赤に染めながら脱力して落ちていく霊夢を見つめて、そう確信する。

  そこに、

 

 

「『深弾幕結界ー夢幻泡影ー』」

 

  静かに、だが力強くスペカが宣言された。

  そうだった。霊夢に集中するあまり忘れていたよ。まだ試合は終わってなかったね。

  別段焦りはしない。なぜなら聞き覚えのないスペル名から紫の切り札であると推測できるけど、『夢想天生』レベルのチートじゃない限り、どんなスペカも破れるという自信があったからだ。

 

  私を囲うように展開されていく無数の弾幕。

  なるほどね、『弾幕結界』の強化版というわけか。たしかに密度なんかもそれとは比べ物にならないほど高いし、数も格段に多くなっている。

 

  だけどやはり、問題にはならないかな。

  迫り来る弾幕の壁を次々と斬り伏せ、どんどん紫の元へと進んでいく。

 

「はぁあっ!!」

 

  そしてついに弾幕檻から脱出を果たした。その途端に紫が自身の傘を刀に変えて切りつけて来たので、軽く受け止めてあげる。

 

「ぬるいね。あなたの剣じゃ私を切るなんて一億年早いよ」

 

  紫は無言を貫いたまま、腕にさらに力を込める。けど刃が動くことはなかった。

  当たり前だ。私と紫は同じように筋力は低いけど、それでもいつも剣を振ってる私とじゃ大きな違いが出て来る。それに紫がただ力任せに押しているだけなのに対して、私は手首の動きなどのテクニックを利用しているのも大きい。

 

  紫はその場から動くつもりはないようだ。

  ……これで終わりだ。

  振りかぶられた片方の氷の刀が紫に触れようとする。しかしその時が来ることはなかった。

 

  突如眩しいほどの光が私の背中向かって放たれる。それに驚いて、思わず視線を向ける。

  —–—–そこには、スキマを背にして、先ほど全身を血に染めて脱落したはずの霊夢が立っていた。

 

  彼女の周囲に浮かぶ球体、陰陽玉。光の正体はそれらが放つ膨大な霊力によるものだった。

 

  —–—–忘れていた。

  夢想天生はただ体を別次元に飛ばすスペカではない。無差別に数え切れないほどの弾幕をばらまく、超高火力なスペカでもあったのだ。

  そこまで思考が至った時にはすでに遅く。

  陰陽玉を斬る前に、発狂したかのように無数の弾幕が放たれた。

 

「負けるかぁぁぁぁっ!!」

 

  しかしそれがどうした。先ほどまでと同じ通り、邪魔するものは全部切り捨てて進むまでのこと。

  千華繚乱の斬撃数が徐々に夢想天生を上回っていく。このまま行けば押し切ることが可能だろう。

  だけど私はもう一つ忘れていた。これはタッグマッチであることを。

 

「ハァァァァッ!!」

 

  夢想天生に上乗せするように、紫の弾幕が放たれた。

  そうだ、一度突破しただけであって、彼女のスペカはまだ終わっちゃいない。再び私を包囲し始めると、全方位からの集中砲火が始まった。

 

「……くそっ、くそっ、くそぉぉぉぉっ!!」

 

  いくら速く刀を振るうことができても。

  全方位から迫り来る数千数万の弾幕を全て切ることは今の私では不可能だ。

  理屈じゃすでにわかっていたけど、手が休まることはない。

  そのうちに、徐々に弾幕が体をかすめていくようになる。

  そして。

 

「ガ……ハ……ッ!?」

 

  一つの弾幕が私の腹部に命中してしまった。

  それによって集中力がとうとう途切れ、斬撃の舞が止まる。

  そして均衡は一瞬で崩れ、雪崩のように押し寄せて来る弾幕の荒波に私は飲み込まれ、気を失った。

 

 

 ♦︎

 

 

「……ここは……?」

 

  眩しい月光に照らされて、私はようやく目を覚ました。

  背中や後頭部には湿った土の感触がある。それに目線に映る壊れた竹の天蓋。どうやら私は仰向けで気絶していたらしい。

 

  すぐに起き上がろうとするが、体の節々が痛んで少しふらついてしまう。その際に意図的ではなかったが、私の右手が何か細長いものに触れた。

  見ればそれは柄だった。それも見知ったものの。

  地面に突き刺さった舞姫を引き抜き、鞘に納める。辺りを見渡しと少し遠くにも妖桜らしき刀が落ちていたので、それもしまっておく。

 

  改めて、状況を確認してみる。

  あの後弾幕に呑まれて気を失ったせいで空中に留まることができず、そのままここまで落下してきたのだろう。そう考えると真上の天蓋に空いた穴と体中の不自然な痛みも納得できる。

 

  ……そうか。私は負けたのか。

  今まで霊夢と戦って負けても、もちろん悔しいという感情があった。ただ今回はその度合いが違う。簡単に言うと、ものすごく悔しかった。

  なんせ今回は神解まで使ったのだ。大人状態だったら勝てたとか、そういう言い訳が欲しいんじゃない。そもそも大人状態でやると弾幕ごっこでの適切な手加減ができなくなるので使用は不可能。つまり、今日のこの姿こそが私の弾幕ごっこにおける全力だった。

  なのに負けた。

 

  自然と拳を握る手に力が入り、それを地面に叩きつける。

  たしかに紫もいた。でもそれは最強の妖怪と呼ばれた私が負けていい理由にはならない。

  悔しくて、悔しくて。

  しばらくはそれに耐えるように、動くことができなかった。

 

  久しぶりだな。こんな感情を抱いたのは。

  初めては剛にコテンパンにされた時だったっけか。あの時とは状況は違うけど、感じたことは同じはずだ。そしてそれをバネにすることで、最後には彼女に打ち勝つことができた。

  なら、今回も同じだろう。次の時には必ず勝てるようになってるはずだ。

 

「認めるよ。私は負けた。でもこれで終わりじゃないんだから」

 

  いつかまた戦って、今度こそ打ち負かせてみせる。

  そう新たな誓いを胸に刻み込んだ。

 


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