東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:日差丸

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鈴蘭畑の毒人形

 

 

 

 

  なんの変哲も無い森の中をかなりの速度で進んでいく。

  いや、何もないわけはないか。今回の異変の例に漏れず、森の中には不統一な花々が咲き誇っていた。

  やはり森の中ということで自然の力が強いせいか、ここにはやたらと大きいサイズの花が咲くようだ。今もなお、進路を塞ぐ植物を切り落とさなければ進んでいけない。

 

  射命丸と出会った後、私は空を飛んでいると妖精たちに見つかりやすいと判断し、地面を進んでいくことを決定した。そしてそれは結果的に正解だったといえよう。

  私が地に足をつけることを選択してからは、こっちが一方的に敵を発見することはあっても、妖精たちに私の姿が見つかることはなかった。

 

  正直言ってこれだけでもかなりの利益だ。今の私の体はスペカを数十数百放てるようなスペックはなく、かといって勿体ぶっていては時間がかかってしまう。おまけに今日の討伐目標はなんといってもあいつなのだ。妖力は出来るだけ温存しておくに限る。

 

  そんなことを考えていると、奥の方の木々の隙間から光が差し込んできているのが見えた。

  よし、この森を抜ければ太陽の畑まではもうすぐ……のはず。確信を持てないのは、私が今地図などを所有しておらず、うろ覚えの記憶のみで進んでいるから。

 

  いやだって仕方ないじゃん。基本私は人里と博麗神社にしか行かないし、異変解決の時も霊夢が大抵先導してくれてたんだから。

  ああもう、こんなことなら勢いで出て行かずに家の地図でも持っていくべきだったわ。

 

  そんな愚痴を呟きながら、森の出口の前に生えていた巨大茨を一閃。

  そして眩しくなった視野とともに広がる眼前の光景に、私は思わず目を見開いた。

 

 

  そこにあったのは、視界一面を埋め尽くす大量の鈴蘭。それらが緩やかに盛り上がった丘に咲いていた。

  森にいた時は植物に覆われていて気づけなかったのだけど、どうやらここは小さい山の頂上となってるらしい。

 

  ——綺麗な鈴蘭畑。だが、ここじゃない。私が探してるのは太陽の畑だ。

  そう己に言い聞かせ、ここを立ち去ろうとしたそのとき。

 

  ふと、なにかが鈴蘭畑の上を浮遊しているのが見えた。

  妖精……? いや、違う。小さな少女のような姿をしているようにも見えたが、どっちかというとあのサイズはまるで小人だ。それが、鈴蘭畑の中を潜っては飛び出してを繰り返している。

  まるで、私を誘っているようだ。

 

  今度こそ、好奇心が自制心を上回ってしまい、私は小人を追いかけるために鈴蘭畑に飛び込んだ。

  草をかき分け、前へ進んでいく。

  手で触れるたびにチクチクとした痛みが走るが、それも我慢。

  前へ、前へ。

  そして無意識に小人へ手を伸ばしたところで、私は胸の奥からせり上がってくるような痛みとともに、我に返った。

 

「あれ、私はなにを……ゲホッ、ゴホッ!? ……これは……!?」

「うふふ、引っかかった引っかかったー!」

 

  思わず地面に膝をつく私の背後から、そんな無邪気な声が聞こえてくる。

  体が、痺れる……!

  動かしにくくなった首に力を込め、後ろを振り向く。

 

  そこにいたのは、先ほど見た小人によく似た少女だった。

  短い金髪に、蝶結びで結ばれた赤いリボンをつけている。黒をベースとした洋服と赤いロングスカートの組み合わせは、私の巫女服とどことなく親近感を漂わせてくれる。

  しかし普通なのはそこまでで、少女が醸し出す紫のオーラは異常とししか言いようがなかった。

 

「ふふ、知ってる? 鈴蘭の花には毒があるんだよ?」

「それくらいは知ってるさ。だけど、それは触れれば即座に反応するタイプのものでも、体を麻痺させるタイプのものでもないはずだよ?」

「半分せいかーい。たしかにあなたを蝕んでいるのは毒だよ。でも、それは鈴蘭の毒(スーさん)じゃない。私の毒よ」

「なるほどね……毒を作り出す能力ってことか……」

 

  今度こそ正解、とでも言うように少女は微笑む。そして私の前に回り込んで、その人形のように小さな顔をグッと近づけてきた。

 

「ねえ知ってる? 人間って毒で動いているらしいよ? なら、鈴蘭畑に捨てられた人形が毒で動くのも、自然の摂理と思わない」

「あなたは……もしかして付喪神なの?」

「さあ? 私はここ無名の丘で生まれた毒人形、メディスン・メランコリー。それしかわからないわ」

 

  金髪の少女——メディスンは私がもう満足に動けなくなったのを確認すると、口を三日月のように歪ませて笑う。その肩の近くには、先ほどの小人が無表情でフワフワと浮遊している。

 

  なるほどねぇ。どうやら私は罠にかけられたらしい。

  まず、この辺りに精神に作用する毒がばら撒く。それで幻術のように、毒にかかった者があの小人を追いかけようとするにように誘導し、鈴蘭畑の中にさらに強力な麻痺毒を撒いておく。あとはご覧の通りだ。彼女はこうやって、ここに訪れる者を襲って暮らしているのだろう。

 

  ——だけど……残念でした。

 

  震える手で腰につけてある瓢箪を抜き取り、思いっきり上にぶん投げる。回転しながら上昇していくそれにかかった遠心力で、蓋がどこかへと飛んでいった。

  あとは簡単だ。空を見上げるようにして、口を大きく開く。その中に瓢箪からこぼれた酒が落ちてきて、重力に従い私の体の中に注がれていく。

  そして全て飲み終えるころには、私の体から毒が消滅し、さらには肉体が変化して余りある力が体の奥底から溢れてきた。

 

「なっ……!?」

「あらよっとッ!!」

 

  私が急に動けるようになったのを見て、目を見開くメディスン。

  その一瞬が命取りだ。

  鬼と化した私の拳が彼女の腹を捉え、そのまま鈴蘭畑の中へとぶっ飛ばす。

 

  毒が時として薬となるなら、私の酒も薬の一つだ。

  鬼が持つマジックアイテムの一つに『茨木の百薬枡』というものがある。なんでも呑んだ者のありとあらゆる病気を治して体を健康にする代わり、呑み過ぎると鬼化してしまうという能力を持ってるのだとか。

  そしてここまで話せばお察しの通り、私の鬼神瓢はその枡の力も持っているのだ。

  さすがは鬼神である剛がくれた品物だ。

 

「ゲホッ、ゲホッ!」

「今のは手加減したものだよ。次は本気でやる……って言いたいところなんだけど、ここは幻想郷だからね。やるならやるでここのルールで戦ってもらう。——わかるよね?」

 

  巫女袖から山札が組める数のスペルカードを取り出す。

  メディスンはそれを見て、静かに呟く。

 

「……スペルカードルール……」

「正解。カードは三枚、残機は二個。それでやるの? やらないの?」

「……やるわ。私の毒がこんなものじゃないってこと、思い知らせてやる!」

 

  よし、それでいい。仮にも私は幻想郷最大勢力の長。むやみやたらにルールを破っていては、他の人たちに示しがつかないからね。

 

  メディスンは私から数十歩ほど離れた後に、鈴蘭畑の上空へと飛んでいった。おそらくはここの花たちを傷つけないようにという彼女なりの配慮なのだろう。

  流石に私も人の大事な場所を荒らす趣味はないため、大人しくメディスンが待ち構える空へと上っていく。

  そしてその後、メディスンの小人の合図を元に弾幕ごっこが始まった。

 

  同時に私はカードを一つ投げ捨て、宣言。

 

「先手必勝! 氷華『フロストブロソム』!」

 

  カードが淡い光の粒子と化して消えていく。

  そしてその後、巨大な氷の薔薇がメディスンの近くを中心に咲き誇る——ことはなかった。

 

「……えっ?」

 

  戸惑いの声を上げる私。

  そりゃそうだ。きっちり宣言してから術式を練ったのに、スペカが発動しないのだ。

  妖力が足りないとかの問題じゃない。むしろ今は体共々絶好調だ。術式に必要な妖力が足りないなんてこと……ん? 体共々絶好調?

  ……あっ。

 

「……なんだかよくわからないけどチャンス! 毒符『神経の毒』!」

 

  私の真下から、突如花が咲くかのように小さな弾幕群が破裂し、拡散する。

  それらを避けながらも、私はなぜスペカが使えなかったのかを思い出した。

 

  そう、私はメディスンの毒を治すために鬼神瓢に入れてある酒を呑んだのだ。……そう、呑んでしまった。

  その結果、私の体は一時的に鬼神化してしまっている。そして鬼は術式を扱うのが極端に苦手。

 

  つまり、結論から言えば鬼の状態では扱えない術式のスペカを使ったのが、今回の事件の原因なのだろう。

 

「だぁぁぁぁ!? なんで自滅してるんだよ私の馬鹿ぁぁぁ!」

 

  花形に散らばる弾幕を避けながら、一人絶叫する私。

  まずい。非常にまずい。

  この状態で使えるスペカは二つ。『空拳』と『雷神拳』だ。

  しかし雷神拳はさすがにやりすぎだろう。妖力を感じ取った感覚では、メディスンは中級上位程度の実力しかない。いくらスペカといっても、当たりどころが悪ければ死ぬ時は死ぬ。

 

  ということは、私が使えるスペカは実質一枚になったわけだ。

  この不利な状態でどう戦えと?

  おまけに弾幕すら精度がだだ下がりしており、文字通り中級妖怪上位に見合った分の大きさと数しか出てこなくなってしまっている。

  まあ唯一幸いなことは、メディスンが弾幕ごっこを得意としてなかったことか。今の私が言うのも難だけど技術も何もかもが並よりちょっと上という感じ。

 

  まあ何しても、まずはこのスペルを突破することから始めようか。

 

  弾幕が花を形作るように私の足元を中心に拡散する。

  しかし私はそれを見届けると、鬼の筋力を利用した蹴りで空気を蹴って加速し、メディスンへと真正面から突っ込んだ。

  そして眼前まで踏み込んだところで急カーブし、後ろへ回り込む。

  そのあまりの速度に、彼女には私が突如目の前から消えたように見えただろう。

 

「ど、どこ行ったの……!?」

「ここだよ。——鬼技『空拳』」

 

  メディスンが振り返るのと同時に手のひらからスペカを発動。風邪をまとった拳が腹部へと命中し、彼女を数十メートル後ろまで吹き飛ばす。

 

  これで一つ目。

  しかしまだまだこれから。オープニングヒットはもらったけど、これは序盤に過ぎない。

  なんせ彼女にはまだ二つのスペカが残っている。一方の私も形式上では二枚残っていることにはなっているが、唯一使えるスペカは封印しているため実質0枚ということになる。

 

「つっ……! よくもやってくれたわね……! もう許さない!」

 

  人形の顔が忿怒に歪む。彼女の体には地面の上を転がったせいか、土が付着して汚れていた。

  その汚れた手が二枚目のカードを取り出し、宣言する。

 

「霧符『ガジングガーデン』!」

 

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