東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
そこは、妖怪の山をちょうど反対に進んで随分経ったところにあった。
見渡す限り、花、花。しかもそれらが全て向日葵というのだから驚きである。
前にここへ行ったのは何百年前の話か。たしかあの時は輝夜の頼みで来たんだっけか。
意を決して太陽の畑の中へ足を踏み入れる。
向日葵は元々大きな植物だ。それが太陽の畑の魔力を受けながら育つとさらに巨大化してしまうらしい。
現にその大きさのせいで、小柄な私の姿がすっぽり隠れてしまいそうになっている。思うに、普通の成人男性の胴くらいまであるんじゃないかこれ?
しかしそんな巨大な向日葵だけしか生えていないというわけではないらしく、しばらく進んだところで出た妙に切り開かれた場所では、普通のサイズの向日葵が足元に咲いていた。
そこに洋風な家がポツンと建っていた。その近くにはテーブルと椅子が置かれており、そこに見知った女性——風見幽香の姿があった。
「……あら、来客とは珍しいわね。ここがどこだかは知っているのかしら?」
「太陽の畑だろ、幽香」
「……なるほど、そういうことね。本来ならここで虐めてから適当に返してあげるのだけど、気が変わったわ。こちらへいらっしゃい、
やっぱり、私の正体はバレていたようだ。
まあ最近初見で見破ってくる人が増えて来たし特に驚くことではない。
彼女に誘われ、テーブルの近くまで移動する。
すると彼女は手をクイクイと動かして、椅子を指差した。
雰囲気からして座れって意味だよねこれ。
私の推測は当たっていたようで、着席すると幽香が笑みを浮かべてくる。しかしそれは優しいというよりも獲物を前に舌舐めずりする感覚に似ている。
ヤベェ、超帰りてぇ……。
「紅茶でも飲む?」
「遠慮しておく……って言っても無理矢理飲ませそうな雰囲気だね」
「当たり前じゃない。私自らが出した茶を断るなんて万死に値するわ」
「しょーじき毒とか入ってそうだから飲みたくなかったんだけど……まあしょうがないか。それじゃあ一杯いただくよ」
白いティーカップを手に取り、中に注がれた紅茶を一口。
……お、結構美味いな。砂糖も入れてないのにほんのりと自然の甘さが漂う。こういうのを、素材の味を最大限引き出すと言うのだろう。
すっかり紅茶に夢中になっていると、ふと前から視線を感じた。
ここには私の他に幽香しかいないので、おそらくこれは彼女のだろう。そんなことを思ってチラ見してみると、予想通りだった。
彼女はジッと私と紅茶を交互に見つめては、なにかを待っているような顔をしている。
ん、感想でも聞きたいのかな?
「美味しいよ幽香。素材の良さがよく活かされている」
「……ふふ、当たり前じゃない。今まで私が茶を出した全ての相手が、あなたと同じように私を褒め称えたわ」
「ちなみに何人くらいに褒められたの?」
「……あなたで二人目ね」
「……ああ……」
なんか聞いちゃいけないことを聞いたような気がする。
まあそりゃそうか。こんな戦闘狂い、誰が好んで友だちになりたいというのだろうか? いや、そんな戯言言う前に普通は消し炭にされてるのか。
「それ以上余計なことを考えると花の養分にするわよ?」
「あ、はい……」
もうこの件については突っ込まないようにしよう、と私は固く誓うのであった。
さて、そんなこんなで楽しく紅茶を飲み干したあと。
幽香は本題に入るかのように、話を切り出した。
「さてと。久しぶりに会って言うのも難だけど、今日は何の用かしら?」
「しらばっくれても無駄だよ。幻想郷全土なんて広範囲に花を咲かせることのできる人物なんて限られてるんだから」
「あらそう? 探せば私みたいな妖怪も見つかるかもしれないわよ?」
はっきりと私は犯人としてお前を見ていると宣言したのに、幽香の表情には変化がない。眉ひとつ動いてないのだ。
そんでもって楽しそうに私を嘲笑っている。ほんと、なに考えているかわかりづらいし、不気味だな。
「それにしても悲しいわ。よりにもよってあなたに首謀者だと疑われているんだもの」
「はぁ……まるで自分がそうじゃないみたいな言いぶりだね」
「実際そうだもの。証拠として今回の異変の真相も教えてあげられるわ。……それとも、犯人候補の話なんて信用できない?」
「……いや、私はそんな頭でっかちじゃない。矛盾がなかったら疑うのをやめるとするよ」
「ふふ、人の話をきちんと聞くことのできる男は好きよ」
「お前なんぞに好かれても嬉しくないよ。寒気が走る」
「あら、手厳しい」
私の言葉は聞く人によっては辛辣すぎるだろとか思うかもしれないが、逆に聞こう。
暇さえあれば他者を虐め、強者が来れば喜んで戦うこの
少なくとも私は嬉しくない。もし仮に万が一にでも私とこいつが付き合ったりでもしたら、待っているのは戦いの毎日だろう。これと人生を共にするぐらいなら、グータラ巫女の霊夢を一生養ってあげたほうが私は断然良い。
……話が逸れたね。
幽香が私に語り出した異変の真相とやらは、私にとっては初耳でとても興味深いものだった。
曰く、この『花の異変』は幻想郷で六十周年ごとに起きてしまう、自然現象のような異変らしい。
なぜそうなるのかと言うと、外の世界ではどうやら六十周年が近づくに連れてどこかしらで死人が大量に出るようになっているらしい。
今回の例で言えば戦争。しかし他にも津波や地震などの自然災害によるものもあるらしい。
そして死した人間たちの魂によって博麗大結界が歪められ、地獄に一度に大量の魂が殺到していく。でも地獄は地獄でそんなに急に全ての魂を裁けるはずもなく、いくつものそれらがあぶれて幻想郷に溢れかえってしまう。そしてそれらの力によって四季関係なく花を咲かせてしまったのが今回の異変なのだとか。
「なるほどね……じゃあ今咲いている花は外の世界の人間の魂ってことなの?」
「そうなるわね。でもまあ、地獄の船渡しがあとは勝手に片付けてくれるし、放っておけばそのうち治ると思うわよ」
「船渡し……あ、なんか嫌な予感が」
船渡しってのは魂を三途の川を通って運ぶ奴らのことを言うんだろ?
そして幻想郷の担当は小野塚小町。通称こまっちゃん。極度のサボりぐせのある死神である。
これらの情報を当てはめていくと……うん、少なくともかなり異変は長引くことだろうね。
となれば、次に目指す場所は決まったね。
私は席から立ち、旅立とうとする。
「参考になったよ、ありがとう。私は私であてができたから、とりあえずそこに向かってみようと思う」
「——あら、誰もここから帰って良いなんて言ってないわよ?」
幽香に背を向けて歩いていると、突如地面から伸びてきた巨大な茨が私の足を止めた。
茨はそのあと互いに絡み合い、壁を形成していく。
……やっぱり、意地でも帰さない気だな……。
「念のために聞くけど、なんのつもり?」
「あなた、確かまだ私の紅茶代を払ってなかったわよね」
「なんだ、お金が欲しいのか。安心して。金ならプールいっぱいにある」
「いえ、そんな紙切れは要らないわよ。その代わり、私が欲しいのは……これよ!」
言葉とともに、幽香は私に向かって拳を振るう。
その華奢な腕の見た目とは裏腹で、拳は風を切るどころか突き破りながら轟音を立て、私に迫ってくる。
しかし私も私でその攻撃をあらかじめ予測していたので、特に苦労もなく避けることができた。代わりに私が先ほど立っていた地面が破裂し、かなり大きなクレーターが出来上がる。
うわ、相変わらずの馬鹿力だ。当たったら私じゃひとたまりもないぞこりゃ。
「さて、もうわかってると思うけど、ここから帰りたいなら私を倒すことね」
「やっぱりかぁ……。そりゃそうだよね。お前が大人しく私を帰してくれるわけがない」
「そう。だったら話が早いわ」
「でも、流石に殺し合いはまずいんじゃないの? 紫に何されるかわかったもんじゃないよ?」
「あいにくと、私弾幕ごっこはあまり好きじゃないのよ。カードもそんなに持ってないし」
「じゃあ、近接弾幕ごっこはどうかな? それだったらまだなんとかなると思うけど」
「……わかったわ。それでいきましょう」
ふぅ、なんとか殺し合いは避けれたか。
妥協っちゃ妥協だけど、これ以上欲張れば振り出しに戻りかねないから仕方ない。
まあ幽香自身も、私たちが本気で戦えば周りがどうなるのかわかっているからこそ、この案に乗ったのだろう。
その後の話し合いで、使用できるカードは三枚ということに決まった。
理由は彼女が先ほど言った通り、五枚じゃスペカの枚数が足りないから。
とはいえ、五枚じゃなければ楽なんてことはない。カードの枚数が少なければ少ないほど土壇場での逆転も難しくなってくるからね。
さて、弾幕ごっこを始める前にと。
私はその場にしゃがみこみ、地面に右手を当てる。そして妖力を注ぎながら、言霊を発することによって能力——『形を操る程度の能力』を発動させた。
「『反転結界』」
「これは……すごいわね」
途端に周囲の景色が変わる。
いや、場所自体は変わっていない。よくよく見ればここが太陽の畑だということがわかるだろう。
ただし、この場所のシンボルである向日葵自体は消え去っているが。
周囲は人間じゃ歩くのが困難なほど暗い。まあ私も幽香も人間じゃないので視界に関してはあまり関係はない。
ふと、上を見上げると、そこに映っていたのは立派な満月……と真っ白い光の粒。
雪だ。
太陽の畑全土に積もるように、大量の雪が空から降ってきていた。
私の『形を操る程度の能力』は空間をも歪ませることができる。つまり、やりようによってはこのように空間を作ることもできるのだ。
『反転結界』は現実と反対の世界を作り出す術式。本来なら春なので、反転結界の季節は秋になるはずなのだが、どうやら異変の影響によって向日葵が咲いていたせいで結界が誤認してしまったらしく、このような背景になったらしい。
「色々想定外のことがあったけど……まあいいや。ここなら向日葵もないし、心置きなく戦えるでしょ?」
「……ほんと、あなたって規格外だわ。だからこそ、面白い」
私は舞姫と妖桜を、幽香は自身の日傘をそれぞれ構える。
数秒間の静寂。
——そして。
「ハァァァァァァッ!!」
「ゼヤァァァァァッ!!」
一瞬で距離を詰め、ほぼ同時にそれぞれの武器が振るわれる。
そして轟音を立てながら、衝突。
その時起きた衝撃波によって、周囲に積もっていた雪が跡形もなく消し飛んだ。
「大掃除した時に出てきたのがきっかけで、最近デュエマがマイブームになっています。作者です」
「今じゃ対戦する相手もいないのに千枚ぐらいカード持ってるんだから、側から見るとかなり可哀想な人に見えるぞ? 狂夢だ」
「まあでも実際、この歳になるとデュエマしてる人を見つけること自体が大変ですよね。友人が少ない私ならなおさらに」
「というかお前、デッキ何使ってんだ?」
「えーと……ボルバルザーク・紫電・ドラゴンを軸にしたクロスギアデッキですかね?」
「古すぎねえか!? 2008年代のデッキかよ!?」
「失礼な……。私だって最近のレアカードも持ってるんですよ?」
「例えば?」
「ガイアール・リュウセイ・ドラゴンとかベートーベンとか」
「どちらにしろ2011年と2012年のカードじゃねえか!?」
「ちなみに作者は最近のデュエマについてはさっぱりわかりません。私はクロスギアが初登場した辺りに始めた部類の人間なので、持ってるカードも骨董品のようなものが多いです」
「もういっそ売って金にした方がいいんじゃねえかそれ……」