東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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花妖怪との恐怖の弾幕ごっこ

 

 

「私の振り下ろしを止めるなんて……弱体化してても大妖怪は大妖怪ってことね……!」

「お褒めに預かり……光栄だよっ!」

 

  降り積もる雪景色の中、幽香の傘と私の両刀が火花を散らしながら擦れ合う。

  くそ、気を抜いたら体ごと吹っ飛ばされそうだ……!

  やはり鍔迫り合いはあっちの方が有利か。まあ当たり前だろう。筋力自慢の幽香に力で挑もうなんて方が馬鹿げている。

 

  幽香がさらに傘に力を込める。

  しかし私は前に押そうとする勢いを利用して、わざと一歩後退する。それによって幽香の重心が前傾したその時を狙い、妖桜で切り上げた。

 

「っ、小細工を……!」

 

  だが相手は大妖怪最上位。この程度で当たってくれるほど甘い相手ではない。

  なんと幽香はバランスを崩したまま、腕の力だけで日傘を振るい、私の斬撃を叩き落としたのだ。そして弾かれた時の勢いを殺しきれず、今度は妖桜を持っていた左腕ごと、私の体が左後ろに流れてしまう。

  その隙を幽香が見落とすはずはなく、強烈な蹴りが追い打ちをかけるように迫ってくる。

 

「ちっ……!」

 

  風圧で前髪が少し焦げた。

  私の顔面に向かって寸分狂いなく放たれた足裏を、後ろへ重心が傾いていることを利用して上体反らし(スウェー)することで避ける。そしてそのままバク宙することで彼女との距離を取った。もちろんバク宙の際に幽香をサマーソルトみたいに蹴っておくのも忘れない。

 

  後退した私と逆で、幽香は息つく間もなく前進してくる。そして開幕と同様に来た振り下ろしを今度は横へ流すことでいなし、反撃に炎を纏った舞姫で切りつける。

  もちろんというようにこれは防御されてしまう。が、右の刀に意識を向けてしまったせいで、氷を纏った左の刀——妖桜の刃が迫って来ていることに気づくのが遅れたようだ。

 

  もらった!

  研ぎ澄まされた氷刃が彼女の首元へ到達——する前に、幽香の手がそれを鷲掴みにした。

  げっ、マジかよ!?

  鮮血が飛び散り、すぐに結晶と化して地面に落ちていく。だが幽香は凶悪な笑みを浮かべると、あろうことか妖桜を握る手をさらに強めてくる。そのせいで刀を引き戻せず、私の動きが一瞬止まった。

  そしてその時を待っていたかのように、膝蹴りが今度こそ私の腹部に命中した。

 

「ごっ……!? がっ……!」

 

  骨が軋む。

  幽香の膝は私の腹にめり込んでしまっている。あまりの威力に、たまらず私の体がくの字に曲がった。

 

  結界込みでもこの威力かよ……!

  近接弾幕ごっこでは対戦者を守るために特殊な結界が張られることになっている。が、そんなものまるで最初からなかったかのような痛みだった。多分結界なしだったら背骨が折れていただろう。

 

  しかし、私もタダでやられるほど甘くはない。

 

「霊刃『森羅……万象斬』ッ!!」

 

  私は幽香の膝が腹にめり込むと同時に霊力を舞姫に込めていたのだ。

  密着した状態での森羅万象斬。

  当然避けれるはずもなく、青白い巨大な斬撃が彼女に大きな切り傷を作った。

 

  さすがに結界ありでもこれは辛いらしく、たまらず幽香はよろける。その隙に私は腹の痛みを堪えて、その場を離脱した。

 

「くっ……ふふふ! アハハハハッ!! それよ、それ! それが欲しかったのぉっ!!」

「くそ、切られて喜ぶとかどんな変態だよ!」

 

  幽香の動きがさらに速くなる。さっきのでも十分本気だったように見えたが、どうやら幽香はテンションが上がれば上がるほど強くなるタイプらしい。

  さっきは変態って言ったけど、宣言撤回。改めて言わせてもらおう。

 

「このマゾ女が!」

「ふふ、生意気な口……調教しがいがあるわ」

「しかも両刀!?」

 

  もうやだこの女……。SにもMにもなれるとか手に負えんだろ。

  ああ、今これほど紫に会いに行きたいと思ったことはない。

 

  幽香の攻撃は相変わらず傘を使ったものだ。しかも速くなったというが、私ほどではない。

  故に傘の軌道さえ読めれば、対処はたやすい……と思っていたんだけどな。

 

  幽香を打って出ようと前へ走り出した私の靴に、やけに頑丈ななにかが引っかかった。

  バランスを崩し、地面へ思いっきり頭から滑り込んでしまう。

  おかしい。こける要素なんてなかったと思い、私は自分の靴を観察する。そしてこけた地面に、草で編まれた輪っかのようなものが生えているのが見つかった。

  これは……草結びか! くそ、子供の遊びみたいな技使いやがって!

  おそらく彼女は自身の『花を操る程度の能力』を使ったのだろう。普通なら脅威にすらならない能力だが、さすがは大妖怪最上位。こういうことにも活かしてくるとは。……って、感心している場合じゃない!

 

  ふと、頭上に差し掛かる影。誰のかってのは知れてる。

  全力で体に力を込め、横に転がる。

  次の瞬間、真横の地面が幽香の傘によって轟音と共に吹き飛んだ。

 

  降りかかる土を無視して、刀を彼女へ向ける。

  そして術式発動。刃から圧縮された妖力のレーザーを放つ。が、傘を広げることで盾とし、弾かれてしまった。

 

  だがそのおかげで時間が稼げた。その隙に立ち上がり、傘が閉じるタイミングを狙って両刀で切りかかる。そしてそれは見事にヒットする……が。

 

「ちっ、外したか……」

「あ、危なかった……」

 

  左肩の皮膚からヒリヒリとした軽い痛みを感じる。

  幽香は傘を閉じると同時に、真っ直ぐ突きを放っていたのだ。かろうじて左の刀で受け流すことができたから良かったものの、反応できなかったら間違いなく胸を貫通させられていた。

 

  唯一当たった右の刀を引き戻し、そこから舞うように連撃を繰り出す。

  幽香の打撃を躱し、受け流しながら、その勢いを利用して攻撃と攻撃の間に大量の斬撃を挟み込む。

 

  なぎ払いをジャンプで回避。しながら体をスケートのトリプルアクセルのように回転させ、六回ほど刃を叩き込む。

 

「くっ……!」

 

  幽香の体が後ろへ流れた。

  今だ!

  追い討ちをかけるように、二刀での突きを放つ。狙いは胴。桃と紫の刃が、腹部に吸い込まれていき——。

 

「幻想『花鳥風月、嘯風弄月』」

 

  ——目の前で弾幕の花が咲き荒れた。

 

「ぐがあああっ!?」

 

  突きのモーションに入っていた私は避けることができず、直撃して空中に打ち上げられ、少し遠くの地面に叩き落される。

  だが、地面で大人しく寝ている時間はない。すぐに跳ね起きると、一旦後退して弾幕群を観察する。

 

  弾幕の主に三つの布陣でできている。まずは単純に、幽香を中心として花のように広がる弾幕群の第一陣。そして二つの異なる色の弾幕で作った輪を回転させることによって隙間を埋める第二陣。最後に、幽香の周りに浮かぶ六つの魔法陣からマシンガンのように絶え間なく放たれる中型弾幕の第三陣。

  それぞれは避けるのは簡単だが、これらが組み合わさることによって彼女のスペルの難易度はぐっと引き上げられている。

 

  正直言って、スペカの使用なしじゃ突破するのはかなり難しい。が、今私はもうすでに一枚を使ってしまっている。もしかしたら相手の次のスペカはもっと難易度が高いかもしれないし、ここはなんとか温存しておくべきだろう。

 

  一応、通常の手段で突破する方法は浮かんではいる。

  このスペカは全部で三つの陣による構成。しかしそれ故に、陣と陣の間にはわずかな時間だけど隙間ができる。

  そこを私のスピードで突く。だが失敗したら弾幕の花吹雪に囲まれて、大ダメージを受けてしまうだろう。下手すれば結界が割れてしまうかもしれない。

  だが、相手はあの幽香だ。リスクなしで勝てるほど、甘い相手じゃない。

 

  タイミングは一瞬だ。

  第一陣が発射されると同時に前に加速する。

  第二陣が放たれるより早く。

  私の体は第一陣を飛び越え、幽香に迫っていく。

  しかしそのころには第二陣が発射されており、弾幕群との距離も目と鼻の先ほどに縮まっていた。

 

「っ……まだまだぁ!」

 

  弾幕の一つがほおの皮をわずかに切り裂く。しかし私はそれを気にも留めずに、通常弾幕と斬撃を第二陣迎撃に全て当てた。

  普通ならスペカと通常弾幕では突破できない差がある。しかしこの第二陣はスペカを三分割したものの一つ。つまり密度で言えば三分の一程度しかない。

  そしてそれくらいなら、私の攻撃方法を全てぶつければ強引に突破することが可能となる。

 

  第二陣の弾幕壁を突破しつつ、そのまま第三陣に挑む。

  第三陣は六つの魔法陣からマシンガンのように弾幕を連射する陣。しかしマシンガンということは、逆に言えば速度も角度も連射の感覚でさえ一定ということだ。

 

  両刀に妖力を込めて、弾幕の嵐に突っ込む。

  目指すは魔法陣と魔法陣の間。砲台が唯一設置されていない場所。

  そこに私は両方の切っ先を合わせ、自身を一つの針と成して布を通るように、躊躇なく隙間へ突撃した。

 

  そしてとうとう、第三陣を突破する。

  もはや残っている陣はない。第三陣を通過した勢いのまま、幽香へと迷わず突っ込んでいき——。

 

「甘いわよぉ!」

「だ、第四陣だとっ!?」

 

 

  ——野球の球を打つかのように、あっけなく吹き飛ばされた。

 

  私が幽香の第三陣を突破して接近戦に持ち込むのを計画していたように、幽香も弾幕を回避し続けて疲弊した私が来るのを待ち構えていたのだ。

 

  突進する私に合わせての、傘でのカウンター。

  即座に両刀をクロスさせることで防御には成功したが、勢いだけは止まらず、私は再び元の場所へと戻されることとなる。

 

  そして襲いかかってくる、第一陣。

 

「くそがぁぁぁぁ!!」

 

  叫びながら第一陣を文字通り刀で切り崩す。しかし今度は第二陣を突破できず、地面に尻餅をついてしまった。

  そこを狙って、第三陣の弾幕が連射され——私の鼻先で、光の粒子となって消え去った。

 

「……ちっ、時間切れね。惜しかったのだけれど」

「た、助かった……」

 

  そうか、やっとスペカの制限時間が切れてくれたのか。

  間一髪というやつだね。あと数秒でも遅かったら、今ごろ私は被弾していただろう。

 

  仕切り直して、幽香と対峙する。

  お互い一枚ずつスペカを使い切った状況。しかも結界の耐久も、ほぼ互角程度と見て間違いないだろう。

 

  均衡した戦い。

  私も近接戦には強いが、幽香も同じタイプだからだろう。有利不利は何もない。

  これほどまで実力者との対戦経験は、他に霊夢しか……いや、こと近接弾幕ごっこに関してはもしかして霊夢よりも上を行っているかもしれない。

 

  ふふ、面白い。

  ちょうどこの前霊夢に負けて少しナーバスになってたんだ。ここでこいつを倒して、汚名挽回とさせてもらおうじゃないか!

 

  私は二枚目のスペカを放り投げ、宣言する。

 

「滅符『大紅蓮飛翔衝竜撃(だいぐれんひしょうしょうりゅうげき)』ッ!!」

 

  目の前でスペカが光を放ち、私の姿を包み込む。

  そしてそれが晴れたあと、そこにあったのは——炎と氷でできた翼をそれぞれ片方に持つ私の姿だった。

 

 






「なんか本格的な戦闘描写を書くのって久しぶりだなー。なんて思っている作者です」

「どうせいつも下手なんだし適当でいいだろ適当で。狂夢だ」


「いやー、もうすぐ卒業のシーズンですね」

「よかったな。お前が大っ嫌いな合唱が待ってるぞ」

「クラス内練習の時に一人だけサビの部分で大声で間違った歌詞を歌ってしまったのが恥ずかしい……」

「まああるあるだな。そういえば、卒業後には電話番号の交換とかがあるとかって聞くけど……」

「ふっ、未だに遊びに行く友人の電話番号すらまともに知らない私に交換してくれる人がいるとでも?」

「……ああ、すまん、失言だった……」

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