東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
「ざっとこんなもんよ。それじゃあ勝ったことだし、無縁塚もとい三途の川まで戻ってもらうよ」
「いつつ……へいへいっと」
「あ、逃げようなんて思わないようにね。道中は私も同行するから」
「げっ、これは本当に八方塞がりだね……」
「……やっぱり逃げるつもりだったのか」
どこまでサボるのに必死なんだこいつは。
呆れた目線を小町に送る。それに対して彼女はヘラヘラと笑って誤魔化すだけだ。
しかし流石にこれ以上駄々をこねることは無理だと判断したのか、再思の道を歩き始める。……超ゆっくりと。
「早く歩きなよ」
「ひょいっ!?」
面倒くさいので舞姫の切っ先を軽く小町の腰に突き刺す。そしてその痛みに奇声とともに跳ね上がると、着地後は猛ダッシュで道を突っ切っていった。
あまりの速度に近くの彼岸花が散りじりになっていく。
……ニヤリ。
「ちょっ、あたい急いでるじゃないか!? どうしてまだ刺してくるんだい!?」
「ほーれほーれ。早く走らないと腰がズタズタになっちゃうよー?」
「うわぁぁぁぁ!! 鬼だ! 悪魔だ! 四季様だ!」
「……最後のは聞かれてたら半殺しにされると思うよ?」
そこから先はカオスだった。
刀を振り回しながら笑顔で走る私。それよりも速く前を涙目で駆ける小町。
とは言っても手加減した速度なのでやろうと思えばいつでも彼女を追い越せる。それをせずにただ単に追い詰めるだけにしているのは、ひとえに私が彼女の苦しむ姿を見たかったからだ。
そんなこんなもあり、私たちの鬼ごっこは無縁塚に着くまで続いた。
なお、この時小町の能力使えば一瞬だったじゃんと気づいたのには内緒だ。
「ゼェーッ、ゼェーッ……! 死ぬかと思った……」
「死神が何言ってんだか。ほら、職場に着いたよ」
息切れをして倒れ込んでいる小町を無理矢理叩き起こし、辺りを見渡す。
そこら辺に粗末な作りの墓が並んでいるね。地面にはガラクタとかが転がってるし、はっきり言ってゴミ処理場にしか見えない。
そもそも、無縁塚とは博麗大結界の綻びがある地なのであって、元々ここに墓はなかったのだ。
しかし綻びがあれば別世界とも繋がりやすくなるもの。現に今は三途の川と繋がっているが、それ以外にも冥界や外の世界にも繋がるらしい。
そして世界と世界が繋がったとあれば、当然こちらの世界に外の世界の人間が迷い込んでくることもある。
だがまあ悲しきことかな、ここ無縁塚から現れた外来人のうち、九割以上がその生命を断つことになる。
なぜなら、ここは低級妖怪が跋扈している地でもあるから。何にも知らないやつが迷い込んで、数分後にはパクリというのがいつものパターン。まあ、そんな低級妖怪共もここにいれば楽に食料を確保できるから、ここにいるのだろうけど。
そしてこの地の由来は、そんな名も知らぬ大量の犠牲者を思って、どこぞの誰かがここに大量の墓を作ったことにある。
っと、この地の解説はこれくらいでいいかな。
それよりも……。視線を小町に送る。
彼女の鼻からは立派な鼻ちょうちんが見えていた。
「目を離した隙に寝るんじゃない!」
「……はっ! いやーすまないね。なんせあんなに動いたのは久しぶりだから」
「言い訳無用! さっさと行くよ!」
繰り返されるこのやり取りの中でも人は成長できるのだよ。
小町がグダグダと長ったらしい言い訳を話す前にその襟首を掴み、引きづりながら無縁塚の奥へとズカズカ進んで行く。
途中でそこら中に落ちている外の世界からのガラクタや墓石に彼女が引っかかるけど、それも気にしない。無理矢理引っ張って、ぶち壊して進む。
えっ、お前それでも元神社の巫女かって? いいんですよ、今の私は妖怪であって道徳なんてものはゴミ箱にダンクしているのだから。
やがて川が流れる音が私の狐耳に入ってきた。
そして私は無縁塚と三途の川の境界線の部分に足を踏み入れる。
そこからは景色が一変。さっきまで暗くてジメジメとしていたのに、いつのまにか地面は芝生となっている。
そして目の前には三途の川と、見覚えのあるオンボロ船が視界に映った。
「おお、私の『三途のタイタニック』! 生きていたか!」
「生きていたも何もお前の仕事道具じゃないの。処分されるわけないじゃん」
「いや、わからないよー。ストレスの溜まった四季様にうっかり壊されることも何回かあったし」
「……それはお前が悪い」
今日何度目かの呆れた目線を小町に送る。
しかし彼女は相変わらずどこ吹く風と聞き流すように、オンボロの船へ近づいていった。
どうやらここまで来てようやく仕事をする気になったらしい。彼女が収集をかけると、どこからともなく色鮮やかな魂たちが集まってくる。
「はいはーい。押さなくても全員乗れますんで、落ち着いてくださーい!」
なんかアイドルのグッズ販売みたいなノリだな。
というか魂魄多すぎじゃね?
なんか蛇の道みたいな感じでグニャリグニャリと曲がった列ができてるし。一列で百個ぐらいか? ちなみに最後尾は七列目である。
「押さない駆けない喋らないでよろしくお願いしまーす!」
「……あら、いい心がけですね小町」
「……へっ?」
……あっ。
小町と私の時間が止まる。
彼女の背後。そこには木製の笏を血管が浮き出るほどに握りしめていながらも、眩しい笑顔を貼り付けている四季ちゃんこと四季映姫・ヤマザナドゥ最高裁判長の姿があった。
「しし、四季様ァ!? なぜこんなところに!?」
「なぜ……ですって……? なぜも何もあるわけないでしょうが!」
「きゃん!」
四季ちゃんが手に持つ笏——悔悟棒で小町の顔面をぶん殴る。
彼女は聞いたこともないような可愛らしい悲鳴をあげながら、空中でキリモリ三回転しながら三途の川へ落っこちていった。
『……あっ』
今度は私だけでなく、四季ちゃんからも同じような声が出てくる。
「ちょっ。四季様助けてぇっ! 流石のあたいもっ、三途の川じゃっ、ゴボゴボっ!」
「……ま、まあ仕方ないです。彼女にはしばらくああしてもらいましょう」
「いやあれ大丈夫なの? 三途の川って落ちたら一発アウトって聞いたことがあるような……」
「……」
「小町ィ!!」
その後、私ごと引きずり込まれそうになりながらも、なんとか小町を救出することに成功した。
いや、改めて思うけどなんだよあの川は。落ちて数十秒しかしてないのに小町の下半身は大魚に丸かじりされてたし、無数の手みたいのが伸びて来たときはもうダメかと思った。
現在彼女は身体中に張り付いた大量のピラニアもどき君たちと仲良く地面に寝ている。どうやら気絶してるみたいだし、当分起きそうにないねこりゃ。
「ふぅ、助かりましたよ楼夢。正直私でも道具がなければ三途の川に落ちた者を助けることはできなかったので」
「あれ、でも四季ちゃんって今の私なんかよりも数十倍強いでしょ? 腕力もそうだし、無理矢理引きちぎればいけたような気が……」
「四季ちゃん言うな!」
「ほげぶっ!?」
今度は私が殴られ、三途の川の一歩手前の地面まで吹き飛ばされる。
アイタタ……。相変わらず容赦ないね。というかさっき三途の川に人落っことしたばかりなんだし、もうちょっと威力抑えてもよかったんじゃ……。
「問答無用です。それよりも、さっきあなたは私でも小町を助けられたと言っていましたが、それは逆です。
「えーと、それってどういうこと?」
「三途の川に落ちた者に発動するギミックはあれだけじゃないってことです。本来なら先ほどのに加えて、三途の川に住む実態なき魂たちが強制的に小町を沈めるはずでした。これは私ではなく十王の方々が設置したものなので、私個人の力でも抗いようがありません」
もちろん、全盛期のあなたなら力技でも抜け出せたと思いますが、と最後に四季ちゃんは付け足してきた。
それにしても、なんでその最後のギミックが発動しなかったんだ? 言い方からすると、これが最も重要なトラップだと言う風に聞こえるんだけど。
「はぁ……やっぱり気づいていませんでしたね」
「何が?」
「あなたの神としての種族は覚えていますよね?」
「縁結びの神でしょ? 覚えてるに決まってるじゃん」
「それが、今のあなたは悪霊の神々にもなっています」
「はっ!?」
え、何その唐突なジョブチェンジ。聞いたこともないし、今初めて知ったわ。
というかなんでよりにもよって悪霊なんだよ! オレンジ肌の一つ目の巨人と同じ肩書きとか死んでもいやだぞ!
『あー、それ、多分私のせいですねぇ』
そんな私の心の中での問いに答えるかのように、女性の声が頭に響いてくる。もちろん、これは聞き慣れた声だ。
妖桜を抜いて、その刃を地面に突き刺す。すると黒い煙が刀身から発生し、しばらくすると中から黒い着物姿の女性——早奈が出てきた。
「こんにちは、小さな閻魔様。私は妖早奈、楼夢さんの妖魔刀です」
「西行妖……いえ、東風谷早奈でしたか。私は四季映姫・ヤマザナドゥ。ここ幻想郷の地獄における最高裁判長です」
「……私の苗字を間違えるのはやめてほしいんですが?」
「あいにく、地獄側ではあなたの名前はそう登録されているので、私はそのまま呼んだまでです。文句があるなら地獄の本部にどうぞ」
「……今のではっきりとわかりましたよ。あなたは私が嫌いなタイプの人です」
いや、そもそも地獄の最高裁判長と世紀最大の悪霊の相性が良いわけないじゃん。
最初の方は余裕といった風に四季ちゃんを見下していた早奈も、今では忌々しそうに睨みつけるだけ。それに対して四季ちゃんは平常通りの表情だった。どっちが優勢なのかは明らかだ。
ふふ、普段笑みばっか浮かべてるやつが顔を歪めるのを見るのはいい気分である。
でも、ここでそろそろ一区切りしないと永遠にこの睨み合いは続きそうだね。
「それで。早奈のせいで私の種族が変わったってどういうこと?」
「薄々察しているとは思いますが、あなたはそこの悪霊と魂の契約——つまり妖魔刀の契約を行った。その結果、彼女の余りある邪気が逆流し、あなたの存在を変化させたのです」
「んじゃ、さっき言ってたトラップが出なかったってのも……」
「あなたがひとえに悪霊を束ねる神だからでしょう」
毎度ながらなんでこんなことになるのだか。
どうりで最近うちに迷える魂が来るわけだ。原因究明を娘たちに任せていたけど、まさか原因が私自身だとはね。
というか狂夢も早奈ももしかしてそのことを前から知ってたのでは……。
ふと横を向くと、早奈が露骨に視線を逸らして口笛を吹き出す。
「よーし早奈、お前も三途の川にダイビングしてくるか」
「痛い痛い痛いっ! ちょ、頭を拳でグリグリするのはやめてくださいぃ〜!」
「四季ちゃんの言葉を借りるなら、それこそ問答無用だ! どうせ同じ悪霊だから最後のトラップも作動しないんだし、そのけしからん胸だけでも魚に削ぎ落としてもらおうか!」
「ひぃぃ〜! だいたい、悪霊の神になったところで不利益はさほどないんだしいいじゃないですかぁぁ!?」
「いえ、私はだいぶ迷惑しています」
ほら、四季ちゃんにも言われてるぞ。
とか言おうとしたら、早奈もろとも私まで殴られた。
「私はあ・な・た・た・ち二人に迷惑しているのです! 人間をやめて悪行の限りを尽くした魂を、ようやく裁けると思っていたところにまさかの楼夢との融合! こんなことをされては地獄の裁判もクソもありません! なんで窃盗犯如きを地獄送りにできて世紀の大量殺人犯は送れないのですか!? そもそも——」
「……あ、これ話が長くなるやつだ」
「そうですね。私も歳をとってもああはなりたくないです」
「聞いているのですかっ!!」
悔悟棒をブンブン振り回しながら、緑髪の少女は叫ぶ。いや、今も叫び続けている。
なんか地獄があることの壮大な意味を語り始めたけど、正直私も早奈もそんなものを聞くつもりもない。そして聞く耳を持たなければ、これは説教ではなくただの絶叫である。
しかしそんなことは今目の前にいる少女の気迫の前では言う勇気すら起こらず。
「「はい……」」
二人虚しく、そう返事をするだけであった。
「まあ、言いたいことは山ほどありますが……ちょうどいいです。楼夢、あなたはこれから私の個人的な裁判を受けてもらいます」
「へっ? 神は裁くことができないんじゃ……!?」
「それは地獄の裁判です。今から行うのは私が法となる裁判」
ふわり、と四季ちゃんが宙に浮かぶ。
……あれぇ? なんかめっちゃ膨大な霊力やらなんやらが彼女からあふれてる気がするんだけど。
まるで、これから戦闘を行うみたいな……。
「判決有罪、弾幕刑。これからあなたには、私の個人的なストレス発散に手伝ってもらいます」
「ふぁっ!? ちょちょ、こんなことしてる場合じゃないでしょうが! 溢れた魂を裁く仕事がまだ残ってるでしょ!?」
「大丈夫です。今日の勤務時間は終わりました。あとは私の他にもう一人いる裁判官がやってくれますので」
「ちくしょうホワイト企業め!」
四季ちゃんがスペルカードを取り出す。
総数五枚、残機は三つ。どうやら本気で私をここでぶちのめすつもりのようだ。
私がやるかやらないかを言う間も無く——。
「罪符『彷徨える大罪』」
私にとっての独裁者は、初っ端からスペルをぶっ放してきた。