東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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浄玻璃の鏡の裁判

 

 

 

 

「弾幕のパターンが変わった!?」

 

  ばら撒きによる移動制限からの自機狙いではなく、全方位への無差別レーザー。

  それらのうちのいくつかが私の肌を掠め、通り過ぎていく。

 

  危なかった……。あの時距離を詰めていたら、間違いなく今ごろは蜂の巣だっただろう。

  この手のタイプは近づけば近づくほど脅威は増すが、逆に距離を取れば取るほどレーザーとレーザーの間の幅が大きくなり回避しやすくなる。

  私はそのセオリーに従って四季ちゃんから離れ、レーザー群をやり過ごした。

 

  だけど、これでまた振り出しに戻っちゃったね。

  ここから再び距離を縮めなければ、勝ち目はない。だけどさっきみたいに左右に移動しながら少しずつ進むだけじゃあ時間がかかりすぎる。その分スペカがパワーアップして、私の勝率はさらに小さくなるだろう。

  いや、臆病になってどうする。この際ピンチなんだ。悠長に安全策を取って無駄にスペカをパワーアップさせるよりも、一か八か突っ込んだ方が断然いい。

 

「ハァァァァァァッ!!」

 

  雄叫びを上げ、特攻。

  向かい打つように放たれたのは、ばら撒きと自機狙いという最も見たパターンの弾幕群。

  当然私は前に突っ込んでいるため、自機狙い弾へ自ら向かっていくようにも見えるだろう。だけど私は被弾するつもりも、この勝負を投げ出したわけでもない。

 

  ギリギリ引きつけてからの掠り(グレイズ)

  服の切れ端が消し飛び、肌から薄く血が出るけど、そんなのは関係ない。

  一つ避けたとしてもすぐに次が来る。すぐに前へ進みながらも微妙に方向をずらし、二個目の弾幕を避ける。

  だけどそう上手くは続かず、三個目の時に弾幕が肩に当たってしまった。

 

「痛っ……!」

 

  精神がガリガリ削られていくのがわかる。が、今は被弾したことを気にしている場合じゃない。私は残機一つを代償に残り全ての自機狙い弾をわずかな時間で避けることに成功した。

 

  次に放たれたのは白の弾幕。もちろんこれも今までと変わらない。

  だが、さっきの無茶のおかげでかなり四季ちゃんとの距離はかなり縮まった。あとこれを同じように避けられれば、おそらく手が届くはず。

 

  これで最後だ。

  迫り来る弾幕の圧に負けてたまるかと目を見開き、歯を食いしばる。

  そして身体中から血を流しながらも、またしても前進しながら自機狙いを避けることに成功した。

 

  再び四季ちゃんとの距離は数メートルとなる。

  私は舞姫を力強く握ると、それを振りかぶった。

 

  次の弾幕を放つまでの時間が足りない。そう判断したのか、四季ちゃんは刃を体で止めることで時間を稼ごうと、あちらから接近して来る。

  だ、け、ど。

  こっちだってなんも考えてないわけじゃないんだよ!

 

「雷竜符『ドラゴニックサンダーツリー』ッ!」

 

  舞姫での攻撃はフェイント。

  本命はこっちだ。

 

  私と四季ちゃんの接触を拒むように、私たちの間に現れる雷の大樹。

  私は知っていたので止まることができたのだが、距離を詰めるために前進していた四季ちゃんは自らその大樹に向かって突っ込んでいく形となる。

  しかしギリギリ間に合ったのか、帽子の端が焦げたところでなんとか踏みとどまることに成功する。

 

  だけど、その状態で後ろからの攻撃に対応することは無理でしょ?

  私は持ち前の超スピードによって、彼女の後ろにすでに回り込んでいたのだ。

  そして今度こそ霊力を纏わせた舞姫を振るい、斬撃を背中へと飛ばす。

 

「ぐっ……!?」

 

  四季ちゃんの背中で斬撃が炸裂した。

  これでようやく一ヒット。先はまだ長い。

 

  間髪入れずに、大樹から放たれた雷竜たちが四季ちゃんへ襲いかかる。

  もちろんこのスペカは使用したばっかなので、制限時間にはまだ余裕がある。これで残機をまた削れればいいんだけど……。

  さすがにそこまで甘くはないようだ。

 

「審判『ラストジャッジメント』!」

 

  四季ちゃんは悔悟棒を空へと掲げる。

  すると右から赤い光の筋が三本、左から青い光の筋が三本の計六つの光の線がそこへ集中していく。

  あーうん、ゲームとかでよく見る光景だよね。てことは、私の予想が正しければこの後に起こるのは——。

 

  四季ちゃんは悔悟棒を大樹に向けていた。

  そして先っぽに紫色の高密度の霊力が集中していき——そこから、マスタースパーク並みの極太レーザーが発射される。

 

  その威力は凄まじいの一言に限った。

  紫のレーザーがドラゴニックサンダーツリーに激突した瞬間、一瞬辺りが光に包まれる。そして轟音とともに大爆発が起き、大樹は根元から消しとばされてしまっていた。

 

  俗に言うチャージビームという表現で間違ってはいないだろう。

  大樹が消滅しては雷竜は生み出せない。これで私の二枚目のスペカは終了だ。

 

  もう四季ちゃんは次の発射に向けて霊力を再チャージしている。

  だけど、私に焦りはない。ちょうど()()()()()()()()スペカを持ってることを思い出したからだ。

 

「これでとどめです」

 

  冷たく彼女は言い放つと、右手に持った砲台をこちらへと向けて来る。そしてそこから光が集中し、紫の閃光がほとばしった。

 

「勝手に終わらせないでほしいね! 鏡符『プリズムプリズン』!」

 

  かかったね!

  素早く発動された正八面体の結界が四季ちゃんをレーザーごと閉じ込める。

  このプリズムプリズンは内側から結界に当たったレーザーを分裂させ、反射する能力を持っている。そこにあの極太レーザーが加われば!

 

「ぐっ、うおぉぉぉぉっ!!」

 

  さすがは四季ちゃんのレーザーだ。威力が凄まじく、結界にヒビが入ってしまったよ。

  だけどそれだけだ。結界に霊力を注ぎ込んで強化し、彼女のレーザーを二つへと分裂させる。

  そこから二つのレーザーは四つへ、四つのレーザーは八つへと、無限に増殖し続け、結界内を縦横無尽に走り回った。

 

  四季ちゃんは頑張ってレーザーを避け続けているけど、四方八方から迫る数十の攻撃に同時に対応することなど、私みたいな超スピードがなければ不可能だ。

  その例に彼女も漏れず、レーザーの一つが脇腹にヒットする。そしてそこで動きを止めたことで次々と別のレーザーが当たり、結界が内側から弾け飛ぶほどの爆発が起こった。

 

  これでお互い残機一つ、スペカに至っては四季ちゃんは一枚で私は二枚目も残っている。

  弾幕ごっこには被弾後数秒間は弾幕に当たってもカウントしないというルールがあるため、先ほどのプリズムプリズンもワンヒットと数えられる。

  だけど、ここまで追い込んだ。

  形成逆転。あとは気合で押し込むのみだ。

 

「いくよ四季ちゃん! 滅符——『大紅蓮飛翔昇竜撃(だいぐれんひしょうしょうりゅうげき)』ッ!!」

 

  ここに至って全妖力を解放。妖桜を抜きながら、スペカを唱える。

  今まで二刀流をしなかったのは体力消耗を抑えるためだ。しかしもうその必要はない。この数分に全てを詰め込む。

 

  炎と氷の翼を身に纏い、両刀の切っ先を合わせて一つの刃と化して突っ込む。

  対して四季ちゃんが取り出したのは……鏡?

  そう、黒光りする不気味な手鏡をどこからともなく引っ張り出してきたのだ。

 

  あれは……浄玻璃の鏡!?

  しまった! と心の中で叫び、とっさに手鏡に映らないように身を捻ったが一足遅く。

  鏡が私の姿を捉えた瞬間、それは発光し始めて——それが収まったころには、私そっくりの少女が四季ちゃんの前に立ちはだかっていた。

 

「審判『浄頗梨審判—白咲楼夢—』」

「……へぇ、偽物ごときで私に勝てると思われているとは、心外だねぇ!」

 

  偽物の私は同じように炎と氷の翼を展開し、私そっくりのフォームのまま突っ込んで来る。

  そして私と私が空中でぶつかり合った。

 

「ぐっ……! このぉ……!」

「……」

 

  いくら力を込めようが偽物が吹き飛ばされることはなかった。逆もしかり。私も吹き飛ばされることなく、その場で刃と刃をこすり合わせている。

  この偽物、見た目だけじゃなくて身体能力まで再現されてるのか!?

  くそったれな地獄の連中め。なんて厄介なものを開発してくれたんだ。

 

  均衡を打ち破ったのは偽物の方だった。

  下から上へ弾くように私の両刀を押しのけると、片方の刀の切っ先を私に向けて来る。そこに霊力で形作られた雷が集中していき、巨大な雷撃が放たれた。

 

  この術は『雷吼炮』か!

  とっさにその場を移動して雷の砲撃を回避する。

  だけどその間に偽物は次の術式を練っており、今度は光り輝く二つの剣がソードビットのように飛んでくる。

  次は『スターライトクロス』か……。この技は拘束用なので威力は低いと理解しているため、両刀で難なく撃ち落とすことに成功する。

  しかし次の瞬間、私の頭上の空から数十ものレーザーが雨のように降ってきた。

  『サテライトマシンガン』!? やばっ、早く範囲から逃げないと!

  発動前になんとか術式の気配を察知できたため、私は翼に風穴を空けられながらもなんとかその場から脱出した。

 

  反撃したくてもできない。その理由は単純に妖力の差だ。

  今の私の力は残り一割といったところだろう。しかし浄玻璃の鏡から生まれたやつは四季ちゃんから力を供給されたのか、満タンにほぼ近い量の妖力を保有していると思われる。そんな状態でバカ正直に術式の撃ち合いをしても負けてしまうため、こうして回避に専念しているのだ。

 

  結局、活路を切り開くには接近戦しかないね。

  幸い四季ちゃんはスペカのせいなのか一切攻撃してこない。この隙に奴を直接ぶった切ればそこでジ・エンドだ。

 

  中規模の竜巻が私を襲う。

  これは『バギマ』だね。中々当たらないから範囲攻撃に切り替えてきたか。

 

「だけど、甘い!」

 

  竜巻を数十もの斬撃をくらわせることで無理矢理突破。その先には同じように二刀を構えた偽物がいた。

 

  四つの刃が衝突し、金属音を撒き散らす。

  しかし今度は鍔迫り合いはなしだ。すぐさま偽物の刀を振り払うと、怒涛のラッシュを繰り出していく。

  しかし偽物の中々やるようで、私の防御テクニックを使って斬撃を次々と防いで来る。

  だけど、それは所詮私のテクニックだ。どこが弱点なのかは私が一番よく知っている。

 

  私と偽物は同時に前へ踏み込み、お互いすれ違いざまに斬撃が交差する。

  私のほおに赤い線が一筋走った。だけど私の刀は偽物の腹部を横一文字に切り裂いており、受けたダメージはあちらが上だ。

  通常なら相手に物理攻撃は禁止されているが、あいにくとこの木偶の坊は作り物であってプレイヤーじゃない。なので切ってもルール違反になることはない。

 

  偽物は痛がる素振りすら見せなかった。むしろ接近戦は不利だと悟ったのか、バックステップで距離を取りながら術式を練る辺り、まだまだやる気に満ち溢れている。

 

  そんな偽物が両刀をこすり合わせて、巨大な雷をそこに集中させた。

  これは……雷吼炮じゃない! 青白い雷ってことはその上位互換の飛竜撃賊震天雷砲だ!

 

  こうなったら奥の手を使わざるをえない。

  炎と氷の翼で体を包み込み、光の巨竜化。そしてそのまま雷撃に食らいつくように真正面から突撃する。

 

  しかしそれでも、徐々に押し込まれていく。

  くそっ、やっぱり妖力が足りなすぎて十分な威力が出ない!

  だったら……!

 

「これで、どうだぁぁぁぁぁっ!?」

 

  妖桜を逆手に握る。

  そして残ったありったけのエネルギーを刃に込め、槍投げのように雷撃めがけて投擲した。

  それはまさに光陰の矢の如く。

  衝突した瞬間に雷撃の中を貫通していき、爆発させることで相殺に成功した。

 

  しかし私の目に油断はまだない。

  なぜなら偽物の私が爆発の煙を押しのけて、接近戦を仕掛けてきたからだ。

 

  なるほど、刀が一つしかなくなったのを見て向こうから攻めてきたか。剣術じゃ私に勝てないと認めて逃げるくせに相手が弱くなれば自分から突っかかってくる。やはりあれは私じゃない。迫り来る舞姫を受け止めながら、そう思った。

 

  残った偽物の妖桜が振りかぶられる。

  残念ながら、もう左手から弾幕を出して迎撃する妖力すらも残っていない。だから私ができることは何もなかった。

  ——()()()()()()

 

 

「——咲いてください『妖桜』」

 

  ドスッ、という鈍い音が聞こえた。

  その音源は偽物の腹部、いや正確には背中から。

  偽物は腹から刃を突き出して、ゆっくり後ろを振り向いた。

 

  そこにいたのは清々しいまでに見事な笑みを浮かべながら、紫色の刀身を持つ刀を握る女性——早奈だった。

 

  あの飛竜撃賊震天雷砲を撃ち落とすために妖桜を投げたあと、私はこっそり彼女を刀から出していたのだ。

  そして私に夢中になって背中が無防備になったところでの不意打ち。おまけに妖桜本来の能力を解放したことで、偽物の体は腹部からゆっくり黒く汚染されて灰と化していく。

 

「……」

 

  上半身だけになりながらも偽物はその脅威を排除するため、早奈へ刀を振るう。

  だけど所詮は偽物か。もっとも注意すべき人物の存在を忘れてるよ?

 

「霊刃『森羅万象斬』」

 

  炎のように青く煌めく霊力の刃。

  その存在を知覚したころにはすでに遅く。

 

  偽物は頭部から真っ二つに両断され、断末魔をあげる間も無く消滅した。

 

  そしてスペカはまだ終わっていない。

  森羅万象斬は眼前にあった障害物を取り除きながらもどんどん進んでいき——その先に佇む、緑髪の少女を捉えた。

 

「……はあ。どうやらここまでのようですね」

 

  四季ちゃんは動きもせず、大きなため息を一つ。

  そして何か愚痴ったのだろうが、それは爆発音に阻まれ、永遠に私の耳に届くことはなかった。

 

「勝った、か……っ」

 

  同時に私の視界がグラグラと揺れ始める。

  ちっ、早奈を出現させるのに力を使いすぎたか。彼女の姿はもうここにはない。代わりに元の刀が私の鞘に自動的に納められている。

 

  これ以上は無理だ。

  そう判断し、私は空中なのにも関わらず、暗闇へと意識を飛ばした。






「課題が終わらない! あ゙あ゙あ゙も゙お゙お゙お゙や゙だあ゙あ゙あ゙ああ!! 作者です」

「だから勉強しろってあれだけ言ったのに……。狂夢だ」


「ふぅー、今回も無事執筆が終わりました……」

「そういえば四季ちゃんのスペカは花映塚では数が足りないから文花帖から持ってきているのはわかるんだけど、最後はオリジナルだったな」

「『浄頗梨審判—白咲楼夢—』のことですね。本来ならここの楼夢さんの名前の部分に射命丸文と入るのですが、戦ってるのは文ではなく楼夢なのでこのように変更しました」

「それにしても浄玻璃の鏡って便利だな。偽物とはいえスペックは本物並みだし、数十体揃えればとんでもない戦力になりそうだな」

「いえ、あれにも制限はもちろんありますよ? 例えば伝説の大妖怪のような強大な力を持つ者には通用しませんし、そもそも偽物は本物作って数分で消えてしまいます」

「それは今考えた設定か?」

「いやだって今回はしょうがないじゃないですか。なんの制限も無かったらいくら楼夢さんでもなすすべないですよあれ」

「まあ、数十人も楼夢がいたら間違いなく世界が滅びるだろうしな」

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