東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:日差丸
『……なさい……』
うーん、体がどこかポカポカして頭がふわふわする。
思考が定まらない。ここは夢の中なのか?
『……きなさい……』
辺り一面真っ白。
ああ、なんだかすごく気持ちいいや……。なんだかまた眠くなってきて……。
「起きなさいって言ってるでしょうがっ!」
「もんぶらんっ!?」
ゴハァッ!?
突如腹部に襲いかかった痛み。その瞬間白い世界は消え失せ、代わりに私の目の映ったのはこちらを覗き込んでくる黒髪の少女の顔だった。
「うっ、ん……霊夢……? なんでここに……?」
いや、落ち着け私。よく考えてみろ。ここは三途の川だぞ? 生者の霊夢がいるわけがない。全く、いくら可愛い孫娘だからといって夢にまで出てくるとは。悪い気はしないけど困ったもんだよ。
ということで寝まーす。お休みぃ……。
「なんでまた目を閉じようとしてんのよ!?」
「アガガッ!? アイアンクローはダメだって! 顔がっ、顔がもげるぅっ!」
いややっぱり現実だった!
私の顔は現在霊夢に鷲掴みにされており、そのまま地に足がつかない高さまで片手で持ち上げられている。いくら私の体重が30ちょいしかないにしてもなんて腕力だよ。
というかさっきから指に込められてる力が強くなってませんかねー? あ、あはは、なんか今頭蓋骨から変な音が聞こえたような……。
「あのー、すみませーん。そろそろ私のキューティーフェイスが崩壊しそうなんで離してもらいたいのですが……」
「いいわよ。なんか飽きてきたし。ほれっ」
「もぎゅっ!」
霊夢は叩きつけるように乱暴に私を地面へ投げつける。
おふっ、もうちょっと年寄りは労わってください……。いくら伝説の大妖怪といえどもこんなナリですからすごい痛いのです。
立ち上がり、服についた土を払いながら改めて辺りを見渡す。
うん? なんか周りの地面がやけに穴だらけになってるような……。というか四季ちゃんはどこだ?
その答えはすぐに見つかった。
「——であるからですね、あなたは仕事というものについてもう少し——」
「はい、そうですね。はい、わかりました四季様。はい、そうですね。はい、わかりました——」
三途のタイタニックとかいうオンボロ船の近く。そこで四季ちゃんが小町に向かってつらつらと説教をしていた。
うわぁ……。あのメンタル激強な小町が死んだような目で同じ言葉を繰り返しているよ。まるで機械かなんかみたい。
「あれ、もう一時間以上も続いてるのよ。聞きたいことがあったのにあの死神のせいで全て台無しよ。花妖怪や閻魔と弾幕ごっこはするわ、魔理沙は途中で飽きて帰るわ、なんかアンタはそこらに転がってるわで散々な日だわ」
あれ、なんか最後私とばっちりじゃない?
「 というか幽香と戦ったの!? 大丈夫!? 怪我ない!? 死んでない!? はっ、そうか! だから霊夢は三途の川に……おのれ、許さん!」
「落ち着きなさいこのピンクファンキー頭」
「ゴフッ……みぞおちィ……!」
吐きそうなくらい痛いけど、そのおかげでちょっと冷静になれたぞ。
改めて、幽香と戦った時のことを聞いてみると。
「なんか最初から怪我してたから倒すのも楽だったわ。そもそも弾幕ごっこで私が負けるわけないじゃない」
とのことだった。
よかった。私の今日一番の戦闘が無駄にならなくて。予定とは違ったけど、結果的に霊夢が無事だったならそれでいいや。
「今度は私からの質問よ。あの花妖怪の傷、やったのはアンタよね?」
「……そう思う理由は?」
「幽香の傷はほとんどが刀傷だった。この幻想郷で刀を使ってる有力者は妖夢くらい。だけどあれには正直力不足だわ。その点、私ともあれだけ張り合えるアンタなら十分可能性はある」
「へぇ、意外。霊夢がこれだけ根拠を述べて犯人を探せるなんて……」
「あとは勘よ。ぶっちゃけこれが一番ピンときたわ」
「あ、やっぱ勘だったんだ」
私の感心を返してくれ。
多分あの様子じゃ、最初から私を犯人と仮定した上で根拠を考えてたんだろうな。言うなれば推理小説で最初から犯人がわかっていて、なぜその人が犯人なのか考えるような感じ。相変わらず便利すぎる勘だこと。
「それで? 正解かしら?」
「それは秘密。たとえ霊夢が私を犯人だと確信していても、私は認めるつもりはないよ」
でもこれでさらに霊夢に怪しまれることになったな。
いずれ彼女が本当の私にたどり着く日が近い、か。元の性格の私は結構気難しいから嫌われないといいんだけど。
そんな風に霊夢と話し合ってると、こちらに近づいてくる足音が二つ。どうやら四季ちゃんの説教がようやく終わったらしい。霊夢もやっとかという顔で四季ちゃんと小町と相対する。
「ったく、客人を待たせるなって親に習わなかったのかしら?」
「残念ながら私は神なので親はいませんよ。しかし待たせてしまったことについては素直に謝罪しましょう」
そう言って四季ちゃんは深くお辞儀をする。
わーお、さすが霊夢だ。閻魔に頭を下げさせるなんて。私があんな風に言ったら即刻ぶん殴られる自信があるよ。
「それで。私が勝ったんだから、この異変について詳しく教えてくれるんでしょうね?」
「ええ、それについてはお話しましょう。博麗の巫女であるあなたには知るべきことですからね」
四季ちゃんのお話は割愛させてもらおっかな。
だって異変の真相なんて幽香のとこで聞いてるし。簡単に説明すれば、外から流れ込んできた大量の魂が幻想郷中の地面に取り付いたことで四季の花が咲き乱れた。こんなとこだろうか。
「ふーん。つまりこの異変はそのうち解決するってことでいいのよね?」
「ええ。この小町が仕事をする事で、やがて異変は収まるでしょう」
「それならいいわ。じゃあ私は帰るわね。こんなとこにいつまでもいたくはないし」
「まだ話は終わってません……って、もういませんね」
薄々と説教が飛んでくる気配を感じていたのだろう。霊夢は最後にそう言い残すと、脱兎の如く無縁塚へと戻っていった。
「はあ、仕方ありませんね……」
ん? なんか四季ちゃんのタゲがこっちに向いてるような……。
身の危険を察知し、凄まじい速度でその場を抜け出そうとする。しかしいつの間にやら結界が張られていたようで、私はそこに思いっきり体をぶつけてしまった。
「白咲楼夢、あなたには話すことがまだありますからね。少し付き合ってもらいますよ」
「嘘だよね? 嘘だと言って!」
「……? 何を言ってるのです。私はあなたのためを思って話を……」
「その結果がとなりのこまっちゃんじゃん! 嫌だァァァ! 死にたくなァァァい!」
「それは小町だからですよ。安心して下さい。十分程度で終わります」
「……ほんと?」
言質とったかんなぁ!? 今からカウント始めんぞおい!
ということで半信半疑ながらも四季ちゃんの話を聞くことに。
頼むから早く終わってくれよぉ……。
「あなたについては話したいことが山ほどです。おそらく全て話したら丸一日はかかるでしょう」
「やっぱり嘘じゃん!」
「ですが、流石に私もそこまで暇じゃないのでここはひとつだけにしておきましょう。——楼夢、あなたはいつまで女性を待たせてるのですか」
「……へっ?」
女性? もちろん四季ちゃんのことじゃないだろうし、この場合は紫とか剛のことかな?
「ええそうです。あなたが地獄にいたころ、私はあなたに二人の想いについて教えたはずです。なのにあなたときたらのらりくらりとそれを遠ざけ、孫娘を溺愛するなどとは。あまつさえ昔振った女性と縁を戻す始末」
『振られてないですー! 私たちはいつも心の奥底で繋がっていましたー!』
「いや、私はまじめに縁を切ったつもりなんだけど……」
「一人の女性としても言いますが、あなたの行為は最低最悪です。あなたはもうちょっと道徳というものを学びなさい」
うっ、言いたい放題だけど正論すぎて何も言えない……。
いやだってこの体だと精神も幼く引っ張られるからイマイチ恋愛に気が向かないんだよ。あとは霊夢が可愛すぎるのが悪い。
「たしかに一理あるかもしれませんが、それでもあなたは恋愛に向き合うべきです。恋を追ったせいで妖怪と化したあなたには酷な話かもしれませんが」
「……それは私じゃなくて神楽だよ。一緒にしないでほしいな」
「……少し口が滑りすぎましたね。すいませんでした」
四季ちゃんが小さく頭を下げてくる。そしてその後、小町の船に乗り込んだ。
「今日はこれくらいにしておきます。しかし暇があれば私はいつでも幻想郷を見ているので悪しからず」
「へいへい。できればあんまり会いたくないけどね。地獄と関わると耳が痛くなる話ばっかだから」
「では次回会うまでにその耳が痛くなる話の原因を取り除いておくことです。ほら行きますよ、小町」
ほとんど放心状態の小町がゆっくりと木でできたオールで水をかき出す。すると船はどんどん進んでいき、ついには三途の川を覆う霧に遮られて見えなくなってしまった。
恋、かぁ……。
残された私は特に意味なく上を向く。
正直、私は恋愛という言葉が嫌いだ。それは
紫に剛に早奈。
あんまり口に言うことは大人の私はしないが、本当は全員好きだ。大好きだ。ただしそれが恋愛なのかというと、どっちかというと友人として見ている部分が大きいと思う。
そんな私が彼女らの想いに応えることなんてできない。それに私は一人だけ選ぶ勇気も、全員抱え込む度胸もない。
やはり、私に恋愛は無理なのかもしれない。
そう結論づけてしまうと、何故だか胸の奥がチクリと痛くなる。
それを押さえつけて、私は今日四季ちゃんから聞いた言葉を振り払うように、三途の川を去った。
♦︎
深い深いどこかの森の奥。
光すらも届かないその地に、三つの墓はあった。
その両脇の墓にはそれぞれ違った帽子が被されている。しかし真ん中にはそれがない。しかし代わりに被っていたのは——
「……ぁあ、……だぁっ、……れのか……だぁ……!」
——見たこともないほど黒い色の泥だった。
泥はどうやら墓から溢れているようだった。その速度は緩やかだが、まもなく泥の端が地面に触れようとする。
途端に汚臭。そして命が枯れていく気配。
大地が酸をかけられたかのような音と黒い煙を出しながら変色した。いや、変色しただけではない。その地面の下に潜っていたあらゆる微生物が死滅した。
「か……だぁ……っ! お……れのぉ……わ……しのぉ……か……らだぁ……!」
墓の中から体の芯まで呪われそうな、そんな声が響いてくる。
「ふく……しゅうをぉ……っ!」
泥は少しずつ、少しずつだが地面を侵食していく。
滅びの足音が近づいてくる。しかしそれに気付く者はまだいない。