東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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風神録編
巻き起こる神風


 

 

 

 

「ゆっかりーん! 私とデートしない?」

「へっ? ……え、えええええっ!?」

 

  ここ八雲邸にそんな素っ頓狂な叫び声が響き渡る。

  突然の私の誘いに紫の頭はパンクしてしまったようだ。顔を真っ赤に染め上げながら完全にフリーズしてしまっている。

  うんうん。やっぱり紫はいかにも怪しさマックスの顔をしてるよりもこっちの方が可愛い。というかいつものが仮面で、こっちの方が素だからという点もあるのだろうが。

  紫が冷静さを取り戻したのはその数分後だった。

 

「……で、その……嬉しいんだけど、どうして突然?」

「いやー思えば幻想郷に入ってから異変に巻き込まれてばっかでロクに遊べてないと思ってね。でも一人はつまらないし、この際ちょうどいいから紫を誘おうと思ったわけ」

 

  まあ、正確に言えばちょこっと嘘が入るけど。

  本当は前回の異変で四季ちゃんに言われたことが頭にこびりついていて離れなかったというのが正しい。正直私も自覚ありありだったわけで、少しはそういうのも改善しようかなと。

 

「あ、もちろんこの姿じゃ行かないよ? 行くんだったらやっぱ大人の姿じゃなくちゃね」

 

  そう言って私は封印していた妖力を解放し、幼体化を解く。

  そう、解いてしまった。自分が今しがたどんなセリフを言ったかをも忘れて。

 

「あああああああああっ!!」

「ちょっ、ちょっと楼夢!?」

 

  突如発狂したかのように叫び、床を何度も頭で叩き始める。

  しかし、そんな奇行をしても仕方がなくなるだろこりゃ……。

 

「は、恥ずい……っ。なんで幼い俺はあんなプレイボーイみたいな言葉を……!」

 

  穴があったら入りたいとはまさにこのことだ。

  そう、幼体化と大人化は使い分けることで精神年齢が上下してしまうのだ。子どもだから許されるセリフも大人が言えば痛くなる。それと同じ道理である。

 

  思い返すだけで自分を殴りたくなる。なにが『私とデートしない?』だ。そんなコンビニ感覚で誘うんじゃねえよ。第一テメェはそんな大層なこと言えるほどデートしたことねえだろうが。

  ああああぁぁぁぁ……!

 

「だ、大丈夫……? やっぱやめましょうか?」

「い、いや男に二言はねえ……。それに遊びに行くこと自体は賛成だ。だからだな……その……デートしようぜ」

「……うんっ!」

 

  満面の笑みで頷く紫。

  よかった。どうやら喜んでもらえたようだ。いや、まだデートは始まってないし、安心するにはまだ早い、か……。

 

  その後はデートの待ち合わせ場所などを決めてお開きとなった。

  そして明日がその日である。

  私は英気を養うため、自宅のベッドで横になった。

 

 

  ♦︎

 

 

「うーん、なに着ていこうかしら?」

 

  楼夢が去った後の紫はそれはもう有頂天だった。

  先ほどまでは嬉しさのあまりそこらじゅうを駆け回り、今はタンスやクローゼットの中なに衣服を片っ端から引っ張り出して明日なにを着るかについて悩んでいる。

 

  そんな紫の部屋の戸を開け、さらに畳まれた服を山ほど抱えた式神——藍が中に入ってきた。しかし主人はそのことにも気付かずにひたすらうんうんと唸っている。その姿は、とても幻想郷を管理する妖怪の賢者には見えなかった。

 

「あのぉ……紫様……」

「ひゃっ!? ……って、藍か。入る時くらい声かけてほしいわ」

「かけたんですが返事がなかったので勝手に入らせてもらいました」

「そ、そう……それは悪かったわね」

 

  今更ながら、自分がどれだけ集中してしまっていたのか自覚する紫。

  彼女はそれを恥ずかしげに謝ると、改まって藍の方へ体を向けた。

 

「それで? 何の用かしら?」

「はい。紫様不在中の幻想郷のことなのですが……」

「全てあなたに一任するわ。と言っても、面倒ごとなんて滅多に起こらないと思うけど」

「紫様、それはフラグというやつです……」

「ふふっ、明日に限ってそんなこと起こりえないわよ。なんせ恋愛の神である楼夢が直々に誘ってくれた日なんだもの。私たちのデートが邪魔されることは万が一にもありえないわ」

「……まあ、そうですね」

 

  紫の話になんとなく藍は頷く。

  案外、神様の加護とやらは馬鹿にできないものだ。藍はそんなものの恩恵を得たことはないのでこれと言ってピンとこないのだが、主人の紫が言うのならそうなのだろう。

  そう判断し、紫の服選びを手伝い始める。

 

  しかしこの時、二人は知らなかった。

  神の加護をも打ち消す、恐るべきフラグの威力を……。

 

 

  ♦︎

 

 

  そして当日。

 

「……なあ、たしかに頼んだのは俺だけどよ……本当にこの服でいいのか?」

「おう。なんだ、幻想郷一漢らしさで溢れてるこの俺のセンスを信用できねえのか?」

「いや、たしかに経験豊富なお前を信用してるし、この服もお前が着れば様になるんだろうが……俺が着るとどうもアンバランスな気がする」

「気のせいだ気のせい。んじゃ、そろそろお前の女が来るはずだからここで帰らせてもらうぜ。Bonne chance(幸運を)

 

  そう言い残すと、体から闇を発生させて目の前の男——火神矢陽は消え去った。

  朝の白咲神社。その本殿の鳥居の前に残された私は一人ポツンと紫を待つことにする。

 

  くそっ、四方八方から視線を感じるぞ……。多分これは娘たちだな。式神を使ってまで俺のデートシーンを見たいのかよ。

 

「……『魔力電波妨害(マジックレディオノイズ)』」

 

  当然ながら見られていい訳がない。というわけで術式を発動。辺りに張り巡らされた妖力でできた、式神を動かすためのパスを全て断ち切り監視を無効化する。

 

  まったく、デリカシーもクソもあったもんじゃないな。本当に誰に似たのやら。……いや、俺にまさか似たわけじゃないよな?

  だが、よく考えたら幼体化した俺も色々プライバシーの侵害をしてた気がするし……いや、これ以上は考えないようにしよう。

 

  新たに気づいてしまったことに一人唸っていると、背後からグモンッ、という何かが捻じ曲がった音が聞こえてきた。

  振り向けば空間が割れていた。そしてその中から紫は出てくる。

 

「……おおっ」

「ど、どう? けっこう悩んだんだけど……」

 

  心配そうな表情で俺に尋ねてくる。しかし俺はその問いに即答することができなかった。

 

  白と紫を基準としたフリル付きのスカートと洋服。肩が露出しているがなぜか清楚な雰囲気が漂ってきており、それが彼女とベストマッチしすぎている。

 

「そのだな……月並みだが……似合ってるぜ」

「……! ふふっ、ありがとう! 楼夢のも中々特徴的で素敵よ」

「いやこれは特徴的というか、明らかに俺に合ってないような……」

 

  俺は紫の服を見た後、見比べるように自分の服を見つめる。

  白いシャツにジーパン。その上に明らかに高そうな黒のライダージャケットを羽織っている。さらには純銀のゴツイロザリオ。

  そう、俺が着ている服は紛れもなく不良や暴走族などのファッションだった。

 

  これは昨日火神に着ていく服を相談した時に渡されたものだった。しかもご丁寧に全て新品。つまり未使用。やつは常に気に入った服を片っ端から買っては家に置いたままにしているらしく、気前よくタダで譲ってもらえた。

  しかし男っぽくしてくれって言ったのは俺だけどよ……これは流石にないわ。これが黒髮短髪オールバックの活かした男性なら似合ってるのかもしれないが、あいにくと俺は桃色髪のロングに初対面だとほぼ確実に女に間違われる顔をしている。実際着てみてもこれじゃない感が凄い。

  しかし紫はそうは思ってないらしく、先ほどからよく褒めてくれる。

  まあ、こんだけ言われてんだ。不自然ってわけじゃないんだろう。

  ……俺も神楽みたいに、イメチェンできたならぁ……。

 

「ん? どうしたの?」

「……いや、なんでもない。とりあえず行くか」

「うん、楽しみね。()()()()()()()()()

 

  紫が持っていた扇を目の前に振り下ろすと、そこの空間が裂けてそこそこ大きなスキマが生まれる。

  そこに俺と紫は入っていき、外の世界を目指し歩いていった。

 

 

  ♦︎

 

 

  時間はずれて、楼夢たちが旅立ってから数時間後。

  幻想郷。その中の妖怪の山の頂上が、突如広範囲に広がる光に包まれた。

  その目撃者たちは全員口を揃えて言ったという。なんて神々しい光なのだ、と。

 

  光が収まった時、妖怪の山の景色は一変した。

  なんと先ほどまで何もなかった場所に神社が湖と一緒に出現したのだ。そのことが天狗の耳に入ったころ、当の神社には三つの人影があった。

 

「ここが……幻想郷か。なるほど、噂通りの場所らしい。まだ信仰を集めてないのにも関わらず力がある程度戻ってくるのを感じる」

「うん、この世界が神秘で溢れてる証拠だね」

「うわぁ……! 私、こんなに凄い景色を見たのは初めてです!」

 

  そう言って真っ先に駆け出したのは白と青の巫女服を着た、緑髪の少女だった。

  彼女が喜ぶのも無理もない。なんせ彼女は外の世界出身。あちらでは現在山や森はほとんどが開拓し尽くされてしまっており、視界を埋め尽くすほどの緑など見たことなかったのだから。

 

「ヤッホー! ……おっ、本当に返ってきた!」

 

  ヤッホー、という少女そっくりの声が神社へと返ってくる。その面白い体験に笑顔を浮かべる少女を見て、他の二人も自然とほおを緩めた。

 

「ふふっ、早苗がここに馴染めるか心配だったけど……これならその心配もなさそうだね。そう思わない、神奈子?」

「ああ、まったくだね諏訪子。……しかし、これくらいで驚いてちゃ体力が持たないぞ」

「だって私初めてなんですもん! 山の斜面とかから反響してこっちに声が帰ってくることは習ったんですが、やっぱり実際にしてみると凄く爽快で……!」

「そうかい……。だが、あれは斜面がどうたらじゃなくて、普通に山彦という妖怪の仕業だぞ?」

「えっ!?」

 

  その新事実にさらに目を輝かせる少女。

  武神、八坂神奈子。

  土着神、洩矢諏訪子。

  そして現人神、東風谷早苗。

 

  幻想郷最大戦力と管理人のいない中で、神風は吹き始めた。

  その息吹は博麗の巫女のみならず、もう一つの神社まで巻き込んで行くこととなる。

  しかしそれを知らない両陣営は嵐の前の静けさとも言うべきこの平穏をただのんびりと過ごすことしか、今はできなかった……。

 






「新章突入! 今回も今回もで何かやらかさないか不安な作者です」

「おう、ならまずはさっさと課題終わらせて来いや。狂夢だ」


「最近PS4買いました」

「今PS5の噂が出始めてるころにPS4かよ。相変わらず時代の波に取り残されてんな」

「いいじゃないですか。それにPS5の販売も早くて2020年、遅くてその数年後ってことですし、そんなに待てませんよ」

「だが、PS5には下位互換の機能が付くらしいじゃねえか。それあったらPS4のゲームもPS5で遊べるようになるし、いらなくねえか?」

「……ま、まあ2万円程度での購入ですし……」

「……後悔してるんだな、お前……」

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