東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

240 / 292
波紋を呼び起こす手紙

 

 

  その日、幻想郷に新たな勢力が舞い降りた。

  その余波は幻想郷中の神道に関する者たちを巻き込んでいく。

 

  そう、ここ博麗神社にも……。

 

「——なんなんのよこの手紙はぁ!?」

 

  昼ごろの境内内に少女の怒声が響き渡る。

  その声量の凄まじさによってオンボロな木製神社のあちこちがギシギシと悲鳴をあげる。木々は揺れ、鳥たちが慌てて逃げていく。

  そして縁側で横になって日向ぼっこをしていた白黒の魔法使いはそこから地面へと転がり落ちてしまった。

 

「うわっ! ……いてて……おい、いきなり大声出すなよ霊夢!」

「そんなこと言ってる場合じゃないのよ! これを見なさい!」

 

  ドスドスという荒っぽい足音とともに、紅白のちょっと変わった巫女服に身を包んだ少女——博麗霊夢が奥からやってくる。

  そして手に握った紙切れを魔法使い——霧雨魔理沙に突き出してきた。

 

「えーと、なになに……? 『今すぐここの神社を我ら守矢神社に明け渡せ。返答はすぐにだ。妖怪の山の頂上にて待つ』か……。って、ええっ!?」

 

  そのあまりに馬鹿げた内容に魔理沙は驚きの声を上げる。

 

「博麗神社を渡すって……そんなことして大丈夫なのか?」

「いい訳ないでしょうが! 下手したら幻想郷滅亡の問題よ!」

 

  博麗神社は幻想郷と外の世界を隔てる『博麗大結界』が張られている場所の中心地だ。そして博麗の巫女は異変解決の他にもこの結界の調整という役割が与えられている。そんなことは多少知識がある者なら誰でも知ってるような常識だ。

  いわゆる幻想郷においての聖域。それがわかってるからこそ、妖怪も博麗神社を襲うことは暗黙の了解として控えているのである。

  しかしその聖域が今侵されようとしている。はっきり言って問題も問題、それも大問題だ。そしてそんな馬鹿をするものは、決まって外の世界から来た者たちと決まっている。

 

「そうだ。腐っても博麗の巫女だな。自分に課せられた役目だけはちゃんと果たすつもりで安心したぞ」

 

  空間が裂けてスキマが生まれ、そこから八雲藍が姿を現わす。

  魔理沙は驚いていたが、霊夢は表情を変えることはなかった。なぜなら、こういった問題事には必ず紫が出張ってくると知っていたからだ。

  しかし待てど待てど、その紫がスキマから姿を現わすことはなかった。

  怪訝に思いながらも、霊夢は藍に問いかける。

 

「藍、紫は? あいつが来ないなんて珍しいじゃない」

「……紫様はその……非常に重要な案件で現在幻想郷にはいらっしゃらない」

 

  藍の返答はどこか弱々しく、曖昧なものだった。

  誰よりも幻想郷を愛している紫がこの問題には出てこない。そのことに疑問を持った霊夢は追い討ちをかけることにした。

 

「重要な案件、ねぇ。果たして博麗大結界が壊れるかもしれない以上に重要な案件なんてあるのかしら?」

「ぐっ、それはだな……その……」

「ああもういいわよ。あんたじゃ話になんない。さっさと紫を呼びなさい」

「駄目だっ!」

 

  突然藍はそう叫んだ。

  これには霊夢も魔理沙も目を丸くした。

  まさか、あの冷静沈着な藍があそこまで狼狽えるとは……。

  この時点で霊夢は紫を呼ぶことは不可能だと悟り、彼女に背を向け、神社の中に再び入ろうとする。

 

「……わかった。紫はもういいわ。だけどその代わり、今から私がその生意気な神たちにお灸をすえてやる。それくらいならいいわよね?」

「ああ、すまないな。本来なら私があちら側を説得すべきなのだが、あいにくと奴らが強引に幻想入りしてきたせいで歪んだ結界を今すぐ直しに行かなければならない。だからあとは頼んだぞ」

 

  そう言って、藍はスキマを再び開き、中に消えていった。

  その後、霊夢が神社の中から出てくる。

  針にお札に陰陽玉。準備は万端であった。

 

「さてと、私は今から新参者を引っ叩きに行くけど、あんたはどうするの?」

「もちろん行くぜ! ちょうど暇だったしな!」

「まあ予想通りね。いいわ、好きにしなさい。私も天狗の弾除けができるのは嬉しいし」

「弾除け扱いなのかよ私!?」

 

  そりゃないぜと魔理沙。

  冗談よ。半分くらいはと霊夢。

 

  二人はいつも通り笑い合うと、異変? 解決に向けて出発する。

 

  そう、あくまで二人はいつも通りだった。

  霊夢自身自分の神社がボロいのは理解してるし、別にそのことでどう言われようが事実なのでなんとも思わない。魔理沙に至ってはそもそも自分の家ではないので怒る理由がない。

 

  だが、世の中にはその『いつも通り』ができない人たちがいる。

  場面は切り替わる。

  黄金の紅葉で覆われた山の頂上。そこには暗雲が漂っていた。

 

 

  ♦︎

 

 

「……なんなんですかね、このふざけた手紙は?」

 

  ドスッという音とともに机の上に置かれた手紙に日本刀が突き刺さる。そして怒りのあまり制御を誤ったのか、刀はそのまま突き進み、床に刺さったところでその勢いが止まった。

 

  美夜はその机と手紙が突き刺さったままの刀を床から引き抜き、勢いよく振るうことで刺さっているものを外へと放り出した。

 

  そこに殺到する、炎と氷の巨大球。

  放ったのは清音と舞花。上級魔法『メラゾーマ』と『マヒャド』の同時攻撃に耐えきれるはずもなく、手紙は机ごとこの世から消滅した。

 

「……本当に、不愉快」

「まったくだねー。これは私でも怒るよー?」

「ええ。古来より由緒正しき白咲神社を、よりによって明け渡せと? どこの神ですかそんな命知らずは……」

 

  もしこの空気の中に一般人が入ったら即死すること間違い無いだろう。それほどまでに濃厚な妖力を三人は無意識に垂れ流していた。

  興奮のあまり逆立った九尾をたなびかせながら、舞花が口を開く。

 

「……守矢神社。この名前に聞き覚えは?」

「それなんだけどねー、なーんかどこかで聞いたことがあるような気がするー」

「ええ、私も聞き覚えがあります。しかし祭神までは……」

「……まあ、どこでもいい。潰せばそれで終わりになる……」

 

  舞花は縁側から外へ出ると、二人を置いてけぼりにして先に空へと飛んで行ってしまった。

  残された美夜と清音は互いに視線を合わせ、ため息。そして後に続くように外へと出ていく。

 

「どっちにしろ、こんなことでお父さんを呼ぶわけにはいかないしねー。ちゃちゃっと潰してこよーよ?」

「ええ、そうですね。せっかく紫さんとの仲に進展があったのですから、それを邪魔するわけにはいきません。今回の件、なんとしてでも私たちだけで解決しましょう」

 

  返事は返ってこなかった。なぜなら口に出すまでもなく、答えは決まっているから。

 

  秋の空を濃密な殺気を纏った三人が飛んでいく。

  この日、幻想郷最大勢力白咲神社が動き出した……。

 

 

  ♦︎

 

 

  一方そのころ、守矢神社では……。

 

「諏訪子様ぁ! 神奈子様ぁ! お使い行ってきましたよぉ!」

 

  神社内に響き渡るほどの声量とともに、風祝である早苗は戸を開けて中へ入っていく。

  そして居間でのんびりとお茶を飲んでいた二柱の神のところへと歩いていく。

 

「……あーもう、そんな大きな声で叫ばなくたって聞こえてるよ」

「だって私今日空飛んだの初めてなんですよ! 楽しすぎて寄り道してたら、別の神社を見つけたので、ついでにもう一枚余ってた手紙を渡しておきました!」

「……なんか嫌な予感が一瞬したんだけど……」

 

  早苗の報告を聞いて、何故だか諏訪子は不安な気持ちになってきた。

  彼女に頼んだお使いとは、博麗神社という廃れた神社に手紙を届けること。調べたところ博麗神社の神は不在らしく、収入自体も少ないらしい。ならそこを乗っ取って分社とすることで信仰拡大を目指すというのが諏訪子と神奈子の考えだった。

  しかしその考えは早苗には伝わらなかったらしく、どうやら別の神社にも手紙を届けてしまったようだ。

  もしそこに神がいたのなら、喧嘩になること間違いないだろう。誰だって自分の信仰を広める拠点を奪われたくはない。そこのところを諏訪子は懸念しているのだが……。

 

「まあ、渡してしまったものは仕方ないじゃないか。神同士の戦争なんて別に珍しいものでもなんでもあるまいしね。むしろこの機会に相手をぶっ倒して、この幻想郷に私たちの名前を広めてやろうじゃないか」

 

  しかし頼もしい相方の考えはちょっと違ったようだ。

  さすが武神。かつて侵略戦争を幾度となく繰り返してきただけのことはある。どうやらこの機会を逆に利用するつもりらしい。

  だが、忘れてはいないだろうか。まだ自分たちは喧嘩する相手の顔すら知らないことを。

 

「ちなみに、なんて名前の神社だったの?」

「えーとですね……確か、白咲神社って鳥居には書かれてました!」

「えっ……?」

「あ……っ」

 

  そして二人は聞いてしまった。

  自分らがどこの誰に喧嘩を売ってしまったのかを。

 

「……ほ、ほら神奈子。お得意の侵略だろ? ちゃちゃっと終わらせてきてよ……」

「バカ言うんじゃないよ諏訪子! 私を見捨てる気か!」

「あんだけ啖呵切ってたくせになに弱腰になってるんだよ! さっさと戦って死んでこい!」

「勝てるわけがないでしょうが! 相手はあの楼夢だぞ!?」

「ひぇっ、私もしかしてなんかやっちゃいました……?」

 

  突然取り乱した二人を見てさすがの早苗も何かやらかしたのだと察したのか、伺うようにそう尋ねてくる。

  その不安と申し訳なさで埋め尽くされた表情を見て大人気ないと感じ、二人は一旦振り上げた拳を下ろすと、現在の状況について簡単に説明した。

 

「……ってことは、私ってこの世で一番強い神様に喧嘩売っちゃったってことですか!?」

「まあ平たく言っちゃえばそうだね……。というか覚えてないかもしれないけど、早苗も一応あったことはあるはずだよ」

「どどど、どうしましょう! ただでさえお二人はまだ万全な状態じゃないのにっ。こうなったら、私が責任を持って切腹を……」

「早まりすぎだよ。言ったでしょ? 知り合いだって。こっちの手違いでしたと正直に謝って神酒でも差し出せば許してもらえるはずさ。あいつはそういうやつだよ」

「そ、そうですか……。よかった……」

 

  なんとかなりそうだと言う言葉を聞いて、早苗は思わず膝をついて脱力してしまう。おそらく極限のストレス状態から一気に解放された反動だろう。

 

「しかし、本来ならこっちから謝罪しに行くのが礼儀だけど、すでに博麗神社にも手紙は届けてしまっているからな。今日のところはここで待ち構えることにしようじゃないか」

「……そうだね。もしかしたら白咲神社からも使者が来るかもしれないんだし。ただでさえさっきまでは天狗の相手をしていたんだし、外まで行ってちゃ体が追いつかないよ」

 

  こうして、二人は予定通り博麗神社からの使者を待ち構えることにした。

  しかし二人は知らないことが多すぎた。

  楼夢が不在であること。白咲神社には大妖怪しかいないこと。そして何より、弱者と侮っている博麗神社こそがこの幻想郷における最も重要で、最も守りの固い場所であることを。

 

  その意味を。その理由を。二人は後ほど知ることになる。

 

 






作者です。少し投稿が遅れてしまい申し訳ございません。最近は本格的に忙しくなってきたので、これからは週に二回ほどしか投稿できなくなると思います。
ではでは、また次回にお会いしましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。