東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
無数に生えている木々の隙間を縫うように、何かが高速で通り過ぎていく。
残像すら残らない。残るのはその何かが吐き出した光の奔流だけ。
「くそぉぉぉぉぉぉっ!!」
絶叫すらも風にかき消されていく。
それでもなんとか荒れ狂う箒を操作し、スピード違反常習犯も真っ青な速度で霧雨魔理沙は妖怪の山を登っていく。
事の始まりは霊夢と別れた後だった。
まんまと囮にされた魔理沙は白狼天狗の部隊と交戦し、なんとか勝利を収めることができた。
そこまでは順調だった。
しかし彼女の余裕が崩れ始めたのは、その後援軍が現れてからだった。
簡単な話だ。魔理沙は派手で高火力を重視した魔法を使う。『弾幕はパワーだぜ』という言葉をまさに彼女は表していただろう。
しかしそんな魔法を敵地の真っ只中で使えば当然目立つ。それを見た援軍が駆けつけるのも自然なことだろう。
そんなこんなで魔理沙は霊夢が山を登っている間、ひたすら増え続ける援軍と終わりのない戦いを繰り広げていた。
しかしそれも今ようやく終わった。
何回も同じことを繰り返していたら当然対策も思いつくわけで、魔理沙は援軍を倒した後に即その場を立ち去ったのだ。しかし急ぐあまり『ブレイジングスター』を加速のために森の中で使ってしまい、今に至る。
「だぁぁぁれかぁぁぁ助けてくれぇぇぇぇ!!」
制御不能な彗星にしがみついている魔理沙。当然方向転換なんてできたものじゃない。
いくつもの尖った枝に頭から突っ込んでは壊し、突っ込んで壊しを繰り返し続ける。すでに彼女は服のあちこちに傷が付いており、体もボロボロだった。
そんな時、目の前にひときわ大きな木が見えてきた。
箒の方向を変えようと精一杯力を振り絞るが間に合わず。
鈍い音とともに木の葉がざわめく。
魔理沙は木に思いっきり衝突し、そのまま空中へ投げ出されてしまった。
体を地面に打ち付けてしまい、出かけた涙を押し殺して辺りを見渡す。
ここが妖怪の山のどの辺りなのかはわからない。ただ、すぐ近くに水が流れる音が聞こえてくる。
どうせ行くあてもないのでその水がどこにあるのかを探していると、森をいつのまにか抜けていた。そしてそこで魔理沙の目に映ったのは、崖から水を流している壮大な滝と、それによってできた川だった。
「……ここなら少しは休めるか?」
幸いにも敵の気配はない。魔理沙が感じ取れる範囲でだが。
そう思ったら緊張感が急に抜けてきて、思わず尻もちをつくような形で河原に座り込んでしまった。
「いつつ……っ。いつの間にこんなに怪我してたのか、私は」
緊張感が解ければ集中力も切れ、今まで体が忘れさせてくれた傷の痛みが湧き上がってくる。
だが魔理沙にはその傷を癒す手段はない。なぜならそういった類の魔法は完璧に魔理沙の管轄外だからだ。せいぜいあるとしても、気休め程度にしかならないポーションを飲むくらいか。
妖怪の山に行くからという理由で普段は持っていかないものも持ってきたのが正解だったようだ。スカートのポケットの中から取り出すと、それを飲み干して空き瓶を投げ捨てる。
痛みは……若干和らいだの……か? 正直わからない。効くと思えば効いているような感じがするのだが、逆のことを思うと途端に痛みがぶり返してくる。たしか、こういうのをプラシーボ効果というんだっけか。
そんな微妙なポーションの感想を心の中で言っていると、川の方から水しぶきが突如上がった。
驚く魔理沙。勢いよく川の方へ視線を向けると、水に濡れた少女が魔理沙を睨みつけている。
「ちっ、妖怪か……! せっかく休んでたのに……。こうなったら……」
「コラァァァァァァッ!!!」
「うおっ、なんなんだぜ一体……」
出会い頭で急に少女に怒鳴られたことで魔理沙は少し怯むが、なお少女の熱は収まらない。
たとえでいうなら沸騰した水を入れたやかんだろうか。頭からは湯気のようなものを幻視してしまうほどに、地団駄を踏んで怒っている。
「おい、そこの人間! 川でのポイ捨ては禁止だよ!」
「……なんだ、そんなことで怒ってたのかよ。心配して損したぜ」
「『そんなこと』とはなんだ『そんなこと』とは! 水は河童の生命線! それでなくても、この山の川にはたくさんの水がなければ生きられない妖怪がいるんだよ! 彼らに申し訳ないとは思わないのかい?」
「いやまったく。これっぽっちも。そもそも異変解決側の人間が妖怪の心配をしてたらやっていけないだろ。というか文句があるなら私がここにきた原因になった奴らをさっさとこっちに譲り渡すんだぜ」
魔理沙にしては正論である。
妖怪が人間を襲い、人間は妖怪を恐れる。それがここ幻想郷のルールだ。
心配するということは情けをかけること。
情けをかけるということはその妖怪が可哀想に見えるということ。
そしてそう見えるということは、その妖怪は人間に恐怖を抱かせられてはいないということを表す。
だからこそ、霊夢や魔理沙は妖怪を攻撃するときに容赦がないのだ。妖怪たちに敗北以上に重いものを持たせないために。
だが、それはあくまで妖怪退治屋としての正論であって、むやみに自然を汚していいというわけではない。と言っても、家だろうが外だろうがポイ捨て常習犯の魔理沙には理解できない話なのだが。
「河童は基本的に人間には友好的だけど、お前は別だよ。ここで川に住む妖怪を代表してこの河城にとりが成敗してやる!」
「へっ、ちょうどいい。なら私はお前というゴミを片付けてやるぜ!」
魔理沙とにとりは互いに三枚のカードを見せ合う。
「残機は二個だ。異論はないな?」
「ふんっ、あっという間に沈めてやる! くらえ、光学『オプティカルカモフラージュ』!」
「なにっ!?」
放たれたのは水の弾幕。だが、魔理沙が驚いたのはそこじゃない。
なんとスペカを唱えた直後ににとりの姿が周りの景色に溶け込むように消えたのだ。そしてどこからともなく水の弾幕を出して魔理沙を翻弄する。
「くそっ、弾幕自体は大したことないが見えないのは厄介だぜ! おら、コソコソしないで正々堂々戦え!」
「そんな安い挑発には乗らないよ。それに今回はこいつの実験なんだから、使わなくっちゃ意味がない」
「っ、後ろ……!?」
とっさにミニ八卦炉を後方へ突き出し、狙いも定めずにレーザーを放つ。そして次の瞬間、レーザーに水の弾幕が殺到した。
レーザーが盾となることで弾幕が防がれ、蒸発していく。しかし水だろうが弾幕は弾幕。レーザーの形を保てなくなったそれは、魔理沙が近くにいるにも関わらずにその場で小規模な爆発を起こした。
「いててっ、まさか自分の弾幕に自分が巻き込まれるとは……んっ?」
魔理沙の視界に奇妙な光景が映る。
先ほどの爆発によって木から離れたと思われる落ち葉。その大半は上から下に落ちていっているのだが、数枚だけなぜか空中で静止しているものがあった。
怪訝に思いながらしばらく見つめていると、うっすらと小さなシルエットらしきものが浮かび上がってくる。しかしシルエットが動くと落ち葉が落ちてしまい、それはたちまち見えなくなってしまった。
が、今ので十分だ。魔理沙の目が煌めく。
「……そうか! 掴んだぜこのスペカ! 黒魔『イベントホライズン』!」
スペカを高々と宣言し、大小混じった高火力の星形弾幕をばらまいていく。ただし目標はどこにいるかもわからないにとりではなく、真下にある地面だ。
弾幕は着弾と同時に爆発。その爆風により、砂嵐とも表現できるほどの砂利が辺りに飛び散る。が、一箇所だけ、空中で砂利が静止している場所があった。
「し、しまった! 濡れてるせいで砂利が服に……!」
「そこだっ!!」
再び浮かび上がった少女のシルエットに向かっての集中砲火。イベントホライゾンの弾幕が見事ににとりに命中した。
「ああ、せっかくの光学迷彩が……!」
「へっ、なんだかよくわからないが姿を消す術式はもう使えないようだな。こうなったら河童なんと恐るるに足らずだぜ!」
「術式じゃない! これは化学だよ!一緒にするんじゃない!」
「どっちでもいいぜ! 魔符『ミルキーウェイ』!」
一発くらわせて調子づいたのか、間髪入れずに魔理沙はスペカを発動する。
ミルキーウェイ。天の川。
その名を示すように、星の弾幕群は激流のようにうねりながらにとりに迫る。
「河童をなめないでよね! 本当の川ってやつを見せてやる! 水符『河童のポロロッカ』!」
対抗するようににとりが繰り出したのは、これまた川に関する名を持つスペカ。そして本物の川と光の川がぶつかり合う。
しかし、単純な火力勝負ではにとりは魔理沙には劣る。そのまま星弾が徐々に水の弾幕を押し込んでいく。
——かに思われたが。
なんと、急ににとりの川が大きくなったかと思うと、天の川をみるみると逆流していくではないか。
「なっ、私が火力負けしただと!?」
「違うよ。私のスペル名聞いてなかった? 『河童のポロロッカ』ってね」
ポロロッカ。それは外の世界におけるアマゾン川が潮の干満によって逆流する現象の名称である。
にとりは天の川をそれに見立てて、同じように川を逆流させたのだ。
形成は逆転した。魔理沙は自分が押し負けていることが気に入らず、最後まで抵抗を続けていたが、結局は乗っている箒ごと水の弾幕群に飲み込まれ、そのまま本物の川へと落下した。
水しぶきが魔理沙の顔を打つ。
気分は最悪だ。冷え込んでくる秋の真っ只中に川に落ちたのだ。服はぐっしょり濡れて寒いし、おまけにポケットに入れていたポーションを含むマジックアイテムは一部壊れてしまっている。
だが、ここで声を荒げて怒るほどの暇はなかった。
にとりの追撃用の通常弾幕群が迫ってきていたからだ。
しかし魔理沙はまだ立ち上がってすらいない。この数秒で起き上がって逃げるのはきびしいだろう。
だから彼女は箒に魔法をかけると、先ほど森をさまよってた時のように穂先から魔力をジェット噴射させながら箒を力強く握りしめ、暴れる箒とともに無理矢理この場から脱出した。
地面にニ、三度バウンドして体を打ちつけながらも態勢を整えて箒に跨る。
だがその時にはもうにとりは三枚目のスペカを掲げていた。
「河童『お化けキューカンバー』!」
今度放たれたのは緑色のレーザー群。それがにとりの体を中心に周囲にばら撒かれる。
だが彼女の予想に反して、魔理沙はそれをスイスイと避けていく。
「へっ、さっきは姿が消えたりスペカの相性が悪かったりで散々な目にあったが……河童程度の小細工なしの弾幕だったら簡単に避けれるぜ」
そう、魔理沙は今まで様々な異変に足を突っ込んできた。もちろん大妖怪とも戦ったことがある。
それに比べたらにとりの、いや中級妖怪程度の弾幕なんてヌル過ぎる。
「これで終わりだぜ! 恋符『ノンディレクショナルレーザー』!」
魔理沙から放たれたのもレーザー群。だが、その太さはにとりのものよりも明らかに上だ。
互いのレーザーが衝突し合う。そして均衡する間も無く魔理沙の方がにとりのを侵食していき、彼女は撃ち落とされて川の中へと消えていった。
「へっ、おととい来やがれだぜ!」
鼻を指でこすりながら、そう言い捨てる。
にとり対魔理沙の弾幕ごっこはこうして魔理沙の勝利に終わった。
休憩も終わったし、目的地に進もうとしたのだが。
「ヘックションっ!?」
その前に服が濡れて体が冷えてしまっていることに気づく。
とりあえずは服が乾くまでは大人しくしていよう。彼女はそう決めたのだった。
「投稿遅れてすみません。ちょっと最近家の事情でゴタついてしまいまして。作者です」
「なーにが家の事情だ。のんびりPS4してたじゃねえかよ今日。狂夢だ」
「いやーもうすぐ10連休ですね」
「しばらくは寝て過ごせるな」
「この機会にこの作品を書き進められたらいいなぁ」
「まあ前も言った通り今期は見たいアニメも少ないしな。一日3000文字を目標にしてたらどうだ?」
「無理ですよ! 1000文字くらい書くのに30分くらい使うんですよ!? 私に一時間半も神経を研ぎ澄ませていろと!?」
「逆に一時間半ぐらい頑張れや暇人! どうせ買ったPS4のゲームもニ週間足らずでラスボス戦前まで辿り着いちまってるんだし、何にこれ以上時間を使うんだよ!?」
「うーん……昼寝?」
「働けクソニート!」