東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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天狗対九尾の狐

 

 

 

 

  弾幕ごっこが終わったあとの河原は滝の音がするにも関わらず静かだった。

 

「……ゴミ、拾ってやっかな」

 

  熱が冷めれば冷静さを取り戻すように。

  売られた喧嘩は全部買うのが魔理沙の主義だが、よくよく考えるといまさらながら自分が悪かったかもなぁ、と思いそう呟く。

  そして誰も見ていないのを確認すると、コソ泥でも働くかのような素早い動きで空き瓶を拾ってスカートのポケットへねじ込んだ。

 

「ありがとー人間! やっぱ持つべきものは盟友だね!」

 

  だが、そんな努力も虚しく、川から水柱が上がって先ほど沈めたはずの河童が出てきた。

 

「うおっ、お前はにとり!? さっき私が沈めたはずじゃ……!」

「『河童の川流れ』なんて言葉があるけど、あれは迷信だよ。私たち河童は水中でも呼吸ができるし、たとえ意識がなくても泳ぐことぐらいはできるさ」

「そ、そうか……って、それよりも! さっきの見てたのか……?」

「うん! さすがは盟友! 最後にはしっかり後片付けをしてるし、見込みがあるね!」

「う、うるせえ! 別にお前に言われてやったわけじゃないんだからな? ただちょっと川が汚れるのはマズイと思って……って、盟友ってなんだ?」

 

  これ以上さっきの行為について話されたくない一心で頭を巡らせた結果、先ほどからにとりが気になることを言っていたのを思い出し、話題を変えようとする。

  そしてそれは成功したようで、にとりは笑みを浮かべながら答えた。

 

「言ったでしょ? 河童は基本人間には友好的だって。その理由はまあ色々あるけど……それにお前は悪いやつじゃなさそうだしね。だから盟友」

「うーん、河童の理屈はわからんが、まあ襲わないんだったらなんでもいいぜ」

 

  その後はにとりと語り合って、興味のある話が聞けた。

  なんとにとりたち河童は化学という魔法とも違う外の世界の技術を操ることができるらしい。

  気がつけば神社のことより化学とやらを見てみたいという思いでいっぱいになっていた。

 

「じゃあ私たちの工房に来てみる? 私たちは魔法には疎いし、面白い人間は大歓迎さ」

 

  返事は即答だった。

  両手を上げてにとりの提案に魔理沙は乗った。

  ふと、脳裏に霊夢の姿が思い浮かぶが、好奇心によって一瞬でかき消されて行く。

 

 

  ——霊夢は好き勝手に私を使ったんだ。なら私も好き勝手させてもらうさ。

 

  こうして、神道戦争のイレギュラーは表舞台から姿を消していった。

  残ったのは純粋な関係者たちのみ。

  そして妖怪の山上層でも、戦乱の気配が漂っていた。

 

 

  ♦︎

 

 

 妖怪の山に複数の旋風が吹き荒れる。

  それらは木々を通り抜け、空を舞い、そして互いにぶつかり合う。

  その正体は清音たちが動くたびに発生する衝撃波だった。

 

「ちっ、さすがは()()()の娘たち……! この速さにもついてくるなんて……!」

「さすがは元幻想郷最速……。本気の私達よりも速い……!?」

「元は余計よ元は!」

 

  青筋を立てながら扇を一振り。突風とともに弾幕がそこから飛び出してくる。

  それを清音が狐火で相殺。そして反撃とばかりに彼女の後ろから舞花が飛び出し、手に持ったハンドガンから弾幕を文へと放つ。

 

「させません!」

 

  が、それは白狼天狗の少女——椛の剣によって防がれてしまった。

  同じ白髪ということもあり、舞花の脳裏にいつかの二刀流の剣士の姿が浮かび上がる。が、すぐにそれを振り払い、『銀鐘(ぎんしょう)』によって形作られた拳銃を再び構える。そして清音と目線を交わすだけで作戦を伝え、実行に移す。

 

  清音の狐火が文ではなく今度は椛を襲う。それを切り裂いてしのぐと、舞い散る火花の隙間から舞花が銃口を向けている姿が目に入った。

  乾いた炸裂音がいくつも響き渡る。そして間を置かずに爆発音が同じ数だけ鳴った。

  椛はとっさに片手に構えた盾で舞花のライフル型弾幕を防いでいた。だが空中で踏ん張りが効かずによろめいてしまう。

  その隙を突くように清音の狐火が再び迫る。が、それを文が弾幕で相殺。しかしそうなるとフリーになった舞花がハンドガンをスナイパーライフルに変化させ、引き金が引かれた。

  先ほどとは違って甲高い音が盾から聞こえてくる。

  ハンドガンを超える威力の弾幕に支給品の盾では耐えられなくなり、一部が砕けてしまったのだ。さらに椛までもが衝撃に耐えきれず、態勢を崩して地面に落下してしまう。

 

  清音と舞花の作戦は単純だ。この中で誰よりも弱い椛を集中放火する。

  今回は残機二個とスペカ三枚のタッグバトル。二人はお互いの残機スペカを共有し合い、どちらかがなくなればその時点で敗北は決定する。

  つまり素早い文に当てなくても椛に二回当てることさえできれば勝つことができるのである。この策を取らない理由がない。

 

  しかしそんなことは文も百も承知である。

  倒れた椛を守るため、文はスペカを一枚発動させる。

 

「岐符『サルタクロス』!」

 

  扇を振るうとともに下に向かって放たれた弾幕群が木々や地面などの障害物とぶつかると減速なしで跳ね返り、それが予測不能なランダムの防壁を作り出す。

 

  清音が狐火を飛ばすが無意味だった。防壁内に入るとすぐに四方八方から迫ってくる弾幕にもみくちゃにされ、瞬く間に火は消えてしまう。

  だったらと舞花が防壁のないわずかな隙間から撃ち抜いてやろうとスナイパーライフルのレンズを覗き込むが、それは迂闊だった。

 

  突如突風が舞花の前を通り過ぎたかと思うと、ライフルの銃身がいつのまにか真っ二つに両断されていた。

  それだけではない。レンズに集中していた視線を元に戻すと、舞花の目には自分を包囲する大量の弾幕があった。

 

「ふふっ、目を逸らしてくれて助かったわ。能ある鷹は爪を隠すってのはこういうことを言うのよ」

「まさか、さっきまで手加減を……!」

「あんまり幻想郷最速の名前、なめないでよね」

 

  清音が手助けする暇もなく全方位から弾幕が舞花に襲いかかる。

  スナイパーライフル改め銀鐘は両断されてしまったせいで元の形に戻すまで使えない。しかしそんな時間はどこにもない。

  だが舞花の武器は銀鐘一つだけじゃなかった。

  両手に小規模な吹雪を作り出すと、それを合唱することでぶつかり合わせ、炸裂させる。それによって吹き荒れた猛吹雪に文の弾幕は全てかき消された。

  当然そんな規模のものを体の近くで発生させれば舞花自身にも少しダメージが入るが、被弾するよりかはマシだ。

 

  窮地を乗り越えて一息つこうとする舞花。

  だが彼女は文以外のもう一人の敵の存在を忘れていた。

 

「狗符『レイビーズバイト』!」

 

  戦闘に復帰した椛が相手を休ませないよう、絶妙なタイミングを見計らってスペカを発動させる。

  舞花の上下に現れる細長い弾幕群。それはまるで獣の歯型のようだった。

  歯型は同時に動き出し、標的の肉を食いちぎるように舞花を挟み込む。

 

「舞花っ!」

 

  空中で爆発が巻き起こる。

  吹雪で少なからずダメージがを受けていたのが影響し、舞花はその牙の檻から脱出することができなかった。

  これで清音たちの残機は残り一つ。……いや違った。正確には()()()()()()()は、だった。

 

 

「氷華……『フロスト……ブロソム』……!」

 

  被弾しながらも発動されていたスペカ。爆発の光で見えなかったということもあり、完全に椛の意識の外だった。

  そして彼女は自分でも気づかないうちに全身を透明なバラで包まれたかのように氷漬けにされている。だがやがて重力に従い、地面へと落ちていった。

  同時に舞花もふらつき、清音と一瞬目線を交わしては飛行のバランスを崩して落下していく。

 

  清音と文の行動は迅速だった。

  それぞれの味方の元に寄ると同時に、倒れた敵に向かって追い討ちを放つ。

  清音の狐火が、文の弾幕が交差してそれぞれの標的に向かっていく。

  それを清音は結界で、文は風を操って防ぐと、今度はスペカを取り出してこれまた同時に宣言。

 

「騒爆『ビックバンフェスティバル』!」

「『無双風神』!」

 

  身の丈ほどある巨大な光球が複数中に浮かび、辺りを照らす。

  それらは突如膨らんだかと思うと大爆発を起こし、周囲が真っ白に染まって何も見えなくなるほどの光と鼓膜が千切れそうになるほどの音、そして熱と衝撃波をまき散らした。

 

  しかしそんな爆発が連鎖する中、爆発と爆発の間のわずか数センチの安全地帯を文は風となって通り過ぎ続ける。

  その姿、まさに風神。

  本気となった文の姿はもはや清音にすら目で捉えることはできなかった。そして通りざまに弾幕をばら撒きながら彼女を翻弄する。

 

  当たらない、当たらない。

  何度爆発が起きようが、文には焦げ一つすらつくことがない。

  次第に文は清音との距離を詰めていく。

  爆発は術者の近くであればあるほど自滅しやすくなる。それを恐れて爆発が止まったところを一気に叩く。これが文の作戦だった。

  しかしそんなことは清音にも百も承知のはず。それなのになんの対策もとらないで攻撃をし続けることがあるだろうか。

 

  光、轟音、爆発。

  それの意味を考えているうちにある一つの答えが浮かび上がる。そして同時に寒気のようなものが文の背中から這い上がってきた。

  文は脇目も振らずに清音を放ったらかしにして、爆発が起こっていない見晴らしのいい場所まで移動した。そして注意深く地上を観察して——。

 

「死槍『ゲイボルグ』」

 

  ——気絶していたと思われた舞花が黒い槍を振りかぶっていたのを見て、ほぼ反射的に椛と彼女との間に割って入り、その槍を扇で受け止めた。

 

「ぐっ、ううううぅぅぅっ!!」

 

  天狗の秘宝であるはずの扇が黒槍にその中心部をえぐられ、悲鳴をあげる。

 

  舞花は椛と一緒に倒れた時、実は気絶などしていなかったのだ。

  ただ椛が倒れたのを利用して自分も倒れたふりをして、文を遠ざけようとしただけ。

  おそらくアイコンタクトかなんかですでに清音とは打ち合わせを済ませていたのだろう。でなければあのスペカの選択は考えられない。

  あとは轟音と光で文に悟られないようにカバーし、その隙に舞花がスペカでとどめを刺す。偶然気がつかなければ、このシナリオ通りになっていただろう。

 

  黒槍の勢いがだんだんと弱まっていく。

  だが舞花には焦りも何もなかった。ただ握りしめた拳を突き出すと、勢いよくそれを広げて一言。

 

「弾けろ、ゲイボルグ」

 

  その言葉を聞いた黒槍は一瞬黒く輝くと、その姿を何十もの鏃へと変化させ、文の服を辺りの木に貼り付けにすることで彼女の身動きを封じた。

  そして計ったかのようなタイミングで巨大な光球が文の目の前に現れる。

 

「……はぁ、こりゃだめそうね」

 

  力なく脱力し、がっくりと頭を下げる。

  そして文の視界を一面の白が染め上げ——近くにいた椛ごと、文は爆発にのみ込まれた。

 

「……終わったか……」

「舞花ー! 天狗の部隊がこっちに近づいてきてるよー! 早く上に逃げよー!」

「……神社まで行けば天狗も手出しできないはず」

 

  勝利の感傷に浸る間も無く、二人はその場を走り出して守矢神社へと向かう。

 

  その数分後に天魔を含む精鋭部隊が到着し、文たちは治療所へと運ばれていった。

  彼らは清音たちを追いかけようとしたが、すでに天狗の領域内にはいないという理由で天魔から止められ、追跡を諦める。

 

  これで一つの脅威が異変解決側から去った。

  だがまだ先は長い。なにせ目的の神社にすらたどり着いていないのだから。

  新たなる敵がいる地に向かって、残った四人はそれぞれ足を動かし歩んでいく。

 

 


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