東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
妖怪の山。頂上付近への道。そこに二つの人影があった。
一人は博麗霊夢。幻想郷の結界を管理する博麗の巫女である。
もう一人は白咲美夜。黒い九尾を持つ、白咲三姉妹の一人だ。
普通山というのは上に行くほど登るのがきつくなってくる。なぜなら多少は整備された下層とは違って、上層は人がそもそも行く場所ではないので道なんてものはなく、大なり小なりの岩が転がっていて荒れ放題だからだ。
だがこの山のそれは非常によく手入れされていた。木々は線でも引いたかのように左右に切り開かれており、真ん中にはまだ傷一つない石の階段が敷き詰められている。はっきり言ってしまえば博麗神社よりも立派だ。
「ぐぬぬ、なんか複雑ね……」
「対抗意識でも抱いているのですか霊夢? やめた方がいいですよ。張り合うだけ結果が見えています」
「うるさいわね。そういうあんたはどうなのよ?」
「白咲家には舞花がいますから。ほぼただで修理することができますし、鳥居なども常に新品同然の状態にしてあります」
「ちっ、そっちの参拝客をこっちに寄越せって話よ」
あんまりな言いがかりである。
しかし霊夢が愚痴るのも仕方がないと美夜は思う。
なんせ博麗神社は祭神が不明なのだ。なんの御利益があるのかも知らない神をわざわざ崇めに危険な山道を登るほど、里の人間たちは暇じゃない。おまけに管理者である紫も楼夢が援助を始めるまではほぼ放ったらかしにしていたらしい。それを聞いた時には人間が力をつけないため伝々と言われたが、少なくとも食料ぐらいは届けてあげるべきだったのだ。
霊夢が金にがめつく暴力で大抵のことを解決するようになるほどまでに性格がひねくれたのは、間違いなく紫のせいだと美夜は断言できる。
そんなある意味可哀想なものを見る目で先頭を歩く霊夢の背中を見つめていると、ふとその歩みが止まった。
何が起きたのかと聞こうとしたところで、その口をつむぐ。なぜなら聞くまでもなく原因がわかったから。
「ふっふっふ。ようやく現れましたね、博麗の巫女!」
霊夢が見上げる先には、ちょうど彼女と同じくらいの年齢の緑髪の少女がビシッと霊夢を指差していた。
だが、霊夢の目を引いたのはそこじゃない。彼女が着ている服だ。
白と青を基準とした巫女服。脇部分がカットされていて袖が服と分離しているところまで霊夢の服とそっくりである。
そう、巫女だ。
霊夢たちの目の前には敵勢力側の巫女が立っていたのだ。
「あんたらね。私の家にふざけた手紙を送ってきたのは」
「いえ、結構まじめですよ? ちょっと天狗を使って調べたところ、あなたの神社には現在参拝客がいないらしいですし、いい話だと思うのですが? 別に住む場所を奪う訳ではありませんし」
「よくないわよ! あんた、神社の名前を入れ替えるってことがどういう意味なのか知ってんの?」
「うーん、話が通じませんねぇ。ちょこっと神社の看板が変わるだけじゃないですか。それに本山であるここが人気になれば、その分参拝客もそちらに集まってくると思うのに……」
出会って早々、霊夢はメンチを切る。
それに対して守矢神社の巫女はなんというか、霊夢を少し小馬鹿にしているような態度を感じられる。
なんとなくだが彼女のことは察した。おそらくは外の世界で育ったせいで霊夢のことを『意味のない古臭い考えを押し通そうとする田舎のやつ』とでも思っているのだろう。
だがそれは全くもって見当違いだ。
おそらくあの巫女は神に関する知識があまりないのだろう。普通に考えて、神社の看板を変えて他所の神を迎えるということは、事実上今までいた神を捨てて消滅させるということになる。
神の一人や二人が消えたところで誰も騒ぎ立てはしないだろうが、問題なのはやはり狙われた場所が博麗神社だったからだ。
「あんた、うちの神社がここ幻想郷でどういう役割を持っているか知った上でその言葉を言っているの?」
「役割? お祭りとかのイベントで大トリでも務めてたりするんですか? 大丈夫ですよ、そういうのは全部私の神社が引き継ぎますから」
「……はぁ、なんとなくあんたたちの状況がわかったわ。もういいからそこのあんた、私を神社まで案内しなさい。あんたらの神に丁寧に一から説明してやるわ」
「んー、ごめんなさい。もしこの話に納得してなかった場合は成敗して無理矢理従わせろと言われてますので」
緑髪の巫女が取り出したのは三枚目のスペカ。
それを見て密かに美夜は安堵する。
よかった。どうやら相手側もスペルカードルールぐらいは知っているようだ。もしそうじゃなければこの先の戦いは最悪殺し合いで解決することになっていただろう。
「それで……どっちが行きますか?」
「私がやるわよ。なんか調子に乗ってるようだし、面倒くさいけどこの場で上下関係を叩き込んでやるわ」
「そうですか。ではご武運を」
ルールは基本に沿って残機二のスペカ三にしたようだ。
自信満々な笑みを浮かべる緑髪の巫女とは対照的に霊夢はため息をつくと、ひどく気だるそうに上空へ移動していく。
「ふふっ、このマジカル早苗ちゃんの記念すべきデビュー戦、きっちり決めますよ!」
「はぁ……一応今後も長い付き合いになりそうだから自己紹介しておくわ。博麗霊夢よ。馴れ合うつもりはないからよろしくは言わないわ」
「むむ、初対面なのにそんな挨拶をするなんて無礼な人ですね。まあいいです。守矢の風祝、東風谷早苗! いざ参ります!」
早苗と名乗った少女は五芒星が描かれたお札を投げつける。
同時に霊夢も博麗印のお札を投げつけ。
盛大な爆発音とともに、二人の巫女の戦いの幕が切って落とされた。
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「……なるほどね。たしかに、口だけじゃないみたい」
迫り来る弾幕を避けながら霊夢はそう呟く。
最初はデビュー戦という言葉に呆れていたが、どうやらこの早苗という人間はかなりの才能を持っているらしい。
放たれる弾幕は密度がしっかりしており、さらには美しい。その他にも追尾弾やランダム弾、時期狙いなどの多彩な弾幕を見事に使いこなしている。グレイズを決められた時には流石の霊夢も驚いたほどだ。
この巫女、教えられてもいないはずなのに弾幕ごっこのセオリーを全て無意識に行なっている。
そう思う理由は一つだ。そもそも守矢神社とやらが転移してからさほど経っていないこの時期にあれだけのことを教えることは不可能だからだ。仮に彼女が仕える神がかなり腕がたったとしても、弾幕ごっこに関してはズブの素人のはず。教えられてもせいぜい空中飛行や弾幕の出し方ぐらいだろう。
天性の才能。
なるほど、相手にとって不足はない。
早苗は霊夢のよりも細長いお祓い棒を取り出すと、それをステッキのように動かして空中に弾幕で星を描く。そして描かれた星は進んでいくと同時に次第に形を崩していき、避けにくい軌道となって霊夢に襲いかかる。
しかしそれは相手が普通だったらの話だ。数多の強敵を相手にしてきた霊夢にとっては難易度normalに等しい。一瞬でそれらを見切り、危なげなく回避する。そして追尾するお札を投げつけるも、それらは結界によって防がれてしまった。
「むう、なかなかやりますね……。ならこれでどうでしょう!? 秘術『グレイソーマタージ』!」
早苗は通常弾幕の時のように何もない空間に弾幕の星を描く。だが、今回はその星の量が通常弾幕の時よりも比較にならなかった。
早苗の周りに浮かび上がったのは数十もの星。その星一つ一つが二十から三十ほどの弾幕で形成されており、軽く計算するだけでもその合計は3桁にまで達した。
そんな弾幕群が一斉に形を崩し、霊夢に雪崩れ込む。……が、それすらも彼女に当たることはなかった。
星を形作る弾幕群が崩れる前に、あえて霊夢はそれらの中に飛び込んだ。そして一切減速しないで星を通り過ぎる。たまに当たりそうになってもお祓い棒で防いでは弾き返す。
そしてあっという間に早苗の目の前へとたどり着くと、彼女の額に押し当てるようにスペカを取り出して宣言。
「夢符『二重結界』」
ゼロ距離から霊夢を中心に正方形の結界が二重に展開される。もちろん早苗は避けることもできずに結界に弾き飛ばされ、大きく吹き飛ばされた。
「カハッ……!? ケホッ、ケホッ……!」
「通常弾幕をスペカに昇華させるのは悪手よ。いくら数が多くてもベースは変わらないから、私くらいになるとこんな簡単に避けられる」
「ぐっ……!」
早苗はさっきまでのお調子者のように表情から一変、悔しさのあまり霊夢を睨みつけている。だがそれ以上の目力で霊夢にガンつけられ、その迫力に怯んでしまった。
それを見て霊夢は本日二度目のため息をつくと、再び早苗へと口を開いた。
「たしかにあんたは才能あるわ。弾幕は綺麗だし、一瞬の判断も悪くない。でも私を相手にするには経験が足りなさ過ぎよ」
「そんなことはっ!」
「事実よ。浮かれてるのか知らないけど、別にあんたみたいなデカい力を持った人間なんてここじゃただ珍しいだけなの。妖怪も含めればその価値はさらに下がっていく。つまりあんたは別に『特別』ってわけじゃないのよ」
「うっ、うるさいっ! 奇跡『ミラクルフルーツ』ッ!」
早苗は霊夢の話を遮るように二枚目のスペカを宣言する。しかしその声は、ただ聞きたくもない現実から目を背けるために叫んでいるようにしか聞こえなかった。
八つの果実のように丸々と実った弾幕が放たれる。それはしばらく進むと炸裂して、中から数十数百もの弾幕をばらまいた。
「……はぁっ、怒りすぎよ。集中力が欠けて弾幕の軌道が見え見えだわ」
しかし霊夢は無表情に早苗とその弾幕を見つめると、埃を払うようにぞんざいにスペカを投げ捨て、一言呟く。
「神霊『夢想封印』」
霊夢の十八番とも言える巨大な七つのカラフルな弾幕。それらが早苗の果実を食い破って突き進んでいく。
早苗の弾幕は霊夢が指摘した通り集中力を欠いていたらしく、最初の時のような密度はなかった。
そしてあっという間に早苗に全ての弾幕が命中して、爆発を巻き起こした。
残機はこれでゼロ。すなわち、霊夢の勝利だ。
まあ、もし仮に残っていたとしても続行は不可能だろうが。
早苗は初めての弾幕の痛みで気絶したのか、石造りの階段の上に落下しては、目を覚ますことはなかった。
まあ下にいる美夜がたった今彼女を見ているだろうし、心配はいらなそうだが。
「まったく。なんで私が担当する初心者はみんな面倒なやつばかりなのかしら」
早苗と戦った時、思い浮かんだのは彼女の何倍も巧みに弾幕を操り、霊夢を追い詰めた桃色髪の少女の顔だった。
だが彼女と比べるのは酷だろう。彼女は早苗と違って元から実戦経験豊富だったらしいし、なによりも彼女は妖怪だ。比べる基準がそもそも違う。
……そういえば、こんな博麗神社の一大事だってのに彼女の姿が見当たらない。普段はどんなに小さいことでも駆けつけてくるし、耳に入ってはいないことはないはずなのだが。
未だに姿を見せない少女。そのことだけがいつのまにか今の霊夢の頭の中を埋め尽くしていた。
「ゴールデンウィーク入りましたね。まあ私はいつも通りゲームするだけしか能がないんですが。作者です」
「ゲームというよりは麻雀だろ。龍が如く0の達成目録コンプするとき息巻いて何度も絶望してんのは知ってんだからな。狂夢だ」
「うわぁ、牌の種類もわからないくせによくやる気になれますね。最近狂夢さんよりも出番が多い早奈でーす!」
「おい作者」
「ん、どうしたんですか狂夢さん?」
「お前、一応自機もやったことのある早苗戦をあんな簡潔にまとめて大丈夫なのか?」
「そーですよ! 一応私の血族なんですよ!? 三枚目のスペカも出せずに撃沈してるじゃないですか!?」
「いや私だって最初は中々白熱する展開を予定してたんですよ? ただついこの前気づいたんです。よくよく考えたらまったくの初心者に霊夢さんが苦戦するのはおかしくないか? って」
「それでももうちょっとどうにかできなかったのかよ……。一応レミリアたちと同じ準レギュラークラスだろうが」
「準レギュラーと言えば私たちも準レギュラーですけどね」
「もっとも、片方は出番がなくて久しいんですが」
「……あ?」
「あ、やべ、地雷踏んじゃったかも」
「……上等だコラ。表出ろや! テメェらに立場ってもんを教えてやるぜ!」
「あ、私この後予定あるので帰りますね」
「え、ちょっ、裏切り者ぉぉ!」
「死ねやオラァァァ!」
「もんぶらんっ!?」