東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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二人の神

 

 

  弾幕ごっこを終えた霊夢が空から降りてくる。

  一度も被弾していないので肌などに目新しい傷はない。だが、結構な数の弾幕をグレイズして避けていたので、服は少し焦げている部分が多々ある。

  そんな彼女に美夜は労いの言葉をかけた。

 

「お疲れ様です。意外と早かったですね」

「いいえ、全然遅いわよ。初心者相手にあんだけ時間をかけるなんて恥だわ」

「それは彼女の才能があったからでは?」

「たとえ宝石のものでも、原石は原石よ。そのままだとただの石ころにしか過ぎない」

 

  初心者という言葉に何か嫌悪感があったのか、吐き捨てるように霊夢は言葉を返してくる。そして先ほどの戦いでかいた汗を拭うと、何も言わずにドシドシと引き続き階段を上がっていった。

 

  彼女がなぜあそこまで不機嫌になっているのかはわからない。ただ、先ほどの戦いでなにかを思い出したようだった。おそらくはそれが初心者という言葉に関係するものなのだろう。

  だが、今はそんなどうでもいいことを探っている場合ではない。

  すぐに浮かんできた好奇心を振り払うと、小走りで霊夢の後に続いていく。

 

 

  しばらく進んでいくと、ようやく鳥居が見えてきた。

  堂々と掲げられている『守矢』の文字。随分と昔のものらしくてボロボロだが、不思議と幻想郷に来たことで活気を取り戻したかのような神々しい圧を感じる。

  しかし当たり前ながら霊夢も美夜もそれを見ただけで怖気付くようなことはなく、大股でわざと足音が響くように境内への一歩を霊夢は踏み出した。そして逆に敵側が怖気付いてしまいそうなほどドスの効いた声で一言。

 

「さっさと出て来なさい! あんたらの言う通り来てやったわよ!」

『……我を呼ぶのは何処の人ぞ』

 

  姿すら見えないのに、霊夢の呼びかけに応えて境内に女性らしき声が響き渡る。

  これは……風を操っているのだろうか。術式は専門外なので詳しくはわからないが、空気に声を乗せてスピーカーのように音を拡大しているのだと美夜は推測する。

 

  声は神聖さが感じられ、楼夢なんかとは違ったいかにもTHE・ゴッドというような雰囲気が感じられる。が、そんなものは次の一言で霧散してしまった。

 

『……って、なんだ。麓の巫女と……おおっ! 美夜じゃないか!』

「この声は……」

「なに、もしかして知り合い?」

「知り合いもなにも。まさか千年ちょいで私のことを忘れたとは言わせないよ?」

 

  本殿の屋根に神力が集中していき、やがて人の姿を形作っていく。

  そうして現れたのは身の丈ほどある注連縄で作られた輪っかを背負った、奇妙な神だった。

 

「もしかして、神奈子さんでは……」

「あっはっは! 覚えててくれたかい! あんだけ小さかったのに随分とまあ成長したものだねぇ」

 

  八坂神奈子。

  武神であり、父である楼夢の友人。美夜や他の姉妹たちは一度、彼女と会ったことがある。

  神無月に行われる出雲大社での神だけの宴会。彼女とはそこに向かう前にどこかの神社で顔合わせをした覚えがある。

  よくよく神社を見渡してみれば、それがここ守矢神社であったことをすぐに思い出した。

  同時に美夜に疑問が浮かぶ。

 

「神奈子さん。なぜあなたは友人であるはずの父の神社に明け渡しを要求してきたのですか? 返答次第では私はあなたを切ります」

 

  鞘をつかんでいる方の親指を鍔に当て、わずかに刃を出して抜刀の構えを取ると、神奈子が慌てて両手を上にあげ、無抵抗のポーズをとる。

 

「す、すまん! 実はそれはうちの風祝が独断でやってしまったことなんだ! あの子は神には疎いから、うっかり余った手紙をお前たちの神社に送ってしまって……」

「……なるほど、だいたい理解できました」

 

  鞘から手を離して戦闘態勢を解く。

  神奈子はそれに安堵したのか、大きく息を吐き出して脱力した。

 

  美夜も美夜で顔には出さないが安堵していた。

  手紙は手違いで、神奈子たちの意思とは関係ない。つまりは争う理由がもうないということだ。流石に美夜でも知り合いは斬りたくないし、本格的な戦争が起こった場合の被害もバカにならない。

  しかしそんな未来はもう来ることはない。

  改めて、美夜は神奈子に合わせてため息を吐いた。

 

  これで一件落着。

  さあ、あとは帰って夕飯の準備でもしよう。

 

「……ねえ、てことはうちの神社に来た手紙も手違いってことでいいのかしら?」

 

  とはならず、美夜は一つの問題を忘れていた。

  そう、博麗神社にも来た明け渡し要求の件。

  霊夢はもちろん神奈子と知り合いなんかじゃない。なのに下の風祝は霊夢というか博麗神社のことを知っていたような雰囲気だった。

  それはつまり博麗神社について調べたということで。

 

「なにを言っているのやら。そっちに寄越したのは本物だよ。あんたの神社は私が乗っ取らせてもらう」

 

  あっけからんと、そう言い切る神奈子。

 

「そう。なら話は決まっているわ」

 

  霊夢が取り出したのは五枚のスペルカード。

  幻想郷において問題が発生した場合にあらゆる場面で適用される法。スペルカードルール。

 

「ほう。武神であるこの私に戦を仕掛けるか、巫女よ」

「神様だろうが関係ないわよ。それに私、人のものを取ることに何の疑問も持ってないあんたらが気に食わないの」

「妖怪や妖精が良いものを持っていたら即暴力で沈めてぶんどるあなたが言うんですか?」

「私はいいのよ私は。ただ、他のやつがそれをやるのは見てて気分が悪いわ」

 

  何という自分勝手な考え方。

  なるほど、楼夢が気に入るわけだ。

  霊夢の性格は楼夢と似ている。最終的には自分のことしか考えてないところなんてそっくりだ。

  神奈子もそう思ったのか、ギラギラとした目つきで霊夢を睨みつけながら笑っている。

 

「ふっ、徳が足りんな巫女よ。お前のようなものが神に仕える者など笑止千万。ここで我が粛清してくれよう!」

「今さら神様っぽい口調に変えても手遅れなのよ。その筋肉しか詰まってなさそうな脳みそで今のうちに私への謝罪の言葉を考えておきなさい!」

 

  二人はそれぞれ霊力と神力をその身に纏うと、屋根を超えて本殿とは逆方向へ飛んでいく。そして激しい衝撃波とともに弾幕ごっこが始まった。

 

「えぇ……」

 

  一方、境内に一人取り残された美夜はこの急展開についていけず唖然としてしまっていた。しかしすぐにハッとし、霊夢たちを追いかけようと足を動かす。

  しかしその前に急に誰かから肩を叩かれたことで、思わず美夜は飛び退いてすぐさま抜刀した。

 

「何者ですか! って、あなたは……」

「おー怖い怖い。ちょっとイタズラが過ぎちゃったかな? ごめんね美夜」

「諏訪子さん……で合ってますよね?」

「そっ、だーい正解! 神奈子のことも覚えてたみたいだし、やっぱ私のことも覚えているか」

 

  美夜は抜いた刀を納刀する。

  彼女の肩を叩いた犯人は目の前の土着神の少女、諏訪子のせいだった。

  どうやら気配を消して美夜に近づいたらしい。彼女も彼女で相当鍛えてはいるのだが、それでも気づかせないのは曲がりなりにも彼女が神なのだからだろう。

 

「それで、どうするの?」

「どうする、とは?」

「ここで私と弾幕ごっこをしていくかだよ」

 

  なにを当たり前のことを、とでも言うようにこてんと首を傾げる諏訪子。

  いや待て、どうしてそうなった。さっき戦う理由が消えたと説明されたばっかなのに。

 

「一応聞いておきますが、理由は?」

「いやね、私たちって神だから喧嘩する相手もいなくて退屈なんだよ。それにさっきから神奈子の戦いを見て体が疼いてたまらないんだよ」

「そういえば、さっき本殿とは反対方向に行っちゃいましたが、大丈夫なんですか?」

「ああ、神社を転移させる際に池まで持ってきたからね。ちょうどそこでやりあってるだろうし、建築物やらが壊れる心配はないさ」

 

  ではここで弾幕ごっこをすることにも問題があるのでは、と言おうとしたところで口をつぐむ。

  いつのまにか光でできた壁が本殿を覆っていた。

  十中八九諏訪子が結界を張ったのだろう。壁から感じ取れる神力でそう悟る。

 

「まあそんな世話話はやめて、そろそろ始めようか」

「私はまだ了承してないんですけどね」

「おや、もしかして私とやりあうのが怖いのかい? それならそれでいいんだよ? ただ白咲家の名前に泥がつくだろうなぁ」

「……はぁ、家の名前を出されちゃ断るわけにもいきませんね」

 

  先ほど霊夢と楼夢は似ていると言ったが、もちろんそれは娘である美夜にも言えたことだ。普段は物腰柔らかく見えても、芯の部分はプライドが高くて白咲家の看板が汚されるのを誰よりも嫌う。

  美夜は再び抜刀すると、それを中断に構えながら空中へと浮かぶ。

 

「スペルカードは五枚、残機は三つ。どうせやるなら長い方がいいし、これでいいよね?」

「ええ。どんな条件でも勝てばいいことに変わりはありませんので」

「ヒュー、言うねぇ。そんじゃぁ弾幕ごっこ、スタート!」

 

  開幕と同時に青いお札型の弾幕が諏訪子を中心にばらまかれた。

  一方の美夜も負けじと通常弾幕を放つ。が、その数は諏訪子には及ばない。

  当たり前だ。白咲三姉妹は父である楼夢の能力を三つに分けたような特徴をそれぞれ持っている。舞花は物作り、清音は術式。そして美夜は剣術の才能しか持っていない。術式の一部である弾幕はそもそも専門外なのである。

  だが、それならそれで自分の長所を最大限活かせばいいだけの話。美夜は刀を振るうと同時に刃先から弾幕を出すことで、自身に当たる弾幕を全て防ぎながら攻撃することを可能にした。

 

  その後しばらくの間通常弾幕の応酬が続いたが、ラチがあかないと判断したのか諏訪子が一枚目のスペカを切る。

 

「開宴『二拝二拍一拝』!」

 

  テンポを刻みながら諏訪子は頭を二度下げ、二度柏手を打つと、その後もう一度だけ頭を下げる。これが一定のリズムで繰り返されるとともに、諏訪子が仕草を取るたびに弾幕が飛び出てくる。

 

  それらを美夜は刀で切り裂いて強引に諏訪子に近寄ろうとする。が、切り替わりながら連射される弾幕やレーザーに対応できずに逆に押し戻されてしまった。

 なのでよくよく諏訪子を観察してみると、動作によって出てくる弾幕が違うことに今度は気がついた。

 

  例えばニ礼の時はレーザー、二拍の時は弾幕、そして最期の一礼で再びレーザーが出てくる。これの繰り返しだ。

 

「いくら弾幕群の完成度が高くても……リズム感が単調じゃ見切られやすいですよ」

 

  今度はもう押し返されることはない。

  美夜はレーザーと弾幕が切り替わる瞬間を完璧に見切り、諏訪子のスペカを今度こそ斬り伏せて突破する。

  そしてスペカを投げ捨て、その黒光りする刀身に水流を纏いながら宣言。

 

「楼華閃『細波』」

 

  その言葉とともに美夜は刀を振るう。そして十五もの水の刃が生まれ、諏訪子を襲った。

 

「おっと、危ない危ない」

 

  しかしさすがは神というだけあって、簡単にはヒットさせられないようだ。

  諏訪子は自身の『坤を創造する程度の能力』を使って土でできた壁を作り出し、水刃を防ぐ。

 

「五行思想にもある通り、水は土に弱い。美夜こそ、土着神である私に出す弾幕は相性を考えた方がいいよ?」

「ご忠告、痛み入ります」

 

  この時点で両者のスペカは終了。

  お互いの残機に動きはなし。だが本番はまだまだこれからだ。そう気負い直すように美夜は再び中段の構えを取ると、剣の切っ先を諏訪湖へ向ける。

 

「うーん、どうしたものか。実はさっきのスペカしかまだ作ってないんだよね」

 

  ポリポリと頭をかきながら困ったような顔を諏訪子はする。

  ……うむ、やはり神の考えることは理解できそうもない。本日何度目かのため息を美夜はついた。

  だいたい、それだったらなんでスペカ五枚のルールで挑んだんですかとか、そもそもスペカ作ってないんだったら弾幕ごっこ挑まないでくださいとか、言いたいことが山ほどと頭の中を駆け回る。が、結局全て整理することはできず、彼女の口から出て来たのは

 

「……それだったらさっさと降参すればいいじゃないですか」

 

  という一言だけだった。

 

「えー嫌だよ。せっかくの祭りごとなんだし、楽しまなくっちゃ」

「スペカなしで私を相手にするつもりですか?」

「うーん、それは流石に厳しいかな。だから、()()()()()()()()()()()()

 

  諏訪子は白紙のスペカを掲げると、それに神力を込める。すると絵面が浮かび上がり、新たなスペルカードが生まれた。

  それを投げ捨て、諏訪子は二枚目の名を唱える。

 

「土着神『手長足長さま』ってね」

 

 


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