東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
紅魔館。吸血鬼が住んでいるとして知られている館。その外装は何をどうしたらこうなったのか、門や壁、屋根に至るまで全てが気持ち悪いほど紅に染まっている。いや、外装だけじゃなくて内装もだったか。
とにかく、そんな館の門前に私たちはいた。
門の前には門番である美鈴が立っている。いや、立っていると言うよりも寄りかかってると言った方が正しい。その瞳は閉じられており、口の端からは透明な液体がだらりと垂れている。
咲夜はそんな門番に近づくと、その額にナイフを振り下ろした。
「ギャーーッ!! こ、殺す気ですか咲夜さん!?」
「ええ。少なくとも私は殺す気だったわ。それが何か?」
「反省の色なし!?」
「反省ねぇ……どちらかというなら、仕事中に昼寝している方が反省するべきじゃないのかしら?」
「ぐぬぬ、それはあれですよあれ……最近何かと忙しくって睡眠が……」
「そう。なら暇なやつでも引っ張ってきて新しい門番にしちゃおうかしら。もちろんあなたはクビよ」
「さー! 今日も一日頑張っていきましょー!」
急に声を張り上げた美鈴を尻目に「ふんっ」と鼻を鳴らしながら、門を通過する。その後ろに私も続いた。
正面の大扉を開けて中に入る。そして咲夜の案内のもと、廊下を進んでいく。
しばらく歩くと、メイド服を着た複数の妖精たちが掃除をしていた。だがあまりはかどってはいないようである。箒やらを振り回してチャンバラごっこをして遊んでいた。
そこに無言のナイフ投擲。それらは美鈴のように頭部にぶち刺さり、彼女らは『一回休み』となった。
レミリアは何を思ってあれらを雇ったのやら。いくら咲夜一人じゃ手が回らないとはいえこれでは余計に手間が増えるだけな気がするけど。
うん? 妖精たちに混ざってメイド服とは別の色の服が見えた。白と緑のカラーリングの服装。近寄ってよく見てみると、その正体はなんと白玉楼の庭師である妖夢だった。
「こんなところで何をしているのかな、妖夢?」
「う、うぅん……? あなたは確か……楼夢さんでしたっけ。とにかく気をつけてください……あの子、むちゃくちゃな理由をつけて私に弾幕ごっこを……っ」
そこで事切れたのか、瞳を閉じて気絶する妖夢。
いや怖いよ!? 一体何が起きたってのさ!?
「ちなみに彼女も私が連れてきたのよ」
「半分お前のせいかよ!? いやうすうす予想はついてたけどさぁ!」
私の知る可愛いフランはどこへ行ったのやら……。 この様子を見る限り、平和的交渉は無理そうだわ。妖夢自身もむちゃくちゃな理由をつけられたって言ってたしね。
さてさて、どうやってこのピンチを乗り越えますか……。
しかし思考を巡らせてもいい案が出ることもなく、結局そのまま図書館の前まで来てしまった。
「この中に妹様はいるわ。まあちょっとテンションが高くなってるけど……せいぜい頑張ることね」
「おいぃ! なんだよそのテンションが上がってるってのは!? 全然大丈夫じゃなさそうなのが言葉から伝わってくるんだけど!?」
「それでは、good luck」
「あ、ちょい待てコラぁ! 時止めで逃げるなぁ!」
今から確実に起こるフラン戦を前にして余計な妖力を消費するわけにはいかない。それがわかってるからこそ、咲夜は私が時止め対策を持っているにも関わらずそれを使ってこの場から逃げ出した。
くそ、こうなったらもう腹をくくるしかないか……!
そうやって決意を固めようとしたところで、扉の奥から声がかかってくる。
『被告人。入場しなさい』
被告人? なんのこっちゃ?
とりあえずこれ以上は待たせるのも悪いので、扉を開いて中へ入る。
そこは私の知っているいつもの図書館とはちょっと違っていた。
本棚がいくつも横に倒されており、連結されて一つの細長いテーブルと化している。それらが三つ、入り口から入ってきた私を囲うように設置されていた。
その奥にやたらと高級そうな椅子にふんぞり返っているフランの姿があった。
「被告人、前へ」
「いやこれ探偵じゃなくて裁判じゃねえか!?」
どうやったら謎解きミステリーが法廷サスペンスに入れ替わるんだよ!? フランお前何を読んだんだ!
「被告人、静粛に!」
「……ああもうどうでもいいや。ここに立てばいいんでしょ立てば」
真ん中にぽつんと置かれたテーブルの前に立つ。
フランはそれに満足したのか、この裁判もどきの茶番の続くに入った。
「ではさっそくだが被告人、今回の異変を起こしたわけを聞こうじゃないか」
「いやそもそも起こしてないし。というかあなたにその口調は似合わないよ」
「なっ、失礼な! 私はもう立派な大人だよ!?」
「いやまあ歳はたしかに大人だから否定はできないんだけどさ……。それにこの程度の煽りで崩れるようじゃまだまだだね」
「ぐぬぬっ、もういい! お姉さんは有罪! 有罪ったら有罪! 私が直接叩き切ってあげる!」
「……やれやれ、どうしてこんなことをしているのか、あとで話してもらうよ」
結界を張ると同時に法廷のテーブル……じゃなくて本棚が蹴飛ばされ、迫ってくる。
それを居合切りで切り裂いて対処するが、その時にはもうフランは私の真正面にはいなかった。
視界の右端からものすごい速度でフランが突っ込んで来て、えぐり取るような勢いで左の爪を突き出してくる。
それを右の刀で受け流し、左の刀で彼女の腹部を横に切り裂く。そして体をひねって後ろ蹴りを同じ箇所に叩き込み、彼女を思いっきり吹き飛ばした。
本棚の一つを突き破り、書物の山に埋もれるフラン。
しかし一息ついた次の瞬間には大量の本が噴火したかのように宙を舞い、中から彼女の姿が出現した。その手にはぐにゃりと歪んだスペード状の棒——レーヴァテインが握られている。
まっすぐ突っ込んでくると、空気を削り取るようなスウィングが放たれる。だが所詮は素人が力任せに振り回しているに過ぎない。あっさりそれをかいくぐると、カウンターに切り上げる。
怯んだのでそれを起点に、斬撃を十数ほど叩き込んでやった。
だがこの時の私は気づいていなかった。フランの真の狙いに。
普通の戦闘なら致命傷に至るほどの斬撃を受けてもなお、フランは一歩も後退することはなかった。それどころか目を爛々と輝かせると、私が次に切りつける場所を事前に予測してそこに左手を伸ばした。
そして次の瞬間、私の右の刀はフランの手によってガッチリと掴まれた。
斬撃の嵐が止む。
驚愕する私。対照的にニヤリと笑うフラン。
そして思いっきり振るわれたレーヴァテインの一撃が、私の腹部を捉えた。
弓で弾かれたような勢いで吹っ飛ぶ私。先ほどのフランのように本棚をいくつも突き破りながら、床に数回ほど打ち付けられる。
だがフランの攻撃はまだ終わらない。彼女は吹っ飛ぶ私に追いつくと、その顎を掴んで後頭部を床へ叩きつける。そして翼を広げると、頭を押し付けたまま低空飛行し、床と私を削りながら図書館内を飛び回る。
やがてフランは壁に向かって突っ込んでいく。そして私の頭を前に突き出して壁と激突させると、今度は壁越しに上昇していく。もちろん私の頭を壁に押し付けたまま。
そしてある程度の高さにまで達したところでようやく私の頭部が解放される。それとほぼ同時にボレーキックが腹部にめり込み、高所から地面へ叩きつけられた。
「カハッ! ゲホッ!」
くそったれ! スペカもまだ使用させられてない段階で結界の耐久の七割が消し飛びやがった。
まずいまずいまずい。予想以上にフランが強くなっている。このままじゃ本当に負けてしまう。
幸いと言っていいかは別だが、一応まだ希望はある。フランは私をめちゃくちゃにいたぶる前にかなりの数の斬撃を受けていた。二十回以上は当たってるはずだから、それで結界の耐久の半分は削れているはずだ。だから私が今のところ不利だが、挽回不可能というところまで差を広げられたわけじゃない。
「禁弾『スターボウブレイク』!」
「霊刃『森羅万象斬』!」
降り注ぐ虹色の矢を巨大な斬撃を飛ばして消滅させる。
そして巻き起こる爆発を囮に空を飛んで攻撃を仕掛けるも、あっさり反応されてしまった。そのまま鍔迫り合いに持ち込まれる。
「ふふっ、やるようになったじゃん……! まさか私がここまで追い込まれるとはね……!」
「驚くのはまだまだ早い、よっ!」
フランの剛力によって私の刀は弾かれ、私は後方へふわりと後退する。その間に彼女は見たこともないスペルカードを天に掲げた。
「禁忌『ブラックジャック』」
フランの姿がブレて分身が生まれる。それだけならフォーオブアカインドと同じだ。
しかし生まれた分身の数はフォーオブアカインドとは比べ物にならないほどだった。
「17、18、19……ばかな……っ!?」
「ふふっ、これが私の新しいスペカ」
『20人の私たちが相手だよ』
とっさに両方の刀を交差させて防御の姿勢をとる。
そこに視界を埋め尽くすほどのレーヴァテインが殺到した。
「ぐっ……!」
あまりの物量に飛ぶように後ろへ弾かれる。体勢を立て直そうと空気を固めて踏ん張るが、その背後にも二人の分身が。
「はいはーい、こっちこっちー!」
二人は私の両腕を抑えつける。そしてその隙にまた別の分身が正面から顔めがけて突きを繰り出してきた。
必死に鉄棒を逆上がりする要領で体を反らし、レーヴァテインを避ける。そしてそのまま勢いを利用してサマーソルトを思わせる蹴りで正面のフランの顎を蹴り上げると、両腕に力を入れて、バランスを崩していた二人の分身の頭と頭を打ち付けた。
するりと拘束が解かれて両腕が自由になる。
さて、お返しだ。
両腕を交差させると、それを勢いよく広げて、分身二人の顔面に柄頭を叩き込む。彼女らはそのまま図書館の壁に激突し、光の粒子と化して崩れていった。
しかし、これだけやってもたった二人しか撃破できてないのか。
残りは十八。そして今しがたやられた同胞の仇を打たんとばかりにレーヴァテインを振り上げ、突っ込んでくる。
迫り来る棒をかいくぐりながらすれ違いざまに分身たちを切り裂いていく。だが、それが上手くいったのは三人目までだ。四人目からはなんと複数で同時に連携してくるようになったのだ。
その激しさはジェットストリームアタックなんてものの比なんかじゃなく、三本ものレーヴァテインと左手に握った妖桜が衝突する。しかし多勢に無勢とはこのことで、勢いに負けて妖桜は手から弾かれ、床へ落ちていった。
そしてバランスを崩したところを別の分身のレーヴァテインに叩かれ、体がくの字に曲がる。そうなったらあとは滅多打ちだった。背中に何度も何度も棒を打ち付けられて吹っ飛び、血反吐を吐きながら床にめり込む。
地上に降り立ちながらフランは笑みを浮かべる。
「ふふっ、やっとお姉さんに勝てた。苦労したんだよ? お姉さんの刀をどうやって止めるか考えたり、新しいスペカを開発するのに。でも、その努力もようやく——」
「まだっ、終わるには早いんじゃない、かなっ……?」
「——嘘……」
あれだけの攻撃を加えてもなお私の結界が壊れていないことにフランは驚き戸惑う。
まあ普通に考えりゃそうだ。私の結界の耐久力は残り三割ほどしかなかった。どう考えてもあんだけバカスカ殴られて耐えられるはずがない。
そう、それが全てフラン本人の攻撃であったのなら。
「分身の出来が明らかに悪かったよ。防御力も攻撃力も全てが本物よりも格段に劣っていた」
おそらく『ブラックジャック』は大量の分身を出す代わりに、そのクオリティを犠牲にするのだろう。それでも普通にくらっていたならそこで終わっていただろうが、そこは私だ。攻撃が当たった瞬間に自ら吹き飛んだり、床に叩きつけられた時も受け身をとったりすることで打撃の威力をある程度吸収していたのだ。
「でもその様子じゃあと一発耐えられるかどうかでしょ? だったら私が今直接……っ!?」
「今さら気づいたの? あなた達はもう動くことはできない」
フランの真下の床から黒い鎖が出現し、彼女を拘束している。いや、彼女だけではない。油断して地に足をつけていた全ての分身にも同じように鎖が巻きついていた。
「『金縛り』。ふふっ、ナイスだよ早奈」
「あれは、あの時の刀……!?」
私たちの視線は図書館の隅っこの床に突き刺さっている一本の刀に向けられた。
妖桜は妖魔刀、つまり魂が宿った武器だ。それゆえに私の命令がなく
てもこのように行動することができる。
ただ、このままじゃいずれ拘束は強引に解かれてしまうだろう。だから次の手を打たせてもらおうか。
「神解——」
不気味な光を放つ妖桜に手をかざす。
そして私は二度と聞きたくもないその名を唱えた。
「——『