東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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道中、守矢の神社にて

 

 

 紅魔館の地下に存在する大図書館。天井やらをぶち抜かれて作られたこの空間は縦横両方とも広く、本棚が五つほど縦に積まれているものが数十個並んでおり、さらに壁までもが本を収納できるようになっている。そしてそんだけの本棚がありながら空いている部分がほぼ見当たらないというだけで、どれだけの本がここに存在するかがわかるだろう。

 

 そんな中から異変に関することを調べるなんて部外者の私では相当な時間がかかってしまう。別に切羽詰まっているほど急いでいるわけではないが、今日あたりに決着をつけなければおそらく異変が解決されてしまう。首謀者をどうしても殴りたい私にとってはそれは最も危惧する問題だ。

 だからここは闇雲に探すのではなく、その道のプロに頼むことにした。

 

「ヤッホーパチュリー。今日は聞きたいことがあるんだけど……」

「異変のことね。レミィから聞いたわ。私も調べてたところだから、ある程度の質問なら答えられるわよ?」

 

 咲夜やレミリアなどの気質のせいか、日光はほぼ断絶され午前なのに天井付近に酸素を取り入れるためにつけられた窓からは日差しが少しも入っていない。そんな中で一人本を読んでいたパチュリーはそう答えた。

 

 おおっ、さすがレミリア仕事が早い。この他人のお願いなんかほぼ聞き入れそうにないもやしちゃんから話が聞けるのは助かるわ。

 

「なんか今失礼なこと考えてたわよね?」

「どうだろうねー? それよりもさ、じゃあさっそく今回の異変について教えて」

 

 昨日フランが座ってたやけに気持ち良さそうな椅子に腰掛けたまま、眠そうな目をこする。そしてパチュリーは読んでいた本にしおりを挟んで隣に設置してあるテーブルに置き、そしてその上からこれまた別の本を取り出した。

 

「さて……じゃあ今回の異変の原因なんだけど……気質ってわかるかしら?」

「気質? なにそれ?」

「まあ無意識のうちに私たちが発している力みたいなものよ。その性質は千差万別。例えで言えばレミィが濃霧で私が花曇かしらね。ただ、これらは普段天気に直接影響を与えるほど強力なものではない」

 

 なるほど。要するに本人の性格や性質によってそれぞれ気質の種類が違うのか。

 改めて今まで会ってきた人物の気質を思い出してみる。

 

 霊夢はおそらく快晴だ。昼は暑く、夜は冷たくなる。全てが平常通り。曲がったことも融通もきかない。まあ悪く言えば無慈悲、よく言えば公平といった感じかな。そう考えるとたしかに彼女にピッタリな気質だ。

 咲夜は曇天だったはず。地味で光を浴びることは少ないが、過ごしやすさなどは抜群。ここにも従者としての性質などが現れているのかもね。

 

 んで、私の場合は風花だったんだけど……どういう性質なんだこれ? 晴れと雪とかどういう風に解釈すりゃいいんだぜよ。

 そんなわけで目の前の彼女に聞いてみた。

 

「風花ねぇ。物事が定まらずに混沌としているんじゃないかしら。やることなすこと全てがむちゃくちゃ。人を温めて力を湧き上がらせたかと思えば冷たく突き放す。言ってしまえば矛盾の塊ってとこかしら」

「ぐふっ!! 中々心に突き刺さる言葉だね……」

 

 胸を押さえつけて大げさな動作を取ってみるが、彼女は見向きもしない。

 へいへい、悪うござんしたよ。フランを放ったらかしにしたのもどうせ全部アッシの責任でございますよ。

 

 彼女の皮肉になにも言い返せず、心の中でそんな声を漏らすがもちろんパチュリーには聞こえるはずもない。

 拗ねた表情のままの私にパチュリーは話の続きを語る。

 

「それでさっきの話の続きだけど、今回の異変は何者かがその気質を集めている時に起こった二次災害みたいなものだと私は思うわ」

「二次災害……てことはメインの災害はなんなの?」

「博麗神社にだけ起こった巨大地震。これが気質を集めて何かをした結果だというのなら納得できるわ」

「なるほど……じゃあ原因もわかったし、あとは犯人の居場所だけだ」

「いえ、場所ならもう目処がついているわ」

「え? どこどこ?」

「はぁ……まずは落ち着いて自分の気質を見てみなさい」

 

 言われた通りに、改めて、自分の体を見つめる。

 すると数秒ほどのちに、体からピンク色の極薄の気体のようなものがあふれていることに気づいた。

 多分これが気質だろう。今までは見えなかったのだが、仕組みを理解すると簡単に視認できるようになった。

 あれ、でもこの気質、どこかへ飛んでいっているような……? 

 

「……そういうことか!」

「気づいたようね。ならさっさとこの図書館から出ていって異変に向かいなさい。私は本の続きを読むから」

 

 さっきパチュリーが言っていた通り、気質は何者かの手によってどこかに集められている。なら気質が見えるようになった今、逆に吸われた気質がどこに行くのかを追えばいいのだ。そうすれば自ずと黒幕の元にたどり着ける。

 

 思い至ったが吉とばかりに私は図書館を出て館の外へ出る。そして改めて気質を確認してみると、気は妖怪の山の方向へ飛んでいっている。

 ビンゴだ。

 弾かれるように空へと躍り出て、気質を追う。そして風を切りながら妖怪の山へと向かった。

 

 

 ♦︎

 

 

 気質を追って妖怪の山まで来た私。

 相変わらず私の周りの天気は晴れなのにも関わらず雪が降っている。

 どうやらこの気は山の頂上からさらに上へ昇っているらしい。だがやることは変わらない。今まで通り気質を追って頂上まで登ってみることにしたのだが——。

 

「よろしくお願いします!」

「えーと、もうちょっと肩の力を抜いた方がいいと思うんだけど」

 

 現在私の目の前にはお祓い棒(幣)を構えた早苗が、強張った表情で戦闘態勢をとっていた。彼女の気質のせいなのか、あたりの風がやたらと強くなっている。

 ……いや、どうしてこうなった。

 

「フレー! フレー! さ・な・え! S・A・N・A・E・さ・な・え!」

「おい諏訪子、お前ちょっとうるさいよ」

「いや親バカが過ぎるでしょうが。どんだけ気合い入れてるんだよ……」

 

 神社側ではご覧の通り、諏訪子が早苗に熱い声援を送っていた。ご丁寧にポンポンまで持参してある。流石に足を振り上げてパンツを見せるような真似はしていないが。

 

「というかさ、私はまだこの勝負を了承してないんだけど?」

「そこはまあ頼むよ。私の顔を立てると思ってさ」

 

 まったく、頂上に来たついでに守矢神社に寄ったのが運の尽きだ。

 最初はふつうに世間話をしてたんだけど、途中から早苗が近接弾幕ごっこの練習がしたいらしいという話になって、あれやこれやでなぜか私がその指導にあたることになっていた。

 

「神奈子、お前はそもそも武神なんだから、近接の心得ぐらいきちんと教えられるでしょうが」

「いや、私はそもそも人に教えるのが昔から苦手でな。早苗にもさっぱりわからないと言われてしまってね。まあ、感覚で覚える天才型の早苗に初めから理屈云々で説明したのが間違いだったのかもしれないけど。だったら同じ天才型の楼夢にならなんとかなるんじゃないかと思ったわけさ」

 

 いやまあ判断は間違ってはいないと思うけどさ。そもそもこの子あまり頭は良くなさそうだし、理論やらを語ってもよく理解できなさそうだ。

 まあ、せっかくの友人からの頼みだ。別に指導程度なら時間もとらないだろうし、ちゃちゃっと終わらせるか。

 

「まず早苗。なんでもいいから私に攻撃してみてごらん。もちろん近接攻撃だけで。あと、結界張っておくのも忘れないでよ」

「わ、わかりました。……じゃあ、いきます!」

 

 早苗はかけ声とともに駆け出してきて、私に幣を振り下ろそうとする。しかしそれら一連の動きはお世辞にも上手とは言い切れなかった。

 足運びも普通に駆けっこする時と同じだし、武器の振り上げから振り下ろしも何もかもが動きが大きすぎる。そして単純に超遅い。

 

 もはや攻撃を見るまでもない。幣を持つ腕を掴むと、そのまま背負い投げして地面に叩きつける。それで早苗はピクリとも動かなくなった。

 これは……そもそも技術以前の問題かもね。

 

「ううっ、いきなり背負い投げなんて酷いですよ……」

「早苗はそもそも身体能力が不足しすぎているんだよ。そんなんじゃいくら技術を覚えても絶対に勝てないと思うよ?」

「でも、それを言うなら魔理沙さんとかはどうなんです?」

「魔理沙は魔法使いだから動く機会も少ないけど、多分42キロのフルマラソンを余裕で完走できるくらいの体力はあるよ? というかそんなのこの幻想郷じゃ霊力を多少でも持ってるのなら出来て当たり前」

 

 なんせ魑魅魍魎が跋扈し、車どころか自転車すらない世界だ。生きていれば自然と体力はつくし、妖怪と戦う者ならさらに体が頑丈になっていく。まあそれでも魔理沙はこの世界じゃ運動できない分類に入るんだけど。

 つまるところ、運動能力のボーダーラインが外の世界とじゃ驚くぐらい差があるんだ。外では平均でも、幻想郷じゃ論外レベル。多分プロアスリートくらいでようやく平均ぐらいに達せられるぐらいだと思う。もちろん、これは妖怪も含めているからこんな馬鹿みたいな平均値になるわけだけど。

 

「でも早苗たち人間はそのまま妖怪たちと互角以上に張り合わなきゃいけないんだ。最低限その程度の運動能力がないとお話しにならないってことだよ」

「な、なるほど。うーん、先は長そうです……」

 

 まあ外の世界基準じゃ怖気付いちゃうか。気が滅入るのも無理はない。

 

「一応、諏訪子が昔やったトレーニングメニューならあるんだけど……」

「反対反対っ! あんなの私の可愛い早苗にさせられるか!」

 

 私の言葉を遮って諏訪子が食いつくように反対してくる。どうやら対神奈子戦を控えたあの修行の日々が相当トラウマになってるらしい。よくよく見るとその表情は青くなっていた。

 

 だけど諏訪子のその声は隣にいた神奈子の羽交い締めによって遮られる。諏訪子も抵抗しようとしてるんだけど相手は武神、おまけにあの身長差だ。全然相手にならず、ただパタパタと両足が虚しく空振るだけだった。

 

「諏訪子のトレーニングメニューか。よければどんなものか教えてくれない?」

「あ、私も知りたいです! 諏訪子様の修行メニューなら確実に強くなれると思いますから!」

「えーと、じゃあまず守矢神社の階段五百往復からね」

「……やっぱ私強くなるのやめよっかなぁ……」

 

 ありゃりゃ、また気落ちしちゃった。

 うーん、この場合はどうしたらいいんだろうか。どっちにしろ早苗は巫女なんだし、遅かれ早かれ体を鍛えなければいけない時期が確実に来る。でも私が厳しめに言っても逃げられちゃいそうだしな。

 

 そうやって迷っていると、神奈子が大きなため息を一つついた。そして鋭い目つきで早苗を見据える。

 それだけで周囲の雰囲気が冷たくなった。早苗をそれを無意識に感じたのか、蛇に睨まれた蛙のように体をすくませながら目だけを神奈子の方へ恐る恐る向ける。

 

「はっきりと言わせてもらうけど……早苗、そのままじゃいずれ早死にするぞ?」

「えっ……?」

 

 いきなり『死』という重たい言葉が飛び出してきたことで、早苗の思考は一旦停止してしまう。そしてハッと目を覚ましたと同時に神奈子へ切羽詰まる勢いで問い詰めた。

 

「ど、どういうことですかっ!?」

「早苗、お前は確かに天才だよ。この数ヶ月で弾幕ごっこを完璧にものにしちまっている。だけど、逆に言えば弾幕ごっこ以外は未だに修行もしてないから辛っきしだ」

「で、でも幻想郷じゃ弾幕ごっこがルールで……」

「はぁ……なあ楼夢。お前、この世界に来てから何回殺し合いをやった?」

「さあね? 結界張ってない相手を切りつけることが殺し合いと言うのなら数えきれないよ。でも、この数年間で確実に三度は死にかけてるね」

 

 一度目はフラン戦、二度目はルーミア戦で三度目はお察しの通り早苗の先祖でもある早奈戦だ。よくよく数えてみるとと悲しくなるほど死にかけてるんだな私って。まあ、これでも昔と比べたらまだマシなんだけど。

 

「今のを聞いた? 楼夢は私たちと同じように幻想入りして日が浅い。なのにも関わらずこれだけ殺し合っている。ここがどれほど危険な地であるかわかっただろう?」

「まあ妖怪の身から言わせてもらうと、私たちは基本後先を考えちゃいない。普段このルールを守っているのは妖怪の賢者を恐れているからだよ。ただ、妖怪は精神に依存する分感情に振り回されやすく、思わず相手を殺っちゃったなんてことはしょっちゅうある」

「そういう場面に今の早苗が巻き込まれたら、間違いなく死ぬ。なんせロクに鍛えてないんだからね」

 

 今の話を聞いていざその場面でも想像したのか、早苗の顔がサッと青くなる。そこでようやくこの世界の危険性を認識できたようだ。

 

「さてと、ここまで話した上で、早苗はどうしたいんだい? 

「わ、私は、その……まだ死にたくないです! だから私に改めて修行をつけてください、神奈子様!」

「よく言った! それじゃあ階段ダッシュ百往復からだ! 今すぐ行きな!」

「は、はいっ!」

 

 弾かれるように早苗は鳥居を抜けると、その姿はしだいに小さくなってとうとう見えなくなってしまった。そこまで時間が経ったところで、改めて私は神奈子に問いかける。

 

「……これ、本当に私が必要だったの?」

「ああ、必要だったさ。身内の話というのは嫌なものほど聞き入れづらい。だからこそお前という他人があの子を倒して話をすることに意味があるんだ」

「とは言っても私はあんまり喋ってないけどね」

「そこはまあ私も経験豊富だからね。あんたの話をダシに子供一人を焚きつけることぐらい、造作もないさ」

 

 こいつさっき他人に教えるのは苦手とか言ってたけど絶対嘘でしょ。明らかに教師向いてるよこの人。

 

 ふと、早苗がいなくなった影響か辺りの風が弱まってくる。

 先ほどの模擬戦で服についた土を払い落とし、鳥居の方へ歩いていく。だが、後ろからかかって来た声が私を呼び止めた。

 

「おや、もう行っちまうのかい? もうちょっとのんびりしてってもいいのに」

「思ったよりも時間を食っちゃったからね。もう午後になってる。霊夢がたどり着くまでには決着をつけないと」

「そうかい。それじゃあせいぜい頑張るんだね」

「言われなくとも。うちの親戚でもある博麗の神社を潰したことを私は許さない」

 

 今度こそ神奈子に背を向け、鳥居を抜ける。

 ふと階段の下を強化した目で見てみると、今にも倒れそうなほど疲弊した早苗とそれを木陰から見守る諏訪子の姿があった。

 あいつ、いつのまにかいないと思ってたらこんなところにいたのか。まったく、筋金入りの親バカだよあいつは。

 

「まあもしかしてお前の事件のせいでああなっちゃったのかもしれないけど」

『……私にはすでに関係ない話です。今の私は妖早奈。東風谷ではもうありません』

 

 脳内に女性の声が響いてくる。

 おそらくはこの神社に着いたあたりからずっと見ていたのだろう。かつての親代わりだった存在を。

 

 あのころには戻れないことは彼女もわかっているはず。しかし私は早奈が諏訪子の応援をいっぱいに受けて階段を上る早苗を羨ましそうに見ているのに気がついた。具現化もしてないのだからそんなことは通常わかるはずもないのだが、何故だかそう確信できた。

 

 

 ちなみに後の話なのだが、これを機に早苗は一気に戦闘能力が上昇したらしい。その力は近接弾幕ごっこであの諏訪子を打ち負かすほどだとか。

 ほんと、才能って怖いものである。


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