東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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竜宮の使い

 

 

 妖怪の山の頂上。と言っても守矢神社があるところとは別の方角。

 辺りは相変わらず晴れと雪……ではなく、なぜか雷雲が渦巻いていた。

 

「これは……私の気質の影響を受けてない?」

 

 少なくとも他の人の気質によって打ち消された感じではない。

 というかこれは、気質なんかよりももっと大きな力で意図的に発生させられたような……。

 

 そんな風に思考していると、ふと雷雲の中に黒いシルエットが一瞬浮かび上がった。それは消えてはまた別の雷雲で浮かび上がっている。しかもだんだんとこちらに近づいてきているようだ。

 

「あら、天狗じゃない? 珍しいですね」

 

 目の前の雷雲から抜け出したその人物は、ふわふわと浮かびながら私を見下ろした。

 それはまるでおとぎ話に出てくる天女のような女性だった。紫の髪の上に触覚のような赤いリボンがついた黒い帽子、そして見たこともないほど長く、美しい羽衣をまとっている。

 その姿に私はとある妖怪の名前を連想した。

 

「もしかして、竜宮の使いってやつ?」

「あら、私たちを知っているとは博識ですね。私はいずれこの地に来るであろうある異変を伝えるため、この地に来ました」

 

 竜宮の使いというのはまあ龍神の使者みたいなものだ。主な仕事は龍神の言葉を伝えること。ただ、滅多に人前に現れない珍しい妖怪でもある。

 私も長いこと生きてきたけど実際にあったのは片手で数えるぐらいかな? まあそいつらが来た地域はたいていロクでもないことが起こることでも有名だね。

 その理由は……。

 

「緋色の霧は気質の霧。緋色の空は異常の宏観前兆。緋色の雲は大地を揺るがすでしょう。……以上です」

「おーい嬢ちゃん、ちょっと情報古すぎやしませんか?」

 

 まあこの通り、こいつらが伝える内容はたいていこういった抗いようのない災害とかなのだ。一部の地域では災害の象徴とかまで言われてたりする。まあ、言っちゃえばポケモンのアブソルみたいなもんだね。

 

 私の言葉に目の前の女性は雰囲気に似合わずこてんと首を傾げる。そしてふわりと地面に限りなく近くまで降下してきて、私と目線を合わせた。

 

「はて。古すぎるとは……?」

「言葉通りの意味だよ。もうすでに私の友人の家が地震でやられちゃってるんだ。どう責任を取ってくれるのかな?」

「いえ、そもそも地震を起こしているのは私じゃないので責任とか言われても……。もしかして、あのお方の仕業かしら?」

「地震が来るのはわかってたんでしょ? ちょっと職務を全うできてないんじゃないかなぁ?」

 

 ちなみに竜宮の使いの報告が間に合わないのは昔からけっこうある例だ。ただ実際災害が起きてから忠告をされると……なるほど、これはくるものがあるね。

 

「お嬢ちゃん、名前は?」

「あなたにお嬢ちゃんと言われると違和感を感じるのですが……永江衣玖です」

「それじゃあ衣玖ちゃん、一緒に人里に降りようか。ちょっと壊れた家を建て直すためのお金を稼いできてもらうからさ」

「え、いや、いったい私に何をさせる気ですか……?」

「大丈夫大丈夫。衣玖ちゃん綺麗だから、すぐに人気出るって。そのころには衣玖ちゃんも病みつきになってるはずだよ?」

「絶対いかがわしい勧誘だこれ!」

 

 失礼な。この純粋無垢な姿を見てそんなことを考えられるなんて、やっぱロクでもないやつに決まってるこいつは。

 というわけで問答無用で死刑行きますか。

 するりと両刀を抜く。

 

 えっ? フランがデタラメな理由で勝負を挑んだ時には注意したのに、いざ自分の時になったらいいのかだって? そんな君にいい言葉を教えてあげよう。——それはそれ、これはこれだ。

 まあこの子に挑む本当の理由はあるけど、それはあとでいいかな。

 

「ねえ。その羽衣ってなくなったらやっぱり天に帰れなくなっちゃうのかな?」

「いえ、別にそういうわけじゃありませんが……」

「んじゃ大人しく私にここでボコられて宝を落としていってね」

「……さすがの私ももう限界です。子供相手に本気を出すのは大人気ないですが、仕方ありません。天の裁きを受けなさい!」

 

 両者結界が張られ、衣玖の言葉を合図に近接弾幕ごっこが始まる。

 スペルカードは両者とも三枚。

 開始と同時に駆け出す私。だが進行方向を遮るように雷が落ちてきて、私は急停止する。

 

「この辺りは全て雷雲の海。私にとっては最も力の発揮できる場所です」

「ちっ、これじゃあ迂闊に近寄れないね。まったく、勝負が始まる前に天候をどうにかしておくべきだったよ」

 

 辺りを漂う雲の全てが私にとっては銃口だ。竜宮の使いの特徴からして彼女が雷を操れることは間違いない。そう、彼女にとってはこの雲そのものが武器なのだ。

 

 四方八方から発射される雷の弾丸。それらを刀で切ったりかいくぐったりしながらいつも通り接近していく。

 さすがにこの姿じゃ雷の速度には敵わないか。いくつもの電撃が服を裂いて肌を焦がしていく。しかし幸い動体視力だけは落ちていないのでなんとか直撃だけは避けることができた。

 

 ある程度近づいたところで目の前に雷が落ちてくるが、今度はもう怯まない。あえて自分から突っ込んでダメージを負いながらも無理やり突破する。そしてそのすぐ先には衣玖の姿が。

 すぐさま走る勢いを利用して突きを放つ。だがなんと驚くことに、衣玖は何も構えてない状態で舞うようにたやすく私の刺突を避けたのだ。この私の刺突を。

 

 まるで彼女の持つ羽衣のような動きだった。

 衣玖は特に構えることもせず、自然体。地に足がついていないせいか、風に吹かれてユラユラと揺れる様も一種の舞のように感じてしまう。しかしだからこそだろうか。一切の予備動作を必要としないで移動することができる。

 

 彼女はそのまま水を泳ぐ魚のように静かに、それでいて素早く雷雲海の中へと潜る。そして一瞬シルエットが浮かべたあと、完全に姿を隠してしまった。

 

 くそっ、あの雲が厄介すぎる! まずはあれをなんとかしなくちゃ。

 私は白紙のカードを取り出すと念を込め、カードに絵柄を浮かび上がらせる。そして出来上がったスペルカードを構えて宣言した。

 

「暴風『バギクロス』!」

 

 即興にしては上出来だ。

 私とその周囲を包み込むようにして巨大竜巻を発生させる。雷雲はそれに巻き取られていき、その面積をどんどん減らしていく。そしてそれを続けていくと隠れきれなくなったのか、黒い雲の中から衣玖の姿が飛び出してきた。

 

「そこだっ!」

 

 今度こそ外さない。そう決意して地を蹴り、空中まで一気に飛び出す。そしてXを描くように両刀を振り下ろした。

 辺りは渦巻く風の壁に囲まれていて逃げ場はない。……はずだった。

 

「ふふっ、まだまだ甘いですね」

 

 そう余裕の笑みを浮かべて、衣玖は壁際でふわりと後ろへ下がる。そして()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ……!?」

 

 馬鹿な!? 竜巻だぞ!? 普通ならズタボロに切り裂かれるはず! 

 しかし衣玖はなんと逆にこの竜巻の渦巻く力を利用して加速し始めたのだ。そのことに気がついた時には、すでに体が見えなくなるほどの速度を身に纏っていた。

 

「お返しです。龍魚『竜宮の使い遊泳弾』」

 

 風と共に私の周囲をグルグルと回りながらのスペカ宣言。するとどうなるか? 

 結果、複雑な弾幕はさらに複雑に。本来ならば幽霊のようにユラユラ揺れるだけの電気の弾幕が全方位から放たれたことで逃げ場を完全に潰し、私は刀で防ぐ間も無くそれらに飲み込まれた。

 

「ガァ……ッ!」

 

 二つのスペカが終了する。それと同時に私は体の痺れに耐えきれず地面に膝をついた。

 結界の耐久がグッと少なくなっている。まああれだけの弾幕をほぼ全部受けたんだし当たり前か。

 やばいね……。体がまともに動かせない。ここはなんとか時間を稼がなくちゃ。

 私は震える口を動かして彼女に質問をした。

 

「さっきのやつ……どうやったの?」

「ああ、それは私の能力ですよ。『空気を読む程度の能力』と私は呼んでいます」

「……やけにあっさり言うんだね」

「そういう雰囲気でしたから。おかげで龍神様からは竜宮の使い一気遣いのできるやつと言われています」

「なるほど、上司にゴマをするのが得意ってことか。……最低だね」

「だからなんであなたは私の言葉をいちいち悪い方向に持っていこうとするんですか!?」

 

 それにしても『空気を読む程度の能力』か。こりゃ思った以上に厄介だね。竜巻の流れに乗ったのも含め、さっきから攻撃が全然当たらないのもこれのせいだろう。彼女はおそらく私が刀を振った際に発生するわずかな風の流れを読み取って斬撃を避けているのだ。

 さて、そんな彼女にどうやって攻撃を当てるか……。とりあえず今はこれしかないな。

 

「隙あり!」

「ひゃっ!? 不意打ちとは卑怯な!」

 

 さっきの私の言葉で興奮している隙に膝をついていない片方の足で地を蹴り、跳躍するような形で突きを繰り出す。しかしそれはギリギリのところでスウェーされて避けられてしまった。

 だが、まだだ! 

 体の痺れはもう回復してある。地面に着地すると同時に再び切りかかり、斬撃の舞を繰り出す。

 幸いなことにさっきの竜巻で雷雲は全部除去されてあるので、雲の中に逃げ込まれることはもうない。だがそれ抜きにしても衣玖の回避能力は異常なほど高かった。

 

 私の斬撃がかすりもしない。こんなことは初めてだ。

 まるで水でも切っているかのような気分だ。手応えがなく、振れば振るほど刀が重く感じてくる。

 そして斬撃のワルツに休符を挟むように、雷をまとった拳のカウンターが私の体を打ち抜いた。

 

「カハッ……!?」

 

 威力は低いがそれでも決して無視していいダメージではない。私の腰が一瞬沈む。しかし衣玖はそれ以上追撃せずに冷静に距離をとった。

 くそったれが。衣玖のやつ、徹底して安全策を取るじゃないの。今の()()に騙されて追撃してくれれば、相打ちであっちにもダメージを負わせられたのに。

 さっきからチャンスが何回もあったのに攻めてこないのもそれだろう。要するに衣玖は絶対に攻撃が当たると確信しない限り攻撃してこないのだ。

 少なくとも、私の演技に気づいた様子を見せないということは、その安全策を選んだおかげで無意識に罠を抜けたということになる。

 

 その後も攻め続けるが、一向に私の刃は当たらない。

 何か、何か一つ手があれば……っ。

 

 そんな風に必死に思考を巡らせていたせいで注意が疎かになっていたのか、私はこちらに向かってくる羽衣の存在に気づかなかった。それは右腕に絡みつくと、私の体を持ち上げてはブンブンと頭上で振り回し、地面へ背中から思いっきり叩きつけた。

 

「ガッ……!?」

 

 動くのかよそれ!? と叫ぶ間もなかった。

 背中を強打したせいで体の空気が吐き出される。そして酸素が体に回らなくなれば頭も回らなくなり、思考が一瞬停止する。

 その隙に衣玖は二枚目のスペルカードを宣言。未だに倒れたままの私にとどめを刺すため、弾幕を放つ。

 

「球符『五爪龍の球』」

 

 出現したのは雷の糸によって連結された五つの巨大電気弾幕。

 結界の残り耐久からして、直撃すれば負けは確定。

 体に力を込め、すぐに立ち上がる。しかしそのころには私の顔を照らすほど近くまで弾幕が迫っていた。

 私は避けるのを諦め、両刀を握り弾幕を迎撃する構えをとった。

 

 






「なんか久しぶりのあとがきコーナーな気がします。作者です」

「俺なんて普段はここでしか登場できないんだからサボるんじゃねえよ。狂夢だ」


「いやー、最近雨がすごいですね」

「一日中引きこもってるお前には関係ない話だろ?」

「いや私ちゃんと外出してますよ!? 学校とか普通に行ってますから!」

「あっそ」

「リアクション薄っす!?」

「まあそれは置いといてだ。なんか最近変わった出来事ねえのか?」

「うーん……最近ですか……ふくらはぎをつったことぐらいですかね?」

「ああ、あの地味に痛いやつか……」

「寝てたら急になったんですよね。正直あれはガラスメンタルの私じゃ耐えられないくらい痛いですし、次もまたやってしまわないか心配です」

「運動不足ってことだ。たまには動けや」

「それは断固拒否させてもらいます」

「……今度こいつを強制的にジムにでも放り込んでやろうかな」

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