東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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不良天人

 

 

 上空から見下ろした天界の景色は、まさに『絶景』だった。

 透き通った海のような空の下に広大な平原が広がっている。草は青々しい色をしており、暖かな日の光と穏やかな風を受けて心地好さそうに揺れている。生えている木もだ。千手観音像のような枝からは無数の葉と少しの桃がだいたい9:1くらいの割合で生えており、熟れたそのうちの一つが限界までしなった枝から離れて地面に落ちるまでを気づけば自然に目で追っていた。

 

 強化した目を凝らせば、はるか遠くに衣玖のような羽衣をまとった天人たちが優雅に踊り、食べ、飲んで……そしてまた踊っている。

 

 まさしく楽園。桃源郷。そうとしか私には言い表せなかった。

 

 その景色に見惚れてか、もうこの場にとどまってから数分経っていることに気がつくとなんとなく悔しく思いながら、慌てて天界の地へと降り立つ。

 

 忘れるなよ私。この場所には憎っくき博麗神社の仇がいるんだ。

 そう気を引き締めると優しく揺れる草を踏みつけ、ドンドン歩いていく。

 体から溢れる緋色の霧はまるで誘導しているかのようにそんな私の先を進んでいった。そしてその方角から巨大な霊力も感じられる。

 近いね。ようやくだ。ようやく幻想郷に喧嘩売ったふざけたやろうを細切れにすることができる。

 

 そしてしばらく歩いたところで注連縄で縛られた巨石が目に入る。そしてその上に彼女はいた。

 

「天にして大地を制し、地にして要を除き——」

 

 目の前の天人がさえづるように歌をつづる。

 

 真っ先に目がついたのは流れる水のような青い髪に、桃がつけられた黒い帽子。そして手に握られた怪しげな剣だった。

 私の体から出た緋色の霧はこれに吸い込まれていく。途端に紅のオーラのようなものが剣から噴き出し、包み込んだ。

 

 なるほどね。どうやら気質を集めていたのはあの剣らしい。まだ何に使うのかはわからないけど、とにかく用心しなければ。

 

 そして彼女は私の方をくるりと振り返ると、口角を上げて笑みを浮かべながら最後の詩を歌った。

 

「——人の心を映し出せ」

「んなご大層で下手くそな詩なんてどうでもいいんだよ。あなたが異変の犯人だね?」

「……あら? 巫女じゃない。おっかしいわね……。私の見立てそろそろ来るはずなのに。まあいいや。とりあえず、ようこそ天界へ。歓迎するわ」

「なーにが歓迎するだよ。まるで私がここに来て喜んでるみたいじゃん」

「ええ、まさにそれよ」

「はっ?」

 

 予想外の返答に言葉が詰まる。

 それを少女は面白そうに笑うと、スカートのへそをちょんとつまんで片足を下げながら自己紹介をしてきた。

 

「改めて、初めまして地上の妖怪。私の名は比那名居天子。あなたの想像通り、この異変遊びの元凶よ」

「天子ねぇ……。こんな異変を起こすやつの名前がそれだなんて、世も末だ」

「こんなもの可愛いお遊びよお遊び。さ、私がせっかく名乗ってやったんだからあなたも名乗りなさいよ」

「楼夢だよ。それとさっきから異変のことを遊びって言うのやめてくれないかな? 虫唾が走って仕方がない」

「だって異変って遊びでしょ? どう呼ぼうが勝手じゃない」

 

 その言葉を聞いて呆れは浮かんでこなかった。いや、浮かんできたはきた。だがそれよりももっと激しい感情がそれを打ち消してしまったという方が正しい。

 それでもここで爆発させてはダメだと歯を食いしばって自分に言い聞かせる。それを知ってか知らずか、天子は上機嫌にくるりと回転すると私に背を向け、高らかに両手を広げた。

 

「あなたも見たでしょ? この世界の住人どもは毎日毎日歌、歌、酒、踊り、そして歌の繰り返し。いい加減うんざりしてたのよ」

 

 飛び出した言葉は地上の民からしたら自慢話にも聞こえるもの。しかし天子の声はそれを吐き捨てるようだった。

 しかし一転して彼女は天真爛漫な笑みを浮かべ、目を輝かせる。

 

「そんな時に地上の異変解決を見たのよ! 面白そうだったわ! だから私も異変解決ごっこをやりたくなっちゃったの」

「……そんなつまらないことのために、博麗神社は壊されたのかな?」

「つまらない? 冗談じゃない! つまらないのはこっちの方よ! でもこの遊びを始めてからたくさんの人妖たちが私と遊んでくれる。やっぱり異変を起こして正解だったわ!」

 

 その言葉を聞いた途端、ブチリと何かが千切れるような音が頭の中に響き渡った。

 私の他にもここを訪れていたやつらがいただとか、そんな重要な話もあったがこの時の私の頭にはそんなもの一切も残らなかった。

 そして、気がつけば鞘から刃が飛び出し、青白い斬撃が彼女の真横をすれすれに通り過ぎていった。

 

「……っ!?」

「……遺言はそれだけ? ならさっさと始めようよ。もう抑え切れそうにないからさぁ!」

「やる気になってくれたようで助かるわ。スペカは五枚でいいわよね?」

 

 立っていた岩から飛び降りて、天子は手に持つ緋色の剣を両手で握った。それを見て私も左手でもう片方の刀を抜き放ち、二刀流の構えを取る。

 

「さあ、存分に遊びましょ!」

 

 私たちは互いに笑みを浮かべる。ただし、それの意味は全くの正反対だ。

 溢れる憤怒を三日月の形に押し込め、私はこの天界の大地を砕く勢いで蹴り、前へ加速した。

 

 

 ♦︎

 

 

 初っ端から激しい開幕だった。

 互いの走る勢いを乗せた初太刀がぶつかり合うと、一瞬間を挟んで斬撃の嵐が飛び交う。

 何度も何度も足を入れ替え、互いの立ち位置を交換しながら、斬舞は白熱する。

 

 私の左の刀を弾いて、天子が左足で前蹴りを放つ。それを時計回りに回転しながら避け、遠心力を利用して腹部狙いで二刀を振るう。しかしそれも天子は柄を逆手に握り刃で腹部を隠すことで受け流されてしまう。

 

 勢い余って天子に背を向けてしまったが、地面を力強く蹴って反転。再び斬撃を繰り出し、返され、刃と刃が交差し続ける。

 その途中で私はふと左に握っている妖桜を放すと、その柄頭めがけて左膝を叩き込んだ。当然接近戦をしているため私と天子との距離は一メートルもない。そこを刀が飛んでいき、ほぼゼロ秒で天子の元へとたどり着く。

 彼女がそれを避けれたのは天才の勘とやらか。天子の脇を少し切り裂きながら刀は彼女の背後へと消えていく。

 

 これによって私は刀が一本となった。だが別段それで弱体化したわけじゃない。

 珍しく柄を両手で握り、さらに斬撃の嵐は荒々しくなっていく。

 斬撃、斬撃、そして鍔迫り合い。この時私は一瞬の隙を突いて柄を先ほどの天子と同じように逆さまに、しかも両手で握って、振り上げるような動作で天子を切り上げた。

 

 今度こそは命中。結界の耐久が削られる。

 だがまだ私の連撃は終わらない。反撃しようと剣を振り上げた天子の背中に何かが突き刺さる。

 見れば、それは私が先ほど蹴り飛ばしたはずの妖桜だった。

 あれは早奈の魂の結晶なため、遠隔操作が可能になっている。しかしそんなことを知らない天子の顔に驚愕と戸惑いの感情が半々で浮かんだ。

 その隙に私は前へ進みながらしゃがみこみ、天子の両足を叩き斬る。

 もちろん結界に守られているため実際は打撃のようなものだ。だけど両足がすくい上げられたことで天子は前のめりにバランスを崩す。

 そこに返す太刀での——

 

「——霊刃『森羅万象斬』」

 

 霊力を纏った斬撃を、彼女のうなじに叩き込んだ。

 

「ガッ……!!」

 

 閃光、そして爆発。

 天子はバランスを崩していたこともあり、顔から地面に叩きつけられてバウンドし、そのまま回転しながら吹き飛ばされる。

 その間にちゃっかり彼女の背中から抜けていた妖桜を回収すると再び二刀流の構えを取り、倒れふす彼女の顔へ刃を突きつけた。

 

「地上の妖怪に服を土まみれにされるのは、どんな気分かな?」

「ふふふ……最高よ……!」

 

 皮肉のつもりだったのだが、彼女にはどうやら効いていないらしい。

 先ほどよりも笑みを深めると、天子は立ち上がり、再び剣を構えてくる。

 

「ふふっ、本当はあなたにはちょっと期待してなかったの。今までここを訪れてきたどんな奴らよりも妖力は小さいし。でも気が変わったわ。本気で相手してあげる」

「正気? さっきので剣は私の方が上だって理解できなかったの?」

「ええ、腹立たしいけどその通りみたいね。だったら——」

 

 天子は剣を逆手で握ると、それを真下の地面に突き刺す。

 

「——剣以外で戦えばいいのよ」

 

 瞬間、まともに立っていられないほどの揺れが私を襲った。

 地震による攻撃。辺りの木々がミシミシと悲鳴をあげて倒れていく。それほどまでの震度だ。

 当然、そんなものが来れば私だって無事ではない。なんとか倒れないように踏ん張るので精一杯だ。

 そこに天子が歩み寄ってきて、一言。

 

「剣技『気炎万丈の剣』」

 

 緋色の刃から溢れ出たオーラが炎のように燃え盛った。

 天子はその状態の剣で斬撃を繰り出す。

 もちろん私もそれを防ごうと刀を前に構えたが、無意味だった。初太刀を受け止めた瞬間に揺れに耐えきれず私の両足は宙へ浮かび、間髪入れずに緋色の刃が私の体を数カ所切り裂いた。

 

「あぐっ……! このっ、痛みは……!?」

 

 結界のおかげで血も出てないはずなのに腹がえぐられたかと錯覚するほどの痛みが走った。

 揺れる地面を転がりながら、手を腹部に当てる。そして地面にうつむけに倒れると、顔だけを伺うようにしてあげた。目線の先にはムカつく笑顔を浮かべた天子の顔が見える。

 

「ああ、言ってなかったかしら。私の緋想の剣は相手の気質を読み取り、その弱点である気質を刃に纏うわ。つまり、ダメージを増幅させてくれるの」

「ゲームじゃないんだから、人間や妖怪それぞれに弱点属性なんかあるわけ……っ」

「あるのよ。水が火に打ち勝ち、雷が水に打ち勝つように。この世の生物それぞれにはそれらが苦手とする属性が存在する。……まあ、どうしても納得できないんだったらもう一回くらってみれば、いいじゃないっ!」

 

 私の頭部めがけて、緋想の剣が振り下ろされる。

 とっさに地面を横に転がって回避。そして倒れたままスピンをして、地面に刺さった剣を蹴飛ばした。

 武器を失って唖然とする天子。この機会を逃さず、逆立ちする勢いで両足を彼女の首にがっしりと引っ掛けると、そのまま投げ飛ばしてやった。

 しかし才能というやつなのか、初めてくらった技のはずなのに彼女は片手を地面につき、それを軸にして新体操のように華麗に着地しやがった。

 

 だけど、今のやつは丸腰だ。さっきの曲芸には驚かされはしたけど、今度こそこれは防げないはず。

 すぐさま天子の元に駆け寄ろうと、足を動かす。

 

 しかしそれは全くの読み違いだった。

 スポンっという音とともに何かが天子の真下の地面から飛び出してきた。

 緋色の刃を持った芸術的な剣。そう、緋色の剣だ。

 

 マズイマズイマズイ……!! 

 本能がそう叫ぶが、動き出した体は止まらない。結果的に私は敵が武器を持っているのにも関わらず、中途半端に前に飛び出してしまった。

 それをもちろん天子が見逃すはずもない。彼女は剣を自然と水平にし、弓を引くように構える。そして——。

 

「——気符『天啓気象の剣』」

 

 突き出す動作とともに放たれた赤色の閃光が、私の体を貫いた。

 




「完全復活! 私は帰ってきた! 作者です」

「投稿遅れたのを勢いでごまかそうとするなよ。狂夢だ」


「いやー、最近雨がすごいですよねー」

「西あたりがヤバイってテレビでも言ってたな。まあ基本的に家から出ないお前には関係ないが」

「いや、それがついこの前運悪く手ぶらな時に振られちゃったんですよ。おかげで教材はびしょ濡れになるわであー大変」

「教材……? お前、教材なんか持ってたのか……?」

「そこですか!? 私はれっきとした学生です! 今までなんだと思ってたんですか!?」

「いやてっきりニートかと……」

「それはあなたでしょうが!」

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