東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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地霊殿編
博麗神社の温泉


 

 

 ポロリ、ポロリと、粉雪が舞い落ちる。

 

 季節は流れ、真冬となった幻想郷。その端っこにたたずむ博麗神社は降り積もる雪を背負って今日も力強く山の上に君臨している。

 その威風堂々とした外観からは、とてもこの神社が夏に崩れ落ちたばっかだという事実が微塵も感じられない。

 

 崩壊した神社を立て直したのはなんといっても楼夢だった。

 かの大妖怪の『形を操る程度の能力』は建築にはもってこいの能力であり、神社の復興はなんと一日経たずで終わった。それを見た霊夢が『そんなにすぐ作れるんだったら初めからしなさいよ!』と楼夢を殴ったのは別の話。

 

 そんなこんなで完成された神社は前のと比べて格段に強度が上がっており、雪がいくら屋根に積ろうがビクともしていない。今年の冬は楽に過ごせそうだと呑気に思いながら、霊夢はちゃぶ台の上に置いてあった茶に口をつけた。

 

 しかしそんな平穏な雰囲気は一瞬にして崩れ去ることとなる。

 

 障子の外から、何かが爆発したかのような音が鳴り響いた。

 とっさのことで霊夢は驚き、容器から手を離してしまう。そして中の黄緑色の液体が彼女の膝にこぼれた。

 

「あっつぅッ!?」

 

 この季節は寒いからと普通よりも熱くしていたのが仇となった。

 布越しに熱湯を浴びて霊夢は叫びながら飛び上がる。それを見てとなりで寝転がって大笑いしていた萃香に拳骨が振り下ろされると、彼女は強制的に冬眠させられることとなった。

 

「ちょっと誰よ! この神聖な神社にカチコンで来たのは!?」

 

 鬼の形相を浮かべながら勢いよく障子を開く。バンッというよりもドゴォンッという豪快な音とともに外の景色が広がった。

 だが、誰もいない。妖力どころか獣の気配すらしなかった。

 怪しげに思いながらもお祓い棒を手に取り、縁側から神社の裏へと歩いていく。そこで霊夢の目に移ったのは—–—–。

 

「……なっ、これは……!?」

 

 —–—–大地を突き破って天高く噴き上げる、巨大な間欠泉だった。

 

 

 ♦︎

 

 

「ヤッホー霊夢。今日はえらく上機嫌だね」

「あったり前よ! これで貧乏生活からは永遠におさらばできるんだから!」

 

 いつも通り遊びに来た私を出迎えたのは、ここ最近じゃずっと見たことがないくらい上機嫌に境内の掃除をする霊夢の姿だった。

 

 今の時刻は昼。と言っても曇り空なので日光が当たることはない。それにも関わらず、彼女はいつもと同じ寒そうな巫女服を着ている。……いや、それと同じようなデザインの服着てる私が言えた義理じゃないけど。

 

「おーっす楼夢に霊夢……って、どうしたんだあいつ? あんなに気色悪い笑みを浮かべて掃除をしてるなんて」

「さぁ? 私も着いたばっかだからよくわからないや」

 

 後に続いて箒に乗った魔理沙が境内に降りてきた。

 そして妙に幸せオーラ満開の霊夢の姿を見て反応に困っている。私はあんな霊夢もいいと思うけど。

 

 魔理沙の服装は私たちと違ってしっかり防寒がなされている。服の布地も通常より分厚いし、手作りらしきマフラーを首に巻いている。魔理沙にあの商品化してもほぼ違和感のない完成度のものが作れるはずがないので、たぶんアリスあたりが作ったのだろう。

 

 それはともかく霊夢の件である。このまま立ち往生しててもラチがあかないと判断した魔理沙は問いかけてみることにしたらしい。その結果、返ってきたのは。

 

「温泉よ温泉!」

 

 の一言だった。

 私たちの頭上に疑問符が浮かび上がった。

 しかし魔理沙と違って、その意味を私はすぐに理解することができた。

 

「おいおい、とうとう頭が沸騰しちまったのか?」

「……いや、待って魔理沙。何か匂わない?」

「匂い? こんな寂れた神社に金目のものなんてあるわけないだろうが」

「間違いない。これは硫黄……つまり、温泉の匂いだ!」

 

 もうすでに忘れてる人も多いかもしれないが、私はこう見えても妖狐、つまりは獣の妖怪なのである。特に狐はイヌ科なので鼻がかなり効く。そんな私の嗅覚センサーが、人間にはわからないレベルのわずかな腐った卵のような匂いを感じ取ったのだ。

 

 魔理沙と霊夢を置いてけぼりにし、匂いがする方向へ駆け出す。そして神社の裏にいつのまにか設置されていたのれんをくぐると、そこには身も心も暖めてくれそうな温泉が湧いていた。

 

「ヒャッホーウ! 一番乗り……うぎゃっ!?」

 

 思わず服を着たまま飛び上がり、そのままダイビングしようとしたところで首を何者かに後ろから握り締められた。

 空気を吐き出しながら、ゆっくりと後ろを振り向く。そこには血のように赤いオーラを体から溢れ出させている霊夢の姿が。

 

「あ、あのぉ……霊夢さん? 首、離してもらえませんか? 息が詰まって意識が……」

「あら、疲れてるのかしら? ちょうどいいわ。目の前に温泉があるんだし、たっぷり浸かってゆっくり眠りなさい!」

 

 首に触れている手の力が強まるのを感じながら、突如謎の浮遊感に包まれる。

 そして私は首を掴まれたまま、顔面だけを温泉の底に叩きつけられた。

 

「ゴボッ、ゴボボボボボッ!?」

 

 死ぬ死ぬ死ぬゥ!? 

 顔面が熱いだとか息が苦しいだとか一々言ってられる場合じゃない。とにかくあらゆる情報が一気に頭に流れ込んできて何が何だか分からなかった。

 

「あのねぇ。ただで入らせるわけがないでしょうが! 入るんだったら金払いなさいよ金を!」

「ゴボッ、ゴボッ、ゴボッ!!」

 

 霊夢がなんか叫んでるけどもはや頭に入っては来なかった。とはいえ無視したら次なにされるかわかったもんじゃないので、とりあえずなけなしの空気を使って返事だけはしておいた。伝わればいいのだけど。

 

 そんな私の願いは叶えられたようで、その後すぐに私の顔面は冬の冷たい空気との再会を果たした。普段なら突き刺すような寒さがこの時ばかりは私を癒してくれているように感じられた。

 そんな感傷に浸ってたら地面に放り捨てさられ、地面に横たわる。

 ああ、このひんやりと冷やされた地面も心地よい……。

 

「おい……見た感じグロッキーなんだが……あれ大丈夫なのかぜ?」

「仮にも伝説の大妖怪なんだから平気でしょ。というか、なんで正体バレた後も子どもの姿でいるのよあいつは」

「いやだって、大人状態の時の私だとみんなよそよそしいんだもん……」

 

 この前紅魔館に行った時も美鈴はともかくポーカーフェイスが得意なはずの咲夜でさえ反応に困ってるのが丸わかりだった。フランにさりげなく大人と子どもの私だとどっちがいい? なんて聞いてみたら迷わず『ちっちゃいお姉さんがいい!』と即答される始末だ。というか男なのはバレてるはずなのに未だに私の呼び名はお姉さんなんだね。

 

 そんなこんなで結局この姿の方が受けがいいってことがわかったので、日常生活では極力この姿を取るようにしている。

 実際霊夢たちもなんとなく心当たりがあったようで、気まずそうに視線を逸らしていた。

 

「それはともかく温泉だよ。あれはいったいどうしたの?」

「突然湧いて出たのよ。これはきっと常日頃から頑張ってる私に向けての神様からのプレゼントに違いないわ!」

「霊夢が頑張ってることになってるんだったら、全人類はみんな努力家ってことになっちまうぜ」

「一応私も神なんですが……」

「恋愛成就させるぐらいしかご利益がない淫乱ピンクは黙ってなさい」

「そんな不名誉な名前送られたのは今日が初めてだよ」

 

 なんというピンク髪に対する偏見。

 というか幻想郷には私以上に本物の淫ピがいるんだしその人につけなさいよ。例えばどこぞの仙人とか鬼とか。

 

 話は戻すけど、なぜ突然温泉が湧いてきたのか。普段だったら笑い飛ばしてるけど、ついこの前の夏に大地震があったばっかだからなぁ。いやでもそれにしては温泉が沸くのが遅すぎるか。じゃあいったい原因はなんなんだ? 

 

「細かいことはいいだろ。せっかく温泉があるんだったらやることは一つだぜ。霊夢、この温泉借りるぞ」

「一人五千円よ」

「うわ、微妙に高い……お友達料金でなんとかならないか?」

「あいにくと私はどんなお客様にも平等に接することを心がけておりますので」

「はぁ……しょうがないな。立て替えてあげるよ」

 

 適当に巫女袖を漁ってたら出てきた諭吉の束をドンと地面に置く。

 厚さからしてたぶん十万くらいか。もちろん霊夢はこれに食いついてきた。目にも留まらぬ速さで諭吉たちをかっさらっていく。

 

「そうだ。せっかくだから霊夢もいっしょに入ろうよ」

「はあ? あんた男でしょうが。いっしょになんて嫌よ」

「チップは弾むけど?」

「了解したわ!」

「手のひら返し早っ!? というかそれだけは駄目だろうが!」

「モンブランっ!?」

 

 魔理沙の拳骨が頭に落とされる。

 そして悶絶してる隙にどこから持ってきたのか、縄で体をあっという間に縛られてしまった。

 

「ふぅ……これで安心して温泉に入れるな」

「ずいぶん手馴れてたね。もしかして普段からこういうことしてたり?」

「……」

「絶対黒だこの人!?」

 

 魔理沙は何も言わぬまま、霊夢の肩を押してのれんの奥へと姿を消していく。

 おおかた泥棒をするときにでもやってたんだろうね。

 そういえば前に紅魔館の図書館でパチュリーが柱にくくりつけられていたのを見たことがあるような……。あの時は彼女のことを変態扱いしちゃったけど、こういうことだったのか。ごめんねパッチェさんと心の中で祈っておく。

 

 

 結局、非力な今の私では縄を解くことができず霊夢たちが帰ってくるまでずっとその場で正座していることとなった。

 浴衣姿の魔理沙によって縄が解かれる。おそらく服は霊夢のを借りたのだろう。

 

 なにはともあれだ。せっかく温泉も空いたのだし、この機会にたっぷり堪能してやろうじゃないか。麻痺した手足をぶらぶらさせながらのれんをくぐり、服を投げ捨てるような形で脱ぐ。もちろんその後は術式で手も使わずに畳んでおいた。

 そして今度こそ誰もいない温泉に飛び込んだ。

 

 ふぁ……っ。肩の力が抜けていく。

 よく考えたら、温泉に入るのは久しぶりかぁ。昔は旅してるのもあってよく温泉巡りをしたものである。

 最後に温泉に入ったのは千年くらい前か。紫に案内されていっしょに入ったんだよなぁ。そうそうこんな風に……。

 

「……って、なんで紫がいるんだよ!?」

「ふふふっ、ごきげんあそばせ」

 

 私の目の前にはいつのまにか湯に浸かっている紫がいた。

 白いタオルで隠されていてもその色気が隠されることはない。はみ出しそうな胸、見えてしまいそうな太ももの奥。刺激が強すぎて常人なら目を背けてしまいたくなるだろう。

 

 とはいえそこは私と紫の仲だ。さらに今の私は幼体化状態。決して男の性が発揮されるようなことはない。その証拠にタオルの下の私の息子はなんの反応も示していない。

 

「はぁ……アピールするのはいいんだけどさ。せめてそれは大人の私の時にやってよ。たぶんすごい興奮するだろうから」

「あら、でも大人でも子供でも同じ楼夢じゃないの」

「同じと言えば同じだけど、こう見えて意識ってのには結構違いがあるんだよ。大人状態の私が今の私を嫌ってるようにね。同じように、大人の私なら絶対に言わないことも今の私ならポロリと口を滑らすことがある。こんな風にね」

「え、じゃあ私が頑張ってやったことってひょっとして無意味?」

「平たく言っちゃえばそうだね」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ガビーンとでも効果音がつきそうなほど紫は落ち込んでしまった。

 ありゃりゃ、やっちゃったか。なんとか話を逸らして気分を変えてあげなきゃ。

 

「それで、紫は結局なんでここに来たの? たんに私へのアピールってだけじゃなさそうだし……」

「ここの温泉がちょっと怪しいと思ったのよ。だから調査も含めてここに来たわ」

「怪しい? どんな風に?」

「……微量だけど、妖力を感じるのよこの温泉」

 

 私は妖怪だからほとんど違和感はなかったのだけど、言われてみて初めて気づいた。たしかに、ごくわずかだけど温泉の成分に混じって妖力がある。

 本当に少量なので、人間が浴びてもほとんどなにも起こらないとは思うのだけど……。

 

「このことを霊夢は……」

「もちろん気づいてるわよ。気づいたうえで承知してるのよ、あの子は」

「まあお金は霊夢にとって死活問題だからね。目がくらむのも仕方がないか……」

 

 やれやれ、これじゃあ目に見えるなにかが動き出さない限り霊夢が動くことはなさそうだね。今回の異変も長くなりそうだ。

 

 

 その後は他愛のない話をしただけで、時間はどんどん過ぎていった。

 

「さーて、そろそろ上がることにするよ」

 

 そう言って立ち上がった。すると紫が子供っぽい笑みを浮かべながら聞いてくる。

 

「あらあら、もしかして私の色気でのぼせたのかしら?」

「いやだから、私は異性で興奮しないってさっき……」

「我慢しなくていいのよ? ほら、ほら……」

 

 そう言って紫は腹の前で腕を組んで胸を寄せてくる。

 ……これはあれだね。私が紫の体見ても興奮しないことに結構意地になってるっぽい。なんとかして私の興味を引こうって魂胆だろう。

 ……まあいいや。

 

「それじゃあお言葉に甘えてっと……ほい」

「へっ?」

 

 無防備な彼女の胸に触り、好きなだけ揉んでやる。

 お、やっぱり柔らかいなぁ……。たぶん私が触った中じゃダントツかな? 

 

 真っ赤に染まっていく紫の顔。

 そして次の瞬間、

 

「きゃ、キャァァァァァァッ!!!」

 

 妖力で強化された全力のビンタが私のほおに突き刺さった。

 いや……触っていいって言ったじゃん……。

 

 

 その後、悲鳴を聞いて駆けつけた魔理沙に連行され、三日間柱にくくりつけられて放置されたのはまた別の話。


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