東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
「さてと。異変解決に行くメンバーは決まったんだし、さっそく行きますか」
「ちょっと待ちなさい楼夢」
私が立ち上がってそう言ったところで、紫に引き止められる。
「さっきも言った通り、旧地獄もとい地底は危険な場所よ。特に霊夢と魔理沙には。だからほら」
そう言って紫はスキマから取り出した二つの陰陽玉を霊夢に手渡した。本来博麗印の配色は紅白なのだが、これらの片方は赤の部分が紫に、もう片方は青に塗り替えられている。
「これは?」
「私と萃香がそれぞれ作った陰陽玉よ。戦闘にも連絡にも使えるから、役に立つはずだわ」
陰陽玉はその後霊夢の周りをふわふわと浮き続けている。多分念とか送って調整をしているのだろう。
それを見た魔理沙が羨ましさかなにかで口を曲げる。
「ちぇっ。私にはなんかないのかよ」
「安心しなさい魔理沙。こっちもすでに手配して……あら、思ったよりも早かったわね」
障子を突き破って中に入ってきた人形を見て、アリスは言った。霊夢が騒ぎ立て、急いで障子を直そうと駆けつけているが、彼女はそれを無視して人形を回収する。
「はいこれ。私とパチュリーからよ」
魔理沙がアリスから渡されたのは複数の人形と、七つの宝石がつなげられたブレスレットだった。おそらくあの人形の中に入っていたのだろう。
その後のアリスの話によれば、これらにもアリスとパチュリーの力が込められているらしい。
魔理沙は思わぬ二人からのプレゼントに感涙しそうになったが、すぐにそんな雰囲気を台無しにする言葉が彼女らから放たれる。
「私たちはあなたと違って死にたくないから。その人形は映像を通してこちらも見れるようにしてあるから、地底探索頑張ってよね」
「あと、珍しい鉱石や妖怪の死体があったら持って帰りなさいよ。最優先はあなたの命よりそれだからね?」
「お前ら私を心配する気ゼロかよ!?」
感動して損したぜ、と言い捨てて仰向けに魔理沙は寝っ転がる。だがその顔はどこか嬉しそうだった。
まったく、素直じゃないんだから三人とも。そういうところが似てるって言ってるんだよ。
これで二人の装備が整った。あとは私の番だ。
紫の方へ向き直る。
「さて紫。私のはどこにあるの?」
「えっ……?」
「えっ?」
気まずい沈黙が訪れる。
あれれ? 普通二人とも何かしらもらってるんだから次は私の番でしょ?
紫は目を逸らして俯いている。これってまさか……。
「そ、その……ごめんなさい。まさかあなたが欲しがるとは思わなくて、なにも作ってなかったわ……」
「ええっ!? そんな!? ……アリス、パチュリーっ!」
「残念ながらあなたに渡せるようなものはないわよ」
「というかあなたにそんなもの必要ないでしょ?」
「なんか仲間はずれっぽくて嫌じゃん! 嫌だ嫌だ嫌だァ! 私も欲しいぃぃ!!」
「ウルセェ!! 外まで響いてるだろうがァ!!」
私が畳に転がって駄々っ子交渉術を披露している時に、そいつは障子をぶち壊して現れた。
突如なにかが背後からぶつかってきて、私の体はボールのように弾き飛ばされた。ちゃぶ台の上を超えてアリスたちに激突しそうになるが、その前に霊夢の裏拳が私を縁側方面へと跳ね返した。
仰向けに倒れた私の目に映ったのは、
その足はまっすぐ突き出された状態で静止している。間違いなくこの足で障子を壊したのだろう。
「よォ馬鹿ども諸君! この俺様が遊びに来てやったぜ!」
「ちょっとあんた! うちの障子になんか恨みでも……へぶっ!?」
「修理代だ。釣りは取っとけ」
噛みつくばかりの勢いで声を上げた霊夢の顔面に何かが叩きつけられる。
それは札束だった。ぱっと見で十数万。
お金の魔力に逆らえなかったようで、霊夢はそれを手に持ったまま「お茶入れてくるわね」と言って上機嫌に去ってしまった。
先ほどお金で彼女を釣ろうとした私が言えた義理ではないが、あの子にはせめてもうちょっとプライドを持って欲しいものである。
邪魔者はいなくなった、とばかりに火神は霊夢が座っていた座布団——つまりは私の隣へ、そしてそのさらにとなりに一緒に来ていた幼女ルーミアが座る。
「ねえ火神。多分ここにいる全員が今の状況を理解できてないと思うから、なんでここに来たのか教えてくれない?」
「全員じゃねェぞ。少なくとも俺とルーミアは理解している」
そんな屁理屈はどうでもいいんだよ。
「別に大した理由じゃねェよ。本当はこいつと温泉に入りに来たんだ。だが、境内でテメェらの話を聞いてな。面白そうだから乗り込んだだけだ」
「うわぁ、全然気づいてなかった……。ちょっとショック……」
というかお前ら揃いも揃って盗み聞きしすぎじゃね? ここ見つかったら一発ゲームオーバーなホラゲー世界でしたっけ? いや妖怪とかいる時点で十分ファンタジーでホラーだけど。
改めて、みんなの顔を見てみると、全員が力を入れていて警戒していた。直接やりあったこともある魔理沙は特に。
強がりなのか、怯えを隠すように彼女の口から皮肉が飛び出る。
「けっ、お子様連れで呑気に温泉かよ。伝説の大妖怪ってのはずいぶんとロリコンが多いみたいだな」
「はっ、ロリ? こいつぁそれなりに歳いってるぞ?」
「誰がババアよ!」
推定一万越えの人が何か言ってますよー。 というかその歳で幼女気取ってるとか恥ずかしくないの? ……私もじゃん。
「……ルーミア、お前そんな喋り方だったっけ?」
「えっ? あ、いや、なんでもないのだーっ」
魔理沙からの唐突な質問にルーミアは焦り出す。
そういや魔理沙たちはルーミアの正体を知らないんだっけか。
こういうのって自分からは明かしづらいんだよね。なんというか、今までの関係が崩れちゃいそうで。経験者は語る。
しゃーない、少し手助けしてあげるとするか。
「もういいでしょルーミア。魔理沙たちの前でまでその姿をしていなくても」
「……それもそうかもしれないわね。あんたの正体がバレてるんだったら私もこれ以上隠す必要はないか……」
ルーミアは最初抗議の視線を送ってきたが、どうやら観念したようだ。真っ黒な闇がどこからともなく現れ、彼女の体を包み込んでいく。
「一つ、ここにいる全員誓いなさい。このことをチルノたちには伝えないで。それが守れるんだったら、私の真の姿を見せてあげる」
返答の声はなかった。ただ、無言で魔理沙たちは首を縦に振るのみ。
それを見届けて、ルーミアは完全に闇の中へと姿を消していった。そして次に闇から姿を現した時、彼女の姿は女性と呼んでもいいほどになっていた。
彼女から溢れる膨大な妖力を感じ取ったのか、魔理沙たちの顔に冷や汗が浮かぶ。
「これが、本当の私。大妖怪最上位にして、火神の妖魔刀。それが私よ」
腰にまで届く長い金髪を後ろに流しながら、改めて彼女は自己紹介をした。
それを見た彼女らの反応は驚愕の一言だった。全員目と口を開いて驚いている。
「……なんか、いつも暇つぶしに退治してたガキンチョの一人がこんな大物だったなんてな。もしかしてあとで殺されたりしない?」
「安心しなさい魔理沙。チルノたちの相手をよくしてくれるあなたを殺したりなんてしないわ」
動物愛護団体が聞いたら即すっ飛んできそうなセリフだね。あれ、でも妖精って動物に入ってたっけ?
それにしても相変わらずチルノたちのことに関しては甘々なようだ。昔のルーミアだったら八つ裂きにしてそうなものなのに。一万越えの人でも成長ってするもんなんだね。
その後、魔理沙たちは次々と質問をルーミアに投げかけていった。しかし、今は一応異変の作戦会議中である。彼女が二、三個質問に答えたところで、紫が柏手を打って注目を集める。
「こほんっ。ルーミアの話もいいけど、それはまたあとでにしてくれないかしら。それよりもまだ肝心なことを聞いてないでしょ? ……結局、あなたたちは何をする気でここに来たの?」
火神たちはなんのつもりでこの会議に参加してきたのか。たしかに、肝心の部分が聞けてなかったな。
しかしあろうことか、二人から返ってきた答えは——
『……暇つぶし?』
——であった。
「なんで疑問形なのよ!? 私の方が聞きたいわ!」
予想の斜め上を行くその答えに紫が声を荒げてツッコミを入れる。
ドウドウと心の中で唱えながら、私は息を切らしている紫をなだめる。
落ち着け落ち着け。こいつらのペースに呑まれても疲れるだけだ。ここはあえて冷静に……。
「いやほんと、何しにきたのお前たち。まさか障子を壊すためだなんて言うつもりじゃないよね」
「まあまあ落ち着け。さすがに今のは冗談だ。……半分は」
「もう半分は本当なのかよ!?」
ハッ……! 言ってるそばから思わずツッコンでしまった。
くそ、絶対おちょくってるだろこいつら! やつのウザったらしい笑みを見て確信する。
これ以上あいつと目を合わせてもイラつくだけなので、代わりに後ろでニヤニヤしてたルーミアを睨みつける。
火神はひとしきり私たちのそんな顔を堪能すると、真横に闇を発生させ、そこに手を突っ込む。そして中から取り出した二つの指輪をちゃぶ台の上に置いた。
「これは……?」
「さっきの話の続きだが、俺たちは暇だ。そこで都合よく地底探索の話が出てきた。だが俺らが行ったんじゃ張り合いがねェ」
「剛がいるじゃん」
「うるせェ! あんな気持ち悪いのとやりあうぐらいなら、家に帰ってスマブラしてる方がマシだ!」
あ、それはなんとなくわかる。顔は綺麗だけど性格が悪いのよね性格が。
「ともかく、そこでお前の出番だ。単刀直入に言うが、お前その姿のままで地底の連中に喧嘩売ってこい」
「……はっ?」
この時の私はかなり間抜けな顔をしていただろう。しかし、それほどまでに今回の話は理解ができなかった。
「いやいや死ぬよ! 普通に死ぬからね!? あっち大妖怪クラスがうじゃうじゃいるじゃん! そんな中をこのまま行けだなんて地雷原を裸で突っ切るよりタチが悪いよ!?」
「その無様で笑える姿が見たいんだよ俺らは。この指輪にはこっちと映像をつなげる術式がつけられている。それもってさっさと地底に行ってこい」
「ふざけんな! 誰がつけるかこんなもの!」
「やらねェんだったら久々に俺らの相手をしてもらおうじゃねェか。果たして俺を倒したあとにこいつらを守るだけの力が残っているかな?」
くそっ、この野郎はいつもいつも……!
さすがに火神と戦ったあとで地底に行くのは私でも無理だ。つまりはやつの条件を飲むしかない。
歯ぎしりをしながら、指輪を奪い取って手につける。
「腹は決まったようだな」
「選択肢も与えてないくせに偉そうに」
「んじゃせめてもの誠意にいいことを教えてやろう。今お前がつけた指輪はそれぞれ『闇のリング』と『炎のリング』と言ってな。俺たちの力が弾幕ごっこで使える程度には込められている。うまく活用することだな」
「けっ、余計なお世話だよ」
いざとなったら絶対に大人状態になってやるからな。条件なんか知ったこっちゃない。ともかく今は耐えてさっさと地底に行くことが最優先だ。
「まあ色々トラブルがあったけど、これで全員準備が整ったわね?」
紫の質問に、私たちは互いのマジックアイテムの感触を確かめたあと、頷く。
紫はニッコリと微笑んで、ピシャリと扇を閉じる。
それが合図となり、私たちの真下にそれぞれスキマが開いた。
急に襲いかかってくる浮遊感。
反射的に手を伸ばすも、わずかに届かず。私は底の見えない闇の中へと落ちていく。
最後に見えたのは、スキマの外で手を振る紫と、私の間抜け面をあざ笑う火神の顔だった。
「はいはいどーも。最近ニンテンドースイッチを買った作者です」
「なおスマブラを買ったはいいものの、基本ボッチなので持て余している模様。狂夢だ」
「というわけで今回は火神さん登場、そしてサポートキャラが決まった回でした」
「地霊殿って基本サポート一人だけだよな。なんでこんな中途半端な数なんだ?」
「実を言いますと、最初はそれぞれに三人ずつつける予定だったんです。でも楼夢さんの三人目のサポートキャラが思いつかなかったのと、射命丸やにとりをあのメンツの中に混ぜるのは中々難しい、そしてなにより九人もいては使い分けるのが厳しいという理由でこうなりました」
「六人もかなり面倒くさいと思うけどな」
「そこはまあ、努力でカバーするつもりです」
「こいつの努力ほど信用できないものはないんだよなァ……」