東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

265 / 292
地底のお出迎え

 

 

 なにも見えない暗闇を落ちていく。

 前後左右の状態すらわからない。

 だが、終わりは以外と早かった。闇の奥から光が差し込んでくる。

 外だ。私は流れに身を任せて光の中に飛び込んだ。

 

 瞬間、眼下に広がる絶景。だがそれに目を奪われている場合ではない。

 体勢を整え、霊力を操作し宙に浮く。見れば同じように霊夢が浮いていた。

 しかし……。

 

「ちょっ、ちょっ、私の箒、箒ィィィッ!!」

 

 私たちと違ってどんどん下へ落ちていく黒が一つ。

 魔理沙だ。

 そういえば彼女、箒がなければ上手く飛ぶことができないんだっけか。

 

 しょうがないなぁ。でもちょうどいい機会だ。この指輪の性能を試すには。

 左手に付けられた闇のリングをかざす。するとはめられている黒い宝石が輝き出す。

 そしてどこからともなく現れた闇が、魔理沙を抱きかかえるようにして包み込んだ。

 

 なるほど。この指輪はルーミアがよく使う闇を出現させることができるのか。

 試しに色々弄ってみると、剣の形をしたりなど様々な形に変化させられることがわかった。ただ出現させられる闇の量は残念ながらルーミアには遠く及ばないらしい。

 

「た、助かったぜ……」

「いいっていいって。こんなところで死なれたら困るのは私もだしね」

『……あー、あー、全員聞こえるわね?』

 

 霊夢の周りに浮かぶ紫と白の配色の陰陽玉から声が聞こえてくる。

 

「紫……いきなり落とすのはちょっとないんじゃないかな?」

『うっ……わ、悪かったわよ』

「まあいいや。とりあえず、今の場所がわからないから誘導をお願い」

『今の地点は妖怪の山の真上よ。そこから下に下りていけば大きな穴があると思うわ。そこが地底と地上をつなげる場所よ』

 

 言われて下を見下ろす。

 ……たしかに、不自然な穴がここからでも見えた。おそらくはあれだろう。

 

「わかった。今からそこに向かおうと思う。それと、魔理沙の箒を持ってきてくれない?」

『魔理沙? ……あっ……』

 

 この反応、どうやら彼女も魔理沙が箒なしじゃ飛べないのを忘れていたようだ。

 魔理沙の額に青筋が浮かぶ。

 

「おい紫、あとで覚悟しておくんだぜ……」

『悪かったわよ本当に! ほら、これでいいんでしょ!?』

「逆ギレするんじゃないぜ! キレたいのはこっちだ!」

 

 魔理沙の近くにスキマが開き、中から箒を握った紫の手が伸びてくる。魔理沙はそれを勢いよく奪い取ると、陰陽玉を通して彼女と口論を始めた。

 しかし魔理沙の頭に拳骨が落とされたことによってこの争いはおさまった。

 

「魔理沙、あんたうるさいわよ」

『あんたもよ紫。妖怪の賢者ともあろう者が情けない』

『……アリス、あなたちょっと表に出なさい』

 

 そんな声が陰陽玉と魔理沙の人形から聞こえてっきり、なにも彼女たちの声はしなくなった。

 

 ……うん、こんな大人数でいると面倒くさいね。

 そんなことを思ってため息をついていると、霊夢が声をかけてくる。

 

「もうこいつらは放っておいてさっさといくわよ」

「うん、それには私も賛成」

「私もだぜ」

 

 三人一列に並んで空を下りていく。特に問題なく地上に着地することができた。

 少し進むと、例の穴が見えてきた。

 

「これは……大きいわね……」

『凄いでしょー。この穴は母様の拳でできたんだよ』

「萃香!? それに母様って……」

「伝説の大妖怪、鬼城剛のことだよ。もっとも鬼っていうのは彼女のあまりにも膨大な妖力によって自然発生したものだから、血は繋がってはいないんだけどね」

 

 そう説明して、私は目の前に広がるそれを改めてながめる。

 空中にいた時は気づかなかったけど、この穴、幅がとんでもなく大きい。多分一キロ近くはあるんじゃないか? 

 魔理沙が感嘆の声を漏らす。

 

「ひょえー。私たちの敵はこんなものを作れるやつなのかよ」

「貴方たちは戦うわけじゃないから安心して。私が絶対に抑えてみせる」

『ヘェ、ずいぶん自信ありげじゃねェか』

 

 今度は私の指輪の方から声が聞こえてきた。それも思わず耳を潰してしまいたくなるほど聞きたくなかった声だ。

 

「うるさいよ火神。依頼通りこの姿で地底の野郎どもと殴り合ってあげるんだから黙ってて」

『ひゅー、嫌われちまったねェ。悲しいぜ』

 

 ちっ、口ではああは言ったけど誰がこいつとの約束を守ってやるもんか。いざピンチとなったら速攻で本気を出してやる。

 

「さあ、いくわよ」

 

 霊夢のかけ声を聞いて私と魔理沙は体に力を入れる。

 そして三人全員で、底の見えない穴の中へと飛び込んだ。

 

 

 ♦︎

 

 

 穴の中は薄暗いが、なにも見えなくなるほどではなかった。夜目な私はもちろん、これくらいなら霊夢も魔理沙も問題なく見ることができるだろう。

 ところどころに壁に光る鉱石のようなものがむき出しになっている。

 

『これは……人為的に埋め込まれたものね。魔理沙、注意しなさい』

『人為的ってことは近くに敵がいるってことだ。のっけからエンカウント率が高いねェ』

 

 魔理沙のブレスレットからパチュリーの、炎のリングから火神の声が聞こえてくる。

 当たり前だが、人数が多いと考える脳も増えて助かる。特にパチュリーは色々と博識なのでこの地底探索にも十分役立ってくれるだろう。

 

 私たちは上から下へ落ちてるといっても、ただ重力に従って自由落下しているわけじゃない。そんなことしてたらどんどん加速していって体はバラバラに、じゃなくても着地の時にペシャンコになってしまうのは明らかだ。

 だから空を飛ぶ要領で体に霊力をまとい、一定の速度を保って落下している。

 

 そんなふうにある程度落ちていくと、突然魔理沙が短い悲鳴をあげた。

 

「うっ、なんだぜこりゃ……糸……?」

 

 見れば魔理沙の手にはネバネバした蜘蛛の糸のようなものが付着している。それを気味悪がって彼女は腕をめちゃくちゃ動かして糸を振り解く。

 しかしすぐに別の糸が再び彼女に絡まった。

 

「くそっ、地底産の蜘蛛ってのはずいぶん働き屋なもんじゃないかぜっ」

『いえ、ちょっと待って。これは……』

『にゃはは、こりゃ地底の中でももっとも面倒くさい蜘蛛に見つかっちゃったね』

 

 萃香がそう言ったその時、穴の先を塞ぐように巨大な蜘蛛の巣が一瞬して私たちの下に張り巡らされた。

 しかしそれにわざわざ捕まってやるほど私たちは甘くはない。霊夢はお札を、私は刀を、魔理沙はミニ八卦炉を構える。

 

 そして爆発するお札が、斬撃が、光線が、蜘蛛の巣を木っ端微塵に消滅させた。

 

「ああ、酷い!? 私の愛情込めて作った巣が!」

「たった数秒で込められる愛なんてたかが知れてるわよ。十円玉の方がよっぽど価値があるわ」

 

 知らない声を聞き、落下をやめてその場にとどまる。

 すると闇の向こう側から金髪の少女が近づいてきた。セリフを聞く限り、さっきの巣はこの子のもので間違いないだろう。

 

『こいつは土蜘蛛だね。病気をばら撒く妖怪』

「お、そこの黒髪の人間は博識だね! そうさ、私こそが地底のアイドル、黒谷ヤマメ様さ!」

『うわぁ、自分のことアイドルとか言っちゃってるわよこの人』

 

 こらルーミア、そうやって出会い頭に人を煽るのはやめなさい! ……いや実は私もちょっと痛い人だなとは思っちゃったけど。

 ああほら! なんかめっちゃ睨みつけてきてるし! 

 

「ふ、ふふっ。初対面の人に対してずいぶんと礼儀知らずじゃないかい?」

『はっ、初対面の人? テメェは人じゃなく妖怪だろうがヘンテコスカート』

『そもそもそちらの挨拶もずいぶんと礼儀知らずなもんじゃない? ねぇ、自称地底のアイドル(笑)さん?』

「だから煽るなって言ってるでしょうがゴミクズども!」

「……殺す」

「ああもう、なんか殺意の波動に目覚めちゃってるし!」

 

 必死に和解を試みるけど、どうやら弁明の余地すらないらしい。ヤマメの妖力が徐々に高まっていく。

 というか普通声とかで私じゃないってわからないのかな。これだから頭の悪い妖怪は嫌いなんだよ」

 

『……普通に心の声漏れてるわよ?』

「えっ……?」

「せっかく地上からの来客だったし、もてなしてやろうと思ってたけど今気が変わった! キスメ! こいつらミンチにして食べてやるよ!」

「うん! 久しぶりの人肉!」

 

 ヤマメが声をかけると、頭上から声が聞こえてきた。

 とっさに身をねじり、その場から離れる。すると私が元いた場所にものすごい勢いで釣瓶が落ちてきた。

 

「なっ、もう一体いたのかぜ!?」

『そいつは釣瓶落とし。普段は内気だけど実際はかなり凶暴な性格だから気をつけてねー』

『ちょうどいいサンプルよ。魔理沙、やってやりなさい』

「ちっ、命令されるのにはムカつくけど同意見だぜ。楼夢、こいつは私が引き受けた」

 

 ミニ八卦炉を構えて臨戦状態を取っている魔理沙がそう声をかけてくる。

 霊夢は……どうやら動いてはくれないようだ。あくびをしながら遠くでこちらを見守っている。

 仕方がないので私も覚悟を決め、舞姫を引き抜く。

 

 しかしそんな殺し合いする気満々な装備の私たちとは違って、ヤマメとキスメが取り出したのは見覚えのあるカードだった。

 

「それは……スペルカード?」

「そっ。前に鬼の頭領様が決闘の際にこれを使うことを決めたのさ。もちろんふつうの殺し合いもできるけど、そっちには両者の合意が必要だからね」

「へー、殺すとか言ってたけど意外と優しいんだね」

「安心しなよ。この試合で勝ったあと、勝利者の権利としてお前たちを食ってやるからさ」

「……勝者は敗者の全てを手にする。ふっ、実にあいつが考えそうなルールだね」

 

 どうやら剛は地底にもスペルカードルールを広めてくれておいたらしい。彼女の影響力は絶大だ。おそらくこれからの敵も一応ルールを守ってくれることだろう。

 

 とはいえ今は目の前の敵だ。

 さっき見せたカード数は3枚。ということは残機2スペカ3のスタンダードルールということとなる。

 

 私は刀を振るい、数十もの斬撃型の弾幕を飛ばす。しかしさすがは地底の妖怪。難なくこれを避け、お返しとばかりに軽く百はいきそうなほどの弾幕を出してきた。

 身のこなしも、妖力量も地上じゃ十分名を馳せられるレベルだ。こういう奴らがうじゃうじゃいるのか、地底は。

 

 その後しばらくの間は通常弾幕の打ち合いとなった。

 ただ、戦況はちょっとよくないかも。

 弾幕の一つが私の服にかする。

 

 遠くでも爆発音が聞こえてくる。魔理沙たちの戦いも始まっているのだろう。

 この穴は直径一キロはあるとはいえ、高速で飛び回るには少々狭い。ゆえに私はいつもの調子を出せずにいた。

 それに比べて相手はこういった狭い空間で戦うのに慣れているようだ。立体的に壁を使って攻撃を避けたり、逆に壁に弾幕を反射させて攻撃したりしてくる。

 

 とその時、キスメの流れ弾がこちらに向かって来た。

 予想外の攻撃に私の行動はワンテンポ遅れ、回避はしたが体勢が崩れてしまう。

 そこにヤマメが放った岩のように巨大な弾幕が、私の頭上から降って来た。

 

 回避は……無理だ……っ! 

 頭上に刀を構えて防御の姿勢をとる。が、ずっしりと重い弾幕の圧に耐えきれず、私の体はさらに下へと叩き落とされた。

 

 だが、ヤマメの追撃は終わらない。

 私が下へ落ちている間にスペカを一枚投げ捨て、宣言した。

 

「地底の妖怪を怒らせたこと……後悔させてあげる! 蜘蛛『石窟の蜘蛛の巣』!」

 

 





これから少し忙しくなりそうなので、夏休み中の投稿はこれがラストになるかもしれません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。