東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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病を焼き切る炎

 

 

「蜘蛛『石窟の蜘蛛の巣』!」

 

 穴の底へと落下していく私に追い打ちをかけるように、ヤマメはスペルカード名を叫んだ。

 だが、上から弾幕が飛んでくる気配はない。ということは……下からかっ! 

 

 首を勢いよく降って下を覗き見る。

 そこで見たものは、光り輝く巨大なアート。

 なんとヤマメはこの穴を塞ぐように弾幕で蜘蛛の巣を張ったのだ。

 

 だめだありゃ。通り抜けられる隙間がない。だったらと、握っていた刀に霊力を込め、スペルカードを発動させようとするが、

 

『こんなとこでタマの無駄遣いしてんじゃねェよ! そのために俺の指輪があるんだろうが!』

 

 その声によって引き止められる。

 そうだ、忘れてた! そういえばこいつがあったんだった! 

 舞姫だけでなく、妖桜も抜いて二刀流となる。そして指輪の力を操って二つの刀に火神の炎を纏わせた。

 そして体をコマのように回転させながら両刀を振るい、そのまま蜘蛛の巣へと落下。

 蜘蛛の巣は私を受け止めようとしたが、切られた後に炎が燃え移ってあっけなく粉塵と化す。

 

「なっ……ただの炎に私の糸弾幕が!」

「ただの炎じゃないよ。神をも殺す悪魔の炎だ」

 

 それにしても、やはりすごい火力である。たった一撃で幅一キロに張り巡らされた巨大な蜘蛛の巣が見事に燃えカスになっていた。しかもヤマメの言葉から察するに対炎用に対策されていたのにも関わらずだ。

 弾幕が燃えるということに疑問を覚えるかもしれないが、別に驚くことじゃない。弾幕は扱う者の性質をよく映し出す。火神なら通常弾幕でも自然に炎を帯びるように。

 ヤマメのは粘着質があって弾幕同士や壁などに連結しやすい代わりに燃えやすくなっていたのだろう。と言っても、火神の炎ならどんな弾幕だろうが大抵は燃やせるので正しいのかはわからないが。

 

 ともかく、ヤマメが呆然としている今がチャンスだ。

 先ほど中断したスペルカードを投げ、右手に握る舞姫に霊力を込める。

 

「霊刃『森羅万象斬』!」

 

 そして巨大化した霊力の刃を振るい、撃ち出した。

 しかしその色は青ではなく赤。たぶん火神の炎を纏ったまま使ったのが原因だろう。

 

 ヤマメは効かないとわかっているはずなのに、おそらく反射で糸の結界を出して自分の身を守ろうとしてしまった。だが炎の刃はそれをバターのようにやすやすと引き裂き、奥のヤマメごと真っ赤に燃えた。

 

「ぎゃァァァァァァァッ!!」

「あれ、弾幕ごっこ用だからそこまで威力は高くないはずなんだけど」

『たぶん本人も火に弱かったんじゃないかしら』

「あ……それは悪いことをしたなぁ」

『笑いながら謝罪する妖怪を初めて見たわ。というか絶対反省してないでしょ』

「あ、バレた?」

 

 弾幕ごっこのルールの一つに、事故としての死亡は仕方ないというものがある。もちろんこれは私なりにわかりやすくアレンジした文だから実際にはこんなフランクに書かれてないんだけど、要約するとだいたい同じだから大丈夫。

 実際に弾幕ごっこでの死亡例はまあまあある。そりゃ手加減してるとはいえ上空で弾幕バンバン撃ち合うんだから当たりどころが悪けりゃ死ぬでしょうね。そんでもって殺した側が罰せられたなんて話は聞いたことがない。

 つまりは、事故なら殺してもいいということである。

 

 もちろん私はヤマメになんの恨みはない。ただ、せっかく有利になるアドバンテージを捨てるというのはもったいないことだ。

 そんなわけで私は一切ためらわずに両刀に再び炎を纏わせ、痛みと恐怖で震えるヤマメへ突っ込んだ。

 

 むちゃくちゃにしなった鞭のように、何十もの糸が襲いかかってくる。

 だが遅い。右回り、左回りと回転して糸を焼き払う。

 私の身長の倍ほどの太さを持った糸が薙ぎ払われた。あれはおそらく私が他の糸を切っている間に作ったものだろう。まるで伸び縮みする丸太だ。

 刀を振るうが、流石に軽い一撃だけじゃ切ることも焼くこともできず、上に弾かれた。

 いや、弾かせたと言った方がこの場合は正しいかもね。

 

 見下ろせば斜め下には丸太糸を両手で操るヤマメの姿が見える。

 勝機だ。

 私は体の手前で両方の刀の柄頭を合体させるように合わせる。そしてそのまま体ごと縦に高速で回転して、再びヤマメの元へ突っ込んだ。

 

「楼華閃二刀流『地獄車』!」

 

 今の私は側から見ればどこぞの青い音速ハリネズミそのもの。と言っても纏う炎のせいでカラーは赤になってるんだけど。まあそれをイメージしてもらえればいいか。

 赤い車輪となった私に振り下ろされる丸太糸。だがそれを避ける必要はどこにもない。

 赤い車輪はそのまま丸太糸に接触。途端に私の体は溶けるように丸太糸の中に侵入し、そのまま内部を切って焼き尽くしながら進んでいった。

 そして丸太糸を突破すれば——見えたのはヤマメの顔だ。

 

 これでトドメ、と思った時に、ヤマメが不自然に口を膨らませているのが目に映った。

 まるで口の中に何かを含んでいるような……っ!? 

 

 召喚した闇の巨碗で私の体を強制的に吹き飛ばすのと、ヤマメが口から紫色の霧を吐いたのは同時だった。

 

「ぐふっ……! 毒か!」

「正解。どんどん行くよ!」

 

 危なかった。多少のダメージを覚悟して自分を吹き飛ばしてなければ直撃だった。

 つばに混じった血を吐き捨て、体勢を整える。

 やっぱり、地底の妖怪は一筋縄じゃいかないらしい。こっちが事故で死んでもなんでもいいから最も効率の良い攻撃をしているのと同じように、あっちも相手の生死を無視して自分の本領を発揮している。

 地上の妖怪なんかとは違って甘さというものが全くない。

 こりゃ、魔理沙の方は苦戦してるかもしれないなあ。

 なんせこの中で一番の甘ちゃんと言えば魔理沙だ。迫り来る死の中での弾幕ごっこはかなりの精神をすり減らすことだろう。

 

 毒をもう隠す必要がなくなったのか、ヤマメは次々と通常の弾幕に混じって毒を飛ばしてくる。

 それらを炎で切り裂き、蒸発させてなんとか防いでいく。しかし彼女の毒霧が判明した以上接近戦は得策じゃない。

 だったら、こっちもスペカを切るしかないね。

 

「斬舞『マルバツ金網ゲーム』!」

 

 私は目の前の空間を縦に五回、横に五回ずつ切り裂いてマルバツゲームのボードを描く。そしてそれを飛ばした。

 ボードはヤマメの糸弾幕と激突。そして特に抵抗もなくズパッと糸弾幕の方が切れた。

 

 もちろんこれ一つだけじゃない。何十ものボードがどんどんヤマメへと迫っていく。

 

「今までの攻撃であなたが硬い弾幕を放つことができないのはわかってるんだよ! そのまま切り裂かれちゃえ!」

「それを工夫するのが、一流の妖怪ってもんなんでねっ!」

 

 ヤマメはそれぞれの指から糸を出す。しかし壁に向かってだ。

 私と違って動くわけもないから簡単に糸は壁にくっついた。そして彼女がそのまま糸を引っ張ると、壁の一部が分離して崩れた。そのままできた巨大な岩を盾がわりにすることで、彼女は私のボードを全て防いだ。

 

 ちっ、地底の環境を知り尽くしているからこそできる戦法か。忌々しい。

 なんとかしようにも、私のスペルカードの時間はもう過ぎてしまっていた。

 

 攻守が交代し、今度はヤマメがスペルカードを構える。

 

「瘴気『原因不明の熱病』!」

 

 ヤマメの周囲に巨大な赤い弾幕がいくつも出現する。そしてそれらは同時に弾け飛び、何百もの小さな赤い弾幕に分散して私に襲いかかった。

 

 近くに来た弾幕を切ろうと刀を振りかぶり——本能が嫌な予感を伝えて来た。

 とっさに身を引き、よくよく弾幕を観察してみる。

 

『どうしたのよ?』

「これは……熱病の呪いがかかってる。弾幕もどちらかと言えば気体に近い形だし、下手に切ってたらやばかったかも」

 

 萃香がヤマメは病気を操れる的なことを言ってた気がするが、こういうことか。

 これはおそらく触れたら一発アウトなやつだ。流石に死ぬことはないけど動きが格段に悪くなってしまうだろう。

 それにちょっと条件が悪いね。この狭い空間に何百も飛んで来てるせいで下手に身動きが取れない。

 

 だけど、もう弱点は見切った。

 妖桜をしまい、空いた左手で竜巻の魔法を放つ。

 

『バギマ』。

 中規模な竜巻が私の近くに発生。それによって赤色の弾幕が次々と巻き込まれ、吹き飛ばされていく。

 

 熱病という性質を弾幕が持っている以上、その質量は風に乗るくらいに軽くなってしまう。

 例としてあげればインフルエンザだ。これは風に乗ることで広範囲を移動することができる。

 なら、その風を操ってしまえば? 

 あとは簡単だ。

 最近作ったばっかの新しいスペルカードを投げ捨てる。

 

「銀風『白疾風』」

 

 一振りの間に数十もの真空波が出現し、銀色の風となってヤマメへと迫る。

 さすがに天子戦で見せたように何百もの斬撃を生み出すことはこの体じゃできないけど、この戦いならこれだけの数で十分だ。

 

 ヤマメが糸や弾幕を操って銀色の風を止めようと試みる。しかしそれらは全て切り裂かれ、標的を通り過ぎた。

 次の瞬間、彼女の体中から血が噴き出る。

 そして断末魔をあげる間もなく、彼女は脱力して地底の穴の底へと落下していった。

 

「ふぅ、まずは雑魚敵クリアか」

『見事に無傷じゃない。おめでとー』

『ま、あれくらいのやつで苦戦するようじゃこの先は生き残れないだろうからな。当然の結果だ』

「ご忠告どうも。さて、魔理沙の方はどうかな?」

 

 そう口にした瞬間、頭上から黒焦げになった釣瓶が落ちて来た。そしてヤマメと同じように地底の闇に消えていく。

 どうやら杞憂だったみたいだね。魔理沙も無事勝てたようだ。

 

 私は勝利に喜んで無邪気な笑みを浮かべる少女を頭の中で浮かべながら、彼女たちと合流するため浮上した。

 

 


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