東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:日差丸

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恐怖のサードアイ

 

 

 室内とはとうてい思えないほど広大な空間を飛び回る。

 序盤は通常弾幕の差し合いからだ。これで相手のだいたいの力量を測ることができる。

 

 私の弾幕群とさとりの弾幕群がすれ違い、それぞれの標的を襲う。しかし様子見の弾幕に当たるはずもなく、私たちは互いにたやすくそれを避けた。

 その後何回か弾幕を出しては部屋の空気をかき乱すように縦横無尽に動き続ける。

 

 わかったのは、さとりは決して強い妖怪ではないと言うことだ。

 もちろん地霊殿の主が弱いわけがない。隙のない配列の弾幕に、相手の攻撃を冷静に見極める目は決して彼女が弱者ではないことを証明している。

 だが、彼女には突出した何かがないのだ。巨大な弾幕が放てるわけでも素早く動けるわけでもない。あくまで動き方がいいだけであって、それはどんな妖怪でも理論上練習すればできるようになるものだ。

 言ってしまえば、彼女はどこまでいっても平凡の域を出ていなかった。

 

 ならセオリーとかにはないことをすれば簡単に崩せるはず。

 そう判断し、スペカを一枚切ることにした。

 

「氷華『フロストブロソム』」

 

 何もない空間に突如巨大な氷の薔薇が次々と咲いていく。それらは散ると、花弁が弾幕と化してさとりを襲った。

 彼女はしかしこれを難なく避ける。だけど、狙いはそれじゃない。

 

 ここはいくら広いとはいえ室内だ。そんな中でこんなに大量の弾幕を放てば、必ず壁に当たる。そうやって無数の花弁を反射させて部屋中を弾幕で満たし、複雑な檻を作り出した。

 

 第一段階がうまくいったところで、左手に妖力を込め、桃色のレーザーを放つ。

虚閃(セロ)』。

 敵がいる方向とはまったく見当違いな場所に放たれたそれは、しかし無数の花弁に当たることで反射を繰り返し、軌道を不規則なものに変えた。

 常人では次の弾道を予測することすら難しいこの状況。だけど無駄に高性能な私の頭脳なら、簡単にどこに弾幕が進んでどこに反射されるのかを計算することができる。

 その完璧な計算のもと放たれたレーザーは、最終的にさとりの背後の花弁に反射されて、彼女を襲う。

 

 決まった。そう確信する私。しかしその予想は次の瞬間まったく裏切られることとなる。

 

 彼女は振り返りもしなかった。ただ、レーザーが飛んでくる完璧なタイミングで体を動かしただけ。

 彼女が速くなったわけじゃない。あれはもっと別のものだ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……! 

 

 そこまで考えたところでハッと顔を上げ、さとりを見つめる。

 彼女は飛んでくる花弁に目もくれず、しかし適切に体を動かして避け続けている。

 

「さっきの話、忘れてたんですか? 私は心が読めるんですよ。たとえどんなに計算が難しい数式でも、答えを知ってる私には通用しない」

 

 やはりだ。彼女は私の心を読むことでレーザーが来る場所をあらかじめ知っていたのだ。

 冷や汗が垂れる。

 でもこれはわかったところでどうにかなる問題じゃないぞ。

 無心になれとかいうやつがいるかもしれないが、これは漫画じゃないんだ。特に相手の弾幕を分析し、回避ルートを計算していく必要がある弾幕ごっこでは思考を放棄したやつから落ちていくのが常だ。

 

『厄介ね。普通の戦闘ならどうってことないんだけど……』

『しゃらくせぇ! 回避できないぐらい広範囲に攻撃ばら撒けばいいだけだろ!』

「それができたら苦労しないんだよ」

 

 弾幕ごっこでは常に弾幕には相手が避けれるだけの隙間を作っておく必要がある。火神みたいに炎で部屋中埋め尽くせばいいってわけじゃないのだ。

 

「そこに誰かいるんですか?」

 

 と、疑問を投げかけてくるさとり。彼女は突然私が独り言をし始めたのを怪訝な表情で見つめていた。

 まさかさとりのやつ、こいつらの心を読めてないんじゃ。

 考えてみればそれはそうだ。通話の奥の相手の心まで見ることができたら、彼女は間違いなくもっと上の地位に立っていただろう。

 彼女の能力も完全ではないということか。

 

 だからといって、こいつらを利用することはできない。こいつらはあくまでサポートなだけであって、私の体を勝手に動かしたりすることはできないのだ。作戦を任せようにも、その内容を知った時点でもうアウトだ。それは同時に彼女に伝えることになってしまう。

 

 すぐには名案が浮かんでくることはなかった。だが何かあるはずだ。

 考えろ、考え抜け……! 

 

 しかし彼女はそんな私の心情を察していたのか、攻撃の手を休めることはなかった。

 私のスペカが終了した瞬間、間を縫うように彼女のスペルカードが発動される。

 

「想起『飛行中ネスト』」

「飛光中ネストだと!?」

 

 白い虫のように小さな弾幕が瞬く間に針のような細さのレーザーとなり、それが尋常じゃない数、放たれる。

 その弾幕はまさしく紫のスペルカード『飛光中ネスト』に瓜二つだった。

 

「あなたの記憶の中から強そうなスペカを拝借させていただきました」

「そこまでできるの!? ……うわ、危なっ!」

 

 そう叫んだ瞬間、レーザーが鼻先をかすった。

 くそ、さすが紫のスペカだけあって、避けるのが難しい。針のような細さのレーザーが数百単位で飛んでくるのだ。しかも高速で。いくらスピード自慢の私といえど、この姿じゃ完全に避け切ることはできない。

 

 闇のリングに妖力を込めて、目の前に黒い壁を作り出す。

 レーザー針は次々とそこに殺到し、割り箸のようにポキポキと折れていく。どうやら彼女の想起は形だけしかスペカを再現できないらしい。本物ならこんなチンケな壁なんて簡単に貫いて、今ごろ私ごと串刺しになっているところだ。

 

 とはいえ、このままスペカ終了まで待つことはできそうにない。

 さとりもバカじゃない。正面から突破できないなら、あらゆる方向からレーザーを打ち込んでくるはずだ。そして残念ながら私が出せる闇の面積じゃ、体を完全に覆うことはできない。

 

 なら、逆にこちらから飛び出してあいつの度肝を抜いてやろう。

 しかしすぐに自分の心が読まれていることを思い出し、実行に移そうとした体が一瞬止まる。

 その隙を見透かしたかのように、背後から数十ものレーザーが襲ってきた。

 

 闇は……間に合わない! 

 ならばと舞姫を握る手に力を込め、それを振るう。

 高速の斬撃によって大部分は砕くことができたが、しかしそれでも全部を防ぐには至らず、数個の針が体を貫いた。

 

 うめき声をあげると同時にさとりのスペカが終了する。

 残機はあと一つだ。もう後がない。

 焦りが積もっていくのを感じる。

 

 そしてその不安を覗いたのか、さとりはスペカが終わった途端に迷わず次のスペカを唱えた。

 

「想起『百万鬼夜行』」

「今度は萃香のか!」

 

 霊夢が戦ってる時に見たことがある。

 このスペカの特徴はとにかく弾幕の数が馬鹿みたいに多いことだ。千を確実に越える数の中小弾幕が室内でばら撒かれた。そしてそれらは次々と壁に反射されていく。

 

 これは……さっきの私の戦法か! しかも数が多い分私の時よりも複雑になっている。

 視界に入りきらない数の弾幕がまったく違った軌道を描きながら私の元へ飛んできて、また別の弾幕に当たっては軌道を変えることを繰り返していく。

 

 さすがにこの数は森羅万象斬じゃかき消せない。かといって火神の炎じゃ範囲不足だし、他のスペカにはそもそも敵の弾幕を撃ち落とすのを想定して作られたスペカはない。

 なら、今ないものを作ればいいだけだ。

 幸い今回はお手本となるものが私の記憶の中にあったので、それを引っ張ってくることにした。

 勝手に技パクるのを許してほしいな、霊夢。

 

「夢符『封魔陣』!」

 

 絵柄が浮かんだカードを空気に叩きつける。

 するとそこを中心に透明な結界が広がっていき、瞬く間に視界に映る全ての弾幕を飲み込み、駆逐した。

 

 さとりはかろうじて結界の範囲外に逃れたようだ。だが封魔陣の無駄に広い効果範囲によって彼女は壁際まで追い込まれていた。

 判断は一瞬。

 左手で妖桜を抜き、それを投擲する。しかし軌道を読んでいたようで彼女はほとんど動くことなくそれをかわしてみせた。刀身が壁に突き刺さり、動きを止める。

 

 彼女は武器を一つ失くした今が勝機だと判断し、最後のスペカをかかげる。

 

「想起『二重黒死……っ!?」

 

 しかしその声は、突如背後から迫ってきた弾幕によって中断された。

 さとりですら見えなかった弾幕。心を読むことに慣れていた彼女は急な不意打ちに反応できず、背中で弾幕を受けることとなった。

 

 今日初めて、さとりの澄まし顔が苦痛に歪む。

 

「ぐぅっ……! いったいどこから……!?」

 

 彼女は背後に振り返り、弾幕の出どころを確かめようとする。

 その目に映ったのは、壁に突き刺さった妖しげなオーラを纏う刀。

 

「まさか……」

 

 彼女はよくよく目を凝らして刀を調べる。そして次には驚愕によって目を見開いていた。

 

 どうやらカラクリのネタがバレてしまったらしい。ならもうあのまま放置する必要はないね。

 刀に声をかけ、手元に戻るよう命令する。

 

『はいはーい。わかりましたよ楼夢さーん!』

「やはり……意思を持った刀でしたか……」

 

 明るい女性の声が刀とともに返ってきた。

 そう、さっきの攻撃は私のではなく妖桜に宿る早奈によるものだったのだ。さすがのさとりも眼中になければ心を読めなかったようだ。

 とはいえ、もうこの不意打ちは使えないだろう。次は早奈もマークされてしまうだろうし、あと一つ彼女に攻撃を当てる手段を考えなくては。

 

「想起『二重黒死……いえ、やっぱこれはやめておきましょう。ちょうどいい記憶が見つかったことですしね」

 

 そう言うとさとりはスペルカードを引っ込め、妖桜を凝視してきた。

 彼女の発言を推測するのなら、次のスペカは早奈の記憶の中のものからだろう。なんだかとてつもなく嫌な予感がする。

 そしてそれはものの見事に命中した。

 

「『反魂蝶—満開—』」

「ちくしょう! やっぱ鬼畜スペルじゃんか!」

 

 そりゃそうだよねぇ!? 早奈から選ぶとしたらそりゃ鬼畜弾幕になるよねぇ!? 

 

 部屋の全てを埋め尽くすほどの青と紫、そして赤の蝶型弾幕が放たれる。

 幸い本物のように一撃当たれば即死の能力は付与されていないようだけど、どっちみち残機は残り一個なので当たったら即ゲームオーバーだ。

 

 私の手持ちであの膨大な数の弾幕に対応できそうなのは……これだ! 

 

「滅符『大紅蓮飛翔衝竜撃』ッ!!」

 

 最後のスペカ宣言。

 私の背中に巨大な炎と氷の翼が生えてくる。そしてそれを羽ばたかせることによって暴風とともに炎と氷を放ち、蝶を迎え撃った。

 

 私の攻撃に当たった蝶は次々とガラスのように簡単に砕け散っていく。

 やはり、威力までは再現できていないか。彼女の妖力ではこれが限界ということなのだろう。

 ならばと次々と暴風を巻き起こし、片っ端から弾幕をつぶす。

 それでもさとり本人にだけはどんだけ撃ち続けても当たることはなかった。

 残り時間はあとわずか。これで決めるしかない。

 

『大紅蓮飛翔衝竜撃』最後の攻撃。

 両方の翼で体を包み、できたエネルギーを纏うことで自らが光の巨竜と化す。そして私は光の速度でさとりへ突っ込んだ。

 

 しかしそれすらも全部読まれていたようだ。彼女は大きく横に飛び退く。そして突進は見事に避けられ、私は壁に頭から突き刺さった。

 でも、まだだ! 

 

 さとりの目の前に妖桜が落ちてくる。

 私は突進すると同時に刀を投げ捨てていたのだ。

 刀から黒い光が出てきて、早奈本来の姿が現れる。彼女はその手に握った愛刀を握り、真正面に振り下ろした。

 

 しかし……。

 

「全部読めてるんですよ!」

 

 さとりは早奈の攻撃をも見越したうえで、再び横に大きく飛び退き、攻撃を回避してみせた。

 やはり、妖桜は警戒されていたか。でも人の心を読むのに周遊しすぎて、周りを見るのを忘れていたね。

 

 さとりが飛び退いたその延長線上。そこには部屋の壁が立ちはだかっていた。

 部屋に響き渡る激突音。しかし彼女も妖怪だ。この程度でダメージを受けることはない。だが、彼女の目は大きく見開かれていた。

 

 壁にぶつかった彼女は急いで後ろに逃げようとして、足を止める。

 なんと、彼女の背後にも壁が立ちはだかっていたのだ。

 

 そう、さとりが飛び込んだのは部屋の角。つまりは袋小路だ。

 どうやら上手くいったらしい。私たちの行動を読むのに必死で、その意味を理解するのを放置してくれていたおかげだ。

 

 袋小路の脱出口は真正面だけど、そこにもちゃんと人材は投入してある。

 

 おそらくさとりが袋小路に入り込む前からそこにあったのだろう。彼女の逃げ道を塞ぐように、私の舞姫が地面に突き刺さっていた。

 投げてた刀は一本だけって誰が決めた? 

 

 刀からは妖桜とは対照的な白い光が放たれ、やがて人の姿を取っていく。

 現れたのは、大人バージョンの私だ。だが体中の色素が抜け落ちており、真っ白を身につけていた。

 

「よぉ女ァ。知ってるか? 弾幕ごっこではな、障害物を利用した不可回避の弾幕は反則にはならないんだぜ?」

 

 笑う狂夢の手から弾幕が放たれる。

 それはごく一般的な、ちゃんと回避する隙間も空けてある弾幕だった。しかし横にも後ろにも動くことのできないさとりに逃げる隙間はない。

 

 そして彼女は何も抵抗できぬまま、弾幕をその身に受けて倒れた。

 

 

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