東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:日差丸

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旧灼熱地獄の洗礼

 

 

「ヒャッハー! 久しぶりの現世だ! 思いっきり暴れてやるぜェ!」

「あ、お帰りはこちらになります」

「はっ? ちょっ、おまっ、待ちやが……っ!?」

 

 さっそく馬鹿を起こしそうになった狂夢を強制送還させ、刀に戻す。

 よし、あと一人だ。

 くるりと視線を早奈の方へ向ける。

 

「え、えーと、私今回活躍しましたよね? だからほら、ご褒美が欲しいなー、なんて」

「はいはい、ご褒美に真っ先に家に帰らせてあげるよ」

「嫌だぁ! まだ一つも魂食べてないのに!」

 

 物騒な捨て台詞を吐いて彼女も消えていった。

 はぁ。なんで私の妖魔刀は頭のネジがぶっ飛んでるやつしかいないんだろう。これならまだ見境なく暴れようとしない分、ルーミアの方がはるかにマシだ。

 まあ無事送り返せたのだし、この悩みは置いとくとするか。

 

 部屋の隅で倒れているさとりに近づく。

 彼女は気絶してはいないようだ。しかし観念したのか、抵抗する素振りはまったく見せてこなかった。

 

「なにやら聞きたいことがあるそうですね。あ、喋らなくて結構ですよ。今読みますので」

「えらく大人しいじゃない」

「下手に暴れて怪我をしたくないですからね。私はあなた方の実力はよく知っているつもりです」

 

 皮肉を込めた霊夢の質問にもまったく感情を揺れ動かさず、淡々と事務のように話すさとり。

 やっぱり心が読めると口も達者になるのかねぇ。まったく反応を見せない様子に、逆に霊夢がイラついてしまっている。

 

「まず、単刀直入に言わせてもらいます。今回の異変は私の指示によるものではありません」

「……じゃあ、さとりは異変とは関係ないってこと?」

「いいえそれは違います。正確に言うと、私のペットの一匹が暴走を始めたのです」

 

 彼女は今回の異変の真相について語り出した。

 

 今回の異変の黒幕は彼女のペットである八咫烏らしい。普段はその能力を買われて旧灼熱地獄の管理を任されていたようだ。

 しかしある日そのペットが謎の力を手にしたことによって、急激にパワーアップしてしまった。その身に余る力にペットは酔い、暴走。その影響で怨霊が灼熱地獄から地上へ逃げていってしまったらしい。

 さとりもそれを止めようとしたのだが、いかんせん貧弱な彼女では歯が立たず、今では放置しているとのことだ。

 

 謎の力ね。気になるところではある。もしかしたらそのペットすらも囮で、真の黒幕が隠れているかもしれない。

 まあなんにせよ、まずはそのペットとやらからだ。そいつをぶちのめせば異変はひとまず解決するだろう。

 

「となったら異変解決までラストスパートだ! 気合い入れて行くよ!」

 

 元気よく腕を突き上げ、旧灼熱地獄へ向かおうと歩を進める。

 

 ——その瞬間、すさまじい轟音を響かせて部屋の壁が文字通り爆発した。

 

 突然のことすぎて私たちの思考は一瞬止まってしまった。

 しかしその中でも私だけはいち早くこれが誰の仕業なのかがわかってしまい、体を震わせることとなる。

 

 この妖力の質に乱暴な手段。

 まさか……!? 

 わずかに見えた一縷の望みにかけて、煙の先にいる人物を凝視する。

 しかしこの時ばかりは神頼みも機能しなかったようで。

 

 私にとっての悪夢が、そこに立っていた。

 

「おお、やっと見つけたぞ! 久しぶりじゃのう、楼夢!」

 

 満面の笑顔を咲かせてこちらに手を振ってくる女性。

 赤い着物にどんな鬼よりも立派な二つの角。

 鬼の頭領、鬼城剛だ。

 

 彼女のあまりの妖力に人間の二人は当てられ、相対するのも厳しそうだ。特に魔理沙は床に膝をついて、荒々しく呼吸をしている。

 ちっ、相変わらず手加減も遠慮もクソも知らないようだ。もうちょっと妖力抑えろっつーの。

 

『相変わらず妖力を操るのが苦手そうだなァ剛。もうちょっと俺らを見習ったらどうだ?』

「むっ、お主はもしや……田中か?」

『火神矢陽だこのざる頭! 誰だよ田中って!?』

「なんじゃ、お主か。ずいぶんちっこくなったのう。痩せたか?」

『それは通信機だバカ野郎! たかが千年でどうやって高身長イケメンの俺がこんな指輪になるんだよ!?』

「む、つうしんき? 神通力の一種かなにかか?」

『おい楼夢、このバカをどうにかしてくれ! 日本語が通じねェ!』

 

 いや私にパスされても困るよ。

 応答セヨー、応答セヨー。しかし返事は返ってこない。

 あんにゃろ、逃げ出しやがったな。

 

 そうやって指輪に気を取られていると、誰かに腕を掴まれてしまった。

 恐る恐る視線を上げる。そこにはいつのまにか近づいてきていた剛の顔があった。

 

「前回は萃香のせいでできなかったが、これでもう逃げられんじゃろ。さあ今日こそはお持ち帰りじゃ!」

『ちょっとふざけんじゃないわよこの淫乱女! さっさと楼夢から離れなさい!』

「ほう、スキマ妖怪もおったのか。じゃが、今は手出しできんようじゃのう。ほれほれ」

「え、ちょっ、剛さん? がっ……!」

 

 剛は胸を押しつけるようにして私に抱きついてくる。そしてその光景を紫の陰陽玉に見せびらかしていた。

 だけど抱きつく力が強すぎて、体がメギメギ言ってるんだけどあの……? 

 吠える陰陽玉。勝ち誇った笑みを浮かべる鬼女。お互いが煽り合うのに夢中で二人の瞳に私は映ってはいなかった。

 あ、もうだめだわこりゃ。息が……っ。

 体中の力が抜けていくのを感じる。

 

『ああっ、楼夢が気絶した! 何してくれちゃってるのよあなた!?』

「なんじゃ、まだ昼寝の時間には早いぞ? まあよい、この良妻たる儂が丁寧に家まで運んでやるのじゃ」

『霊夢、最終手段よ! あいつを止めなさい!』

「いやよ。私だって死にたくないわ。それに犠牲が楼夢の貞操なら安いものよ」

『霊夢──!!』

 

 ……うん、超はっきり聞こえちゃったんだけど。泣いていいかな? 

 ただでさえ意識がもうろうとしているのに、追い討ちをかけるような霊夢の言葉にショックを受けたことで耐えきれなくなったようだ。視界が真っ白に染まっていく。

 最後に聞いたのは、陰陽玉から響く紫の叫び声だった。

 

 

 ♦︎

 

 

「……おい、あれ本当にほっといていいのか?」

「人の痴話喧嘩にいちいち手を突っ込んでたらキリがないわよ。というかあれは女たらしな楼夢が悪いわ」

「あー、色々なやつに手出してそうだもんな、あいつ」

 

 剛と楼夢が消えていった壁の穴の奥を見つめながら、二人は話す。その表情は心配よりも呆れの方が上回っていた。

 二人の中で楼夢は面倒な人物となってはいるが、あれでも昔は外見も合わせてかなりイケメンな性格だったらしい。その話は紫を含めて様々な古参妖怪たちから聞くことができたので本当なのだろう。しかし霊夢たちにはにわかに信じがたい話だった。

 

 たしかに、たまに確信を突いたような鋭い言動や異変時においても中々の活躍をするのだが、元のイメージがあれなせいでかっこいいとはとうてい思えない。だがそこらへんは十数年しか生きていない自分たちと昔からアレをよく知る年寄り連中との差だろうと、これ以上の思考を打ち切る。

 

「それでさとり、どこからその旧灼熱地獄とやらには行けるのよ?」

「中庭からです。せいぜい私のペットたちに食べられないようお気をつけてください。あの子たちは基本放し飼いなので、たまに私の予想外のことをしでかしますから」

「ええ。たった今この異変で調教師の力不足を実感してるわ」

「返す言葉がありません」

 

 皮肉を込めたセリフだったのだが、やはりさとりには効かないようだ。素直にペコリと頭を下げられて流されてしまった。

 これ以上口を開いても自分が火傷するだけだと判断し、先に進むことに決めた。

 

 

 中庭には地下に続く階段があった。

 おそらくあまり出入りする妖怪はいないのだろう。石造りの階段にはところどころに庭の緑が侵食しており、中は埃臭くて薄暗い。

 そのまま地下へ進んでいく。

 ロウソクがポツポツと壁際で灯されてはいたが、その火は弱々しく、頼りげない。仕方がないので霊力で作った光球を浮かべて明かりの代わりにした。

 

『けっこう暗いわね。映像があまりよく映らないわ。魔理沙、あなたも明るくできないの?』

「おいおい、そういう細かい魔力制御は私の専門外だぜ。それにほら、もうすぐ明かりも必要なさそうだ」

 

 魔理沙が指差した通路の奥からは光が差し込んでいた。おそらくは出口だろう。

 だが二人の足取りは重い。それもそのはず、出口に近づいていけばいくほど気温が上がっているように感じられるのだ。現に彼女らは薄暗い通路なのにも関わらず玉のような汗を額に浮かべている。

 そしてようやく出口へ出た時、それは勘違いじゃないと証明された。

 

 外へ出た二人を待っていたのは、太陽が近くにあるかのような光と熱。

 赤褐色の土が大地を、黄色のガスが空を覆っている。おまけに地面からはボコボコとマグマが生物の心臓のように噴き出してきている。

 

 ドサリとのしかかってきた熱気に二人は思わず呻いた。

 

『ひゃー、さすが灼熱地獄だった場所だけはあるね。すごい光景だ』

「言ってる場合じゃないわよ……。ああもう、汗がベタついて最悪」

「くそっ、なんでこんな時に限って楼夢がいないんだっ。あいつなら絶対体を冷やすマジックアイテムとかを持ってるはずなのに……」

「ちっ、肝心なところで役に立たないわね」

 

 散々な言われようだ。だが、二人は今ここに楼夢がいない理由をさらわれたのではなく女に遊びに連れていかれたと認識しているので、そんな愚痴が出てしまうのも仕方ない。

 

 それでも進まないわけにはいかないので、二人はさっさとここから脱出するために赤褐色の地面に足を伸ばす。

 そして弾かれるようにすぐ引っ込めた。

 

「あっちっち!? なんだこの土、まるで炎みたいだぜ!」

『どうやら地下に眠る熱が強すぎて土が熱せられてるみたいね。サンプルにひとつまみ取ってくれるかしら?』

「できるかそんなこと!」

 

 結局、空中を飛んで進むことにした。こうすれば足が地面につく事はない。

 しかし一難去ってはまた一難と言うように、しばらく進んだところで今度は黒猫が宙に浮いて二人を待ち構えていた。

 よく見たら尻尾が二つある。ということは……。

 

「気をつけなさい。妖怪よ魔理沙」

「おっ、中々鋭いじゃないか人間。バレない自信があったんだけどね」

「というか普通の猫は飛ばないものよ」

「うにゃ? そりゃそうか。いやー失敗しちゃったね!」

 

 黒猫はそう喋ると姿を霊夢たちと同年代くらいの少女のものに変えた。しかし猫耳や尻尾など、ところどころに面影が残されてはいる。

 

「はじめまして、アタイは火焔猫燐! さとり様のペットで、みんなからはお燐って呼ばれているよ!」

「あんたなんか黒猫Aで十分よ。それで、そのさとりのペットとやらがどうかしたのかしら?」

「いやなに、ここの最深部にアタイの親友がいるんだけどね。このままじゃあんたらに退治されそうだからここで潰しておこうって思っただけさ」

 

 お燐はそう言い終えると一変、おちゃらけた雰囲気から牙をむき出しにして霊夢たちを威嚇してくる。

 交戦は避けられそうにない。

 そう判断し、霊夢がスペカを取り出そうとしたその時、旧灼熱地獄全体が音を立てて揺れ始めた。

 

 マグマはさらに活発化し、上からは今の地震か何かによっていくつもの岩が落ちてくる。

 それを避けながら、霊夢は叫んだ。

 

「ちょっ、今度はいったいなんだってのよ!?」

「あーこりゃ、お空がまた動き出しちゃったね。たぶん前みたいに地上を攻撃するつもりだと思うよ」

「何ですって!?」

 

 そうこうしているうちに揺れはドンドン激しくなっていく。

 だが彼女らの進行方向はお燐が塞いでいるので通ることはできない。

 その時、魔理沙がミニ八卦炉を構えた。

 

「ちょうどいいぜ霊夢。今日は出番が少なくてイライラしてたんだ。こいつは私がぶちのめしてやるから、先に行け!」

「……わかったわ」

 

 一瞬、霊夢は魔理沙の瞳を見つめる。彼女はここ灼熱地獄のように闘志を燃やしていて、もはや止まりそうになかった。

 それに地上への攻撃をやめさせるのなら、魔理沙の言う通りここは彼女を囮にしてでも先に進んだ方がいい。

 決断は一瞬だった。

 

 霊夢は全速力で熱風を切り裂き、飛んでいく。

 それを妨害するためにお燐が弾幕を飛ばしてくるが、それは魔理沙のレーザーによって消滅させられてしまった。

 

「おいおい、お前の相手はこっちだろ? あんまり霊夢ばっかり見てると嫉妬しちまうぜ?」

「ちっ……まあいい。所詮は人間。今のお空に勝てるわけないんだから。まずは先にお前の死体から回収してやる!」

「へっ、上等だこの猫野郎!」

 

 二人の姿を隠すように、間に火柱が噴き上がる。

 それを切り裂いて、二人の弾幕が激突。爆発を起こし、マグマを吹き飛ばす。

 

 旧灼熱地獄での弾幕ごっこが始まった。

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