東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:日差丸

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地獄の人工太陽

 

 

 マグマの海の上を飛んでいく。

 数秒ごとに噴き上がる火柱はまるでプロミネンスだ。当たってら最後、霊夢の体は骨も残さず溶けてしまうだろう。

 ここは旧灼熱地獄。その底の底。最深部である。

 

「だー、もうだめ! 暑い、暑すぎるわ! こんなところにいたらペットを探す前に焼き巫女になっちゃう!」

『焼き巫女……じゅるり、美味しそうだねぇ。今度味見してみてもいいかい?』

『バカなこと言ってるんじゃないわよ。もう少しよ霊夢。そこに今回の異変の元凶がいるはずだわ』

 

 衛星のように霊夢の周囲を浮く二つの陰陽玉と話すことで気を紛らわす。そうでもしないととてもやっていけないほどの暑さだった。

 究極の人間とも呼べる霊夢でさえこの様なのだ。おそらく並の人間なら数秒ここにいただけで気を失ってしまうだろう。

 顔中に流れる汗を袖で拭うが、効果は薄い。すぐに次の汗が噴き出してくる。長時間いたら脱水症状が出てしまうだろう。

 タイムリミットはそこまで長くない。そう悟り、元凶を探すことに集中しようとしたところで、黒い何かが彼女の前に降りてきた。

 

 それは漆黒の巨大な翼を生やした少女だった。特徴的なのは胸の間に挟まっている瞳のような赤い宝石と、右手につけられた砲身。

 少女は暑さで表情が歪んでいる霊夢とは対照的に汗一つかかず、笑顔で霊夢を見ていた。

 

「あなたが地上からの侵入者だね! 私霊烏路空! みんなからはお空って呼ばれているよ!」

「……あれは何かしら?」

『地獄鴉だね。地獄の死者の肉をついばむ下賎な鳥さ』

『にしては感じられるエネルギーが異常だわ。間違いなく今回の首謀者でしょうね』

 

 お空と名乗った妖怪は地獄鴉のことについて知らない霊夢でも異常と思うほどの妖力を放出していた。

 いや、よくよく見る限り放出というよりかは溢れ出しているようにも感じられる。まるで小さなペットボトルに入りきらない量の水を無理やり詰め込んだような……。

 それに彼女から感じられる妖力も普通のものとはかなり感覚が違っている。妖力のくせに巫女である霊夢はそれにどこか神聖さを感じていたのだ。

 

 だがいくら考えたところで答えは簡単には出てくれない。

 ならばやるべきことは一つだ。

 お祓い棒と五枚のスペルカードを構える。

 

「要するにこいつをぶっ倒せばいいわけね。いつも通りじゃない」

「うにゅ、私を倒すの? それは困るよ。私はもうすぐしたらこの力を使って地上へ侵略しにいくんだから。それで色んなものを焼きつくんだ! こんな風に!」

 

 お空は左手を軽く振るう。

 それだけで魔理沙のマスタースパークに匹敵するほどの密度を持つレーザーが複数現れ、マグマの海を貫く。

 そして次の瞬間大爆発が起きた。

 

 地底が衝撃で震えているのを感じる。

 これは長期戦は本当に危険だ。脱水症状の前にこの場所自体が下手したら崩れる恐れがある。

 なら多少危険でも早めに終わらせるほかないだろう。

 

『あの力……まさかっ! 気をつけなさい霊夢! そいつは——』

「さあいくわよ鳥頭。私が綺麗な焼き鳥に料理してあげる」

「あなたも私とフュージョンしましょ?」

 

『——そいつは、八咫烏を呑み込んでいるわ!』

 

 紫の注告が響くも、霊夢は止まらない。

 神の力を宿した妖怪に向かって、彼女は突き進んでいった。

 

 

 ♦︎

 

 

「これで消し炭になっちゃえ! 核熱『ニュークリアフュージョン』!」

「いきなりスペカ!?」

 

 開幕と同時にお空が投げたのはスペルカードだった。

 そして砲台が霊夢の方へ向けられ、離れていても熱気が感じられるほどのエネルギーが集中していく。そしてそれは霊夢ですら見たこともないほど巨大な光球となり、撃ち出される。

 

 最小限の動きなんてやってる場合じゃない。慌てて横へ移動し、弾幕を躱す。そして少しの間が空いた後、背後から爆発音が聞こえてきた。

 明らかにルール違反な威力に霊夢の眉が寄せられる。

 

「……冗談じゃないわ。なによあの火力」

『うひゃー、すごいねこりゃ。私でもくらったらヤバイかもね』

『それが八咫烏よ。やつは核融合によって生み出される究極のエネルギーを操ることができるのよ』

「誰よそんな頭おかしいのを一介の妖怪に渡したのは!?」

『私が知りたいわよそんなこと!』

『おいちょっ、喧嘩してる場合じゃないよ! 前、前っ!』

 

 萃香の慌てた声が気になって前を向く。そこには先ほど躱したはずの超大型弾幕が迫ってきていた。

 

「連射もできるってありなのそれ!?」

 

 あまりの理不尽さに思わず霊夢は叫んだ。

 スキマに逃げ込もうにも、霊夢が移動できる距離はわずか十メートル以下だ。弾幕から逃れるにはあまりにも足りない。

 ならばと先ほどと同じように横へ移動して躱そうとするが、間に合わず、核エネルギーの弾幕の端っこが霊夢の左腕に当たってしまった。

 

「うっ、ぐうっ……!?」

『霊夢っ!?』

「う、るさいわね……! 平気よこんなもの……!」

 

 そう霊夢は言うが、側から見ればとても大丈夫そうには見えなかった。特有の服とは分離した袖は消滅してしまっており、剥き出しになった左腕は肩から先までが黒焦げになっている。

 だが骨は折れていない。表面を焼かれただけだ。ならばまだ動かせると即座に判断し、次の弾幕に集中する。

 

 だが弾幕が来ることはなかった。スペルカードの制限時間が来たのだ。

 ならば今度はこちらの番とばかりに、霊夢はスペカを投げ捨て、宣言する。

 

「宝具『陰陽飛鳥井』!」

 

 通信機としての陰陽玉とは別の、紅白の巨大な陰陽玉を出現させる。そして霊夢はそれに蹴りを加え、お空へと撃ち出した。

 それに対抗するように、お空はスペルカードを取り出す。

 

「爆符『ペタフレア』!」

 

 再び砲身から核エネルギーの弾幕が放たれた。しかしその大きさはさきほどと比べて二回りほど小さい。その代わり、彼女はそれを何十発とマシンガンのように連射してきた。

 おそらく規模を縮小させたことで連続で弾幕を出すことに成功したのだろう。

 

 陰陽玉と熱の弾幕がせめぎ合う。一発の威力は陰陽玉の方が上だ。しかし数十発と連続で受け続けることで陰陽玉の勢いは衰えていき、やがてその表面にヒビがはっきりと現れ始める。

 

「アハハ! やっぱり私は最強なんだ! この調子で消し炭にして——きゃっ!?」

 

 高らかに笑うお空。しかしその声は突如目の前で発生した爆発によってかき消されることとなった。

 もちろん至近距離で爆発が起きれば巻き込まれるのは必然。煙が晴れたとき、お空の体にはいくつかの焦げがついていた。

 

「ぐっ、何で……?」

「アンタの弾幕はデカすぎるのよ。それが弱点ね」

 

 スペカ途中のお空を襲ったのはもちろん霊夢の弾幕だ。いや、正確には()()()()()()()()()()()()()()、と言った方が正しいか。

 種明かしをすれば、霊夢は萃香の陰陽玉の能力を使用したのだ。その能力は放った弾幕が相手の弾幕をすり抜けるというもの。

 お空の弾幕は面積が大きい分自分の視野までも殺してしまうことがある。その弱点を見抜き、利用することで、彼女に気づかれることなく霊夢は弾幕を当てることができたというわけだ。

 

 残りスペカはお空が三、霊夢が四。残機はともに二。だが戦場の雰囲気は振り出しに戻った。

 だが、その心境までは最初と同じとは限らない。

 お空は最強となったはずの自分に弾幕が当たった事実に怒り、少女らしい可愛さを消して鬼の形相で霊夢を睨んでいる。

 

 霊夢は相手が動揺している今がチャンスだと考え、間髪入れずにスペカを取り出す。一方のお空も状況を変えるためになりふり構わずスペカを唱えた。

 

「『パスウェイジョンニードル』!」

「っ、焔星『十凶星』!!」

 

 霊夢は武器である針を両手の指で挟めるだけ挟み、それを投げつける。そして光を思わせる速度まで加速したそれらはレーザーとなり、お空に迫った。

 

 だがお空は、今度は自分の周りに衛星のように超大型弾幕を五つ浮かばせた。そしてそれらを盾にすることで霊夢のスペカを完全に防いでみせた。

 しかしお空のスペカはそれだけではない。彼女の周りを囲う弾幕とは別のもう五つの超大型弾幕を出し、今度はそれらに霊夢を襲わせたのだ。

 

 一見攻守ともに完璧に見える布陣。しかしそこには一見穴があると気づいた。

 一瞬の思考の後、霊夢はスペカをもう一枚取り出す。

 

「夢符『二重結界』」

 

 霊夢を中心に二重の結界が彼女の周りの広範囲を囲うように張られた。

 そしてそのまま彼女は結界ごとお空がいる場所へ突進していく。

 

「その程度の結界で防げる弾幕じゃないよ!」

 

 お空はそう余裕を持って構えると、周囲に浮かぶ超大型弾幕の一つを動かして霊夢に当てようとした。

 しかし霊夢は進路を変えることなく、そのまま弾幕に突っ込んでいく。

 被弾まであと数メートル。ここまで近づけば彼女の速度での回避は不可能だ。お空は笑みを浮かべる。

 そして超エネルギーの弾幕が霊夢の前に張られた結界を壊した。——その瞬間、まるで映像をつけたまま画面を壊されたテレビのように、結界ごと()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()

 

「あんたって本当に頭悪いわね。私が無策で突っ込むわけないじゃない」

 

 突然横から聞こえた声にお空は振り向こうとする。だがその前に複数の弾幕が彼女に着弾した。

 その衝撃によって集中力を乱されスペカが消滅する。

 

『んー、霊夢、あの烏は何がしたかったの? ()()()()()()()()()()()()()()()()()気がするんだけど』

『……さすがね霊夢。まさか結界にこういう使い方があるなんて』

 

 今起こったことへの通信機の奥にいる妖怪たちの反応は全く異なっていた。

 萃香は困惑の声を漏らし、逆に紫は霊夢が何をしたのか理解したようで、感心している。

 それらを聞き流していると、どういうこと? と萃香の質問がおそらく紫に飛んできた。

 

『結界ってのは単に攻撃を防いだりするのが全てじゃないの。その本質は内側と外側の世界を仕切ること。霊夢はこれを利用して二重に結界を張ることで内部の空間を歪ませて自分の位置を相手に誤認させたのよ』

 

 紫の言っていることは正解だった。

 だが悠長に解説を続けている暇はない。お空が四枚目のスペルカードを握ったのを見て、霊夢も身構える。

 

「はぁ、はぁ……っ! ぐっ、こんなはずじゃないのに!」

「所詮は借り物の力ってことよ。あなた程度の器じゃ不相応だわ」

「うるさいうるさい! 『地獄極楽メルトダウン』ッ!!」

 

 お空の叫びに呼応するように、彼女の両手から二つの超大型弾幕が放たれた。

 大きさは最初のニュークリアフュージョンレベル。だが数が増えただけでは霊夢の脅威たり得ない。

 スキマの連続移動を繰り返すことによって高速で動き、左右から迫り来る超大型弾幕をやすやすと回避した。

 だがここでお空のスペカは終わらなかった。

 

 二つの太陽が互いに衝突したとき、そのあまりの衝撃とエネルギーによって爆発が起こり、全方位に向けて炎の波が発生した。

 回避できる穴はどこにも見当たらない。つまりはルール違反の不可能弾幕(インポッシブルスペルカード)

 それを見た霊夢の行動は早かった。

 

「神技『八方龍殺陣』ッ!!」

 

 霊夢は自分を中心に八方向全ての攻撃に備えるよう結界を張る。

 そこにお空の炎の波が押し寄せてきて、激突した。

 

 嫌な音を立てて崩れていく結界。どうやら不回避の弾幕だけでは飽き足らず、威力までもが人どころか当たれば妖怪ですら殺せる威力だ。

 炎をなんとか耐え抜いてみせた霊夢。その額には滅多に見せることはない青筋が浮かんでいた。

 

「よくもぬけぬけと博麗の巫女の前で反則行為を重ねられたものね……っ! 久しぶりにあったま来たわ!」

「うるさい! これで地上ごと消し炭になっちゃえ! 『サブタレイニアサン』ッ!!」

 

 お空は先ほどまで体中に満ちていたはずの全能感が打ち砕かれていくのに耐えられなかった。まるで駄々をこねる子供のように砲身を荒っぽく振るい、銃口を霊夢に定める。

 そして威力や規模などの一切を考えずに、ただ体から感じられる全ての力を右手に集中させた。

 その結果、旧灼熱地獄に人工の太陽が生まれた。

 

 今まで見たどの弾幕よりもそれは圧倒的に巨大だった。マグマの海のほぼ全ての面積を埋め尽くすほどの横幅。縦はマグマの底から天井につくほど長い。

 

 やがて太陽はブラックホールのように手当たり次第のものを吸い込み始めた。そして取り込めば取り込むほど、さらに太陽は巨大化していく。

 最初にマグマの海が干上がった。次に陸が全て消え去るのも時間の問題だろう。

 

 しかしそれでも、霊夢は一歩も退かずに太陽を睨みつけていた。

 陰陽玉から逃げろという声が聞こえてくる。しかしそれらを全て無視して、彼女は腕を組んでただその成り行きを見守っている。

 

「アハハハハッ!! 死ね! 死ね! 全部消え去っちゃえッ!!」

「——本当に鳥頭ね、アンタ。それの弱点をもう忘れてるんだから」

 

 霊夢のそのつぶやきはお空の耳には届かなかった。

 彼女は暴走する太陽を必死に押さえつけながら、狂ったように笑っている。

 そしてその太陽が解き放たれようとしたそのとき。

 

 ——七つの色とりどりな弾幕が、お空の背後に殺到した。

 

「だから言ったでしょ? ()()()()()()()()()()()()って」

 

 霊夢はお空がスペカを発動した瞬間から、無言でスペカではなく必殺技を放っていたのだ。

 先にルールを破ったのはお空だ。だからこそ、遊びではなく本気で霊夢はその力を振るうことができる。

 

「消し飛びなさい——『夢想封印』」

 

 そう唱えた瞬間、スペカではとうてい実現することができないほど巨大な爆発が起きた。

 翼が千切れ、腕が消し飛ぶ。

 七つの弾幕をその身に受けたお空は徐々に自分の力が抜けていくのを感じる。

 

『夢想封印』。妖怪を倒すために博麗の巫女が生み出した、妖怪の力を封印する必殺技。

 制御を失った太陽は徐々にエネルギーが分散していき、泡沫の夢のように儚く消え去っていく。

 

 そして翼を失ったお空はそのあまりのダメージに気を失い、復活したマグマの海に落ちて沈んでいった。

 

 

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