東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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VS紅魔郷

「……改めて近くで見るとかなりでっかいわね」

 

 レミリアは上を眺める。

 大樹は雲すら突き抜けそうなほど高く、飛んで行くにしてもすぐには着きそうにはない。

 とはいえ他に頂上に行く手段があるわけではないので、愚痴を言っても仕方がない。

 だったら上に行かなくてもいい方法を使うしかないと、妹であるフランに問いかけた。

 

「ねえフラン。この木、なんとか壊せないかしら?」

「うーん、さっきから試してるんだけどなぜか破壊の目が見つからないの。だから壊せないよ」

 

 こんなことは初めてだよ、と彼女はつぶやく。

 彼女の『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』は対象の目と呼ばれるものを握りつぶすことによって発動する。しかし肝心の目が見つからなければお手上げだ。

 

「おそらく、この大樹の纏う妖力がフランの力量を遥かに上回っているからじゃないかしら? 専門じゃないから断定はできないけど」

「うげっ、それはそれで嫌ですね……はあ、おうちに帰りたい……」

 

 パチュリーが自身の考察を言い、それを聞いた美鈴が心底嫌な顔をした。

 

 レミリア、フラン、パチュリー、美鈴、そして咲夜。それがここにいる全員だった。

 小悪魔は役に立ちそうにないので置いて来てある。その方が本人のためだろう。

 彼女たちは覚悟を決めると、大樹の幹に沿って上昇していく。

 

 

 そしてしばらく経つと、それは見えてきた。

 大樹の頂上に置かれた、巨大な魔法陣のような床。そしてその中央に佇む一人の男。

 レミリアたちは彼の前に降り立った。

 

「よぉ。一番手はお前らか? ずいぶんと遅いご到着だな。遅すぎて寝ちまいそうだったぜ」

「ふっ、主役は遅れてくるものよ」

「ハッ、雑魚が身のほどをわきまえろよ。テメェらはせいぜい前菜だろうが」

「……あら、言ってくれるじゃない」

 

 レミリアの体から膨大な妖力が勢いよく溢れ出す。が、目の前の男——神楽は涼しげな顔をしている。それが余計にレミリアのプライドを傷つけた。

 飛びかかろうとしたところ、それをパチュリーになだめられて、冷静さを取り戻す。

 

「お姉さんは絶対に返してもらうよ」

「返すも何もこれは俺のものだ。俺のものを俺が回収して何が悪い」

「……どうやら話をするだけ無駄なようね。いくわよっ!」

 

 レミリアは宣言するとともにフランと弾幕を放った。

 弾幕ごっこでは見られない本気のそれは、床に当たっただけで爆発を起こす。だが着弾点に神楽の姿はなかった。

 

「横よレミィ! 『アグニシャイン』!」

 

 パチュリーの魔方陣から炎の玉がいくつか放たれ、それがレミリアの横から接近していた神楽に迫る。

 だがそれは足止めにすらならなかった。神楽は一呼吸の間に何回もの斬撃を繰り出して火を払い、加速した勢いを利用してレミリアの顔面を蹴りつける。

 鈍い音がして、鮮血が舞う。彼女の体はボールのように吹き飛んだ。

 

「お嬢様!」

 

 追撃をさせないために美鈴が体を張って神楽の前に立ちはだかる。

 その体からは七色の闘気が溢れ出ていた。

 

「『彩光蓮華掌』ッ!!」

「遅えよ!」

「ごふっ!」

 

 それを右の手のひらに集中させ、前進しながら掌底を放とうとする。

 だが神楽は刀を地面に突き刺すと、彼女の突き出した腕をたやすく右手で掴み、カウンターで左の裏拳を顔面に叩き込んだ。

 まるで人身事故のように頭から一、二回転して美鈴の体はレミリアと同じように吹き飛んでいく。

 

「なっ……打たれ強いはずの美鈴が……!」

「楼夢と一緒にするんじゃねえよ。俺はスピード、パワー、そしてその他全てにおいて完璧だ」

 

 刀を抜きながら神楽は答えた。

 スピードがある代わりに非力で紙耐久な楼夢と、力はあるが大雑把な狂夢。二人の性質はまさしく正反対だ。

 神楽は彼らを吸収したおかげで、それらの良い部分を全て手にしていたのだ。

 

「落ち着きなさい、咲夜っ。これくらい想定内のことよ」

 

 立ち上がったレミリアがそう咲夜に呼びかける。その顔には先ほどできたはずの傷は見当たらない。

 

「へぇ……やっぱ吸血鬼ってのは再生が早いんだな」

「お褒めに預かり光栄よっ! 『レッドマジック』!」

「『マーキュリーポイズン』!」

 

 レミリアから無数の赤い弾幕が、パチュリーからは毒を含んだ水が放たれた。

 だが神楽にとっては無意味だ。

 

「『黒疾風』」

 

 刀を一振り。それだけで黒い刃の突風が吹き荒れ、弾幕を消しとばす。それどころか突風はレミリアをも飲み込もうと彼女に迫っていた。

 なんとか空中に逃げることでレミリアはそれを回避する。だがそれすらも神楽にとっては予測通りだ。

 一瞬で回り込んで、彼女を背中から斬ろうと動こうとする。

 

 ——だが次の瞬間、無数のナイフが目の前に突如出現した。

 

「——『殺人ドール』」

「っ、ちっ! 邪魔だ!」

 

 ナイフが出現したのは神楽の正面だけではない。彼を囲うように全方位に数百ものナイフが配置されていた。

 だが神楽はなんと持っていた刀で全てのナイフを斬ることで、咲夜の攻撃を防いだ。

 その間、およそ一秒未満。誰も、彼の剣術を目視することはできなかった。

 

 しかしわずかな時間を与えてしまったせいでレミリアは完全に体勢を立て直していた。

 追撃は不可能。そう判断したとき、右と左から誰かが近づいてくる気配を感じた。

 

「『レーヴァテイン』!」

「『破山砲』!」

 

 フランが炎の大剣を振り下ろしてくる。

 それを神楽は最小限の動きで避けると、剣を踏みつけて反対方向に跳躍して美鈴に飛び蹴りを繰り出した。

 彼女はそれに虹色の気を集中させた拳をぶつける。だが蹴りの威力は凄まじく、弾かれるようにして美鈴は弾き飛ばされた。

 

「まだまだぁ!」

 

 背を向けたのをチャンスと見て、フランは再び斬りかかる。しかし神楽はそれを見もせずに避けてみせた。

 その後も剣を振るい続けるが、空を切るばかり。火花が飛び散るだけで終わる。

 

「テメェに剣を教えたのは楼夢だろ? だったら剣で俺に勝てるわけがねえだろうがよ!」

「きゃぁっ!?」

 

 フランが振り切った大剣を引き戻すより遥かに早く、神楽の刀が振るわれた。

 彼女の体に五芒星を刻むと、余った左手で掌底を打ち込み、体が吹き飛ぶよりも先に術式を発動させる。

 

「消えちまいな! 『天国への階段(ヘヴンズ・ゲート)』!」

「あ……が……っ!!」

 

 五芒星からフランに向けて閃光が放たれた。

 ゼロ距離で放たれたそれを避ける術などなく、彼女は一瞬で光に飲み込まれ、体中を焼かれながら吹き飛ばされる。

 

「『星脈地転弾』!!」

 

 体勢を立て直した美鈴が両腕を前に突き出し、虹色の気でできた玉を飛ばしてくるが、それはあっけなく刀で両断された。

 そして神楽はお返しとばかりに左手を美鈴に向け、黒い妖力を集中させていく。

 

「『サイレントセレナ』!」

 

 しかしそのとき、パチュリーの声とともに神楽の真下に魔法陣が現れた。

 舌打ちしつつ、左手の妖力を胡散させてその場を離脱する。すると魔法陣から柱のようなレーザーがいくつか放たれ、雲を貫いた。

 

「くっ……! これでもダメなの……!?」

「……そろそろ遊びはやめだ。まずはそこの貧弱な魔法使いから地獄に送ってやるよ!」

 

 パチュリーは続けて魔法を放とうとする。

 しかし瞬きした次の瞬間に、目の前に神楽が移動してきていた。

 驚いてパチュリーは術式を途切れさせてしまう。

 神楽は不気味な笑みを浮かべ、見せつけるかのようにゆっくりと刀を振り上げた。

 

「しま……っ!」

 

 パチュリーの言葉は最後まで続かなかった。

 神楽の刀が振り下ろされる。そのとき発生した風圧だけでレミリアたちの体が浮き上がる。

 明らかに今までとは違う威力、速度の斬撃。

 これではパチュリーは到底助からないだろう……。レミリアは悔しそうに瞳を閉じる。

 だが攻撃をした当の本人からは驚きの声が漏れた。

 

「消えてやがる……」

 

 刀は地面に突き刺さっていた。その下に鮮血もパチュリーらしきものの残骸もない。

 パチュリーは決して運動能力が高くなかったはずだ。いや、たとえ運動能力が高くてもあの状況から神楽の攻撃を避けることなど誰にも不可能だ。

 だったらどこに彼女はいった? その答えはすぐにわかった。

 

「時止めか……。ちっ、あのとき狂夢から能力を奪えていたら……!」

 

 脳裏に響いた嘲り笑いを払拭するかのように後ろを振り返る。

 そこには咲夜によって抱きかかえられたパチュリーが目を白黒させていた。

 

「ナイスよ咲夜!」

「……楼夢の能力を奪っているとは聞いていましたが、どうやら私の能力は通じるみたいですね。だったら勝機はあるかもしれません」

 

 駆け寄ってきたレミリアに咲夜は何か伝えている。

 だが彼女らの会話を待ってやるほど神楽は優しくない。

 ——最優先が変わったな。まずはパチュリーよりも咲夜の排除だ。そこからゆっくり料理してくれる。

 

 神楽は床を蹴って一気に咲夜へ突進していく。しかし途中で彼女の姿が視界から消え去った。

 時止めを使われた。そう判断したときには遅く、真横には赤い妖力で形作られた槍を持ったレミリアが出現していた。

 

「『スピア・ザ・グングニル』!」

「近距離なら当たると思ったか!? 残念、ハズレだ!」

 

 走る勢いを止めずに、それどころかさらに加速することで投げつけられた槍を避ける。そしてそのままレミリアに接近していき刀を振りかぶる——というところで、咲夜のときと同じようにレミリアの姿が消えた。

 

「 『スターボウブレイク』ッ!!」

「『羽衣水鏡』!」

 

 回復したらしいフランが色とりどりの弾幕を放ってくる。

 それを透明な壁を張って防ぐが、その間に美鈴が時止めを利用して神楽の背後に回り込んでいた。

 

「『烈虹真拳』!」

 

 美鈴が目にも留まらぬ速度で連続して拳を繰り出してくる。

 それを神楽は左手一つでなんとか全て防ぎ、受け流した。だがさすがに手が痺れたのか、動作が少し遅れてしまう。

 その隙に美鈴の姿がかき消えた。

 

「くそっ……! ハエみたいにブンブン逃げ回りやがってぇ!」

「やぁぁぁああああああ!!!」

 

 消えた美鈴に代わるように、フランがレーヴァテインを両手で握りしめながら突っ込んできた。

 だがその速度は天狗並みとはいっても、神楽からしたら遅すぎる。

 格好の獲物が飛び込んでくるのを見て、左腰に刀の峰を当てまるで抜刀術のように構えて彼女を待つ。

 しかしここでも、咲夜の能力が邪魔をした。

 

 気がつけば目の前からはフランの姿が消え去り、代わりに十数のナイフが神楽に向かってくる。

 それを刀で弾こうとしたとき、背後から熱気を感じた。

 

「ハァァァッ!!」

「ぐっ……うぉぉっ!!」

 

 神楽の後ろに現れたフランは、全体重をかけて炎剣を振り下ろした。

 刀はナイフを弾くのに使っていて引き戻すことができない。

 神楽はとっさに左腕を盾にしてレーヴァテインを受け止めた。

 そして爆発が起こり、足を地面につけたまま彼の体は数メートル吹き飛ばされる。その腕にはたしかに大きな傷跡がついていた。

 

「『ジンジャガスト』!」

 

 紅魔勢のコンビネーション攻撃はまだ終わらない。

 パチュリーが腕を振るうと神楽を中心に砂金を含んだ竜巻が発生し、中のものをズタズタに切り裂くために徐々に縮んでいく。

 

「邪魔だ! 『バギクロス』!」

 

 しかし神楽もこのまま黙って切り刻まれるのを待っているわけがない。

 呪文を唱えると、巨大な竜巻が彼の周囲に発生して砂金の竜巻をかき消した。

 鮮明になった視界に映ったのは、レミリアが再び赤い槍を構えている姿だった。

 

「『スピア・ザ・グングニル』!!」

「学習しねえなあ! いくら撃っても無駄だってわからねえのかよ!」

 

 迫ってくる槍に合わせるように刀を振るう。

 キィんっ、という金属質な音を一瞬立てて、グングニルはあっさりと弾かれ、神楽の後方へ姿を消した。

 

「んで、気が済んだか? 諦めきれないんだったら好きなだけ撃ってこいよ。その度に打ち返してやるからよ」

「……その言葉、よく覚えておきなさいよ」

 

 レミリアは突如両腕を天にめがけて振り上げる。するとしばらくして雲を切り裂き、ぱっと見て数十を超える赤い槍が出現した。

 

「ハァ、ハァ……フランや美鈴たちが傷ついている間っ、私だけ何もしてないなんて思ってたかしら……っ? そんなわけないじゃない……!」

 

 彼女の額には青筋が浮かび上がっており、呼吸も荒い。それだけ大量のグングニルを扱うには消耗が激しいということなのだろう。

 さすがの神楽も、この光景を見て目を見開いた。

 

「グングニルは必中の槍。投げた後も軌道を操ることができるのよ」

 

 レミリアはフランたちが戦っている間、ひたすらグングニルを作り出しては雲に隠していたのだ。

 彼女の妖力はもう枯渇寸前。これが最後だと覚悟を決め、ありったけの力を込めて彼女は叫んだ。

 

「サービスよ……くらいなさい! 『グングニル・レイン』ッ!!」

「っ、『森羅万象斬』ッ!!」

 

 レミリアが腕を勢いよく振り下ろすと同時に、空中にとどまっていた神槍が一気に動き出す。

 神楽は刀に黒いオーラを纏わせ、回転するようにそれを振り切った。すると黒い斬撃が彼を中心に円の形になって放たれ、向かってくるほぼ全ての槍を消滅させた。

 しかし全部を防げたわけではなく、そのいくつかが斬撃をすり抜けて神楽の体に突き刺さる。

 

「ぐっ……!」

 

 そのダメージのせいか、神楽は今日初めて膝をついた。

 レミリアは気づかれないようにゆっくりと首を縦に降る。そしてそれを合図に彼の背後から今度は咲夜が現れ、その首めがけてナイフを振るう。

 

 直後、肉が裂けるような生々しい音が聞こえた。

 レミリアはナイフが当たったのだと思った。だがよくよく見ると神楽の首から血は流れていない。そのかわり、彼女の目に映ったのは——腹部を黒い何かで串刺しにされた咲夜の姿だった。

 

「かはッ……!?」

「言ってなかったな。俺は翼を生やすことができるんだ」

 

 咲夜を貫いた黒い何かは神楽の背中から伸びていた。

 レミリアはそれに見覚えがあった。

 

「楼夢の……黒い翼……」

 

 そう、あれは楼夢がよく使っていた翼だ。だがたとえそれが分かっていても、咲夜を助けることはできなかっただろう。翼での攻撃なんて思いつくはずがない。

 神楽は片翼を勢いよく動かす。そして咲夜は打ち捨てられ、地面に叩きつけられてから立ち上がることはなかった。

 魔法陣の床に血の水たまりが作られていく。

 

「くっ……咲夜……!」

 

 死んではいないのだろう。わずかにではあるが動いてはいる。だけどそれは時間の問題だ。このままでは間違いなく失血死する。

 

「全員咲夜の救出を優先しなさい!」

「咲夜さん、今助けますっ!」

 

 レミリアが動くよりも早く美鈴が駆け出した。

 だがその直後、彼女は腹部に線のようなものが引かれているのに気がつく。

 そしていつの間にか背後にいた神楽が血振りをした後に呟いた。

 

「『雷光一閃』」

「えっ……?」

 

 その声が彼女の耳に入った途端に、彼女の体が上下に分かれた。

 そして血が噴水のように噴き出し、美鈴の意識は徐々に闇に落ちていった。

 

「まずは一人」

 

 神楽は一切容赦せずに、未だ空中にあった美鈴の上半身に蹴りを入れる。それは魔法陣の床がある場所からはみ出すまで飛んでいき、地上に落ちていった。

 

「美鈴っ!」

 

 フランの悲痛な声が響く。

 しかしそれに気を取られている場合ではないと、パチュリーは自身が今発動している魔法に集中した。

 

 神楽は再び咲夜が倒れているはずの場所を見る。しかしそこに彼女はいなくて、代わりに血の池が残っていた。

 血の跡を辿ると、彼女の体は不自然な風に運ばれていくのが見えた。

 

 神楽はこれが誰の仕業か一目で理解する。

 

 パチュリーだ。こんなことが紅魔勢の中でできるのは彼女しかいない。

 おそらく美鈴を相手にしていたときから運んでいたのだろう。

 忌々しい。

 

 未だに魔法にかかりっきりで動けない彼女に対して、神楽は黒い風を纏った刃を振るう。

 

「『黒疾風』!!」

「しまっ……きゃああっ!!」

 

 防御魔法を発動する間もなかった。

 パチュリーは黒い風に体中を切り裂かれながら吹き飛び、場外へ押し出された。

 

「これで二人目」

「っ、まずいわ……! フラン、咲夜を連れて逃げなさい!」

「で、でもお姉様……っ!」

「早くしなさいっ! このままじゃ全滅するわっ!」

「……うんっ!」

 

 幸いにもパチュリーのおかげで咲夜の位置はレミリアたちとかなり近くになっていた。

 フランは咲夜を抱きかかえ、全速力でこの場から脱出しようとする。

 しかしそのとき、フランに向けられた神楽の左指が怪しく光った。

 

「——縛道の六十一『六杖光牢(りくじょうこうろう)』」

「きゃっ!?」

 

 六つの光の柱がフランに突き刺さる。

 痛みはないが、なぜか体中が錆びついたように動かなくなっていた。必死にもがくが光が壊れる様子は微塵もない。

 

「いい機会だ。冥土の土産に見せてやるよ。——誰も逆らうことのできない、圧倒的な絶望というやつをな」

 

 神楽は左手に凄まじい妖力を込める。それは嵐のように荒々しく渦巻いて辺りのものを吹き飛ばし、やがて紫色のエネルギーの塊と化して手のひらに収まった。

 そしてその左手で刀の刀身を柄から先まで撫でるように触れる。すると全てのエネルギーが刀に集中し、刀身が紫色に染まった。

 

 その圧倒的な力を感じたレミリアはすぐさまフランたちの前へと立ちはだかり、両手を広げる。

 逃げて、とフランが叫ぼうとするが間に合わず、神楽は暗黒に染まった刀を突き出した。

 

「絶望の淵に堕ちろ! 『ジゴスパーク』ッ!!」

 

 瞬間、刀から想像を絶する規模の闇の閃光が放たれた。

 それはレミリアのみならずフラン、咲夜まで飲み込んだまま空の彼方まで伸びてゆき、やがて星が爆発したかのような凄まじい爆発を巻き起こす。

 

 大樹の頂上に、再び静寂が訪れた。

 


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