東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
歩くのに椅子はいらない
同じく、旅をするのに家はいらない
by白咲楼夢
「おのれっ、妖怪めェェェッ!!」
真夜中、そんな近所迷惑な声と共に御払いが桃色の髪の青年ーー白咲楼夢に振り落とされる。
だが彼はそんなことも気にもしないで団子が刺さっている串を持ち、団子を食う。そして食べ終えるとその串で御払い棒を受け止める。
「……やっと起きたのか、戦隊野郎。一応かなり加減はしたはずなんだが……」
「そんなことを言ってられるのも今の内です!今度こそ私に秘められた真なる力をお見せしましょう!」
「ふーん、あっそう」
そんな軽いセリフを吐きながら楼夢は空き缶をゴミ箱に捨てるかの如く団子の串を巫女服を着た少女ーー東風谷凛に投げつける。
だがそれは凛に当たる寸前で反射され、凛は自慢気に語る。
「無駄です!私の能力の前ではあらゆるものの攻撃など無意味!つまり私こそが正義なのです!」
「……それで昼に普通に負けてるんだが?そこんところどうなってるんだ中二巫女?」
「あっ、あれはマグレです!それに一度見せたものがもう一度通用すると思わないでください」
そう言いながらちゃっかり不意打ちを仕掛けてくるヒーロー。おいおい、こんなもんガキに見せたら泣いちまうぞ。
「……つーか俺まだ茶飲み終わってねぇんだが、マジでムカつくなやっぱり……。というわけで寝てろやこのクソガキィッ!!」
折角のお菓子タイムを邪魔されたからなのか、楼夢は口調を荒くしながら凛に接近しその拳で右ストレートを繰り出す。
彼女は余裕という表情で待ち構える。そして彼女を覆う結界に拳が当たり反射され……
「ふぉがッ!?」
反射され、なかった。拳は綺麗に凛の顔面に吸い込まれ、情けない声と共に地面に転がる。
追加という形で楼夢はさらに地面に転がる彼女に足の裏で踏みつけようとする。が、そこは一応守矢の巫女という事なのか、そのまま転がる事でその一撃を回避する。
だがその表情は自分の反射が発動しなかった事か、驚きと疑問の入り混じった表情をしていた。
「自分の反射が発動しなかった事に疑問を抱いているな?…さぁて、なんででしょうねぇ……?」
そんな巫山戯た答えを放つ楼夢の顔に、凛は自分の右拳を放つ。その拳には反射の結界が覆われており、殴りつけた相手をその方向に反射させ、吹き飛ばすという効果が備わっていた。だが……
「はい 、残念」
その拳に合わせるかのように楼夢はクロスカウンターを決め、逆に凛を殴りつける。
だがやはり反射は発動せず再度同じように吹き飛ばされる。
「…ったく、テメェの反射は完璧じゃねえだろうが」
そう吐き捨てると楼夢はまだ飲み終えていないお茶を飲み干す。そして再度語り出した。
「俺がやったことは至極単純だ。振り下ろした拳がお前に当たる一瞬で拳を引き戻す。分かりやすく言えば寸止めのようなもんだ。後は簡単、引き戻された俺の拳に結界が反応して勝手に逆方向に
その言葉を聞くと凛は驚愕のあまり呆然とする。だがその隙に楼夢は彼女の後ろに回り込むと、その首筋に手を当てる。
「と言うことで、そろそろ時間だ。じゃあな、『スタンガン』」
そう呟くと、指から微量の電気が作られると、それを凛の首に押し付けるように当てる。
バチンッという音と共に、次の瞬間彼女は地面に倒れ伏す。
どうやら上手く気絶してくれたようだ。
「さて、と……そろそろ出発かな?」
気絶した凛を抱き上げると、楼夢はそう呟く。そしてそのまま守矢神社へとその後ろ姿は消えていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「皆、ちゃんと準備はできたね!?じゃあ行こうか!」
「おいおい、行く前からそんなテンションだとこの先もたないぞ、諏訪子?」
「神奈子の言う通りだな。…そう言えばこっからどうやって出雲大社に向かうんだ?まさか歩きとか言うんじゃねえよな?」
そんな疑問を持ちながら、楼夢は娘たちの方へ目をやる。
そして娘たちは酒を飲めるのかと一瞬疑問に思ったが、一応八岐大蛇と呼ばれる自分の娘だから多分大丈夫と結論付け、不安を振り払う。
そう、今は神無月。現代風に言うと十月だ。
この月になると八百万の神々はそれぞれ自分の神社を離れ、出雲大社に集まり、宴会を開くのだ。
そして今回楼夢が守矢神社を訪れた理由としては、この宴会に参加することだったりする。
決して遊びに来たのではない。
一応この宴会の参加は義務ではないのだが、流石に一度は顔を見せた方が後々変に絡まれたりしなくなるのだ。
特に最近生まれた神々は傲慢で偉そうな奴が多いらしい。そういう意味でこれからの旅を考えると尚更参加した方が良さそうだ。
楼夢はそう思うと、視線を諏訪子たちの方に向け、口を開く。
「そう言えば神社の方はあの中二巫女に任せるのか?」
「まあそうなるね。性格はああだけど実力は中々だからね」
「いや、諏訪子。凛はまだまだだ。なんせ今日一日だけであの防御を破る方法が二つも出てきたのだ。……もっともその一つは真似できそうにないが。そう考えるとこれは凛にとって良い出来事かもしれない」
「俺としては出会う度に挑まれるからいい迷惑だ。そんなことよりどうやって出雲大社に行くんだ?まさか歩きとか言うんじゃねえだろうな?」
「時間が経てばそのうち来るよ。あっ、ほら」
そう諏訪子はある方向を指差す。そこには守矢神社に置いてあるお賽銭箱がなぜか眩しい光を放っていた。
諏訪子はそのお賽銭箱に近づくと
「あれに触れれば出雲大社まで一瞬で移動出来るんだ。もっとも、楼夢みたいに神社がない場合は自力で行くしかないけどね」
そう自慢気に説明する。
楼夢と神奈子は諏訪子と同じく、お賽銭箱に近づく。
すると諏訪子が気合いの入った声でさらに楼夢に説明する。
「さあて、さっきも言った通り、これで出雲大社に一気にに行くつもりだけど、準備はできた?」
「元々俺は荷物を全部巫女袖の中に収納しているから特に準備は必要ねえけどな」
「分かった。じゃあ行くよ!」
そんな掛け声と共に、諏訪子はお賽銭箱に触れた。
次の瞬間、楼夢たちはお賽銭箱から溢れる光に包まれた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……ここが出雲大社か」
目の前にある豪華な大社の前で、楼夢はそう呟く。
見れば数十人もの神が楼夢たちと同じように大社の前にいた。おそらくは偶然同じタイミングでワープしてきた者たちなのだろう。
「ひゃぁ……おっきいなぁ」
「それに凄いキラキラしてる!」
「ふむ…庭も大きいな。おまけに池も大きいし鯉以外の魚も沢山いるね」
上から舞花、清音、美夜はそれぞれ瞳を輝かせながら大社を観察する。そしてしばらく経つと全員が楼夢を見つめてきた。
『……』
「なんだ、お前ら。そんなに俺を見つめて。もしかしたら顔にゴミでもついているのか?」
楼夢は娘たちになぜ見つめられているのか気づかず、自分の顔からゴミを払うような動作をする。
実際は百人中百人が言ってもゴミではなく花がついていると言い張るのだが、そんなことは楼夢の知るよしもなかった。
「…お父さん、お願いがあるんだけど……」
「ん、どうした?」
『神社を建ててください!』
「断る!」
冗談じゃない、と楼夢は思う。
ただでさえ現在は旅の途中だってのに掃除しなければ汚くなる神社なんて今はいらない。それ以前にお金がない。
「えー、いいじゃん」
「せめて旅が終わってから建てろ。とりあえず今は無理だ」
どうしても諦めない清音に、楼夢はそう説得する。
「あはは、楼夢の子どもは皆元気がいいね」
「元気過ぎても困るんだがな。それに元気と言ったら当代の巫女も同じじゃねえか」
「それを言われちゃ反論できないね」
そう軽く話すと、楼夢と諏訪子は同時に笑う。
そしてそのまま出雲大社へと入っていった。
「うわぁ…中もすげえ広いな。流石八百万の神々が集まる場所と言ったところか」
勿論実際は八百万ぴったりというわけではなく、あくまでそれくらいいるという例えなのだが、少なくともこの出雲大社には数百万はいるということが分かった。
「じゃあ私たちは先に飲みに行くね。行くよ神奈子」
「ああ、ではまた会おう」
そう言い残すと、二人の姿はあっという間に見えなくなる。
速いな、と楼夢は心の中で呟くと、自分に向けてある視線に気づき振り返る。
そこにはかつて諏訪大戦で戦った太陽の最高神、天照大御神が酒の盃を持ちながら近づいて来ていた。
「あら、お久しぶりですね楼夢」
「……なんだ天照か」
「こんなところにいるなんて意外です。あなたはこれよりも旅を優先すると思っていたけど……」
「数十年に一回は顔を見せておかないと旅でも後々めんどくさくなると思うからな」
「成程…まあいいわ」
金色の髪を揺らしながら、天照は盃に入った酒を飲み干す。
しばらくすると、美夜や清俺、そして舞花が楼夢へと駆け寄った。
「お父さんお父さん!私たちもお酒飲みたい!」
「こっ、この子たちは……?」
「俺の娘だ 。ほらお前ら。こっちは俺の友人の天照だ」
「うん、よろしくね!」
天照は呆然とした表情で娘たちを見つめる。そして徐々に体を震わせながら楼夢に問いた。
「楼夢…あなたの子どもにちょっと触れてもいですか?」
「ああいいぜ。その代わりこいつらを弱い酒がある場所に連れて行って欲しい」
「ほんと!?それじゃあ早速行くわよ!」
天照たちは娘たちを撫でながら諏訪子たちと同じように移動する。
それを確認すると楼夢もアルコールが高い酒を探そうと歩きだそうとする。
だがそれは後ろにいた数人の男たちが楼夢の肩を掴んだ事によって引き止められる。
「……なんだ?」
「ねえねえそこの姉ちゃん。俺らと一緒に楽しい事しようぜ」
どうやら男たちが寄ってきた理由は単純に楼夢をナンパするためだった。
それに気づいた楼夢は呆れ、掴まれた手を払い除けた。
「悪いが俺は羽虫と仲良く喋る趣味はねえ。というわけで邪魔だ、ゴミクズ共」
その言葉を聞いたチンピラ共の雰囲気が変わる。それは明らかに怒っているのを表してるようだ。
「おう、お前だれに口聞いてんだこら。今から謝ったら許してやるぜ」
それを聞いた楼夢はため息を一つ吐く。そして口元を三日月のように歪めてチンピラ共を睨んだ。
「ふふ、いいだろう。テメェらが誰に口聞いてるか分からせてやる」
Next phantasm……。
~~今日の狂夢『様』~~
「どーも、訳ありで月曜日に学校が休みになりました。作者です」
「テメェの頭はいつも休みだろ。狂夢だ」
「そう言えば今回の章ってどんな感じなんだ?」
「うーん、少しネタバレになりますけど一言で言うならボスラッシュになると思います」
「成程。今回のチンピラもそれの一つってわけか」
「まあ結果は一目同然なんですけどね」
「というわけで今回はここまでだ。次回もキュルッと見に来いよ」