東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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たけきものもついには敗れる
ただ春の夜の風の如し

それが分かっていながら、私は歩みを止めない


by白咲楼夢


戦後の茶番と娘の戦い~Secret Energy~

 

私は楼夢の娘である美夜、清音、舞花と共に、スキマを使って楼夢と火神が倒れている場所に一瞬で移動した。

 

「父さん!!」

 

到着すると、すぐに楼夢の娘たちは血の海の中で倒れている楼夢の元に駆け寄る。

 

二人の状態は、正直言って酷かった。

 

まず火神の方は何回切られたのか分からない程の切り傷が体中に刻まれていた。数にしておよそ数十、いや数百単位だろう。

 

さらに腹には一つの長刀と扇が貫くように突き刺さっていた。

 

私はそれを引き抜き、すぐさま治療術を発動させる。だが、体から溢れ出る血の量が減っただけで傷が治った訳ではなかった。

 

決して私の治療術が劣っている訳ではない。むしろ楼夢のよりは性能は落ちるけど、それでも普通のよりは数倍効力があると自負している。

 

だがそんな私の術でも、傷は治らなかった。

それ程までに、火神の傷は深かった。

恐ろしいのは切り裂かれた傷は全て浅くないということだった。

 

通常、これだけ多くの斬撃を放てば体力と共に血や油が刀に付着し、切れ味が落ちるものだ。

だが火神の切り傷は全て深かった。

むしろ最後に放った『百花繚乱』と言う技でできた傷は、最後になればなるほど傷跡が深く、刻まれていた。

 

だがそんな状態でも生きているこの火神と言う妖怪の方も凄い。

よく見れば体中から何か黄色いオーラのような力が溢れ、傷を再生しているようだった。

 

これで火神の方は一安心だろう。だが問題は楼夢だ。

 

彼の傷は正直言って火神よりも酷い。

まず楼夢の体に触れてどこまで傷があるのか見る。途中で楼夢の体が良すぎて鼻血が垂れてしまったことは秘密にしておこう。

 

すると、内蔵と骨が数十個潰れているのが分かった。そこに心臓が含まれていないのは不幸中の幸いだろう。

 

すぐさま治療術をかけるが、気休め程度にしか意味をなさない。

 

次に四肢を確認する。右腕は特に異常はないが、左腕が曲がっているのに気がつく。

右足は地面に叩きつけられた衝撃で、おそらくは骨にひびが数個入っているだろう。

 

そして、一番酷いのはやはり左足だった。

左足はまるで内部から爆発したかのようだった。

実際、左足は付け根からごっそりと粉砕されていた。左足とつながっていた傷口は抉られたかのようになっていて、骨なども見えていた。

 

幸いなのは楼夢の術で血が止まっていることだった。私の治療術では気休めにもならないだろう。

 

最後に、私は楼夢の頭から血が吹き出しているところを確認した。

観察したところ、頭蓋骨にひびが入っており、とても危険な状態だった。

しかも傷の深さから見ると脳に達していることも十分ありえる。

 

「……楼夢」

 

思わず私はそう呟いてしまった。

私は今まで楼夢は無敵だと心のどこかで勘違いしていた。

 

だから火神が現れた時もなんとかなると思い、全てを楼夢に押し付けた。

 

楼夢にそれを言えば必ず首を横に振るだろう。そしてそれは私のせいではなく、好んで戦った自分の責任だと言うだろう。

 

だが戦いが激しくなり、楼夢が死にかけた時に止められずに安全地帯でぬくぬくと傍観していた私の責任でもあるのだ。

 

「……紫さん……お父さんは必ず治るよね?」

 

ふと清音がそんなことを聞いてくる。

彼らの怪我は酷く重症だが、血がこれ以上減らないようにしたためいつか治るだろう。

 

「……ええ、大丈夫よ。楼夢達は必ず治るわ」

 

そう言い、清音たちに微笑む。

 

だがしばらく楼夢たちを見つめていると、突然私が色々なところを監視させていた使い魔のカラスの一匹から連絡が入った。

 

「……面倒くさいことになったわね」

 

すぐさま私は楼夢たちの方に振り向き、スキマで私と共にどこかの森の中に移動させる。

 

そして楼夢たちを覆うように、かなり強力な結界を張った。

次に結界に私の能力【境界を操る程度の能力】を使って結界を弄り他の者には認識できぬようにする。

これで楼夢たちが寝ている間も大丈夫なはずだ。

 

私は美夜たちにそう結界のことを説明すると、すぐにスキマの中に移動した。

 

(はぁ……やっぱりあまり上手くいかないようね)

 

使い魔からの知らせの内容はこうだった。

 

 

 

『妖怪の山に、鬼が出現』……と。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

眩しい日差しが降り注ぐ中、楼夢は知らない森の中で目を覚ました。

 

たぶん紫のやつが運んでくれたのだろう、と楼夢は推測する。

案の定娘たちに問い合わせれば、紫は別件でどこかに行ったらしい。

 

「……んぐ……ん」

 

近くでそんな声が聞こえたかと思うと、そこには楼夢と戦っていた火神が寝ていた。どうやら今同じように目が覚めたようだ。

 

「ふぁ~ぁ、寝ィ……つーかどこだここ?」

「それは俺が聞きてえっつうの」

 

思わずそう突っ込みを入れる。色々調べたところ、ここはどうやらどこかの小さな森のようだ。ただ楼夢も見たことがないので新天地ということになる。

 

とりあえず森の外にも出たいので、すぐに立ち上がろうとする。が、何故か上手く立ち上がれないで転んでしまった。そしてなぜだか楼夢は一瞬で理解した。

 

「ーーーーあっ、俺今左足がないんだった」

 

道理で立ち上がれないはずである。すぐに巫女袖に手を突っ込んで、なんか知らないが狂夢が暇つぶしに生み出した黒い金属(ダークマター)と、お祓い棒に付いている紙垂と金色の鈴を取り出す。

 

そして能力を使い、旅の僧が持っていそうな先端に鈴が付いた黒い杖が出来上がった。

それを使って、楼夢はゆっくりと立ち上がる。

 

「やっぱり左足がねえと不便だな。でもこの怪我じゃあ長くて二ヶ月はかかりそうだ。っと、そんなことよりこれからどうする?」

「どうするもこうも、とりあえずここを出るしかねェだろ。その後いったん平安京に戻って、なんか面白ェ情報を探そうぜ」

 

 

結局、火神は美夜、清音、舞花共に旅に出ることにした。

理由としては色々あるが、一番有力なのは、やはり楼夢についていけば面白いことが起きそうだからだ。

後、まだ火神が昨日の今日のことで万全な状態ではないということもある。それでも上級妖怪まではなんとかなるが、大妖怪が現れたらかなり危険だ。やはりどこでも人数が多い方が安全なのである。

 

「うしっ、五人揃ったし行くか」

「目指すは、平安京。そしてどうか面白いことが起きますように」

 

二人は歩き出した。まるで未来に向かうかのように。

だがしかし、彼らは忘れていた。五人ではなく、()()()()()()()()()

 

 

「ーーーーてっ、ちょっと待ちなさい。何か重要なことを忘れてないかしら?」

「重要なこと?そんなもの……あ”……!」

 

ふと、二人の背筋に汗が流れた。

恐る恐る彼らは後ろを振り返る。そこには

 

 

「あら、思い出してくれたようで嬉しいわ」

 

後ろから般若の顔を、何処ぞの雷なイレブンの化身のように出しているルーミアの姿があった。

 

「「ル、ルーミア……さん?」」

「何かしら?二人してそんな恐ろしいものを見たような顔をしちゃって」

 

今の会話から、和解は不可能であると、瞬時に二人は悟った。

ならば取る方法は一つ。

 

「「逃げるんだよォォォォ!!スモーキー!!」」

「逃がすか!『バニシングシャドウ』」

 

風の如く地を蹴り走る二人。だがその瞬間、森の木の影からルーミアが飛び出し二人を黒いワイヤーで拘束した。

 

「はっ、HA☆NA☆SE!!」

「嫌だぁ、死にたくなぁい!!」

「……覚悟は出来ているでしょうね?」

「何このデジャブ感!?」

 

最初のセリフが楼夢ので、二番目は火神のだ。

ルーミアに捕まった恐怖により、二人はそれぞれ叫び声を上げる。

だがルーミアはそれを黒い笑顔のまま一蹴し、二人に死刑宣告を告げた。

 

「それじゃあ、ごゆっくり……逝きなさい」

 

 

「「嫌だぁぁぁあああ!!!」」

 

 

数十分後、とある森の中で二人の妖怪が、体をボコボコされた後、裸になって倒れていたという。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「『雷光一閃』!」

 

ここはとある森の中。そこには一人の黒髪の少女が、目の前にいる二足歩行の牛の妖怪に刀を振りおろしていた。

 

「ブモォォォォッ!!!」

 

二足歩行の牛の姿をした妖怪、『牛猿(うしざる)』は腹を切り裂かれ断末魔をあげると、地面に倒れふした。

だがすぐに新たな牛猿が三匹森の中から飛び出し、少女を囲った。

 

「美夜姉さん、危ない!『大狐火』」

 

牛猿たちが一斉に少女に飛びかかる。だがそれは後ろにいた金髪の少女が放った巨大な狐火によって迎撃された。

 

「ありがとう、清音」

「えへへ」

 

美夜と呼ばれた少女は自分の妹である清音の頭を優しく撫でる。それによって、清音は気持ちよさそうな返事を返した。

 

だがその瞬間、森の木々の隙間から一メートルはある巨大なバトルアックスが美夜たちに向かって投擲された。

そのことに美夜は気づくが、間に合わない。

 

「しまっ……ッ!?」

 

彼女は目を瞑り襲いかかるであろう痛みをこらえようとするが、その瞬間は訪れなかった。

 

「『氷結界(ひょうけっかい)』」

 

カキィィィィン!! そんな音が聞こえた後、投げられたバトルアックスはその軌道をずらし、横にあった木を真っ二つに切り裂いた。

 

「お姉さんたち、油断大敵ですよ」

 

声がする方を振り向くと、今度は銀髪の少女が手に大幣と呼ばれるお祓い棒を持ちながら、彼女たちの前に氷の結界を張っていた。

結界はバトルアックスを防ぐと、すぐにバラバラになり崩れ落ちる。それを眺めていた少女は、美夜たちに

 

「さあて、いよいよ大物の登場ですよ」

 

そう告げる。

それを聞いた美夜は長刀を、清音は小刀を、それぞれ構える。

 

それからすぐに、そいつはやってきた。

木々をなぎ倒しながら、三メートル程の牛猿が大きな足音を立てながら現れた。牛猿は先程投げたバトルアックスを回収すると、それを肩に担ぐ。

 

「『牛猿王(うしざるおう)』ですね。牛猿自体は中級妖怪なんですが、群れをなしその中で稀に上級に届く個体が現れるそうです。十分に気をつけましょう」

「解説ありがとう舞花。私と清音が前衛に行くから、舞花は後ろでサポートよろしく」

 

そう告げると、彼女の体が武器ごと突然電気を纏い始める。それを見た清音は、炎を、舞花は氷をその身に纏わせた。

 

「『サンダーフォース』」

「『ファイアフォース』」

「『アイスフォース』」

 

先手は美夜だった。

体に電気を纏わせたことで強化された体を使い、一気に足の太ももを切りつける。

だが、牛猿王は何もないとばかりに、強引に手にしたバトルアックスを振りおろした。

 

慌てて後ろにバックステップすることで、その攻撃を避ける。

牛猿王のバトルアックスは地面の一部を、まるでまき割りのように割られていた。その威力を確認した美夜の背筋が凍る。

だがすぐに次の攻撃に移った。

 

「雷龍『ドラゴニックサンダー』」

 

いくつもの雷の竜が、ジグザグしながら牛猿王に襲いかかる。もちろんこれで倒せるとは美夜自身思っていなかった。なので他の二人にハンドサインで指示を送る。

 

「くらえ!」

 

美夜の指示で、今度は清音が美夜と一緒に先頭に躍り出た。

彼女はその見事な太刀さばきで牛猿王の体を次々と焼き切る。だがそれだけでは牛猿王の防御力が高くてあまり致命傷を与えられないので、その分を美夜がカバーする。

 

さらに遠距離からは舞花が氷の魔法で狙撃し、様々な場面でフォローする。

 

「グモアァァァァアアァァァッ!!!」

 

そしてついに、牛猿王にも危険が訪れた。

このままではいけないと野生の本能で瞬時に理解し、かけに出た。

 

牛猿王は美夜の鋭い攻撃により足元を崩した。

 

「チャンス!」

 

それを好機にと、清音はすぐに牛猿王の足元に飛び出た。それは、一種の油断だった。

 

不用意に飛び出した清音を見て、わざと足元を崩しあらかじめ待ち伏せしていた牛猿王はすぐに左拳をカウンターに放った。

 

だが拳が清音を捉えることはなかった。清音の手前に先ほどのように舞花が氷の結界を張って、防いでいたからだ。

 

怒った牛猿王は、残りのバトルアックスを先ほどの美夜の時のように、清音に振りおろす。

 

「清音、タイミングを合わせて!」

「うん、分かった!」

 

「「『森羅万象斬』!」」

 

牛猿王の攻撃に対して、美夜は清音と連携をとり同時に楼夢が得意とする斬撃『森羅万象斬』を放った。

 

美夜の黄色と、清音の赤の斬撃が、バトルアックスに触れると爆発を起こし、それを弾き飛ばす。

 

「全員、一斉攻撃!」

 

美夜はそれを勝機と見て重心を後ろに崩した牛猿王に、総攻撃をしかける。

 

「『雷光一閃五月雨斬り(らいこういっせんさみだれぎり)』」

「『炎剣舞踊(えんけんぶよう)』」

「『コールディングインパクト』!」

 

美夜の雷の嵐が、清音の炎の演舞が、舞花の氷槍の一撃が、同時に牛猿王に炸裂した。

 

牛猿王は四肢を切り落とされた後、胴体を切り刻まれ、腹の中心を貫かれて、そこで息絶えた。

 

 

こうして、美夜たちの初の上級妖怪との戦いは、幕を閉じた。

 

 

 

 

Next phantasm……。





~~今日の狂夢『様』~~

「初美夜たちの戦闘描写!あらためて連携って大事だなって思ったボッチの極みこと作者です!」

「流石俺の娘たち!早くモフって抱きしめたりしてぇ……。どうも、皆の紳士こと狂夢だ」


「突然ですが火神さんって地味にめっちゃ登場しますよね?」

「ああ、そうだな。ちゃっかり言葉を伸ばす時に「~~ぇ」から「~~ェ」に変わっちゃってるし」

「情けない話なんですがなぜこんなに出るんでしょうかね?」

「さあ?ただちょこちょこ出しても問題ないってだけだろ」

「あっ、納得」

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